種タネの話9、F1種のつくり方、ハイブリッド・ライスって何?

ハイブリッド・ライスとは?

お米でも雄性不稔を利用したF1化が進んでいるそうだ。

ハイブリッドライス

ガソリンエンジンと電気モーターを合わせた車をハイブリッドカーと呼ぶように、「ハイブリッド」とは、異なる性質のものを合わせてできた「もの」を指し、お米は、F1といわずにハイブリッドライスと呼ばれているそうだ。

インディカ米の中から雄性不稔株が一株見つかった。これにジャポニカ米を何度も、何度も掛け合わせて味を良くし、最後にまたインディカ米を掛け合わせて実の稔る種にして、それを売り出した。収量を増やす品種改良に貢献したということで、「食の新潟国際賞」というのを中国の人が受賞したそうだ。

日本ではまだ1%弱だが、中国では58%、アメリカでは39%がハイブリット米だそうだ(2009年推計)。

イネの種類

世界で栽培されているイネは、全世界で1000種類以上はあるといわれ、「アフリカイネ」と「アジアイネ」の2種類があり、「アフリカイネ」は、アフリカの西部でごく僅か生産されているだけで、現在栽培されているほとんどのイネは、「アジアイネ」。

「アジアイネ」には、中国の中南部、タイ、ベトナム、インド、マレーシア、バングラデシュ、フィリピン、アメリカなどで作られている「インディカ種(インド型、長粒米)」、日本、朝鮮半島、中国東北部、ヨーロッパの一部などで作られている「ジャポニカ種(日本型、短粒、円粒米)」、インドネシアのジャワ島などでごくわずかに栽培されている「ジャバニカ種(ジャワ型、幅広、大粒種)」の3種類がある。

インディカ種は、世界のコメ生産量の80%以上を占め、米粒が細長く、アミロース含量が高いため、粘り気が少ないものが多く、ジャポニカ米は、日本型といわれていて、粒形は短形かつ円粒で、炊くと、アミロース含量が低いので、やわらかく、ねばりとつやが出るのが特徴で、他種に比べ耐寒冷特性がある。日本で栽培されているのは、ほぼ全量がジャポニカ種である。

参考

http://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0211/01.html

CMS細胞質雄性不稔

実野菜であるナス科のナスやトマトと同じく、雄性不捻で花粉のない稲に、どのようにして稔実させるの?という疑問が沸いてくるが、ここまでベンキョーしてきたので、最後に稔性回復遺伝子を持つ品種と掛け合わせるのではないか、と推測できる。

「雑種強勢個体の効率よい作出には、交配を容易にする系統、すなわち自殖しない系統の作出が重要で、そのひとつである花粉が出来なくなる細胞質雄性不稔(CMS; Cytoplasmic Male Sterility)とは、細胞質のゲノム、特にミトコンドリアゲノムの変異による異常遺伝子(CMS遺伝子)の発現により、雄性配偶子(花粉)が正常に機能しなくなる形質である。」

「この形質は、しばしば核に存在する稔性回復遺伝子(Rf遺伝子; Restorer of fertility)によって打ち消され、雄性配偶子が正常に形成されることが知られている。このCMS-Rfシステムは、不稔および可稔の制御が可能なこと、細胞質の母性遺伝を利用できることから、非常に重要な農業形質として知られており、イネ、ナタネなどの農業生産性を飛躍的に増加させることが知られている。」

調べてみると、このような専門的で学術論文的な内容ばかりなのだが、その中に、「細胞質雄性不捻(CMS・Cytoplasmic Male Sterility)」という言葉がよく出てくるので調べてみた。

核遺伝子と細胞質遺伝子

多くの生物、すなわち、細胞核を持たない原核生物以外の真核生物の場合、細胞は、大きく分けて核と細胞質からできていて、ミトコンドリアは細胞質にあり、遺伝子は核と細胞質の両方に存在している。一般的に遺伝子と呼ばれるのは、核遺伝子の方で、それと区別するために、細胞質遺伝子と呼ぶ。

その生き物の性質のほとんどは核に存在する核遺伝子によって決められるが、ごく一部は細胞質中の細胞質遺伝子によって決められる。雄性不稔現象は広範囲の作物で見つかっていて、この現象は核遺伝子に由来するものと,細胞質に由来するものとがあり、育種に利用されやすいのは後者の細胞質遺伝子に由来する「雄性不稔」であるので、「細胞質雄性不稔」という言葉が使われているようだ。

ミトコンドリア

被子植物の多くの種(トウモロコシ,イネ,コムギ等)では、ミトコンドリア内の核外遺伝子によって花粉形成が阻止され、雄性不稔が起こる。これは、ミトコンドリアは雌性配偶子を通してしか次世代へ伝わらないので(母系遺伝・細胞質遺伝)、花粉をつくる資源を種子形成に当てさせ、多くの種子をつくらせることによってミトコンドリアは利益を得るためである。しかし,花粉形成ができないことは核遺伝子にとっては不利益であるため、ミトコンドリアに雄性不稔遺伝子を持つ品種の場合、花粉の稔性を回復する核遺伝子(稔性回復遺伝子)がほとんど例外なく見つかっているそうだ。

