杉崎 学(すぎさき まなぶ)さん/純粋菜種焙煎工房・ほうろく屋

COREZOコレゾ「大量生産の油とは対極にある、先代から受け継いだ昔ながら道具と製法、技術を忠実に守って、ほうろく菜種油をつくる製油職人」賞

杉崎 学(すぎさき まなぶ)さん

sugisaki-manabu

プロフィール

愛知県西尾市

純粋菜種焙煎工房 ほうろく屋 代表

ジャンル

食づくり

ほうろく菜種油製造

経歴・実績

動画 COREZOコレゾチャンネル

至高の菜種油 ほうろく屋 杉崎 学 さん(その1)「製油職人入魂のほうろく菜種油」

至高の菜種油 ほうろく屋 杉崎 学 さん(その2)「先代大嶽喜八郎さんとの出会い」

至高の菜種油 ほうろく屋 杉崎 学 さん(その3)「ほうろく菜種油=杉崎学さんの生き様」

受賞者のご紹介

杉崎 学(すぎさき まなぶ)さんとほうろく屋さんの菜種油の話はりんねしゃさんの飯尾さんから伺っていたが、見学に行かれた日東醸造の蜷川社長が、「やっぱ、あの油はスゴイ!」と、おっしゃるので、それは、是非拝見したい、とお連れ頂いた。

大獄製油とオリジナルの「ほうろく釜」

戦前、菜種の自給率は、ほぼ100%だったが、平成21年度の日本の油脂類の自給率は13%で、その内、植物系油の自給率は2%、菜種油に関しては0.04%しかないそうだ。

かつて、愛知県三河地方の地域の農家から持ち込まれた菜種を搾油して、販売していた「大獄製油」という小さな精油所があった。

裏作や休耕作で作られていた菜種は、毎年品質も安定せず、菜種油にするのにはご苦労が絶えなかったが、先代の大嶽喜八郎さんは、数々の経験と試行錯誤を経て、天日干し、薪焙煎、圧搾の技術を確立されていったそうだ。

そんな中、薪焙煎に適した窯の厚みや深さを見つけだし、町工場で製作してもらった世界に1つしかないオリジナルの「ほうろく釜」も生まれた。

しかし、高度経済成長期に入ると、海外の菜種を薬剤(ノルマルヘキサン等)で化学的、効率的に抽出した安価な菜種油が流通するようになり、次第に、貴重な国産の圧搾菜種油は市場から姿を消すことになった。

そうして、小さな製油所が淘汰される中、大獄製油は昔ながらの搾油を続けておられたが、ついに2007年に廃業し、その技術が途絶えようとした時、食育活動やハンディキャップを持った方々の支援活動をして来られた杉崎さんが後継を託された。

2012年、「ほうろく屋」として事業を開始

数年の修行を経て、大獄製油の道具と技術を引き継ぎ、 2012年、「ほうろく屋」として事業を開始された。

一般的な大量生産メーカーの精油工程

先に、一般的な大量生産メーカーの精油工程を見ておこう。

原料をふるい分けた後、押しつぶして、蒸し煮にし、ノルマルヘキサンという石油系溶剤を使用して油を化学的に抽出する。

化学的に抽出された油は、リン酸やシュウ酸を使用して、泡立ちの原因であるレシチンを除き、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)を加えて酸を中和する。

その後、硫酸で活性化した活性白土を使って脱色し、活性白土を除去するためにろ過。

高温蒸気や電熱加熱で脱臭し、さっぱり感を出すためにクエン酸等を添加して、再度、ろ過をして完成。業務用の場合は、さらに、シリコンを消泡剤として添加するそうだ。

その上、日本で主に菜種油の原料として使われる北米産のキャノーラ種は90%以上が遺伝子組み換えらしい。

地元で伝統的に栽培されてきた在来菜種

杉崎さんは、かろうじて残っていた、地元の伝統的な在来種である「ナナシキブ」、「キザキノ」、「キラリボシ」の3品種の種子を見つけ出し、地元の農家に栽培を依頼することから「ほうろく屋」の事業を始められた。

