目次
COREZOコレゾ「かつお節と出汁の文化を絶やしたくない、と勝手に弟子入りして、カンナ刃の研ぎとカンナ台の修正・調整の仕方も学ぶ、目利き見習い」賞
大塚麻衣子(おおつか まいこ) さん
プロフィール
東京都中央区晴海
有限会社タイコウ 目利き見習い
YouTube動画 COREZOコレゾチャンネル
稲葉 泰三(いなば たいぞう) さん・大塚麻衣子(おおつか まいこ) さん/東京都かつお節の「タイコウ」(その1)「今や絶滅危惧職⁉かつお節の目利き」
稲葉 泰三(いなば たいぞう) さん・大塚麻衣子(おおつか まいこ) さん/東京都かつお節の「タイコウ」(その2)「タイコウがこだわり続ける本枯節とは?」
稲葉 泰三(いなば たいぞう) さん・大塚麻衣子(おおつか まいこ) さん/東京都かつお節の「タイコウ」(その3)「かつお節 タイコウの歴史」
稲葉 泰三(いなば たいぞう) さん・大塚麻衣子(おおつか まいこ) さん/東京都かつお節の「タイコウ」(その4)「かつお節の目利き見習いの仕事と思い」
稲葉 泰三(いなば たいぞう) さん・大塚麻衣子(おおつか まいこ) さん/東京都かつお節の「タイコウ」(その5)「タイコウ流かつお出汁のひき方」
稲葉 泰三(いなば たいぞう) さん・大塚麻衣子(おおつか まいこ) さん/東京都かつお節の「タイコウ」(その6)「タイコウのかつお節商品のご紹介」
受賞者のご紹介
※大塚麻衣子さんのご紹介文は、タイコウ代表/稲葉泰三(いなば たいぞう) さんと共通になります。
日本一のかつおの目利きがいらっしゃると、日東醸造蜷川社長からご紹介いただき、東京晴海のお店に伺った。
店に入ると、かつお節のいい匂いが漂っていて、積み上がった段ボールやコンテナケースはビシッと揃い、清潔はもちろん徹底的に整頓されていた。
見るからに江戸っ子(何代続いてられるのかは存じ上げないが)の稲葉さんは、テキパキ、キビキビ働いてらっしゃって、職人の仕事場には、めっちゃジャマなワタクシたち…。
稲葉さんは、挨拶もそこそこに、「お茶代わりに、ウチのかつお節でとった出汁を飲んでみな。」と、かつお節をシャカシャカと削って、片手鍋に湯を沸かし、湯飲み茶わんでひきたての出汁を振る舞って下さった。
旨い!雑味がなく、上品なかつお節のうまみが凝縮されている。
「どうだい?ちょっと、濃かったな、そばつゆならこれぐらいがいいんだけどね。」と、稲葉さん。
―ホントにシャカシャカ程度の量だったので、あんな少量でこれだけの出汁が出るんですか?と尋ねると、
たくさん使えばいい出汁がひけると思ってるのが多いけど、かつお節を2倍入れても、2倍美味しくはならない。適量を守って、好みの旨みまで出汁を煮詰めれば、濃い・美味しい出汁が引けるんだよ。
―その適量の目安は?
水1ℓに対して、タイコウの姿売りの「本枯節」の削りたてなら、8~10gだな。ウチのは、他のより3倍高いけど、1/3の分量でいい出汁が引けちゃうから、どっちがいいか?ってことだよ。
―3倍高いって、値段はどのくらいですか?
1,000円/100gで、これで300gぐらいだから、3,000円で、毎日1ℓの出汁をひいても1ヶ月使えるってことだな。
―1回100円、コンビニのコーヒーと同じ値段で、ホンモノの美味しい出汁が飲めるってことですね。
そういうこと。
―稲葉さんがかつお節問屋を始められたのは?
ウチが姿売りの問屋業だったからね、父親の跡を継いだんだよ。大学に行ったんだけどね、おもしろくなくって、父親に頭を下げて頼んで、家業に入れてもらった。子供の頃からかつお節に囲まれて育ってきたけど、仕事としては、毎日、毎日、とにかく父のやることを見て、下働きをしながら、かつお節を見るの。毎日、毎日、入荷したのや、出荷するのや、何本も、何本も…。そうして、5~6年もすると、見ただけで、かつお節の良し悪しが見分けられるようになってきて…、そうなって初めて、かつお節に触ることを許されるようになった。
どう触るか、扱い方も大事でね、扱い方を見ただけで、目利きかどうかわかる。目利きは、決して、表になる面には触れず、フチを指で挟んで扱うんだよ。
―稲葉さんは何代目ですか?