じっくり天日干し

買い取った良質な国産菜種は、菜種は油の色と味を際立たせるためじっくり天日干しをする。加熱による機械干しでは種にヒビが入り、焙煎時に焦げやすくなるそうだ。

ほうろく釜で丁寧にじっくり時間をかけて低温焙煎

ごみやほこりを取り除き、良質の種を選別し、薪をくべて大型のほうろく釜で焙煎する。

一般的な大量生産の場合、ガス火で約135℃まで加熱し、短時間で焙煎するが、ほうろく屋の場合、約80℃で丁寧にじっくり時間をかけて低温焙煎をすることにより、焦げカスを出さず、酸化に強く、油の栄養価と旨みの深い菜種油ができるそうだ。

焙煎時間も季節や原材料によって異なり、自らの経験と目で見極めるしかないため、焙煎中は釜から目が離せないという。

ダブルエキスペラーで搾油

焙煎が済むと、日本に数台しかない希少な昭和33年製「ダブルエキスペラー」という昔ながらの搾油機でゆっくり、じっくり菜種油が搾られる。圧搾時のポイントは、最適な圧力を加えるとともに、過度な熱を加えないようにすることだそうだ。

湯洗いの工程も必要なし

圧搾が終わった段階では不純物が混ざっていて、少し褐色がかった色をしているので、通常、遠心分離機を使ったり、化学的な処理をして不純物を取り除き、漂白する工程を行う。

良心的な製油工場では、化学的な処理をせずに、ドラム缶などの容器に入れた油にお湯を入れて、ぐるぐるかき混ぜ、容器を密封して約3週間寝かせると、比重の重い水が不純物と一緒に沈殿し、うま味だけが油に残るという湯洗いをするそうだ。

ほうろく屋さんでは、湯洗いもせず、油を静置して、時間を掛けてゆっくり自重だけで不純物を沈殿させ上澄みを製品として瓶詰めしておられるとのこと。

ベタベタする油汚れの原因とは?

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「ほぼ毎日、焙煎していますが、換気扇を見てください、油汚れが一切ないでしょ?床もモップで毎日清掃しているだけですが、油でベタベタしていないでしょ?余計なものが一切入っていないからですよ。」

「さあ、紙コップに搾りたての油を少し取って、香りと味を確かめて下さい。皆さんが知っている菜種油とは全く別物だと感じられるはずです。」

「コップに付いた油を指で拭って、手でも顔でもすり込んでみて下さい。色んなものが添加されているどんな化粧品より肌にいいはずです。」

身体にも、環境にも優しい、捨てないで使い切る油

「常温で1年間放置していても酸化しませんから、『捨てない油』、『使い切る油』としてお使い頂けます。つぎ足していただいても結構ですし、天ぷらや揚げ物に使ったあとは、炒め物に使って頂いて、全て使い切って下さい。先代から受け継いだ道具と技術で先代の教えに忠実に丁寧な仕事をしているだけですが、環境にもとても優しい菜種油です。」

「おかげさまで、この菜種油の良さを分かって下さる方がたくさんおられて、販売開始から生産が追いつかない状態が続いています。まだ、多少の生産余力がありますが、原材料が足りません。これからは、菜種を栽培してくれる新規就農者の支援も支援もしていくつもりです。」と、杉崎さん。

今や、植物油は、薬剤(ノルマルヘキサン等)を使って化学的、効率的に搾油した油しか食したことのない人ばかりである。まともな原材料を選んで、手間暇をかけて焙煎し、きちんと搾った油がこんなに美味しいとは…、実際に食してみないとわからない。

先代を継いで、その道具、技術と製法を守り、私たちに食せるチャンスとホンモノの油って何か?を改めて考え直すきっかけを与えてくださった杉下さんに感謝である。

COREZOコレゾ「大量生産の油とは対極にある、先代から受け継いだ昔ながら道具と製法、技術を忠実に守ってほうろく菜種油をつくる製油職人」である。

※本サイトに掲載している以外の受賞者の連絡先、住所他、個人情報や個人的なお問い合わせには、一切、返答致しません。

COREZO(コレゾ)賞 事務局

初稿;2015.11.25.

最終取材;2015.11.

最終更新;2015.11.25.

文責;平野 龍平

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