江戸時代中期、平和な時代が長く続いて、庶民にも「出汁(だし)」の文化が広がったんだけど、現在の築地魚河岸は、日本橋にあってね、「昆布は上方(大阪)」、「鰹節は江戸(東京)」と云われるほど、全国各地で生産された良質な昆布は大阪に、良質な鰹節は東京に集まった。
父、稲葉美二は、戦前、鰹節問屋が軒を連ねていた日本橋の小舟町(こぶなちょう)に江戸時代から続く加賀屋 阿部長兵衛商店へ丁稚奉公に入り、戦後、大番頭まで勤め上げて、昭和39年に創業した鰹節問屋/稲葉商店がタイコウの前身なので、二代目になる。
私の代になって、先代の上物問屋としての姿売りのかつお節卸を引き継ぎながら、自社で削り加工も始め、販売先を拡げてきた。というのも、父の代には、姿売りできない選外品は、別の業者に二束三文で引き取られていたんだけど、選外品と云っても、見た目が姿売りできないだけで、姿売りの商品と同等の品質なので、自社で削り加工すれば、歩留まりが良くなり、姿売りの商品価格にも反映できると云うワケ。
ただね、削り加工と云っても、脂が多過ぎると本枯節には向かないんだけど、本枯節を洗ってカビを取ったのを見たらわかるように、脂の多いのも少ないのもあって、脂の多いのは、脂分をある程度抜くためには寝かせたりするし、削る時には、脂の多いのと少ないのをブレンドして、削り節の品質を一定に保つのも目利きの仕事になる。
―かつお節の種類は?
かつお節として流通しているものには、大きくわけて「荒節(あらぶし)」と「本枯節(ほんかれぶし)」の2種類。「荒節」は、本枯節のようにカビ付けしていない、削り節にするためのかつお節だ。この「荒節」の削り節が「花かつお」と呼ばれ、今や、最も多く流通し、一般的になってしまった。
普段使いなら、花かつおでも十分においしい出汁がとれるけど、タイコウが大切に育てていきたいのは、本枯節の方。本枯節でひいた出汁は、荒節に比べ、優しく広がる豊かな香りと染みわたる奥深い旨みがあり、素材のおいしさを引き立てるこの本枯節の本格的な出汁味を、多くの人に味わってもらいたい。
本枯節には、脂が多すぎるのはダメだけど、よく太った脂の多いカツオが使われ、製造過程で、最終的にカビ付けをする。表面についた粉がふいたようになっているのが「カビ」で、このカビは安全なカビなので心配はなく、カビ付けした証でもある。
本枯節は、手間がかかり、製造に約6か月もかかるが、カビが生育するのにかつお節の水分が利用されるため、節がさらに乾燥して保存性が高まり、脂肪分も分解されるので、1~2ヶ月で製造できる荒節に比べ、澄んで、上品な旨味があり、ふくよかで力強い出汁がとれる。
商品としてお客様に届いた本枯節のカビは、すでに役目を終えており、カビが残っていると出汁取りのときアクとして出るので、タワシ等で綺麗に水洗いをし、陰干しでよく乾燥させてから削るのが正しい使い方だ。
―せっかく乾燥させたものを水で洗っていいんですか?
洗ったくらいで品質が落ちるようなかつお節は、タイコウでは、扱ってねぇから心配は要らない。洗うのは最初だけでいいよ。
―保管法は?
品質が一番安定するので、常温保管がいい。梅雨時や夏場に虫が付いてしまったり、カビが生えたりしても、絶対に日に当てて干してはダメで、水洗いをして、陰干しをすればいい。
―本節(ほんぶし)とは?
生カツオ一尾から「本節」は、3枚におろした(かつお節の加工工程では、「生切り」と呼ばれる)半身を「相断ち」で背腹に分けた背側が「背節」、腹側が「腹節」で、それぞれ2本ずつで計4本とれ、「亀節(かめぶし)」は、左右半身ずつをかつお節にしたもので、節の形が縁起の良い亀の甲羅のかたちに似ていることからその名が付いたんだが、これは1尾から2本とれる。
―「本節」と「亀節」の違いは?
生カツオの大きさで「本節」になるか「亀節」になるかが決まる。 大体、3kg以上のカツオは、「本節」に、それより小さなカツオは、「亀節」にする。タイコウの亀節は、同じ近海一本釣り鰹を使った本枯節なので、「味わい・香り・旨味」は、本節と変わることはない。
本節との違いは、形状と削り方で、亀節は、本節に比べ小振りなため、片手で持って削ることができる。本節、亀節双方を合わせて本枯節、枯節とも呼んでいる。
―背節と腹節では、味や出汁が変わるのですか?
一度に背節を何本、腹節を何本と使うようなお店だったら、出汁味の違いが分かる人がいるかもしれないが、一般家庭では、使用量が少ないので、違いがわかる人はほとんどいないと思う。
それに、カツオ自体の魚質による個体差や製造技術によることが大きいので、出汁味の違いは、背節と腹節だけでは決まらない。
「本節」は、出来上がったかつお節の良し悪しや品質を見極めて選別する事で、個体差のあるかつお節を揃える事ができ、揃える事により、「背節」でも「腹節」でも、どれを選んでも常に安定した味わいになる出汁が引いてもらえるようになる。
また、出汁味を表現するのは難しいけど、希望する出汁味を伝えてもらえば、何度か選別を繰り返すことで、お客様の好みに合った出汁味の節を届けることができる、それが目利きの仕事なんだ。
―稲葉さんのかつお節へのこだわりとは?
コダワリ?コダワリなんてねぇよ。当たり前のことを当たり前にしてるだけだよ。ただ、当たり前のことを当たり前にやり難いご時世になっちまったけどね。
―失礼しました。稲葉さんの当たり前とは?
原点は、「昔からの方法」で、「素材を超える加工・料理方法は無い」というのが、タイコウの考えだ。
タイコウのかつお節は鹿児島県近海一本釣りのカツオを使用している。今からおよそ30年前、先代から商売を受け継いで間もなくの頃だったけど、旨味たっぷりのかつお出汁とは程遠いかつお出汁があることを知り、生産者とともに、数多くのかつお節を試作してその本質に迫ろうとしたところ、 作り手の腕がどんなに良くても、魚が悪ければ、美味しいかつお節にならないことに気が付いたんだよ。
カツオ漁には、大きく分けて、主に昔ながらの漁法である一本釣漁と巻網漁2つの漁法があり、一本釣りの鰹は、文字通り一尾ずつ釣り上げるため、魚体がきれいで身の痛みが少ないのが特徴で、巻き網は、効率よく大量にカツオを捕獲できる反面、網の中で暴れ苦しんでしまう為、身割れが起こったり、傷んで柔らかくなったり、また、カツオのエネルギー物質である「アデノシン三リン酸(ATP)」が減少してしまう。
この「ATP」は、イノシン酸に生まれ変わる物質なんだが、著しく減少するために旨味の少ない、又は、全くないかつお節になり、その上、苦しんで死ぬ為に、「乳酸」がカツオの身に増え、すっぱい出汁味の原因にもなる。
さらに、釣り上げた後の保存方法も大きく関わっていて、大事なのは、死後硬直があり、鮮度が良いことで、生のカツオを、刺身として食べて「旨味が効いている」と感じることが無い様に、生きているカツオには旨味成分の「イノシン酸」はないが、死後硬直した身には、「ATP」が変化して、かつお節の旨味成分である「イノシン酸」が生まれる。
近海漁の小型船の場合、船内冷凍設備がなく、早く(1~2日)漁港に着くため、船内でカツオを生きたまま凍結しないで、死後硬直がある状態で水揚げをした後、イノシン酸を含んだ状態で冷凍保管するので、近海漁は、良い魚質を保つには最適の漁法なんだよ。
それに、近海漁をしてるのは、日本船だから、生の魚を食べる日本人は、扱いが丁寧で手慣れていることにも代え難い価値があり、近海一本釣りカツオの大半は、鮮魚用として市場に出され、ごく一部しか加工用の市場に出てこないが、それがかつお節用に買い付けることのできる唯一の機会になっている。
かつお節用のカツオは、水揚げ量全体の1%にも満たない量しかないが、「素材を超える加工方法は無い」という考えのもと、タイコウのかつお節は、ほぼ全量、日本船による鹿児島県近海で一本釣されたカツオのみを使用している。
「ほぼ全量」と云うのは、カツオ漁は、自然が相手のため、常に近海物が確保できるとは限らないからだ。2014年には、日本近海にカツオが殆どやって来こなかったのだが、そんな近海物が無い時には、遠洋航海の一本釣りカツオを使用したこともある。
遠洋漁業の一本釣りカツオは、保存のため、船内で冷凍されるのだが、その際、ブライン冷凍されたカツオを使用し、B-1冷凍されたカツオは使わない。
(注)ブライン凍結とは、高濃度の塩溶液がかなりの低温でも凍らない性質を利用した方法で、魚そう内のタンクに入れた約20%の塩溶液を約マイナス18℃に冷やしておき、釣り上げたカツオを直ちにタンクに投入すると、液体は、空気に比べて熱伝導率が約20倍大きいので、普通の冷凍庫(空気中)よりもはるかに短時間で凍結できるため、一度に多量に漁獲されたカツオを処理するのに適した方法として、現在、広く用いられている。また、近年、生鮮食用向けに高品質を保つため、厳密な温度管理下で活きたまま処理したブライン凍結1級品(B-1方式凍結)が多く生産されているとのことだが、稲葉さんのお話からすると、B-1方式では、生きたまま凍結するため、死後硬直による旨味成分イノシン酸の生成がなく、かつお節の原料には、適さないと考えられる。
―カツオの漁獲量が減っていると聞きましたが?
そう、近年、特に日本近海の一本釣り漁のカツオが激減していて、日本近海に回遊してくる前に、缶詰加工用に中西部太平洋上で巻網漁で乱獲してしまうからだと云われているが、良質なカツオの確保がますます難しくなり、価格も高騰している。
―タイコウさんが仕入れるかつお節の加工業者さんは、1社だけですか?
そう、職人作り手との信頼関係も、タイコウの大事な品質のひとつで、「目が届く中で、丁寧なかつお節づくりを目指す」という信念の下、最高品質の良質な近海一本釣りカツオは、タイコウが信頼する、鹿児島県枕崎市の丁寧なかつお節づくりに励んでおられる職人さん一家に託している。
本枯節の製造には手間がかかるが、美味しいかつお節をつくるのためには、この手間と時間を欠かすことは出来ない。いいものづくり、いいかつお節づくりを維持するためには、正当な評価と適正な価格が必要であり、かつお節の職人さんたちには、思い切り美味しいかつお節づくりに専念してもらえるよう、タイコウは、35年余りに亘り、職人の仕事に見合った適正な価格で取引を行い、相互信頼を築き、二人三脚で歩んできた。
これは、職人の生活と誇りを守り、次世代の職人を育てることに繋がると確信している。
―タイコウさんの仕事とは?
タイコウは、東京晴海のカツオ節センタービルにあり、このビルには古くからのかつお節問屋が数多く集まって商売を営んでいるが、それぞれに特色や得意な商品分野、得意先があり、上手く棲み分けてきたと思う。その中でも、鹿児島県枕崎の職人がつくり上げた最高のかつお節を販売するのが、タイコウの仕事だ。
かつお節を見ただけで、素材となったカツオがどんな状態で釣られたか、製造方法をも判別する(分かってしまう)のが、かつお節屋の目利きであり、かつお節問屋にとって、この目利きが商いの要になる。
枕崎から届けられた本枯節はどれも一見同じように見えるが、元々は生きたカツオを加工した食品だから、生カツオの一尾、一尾に個体差があり、製造方法によっても、一本一本の仕上がり、味わいが異なる。
家庭用、日本料理屋、蕎麦屋など、お客さまの求める出汁味は、用途、目的に応じて様々あり、目利きの仕事は、一本一本を節の状態を見て、一番おいしい頃合いを見極め、出汁味にばらつきの無い様に、節を揃え、どのような要望にも応えることだ。
―かつお節の目利きになるには?
さっきも少し話したけど、とにかく、日々、かつお節を見続け、触れることから始まり、日に何百本ものかつお節を手に取り、見極め、一日かつお節と向き合ったら、元箱に納め、暫くはそっと倉庫で寝かし、頃合いや時期(数週間後)を見計らって、再びかつお節を手にする。そんな単調とも思える日々を続けることで目利きとしての感覚が磨かれ、かつお節を扱う五感が養われていく。また、気になった節を実際に削って出汁をとる事も大事で、こういう節からはこういう出汁がとれる、って云うことが経験則として蓄積されていくんだよ。
―先程、お出汁をご馳走になりましたが、やはり、削り立てが一番なんでしょうね?
そう、削りたての味わいに叶うものはない。削りたて、と云っても、削って30分もたつと、味も香りが落ちてきてしまうので、鍋を火をかけてから削るのが一番だよ。
―出汁取り教室も開催されているとか?
今では、「出汁の取り方」を知らない方も多く、「美味しい出汁」を教えて欲しいという声に応えるため、要望があれば、全国各地に出向き、年間30回ほど開催していて、この人(大塚さん)のように、目利き見習いをしたいという人も現れた。
―大塚さんは、どうして目利き見習いに?
稲葉社長の「出汁取り教室」に参加させてもらって、その美味しさに、驚き、感動して、時々、タイコウさんに通ううちに、稲葉さんに後継者がいないことを知り、このかつお節と出汁の文化を絶やしたくない、と勝手に弟子入りして、勝手に目利き見習いをしています。だから、この名刺も自腹で勝手につくっています。
―稲葉さんの公認ではないのですか?
だって、(大塚さんが)勝手にしていることを誰も止められないでしょ?
―大塚さんは、「出汁取り教室」をどうして知ったのですか?
(大塚さん)以前、料理人を始めて間もない頃(2011年)、自然食のお店の事を調べていて気になっていたお店がたまたま「出汁取り教室」の開催告知をしていました。その頃、料理本で学んだ程度の知識しかなく、出汁の事、かつお節の事をもっと知りたくて、探していたお店のキーポイントも、「きちんと出汁を引いたり、料理を一から丁寧に作るお店」でした。稲葉社長の紹介文や写真をみて、たぶんこの方は、「ホンモノのスゴい方」なのではないか、と直感的に思いました。
—料理人をしておられたのですか?
(大塚さん)はい、最初は築地の割烹、次はマクロビオティック系の自然食、最後に日本全国の郷土料理を作る食堂でしたが、最終的に、自分の体力が追い付かず体調を崩し、ドクターストップもかかったため、料理人を辞めました。それ以前は、動物看護士をやっていて、料理人を5年間やり、現在は、OLをしています。
―大塚さんの目利き見習い修業は?
(大塚さん)その「出汁取り教室」に参加した約6年前からで、時々、こうしてタイコウさんに来て、仕事や「出汁取り教室」のお手伝いをしながら、料理の仕事を通じて、かつお節や出汁の良さを伝えられたらいいなと思っていました。
(大塚さん)ところが、いつまでたっても後継者になりたいという人が現れず、稲葉社長にもそういう動きが見られず、料理人を辞めた後、「このままでは本当にタイコウのかつお節や『目利き』という職人技がなくなってしまう」と、本気で考え出して、だったら自分がやろうと覚悟を決め、本気で「後継者として見習いをしたい」と言い始めたのは2年前です。
—すぐに弟子入りが認められたのですか?
(大塚さん)いいえ、「女にできる仕事じゃない」と突っぱねられていましたが、「後継者になりたい」といい始めてから1年半ぐらいで、ようやくOKがでました(と思っています)。
—それなら、どうしてタイコウに入社して修行をしないのですか?
(大塚さん)現在の商売の規模では、今いらっしゃる従業員で十分廻っていますし、私が勝手に決めて、お願いしたことなので、余計な負担をかけることはできませんし、今の勤め先は、ある程度自由が利くので、やれるところまで、二足の草鞋でやってみようと思っています。
—これからの修行と目標は?
(大塚さん)犬山で開催された「発酵サミット2017」やアゼルバイジャンでの日本食の展示会にも同行して、お手伝いをさせてもらったり、枕崎のかつおの製造現場に同行させてもらったり、稲葉社長が行けない時には、私一人でイベントに出展させてもらうこともあります。
個人的には、早急に変えなきゃいけない問題がいくつかあると考えていて、その一つが「かつお節削り器」の問題です。かつお節業界の問題点として「削らない」「削れない」鰹節屋ばかりになっていて、削り器の良し悪しの判断や削り器の調整の仕方がわからない方が増えています。
また、せっかく高いお金を出して削り器を買っても、粗悪な商品や状態の良くないものを使ったせいで「かつお節削るの難しい!!」で、放り投げられている現状があり、まずはそれを打破したいので、お客さまやかつお節削り器を扱う方々に向けて情報発信を行っています。
今は燕三条にカンナ刃の研ぎとカンナ台の修正・調整の仕方を学びに行っており、来年からは、削り器の扱い方教室を開催したいと考えています。
修行するからには、夢も大きく、今後は、同じような活動ができる方をもっと増やし、将来、目利きになれれば、「目利き15人、腕利きの生産者15人」を育てることが最終目標です。
―おいしい出汁の取り方は?
素材から旨味を引き出すこと、出汁を引くとも云って、タイコウのWebサイトに詳しく掲載しているけど、日本料理は、米を研ぎ出汁を取ることから始まり、出汁は、タイコウの良質なかつお節があれば、面倒な事はないよ。
基本、昆布出汁は、水1リットルに昆布10g、一晩水出しから60℃(80℃以上では出汁が出ない)で30~40分、時間をかけて旨味を引き出す。
基本、かつお節は、水では旨味は出ないので、お湯から、火力で旨味を引き出す。
かつお節は、品質により使用量・扱いが異なり、
・姿売りの「本枯節」、削りたての場合 8~10g
・「本枯節の削り節」(原材料 かつおのかれぶし)15~20g
・「花かつお/だしはこれ の削り節」(原材料 かつおのふし)15~20g
本枯節の場合の出汁の取り方は、どのように扱っても大丈夫で、中弱火の控えめにそっと旨味を引き出すと、上品な出汁味になり、強火でガンガン炊くと、力強い出汁味になる。
掛かる時間は、鍋の大きさと火力がそれぞれ異なる為に一概には云えないが、かつお節が効いた出汁が好きならば、中火で5分程火にかけるのが目安。
「花かつお/だしはこれ」の場合、本枯節のようにカビ付けをしていないので、強い火力で長時間煮出すと出汁が濁り、濁りは酷いと出汁味に脂肪分を感じる人もいるので、中弱火で控えめに、そっと旨味を引き出す。
昆布、煮干、鰹節などの出汁素材は、量を入れれば良く出汁が出ると云うものではなく、上質な物ほど少量で出汁が良く出るので、使用量を守り、時間を掛けて元の水量から煮詰めると旨味は強くなる。例えば、江戸の蕎麦汁の場合、元の水量の8分目位まで煮詰めると、甘汁(あまじる)の出汁に、元の水量の半分程で、辛汁(からじる)の出汁になる。
火を止めすぐ濾しても良し、数分後かつお節が沈んだところで濾しても良し、出汁の一番おいしいところは、ギュッと絞った中にあるので、タイコウの出汁漉しの後は、強く絞って下さい。
―一度に出汁を取る量は?
自分の使用量が分かっていれば、まとめて2日分の出汁を取ることで、出来立ての出汁は、香り豊かでふくよかな旨味があり、1日置いた出汁は、香りは少なくなるが、旨味の強い出汁へと変わり、出汁は素材のおいしさの底上げをしてくれるので、毎日の料理を美味しくできる。
出汁は栄養が豊富なので非常に傷みやすいから、密封容器に入れて、冷蔵保管をし、 中の空気を完全に抜くと保存期間が長くなるが、夏場で2日、冬場でも3日が限度だな。
―お話を聞いて、タイコウさんの商品価格を拝見すると、「本枯節/姿売り」が最もコストパフォーマンスも高いですよね?
そりゃそうだろ、削り立てが一番おいしいし、だから、削り器の販売もしているし、削り方もメンテナンスの仕方もWebサイトや「出汁取り教室」で丁寧に説明しているんだよ。最高のかつお節から、最高に美味しい出汁を引くには、多少の手間は必要だろ?「出汁取り教室」で最高に美味しい出汁を味わってもらえば、ホンモノのかつお節の味や自分がやってることを理解してくれる人やも増えるんじゃねぇか、と思ってやってんだよ。
実は、10数年前、某百貨店で一目惚れして京都の有名料理道具店の鰹節削り器を買ったのだが、数年で上手く削れなくなり、死蔵していたのだが、大塚さんが私でよければ、と刃を研ぎ直して、調整して下さったところ、買った当初より、気持ち良くシャカシャカ削れるようになり、削るのが楽しくて仕方がない。
お陰様で、姿売りの「本枯節」も購入して、毎日、削りたての風味を楽しんでいる。
COREZOコレゾ「かつお節と出汁の文化を絶やしたくない、と勝手に弟子入りして、カンナ刃の研ぎとカンナ台の修正・調整の仕方も学ぶ、目利き見習い」である。
最終取材;2017年8月
初版;2017年11月
最終編集;2017年11月
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