細胞質雄性不稔性は、ミトコンドリアゲノムと核ゲノムの特定の組み合わせで花粉発育障害が起きる現象であることがわかってきたという。

雄性不稔遺伝子と稔性回復遺伝子

細胞の中で、エネルギーをつくっている小器官のミトコンドリアは、もともと別の生物であった細菌が、20億年前に細胞の中に入り込んで、共生を始めたものの子孫と考えられていて、植物ではミトコンドリアに存在する遺伝子の変異が原因で正常な花粉ができない現象(細胞質雄性不稔性)があり、花粉発育不全の程度はミトコンドリアの種類によって異なるため、ミトコンドリアが花粉の運命を決めるともいえる。一方、細胞の核では、ミトコンドリアの変異に対抗する遺伝子を進化させて、ミトコンドリアが原因で花粉が死ぬことを防いでいて、細胞内では、ミトコンドリアと核の遺伝子がせめぎあっているようにも見えるそうだ。

稔性回復遺伝子は、雄性不稔遺伝子を不活化する遺伝子のことで、雄性不稔の植物と稔性回復の植物を交配してできた植物は、再び受粉ができるようになるとのこと。

日本のハイブリッド米とは?

他のF1種の農産物と同様に、雑種強勢(ヘテロシスともいう)という両親の優れた性質が子世代に現れる特性を活かした品種で、日本では「みつひかり」という品種が開発され、販売されている。種子価格は、普通のお米の種籾の通常の7~8倍するそうだが、食べた人の話では美味しいらしい。

ハイブリッド米を調べていると、新城 長有(しんじょう ちょうゆう)先生(琉球大学名誉教授)という方に行き当たる。

この新城先生が、世界各地の栽培品種や野生種を大量に調査して、不稔細胞質には多くのタイプが存在すること、稔性回復遺伝子にも数種類あることを明らかにして、世界で初めて、ハイブリット米に関する基本技術の開発に成功した。ハイブリット米は約30%の収穫量増が見込めるらしいのだが、当時、米余りの状況にあった日本では普及せず、人口増加に伴う食糧不足に悩んでいた中国に導入され、米の増産に貢献したそうだ。

ハイブリッド米のつくり方

どちらも稔性のあるイネAとイネBを交配させて、イネABをつくりたい場合、イネは両全花で自殖性(自家受粉すること)が高いので人工受粉が難しい上、多くのイネの花の全てを人の手で受粉するのは不可能に近い。そこで、イネの交配に雄性不稔を利用する方法が考えだされた。

イネAかイネBのどちらかが稔性回復核遺伝子をもっていて、「花粉をつくれない」細胞質雄性不捻(以下、CMS)のイネCがあることが条件となるが、ここでは、イネBが稔性回復核遺伝子をもっていることにする。

細胞質雄性不捻(以下、CMS)イネCを母系、イネAを父系に交配

まずは、CMSのイネCを母系、イネAを父系として、人力で交配させる。といっても、「花粉のない」イネCの花にイネAの花粉をかける。

戻し交配をして雄性不稔のイネA’をつくる

CMSによる「花粉をつくれない」という性質は、必ず母系遺伝するので、こうして生まれた子どもは、「花粉をつくれない」AとCが1:1の割合でできる。

このF1の子を母株にイネAの花粉をかけ、また、これから生まれた子を母株として、さらに何回か交配を繰り返すという、例の「戻し交配」をすると、 Aの子どもの割合がどんどん増え、父系のイネAの性質をほとんど受けつぎながらも「花粉をつくれない」性質だけは母系のCゆずりという「花粉をつくれない」 イネA’ができる。

つまり、イネCの「花粉をつくれない」性質だけ残して、イネAの性質のほとんど全てをコピーしたイネA’をつくる。

雄性不稔のイネA’を母系、稔性回復系統のイネBを父系に交配

こうしてつくった雄性不稔のイネA’と稔性回復核遺伝子をもつイネBと掛け合わせれば、細胞質が持っている「花粉をつくれない」という性質を、核遺伝子がもっている「花粉をつくらせるようにする」という性質で打ち消して、稔性が回復し、花粉ができて稔実するハイブリット米A’Bの完成となる。

この時、イネA’を母系、イネBを父系として、田んぼの列に交互に植えれば、「花粉をつくれない」イネA’は、自家受粉して稔実することはできないので、イネA’はとなりにあるイネBの花粉を受けて受精する。

このようにして、人力による受粉をしなくてもイネA’とイネBとの交配種であるイネA’Bが大量につくれるようになる。

参考

http://www.cao.go.jp/midorisho/pdf/6shinjo_dokuhon.pdf

まとめ

きっと、生き物のほとんど全て性質を決めているという核遺伝子の方が、ごく一部の性質を決めている細胞質遺伝子より力が強いのだろう。そして、多分、イネCが、「細胞質雄性不稔系統」、イネA’が「維持系統」、イネBが「稔性回復系統」と呼ばれているのだろうと考えられる。

ハイブリッドライスの育種には雄性不稔系統が使われるが、全体の95%がある特定の雄性不稔細胞質をもつ品種をその「雄性不稔系統」として利用されているそうで、既に世界のイネ全栽培面積の1割を占めるといわれるハイブリッドライスが同一の細胞質遺伝子に依存していることになり、遺伝的脆弱性が危惧されているそうだ。

また、遺伝的脆弱性の克服にはCMS細胞質の多様化が必要であるが、その細胞質の原因遺伝子、核の稔性回復遺伝子の正体も未だ明らかにされておらず、多くの系統に有効な雄性不稔細胞質と稔性回復系統の開発および、メカニズムの解明が待ち望まれているという。

既に、2004年には、イネの約3.9億塩基対あるゲノム(遺伝子情報)配列が完全解読され、今やバイオテクノロジー全盛の時代であるが、出現する現象はわかっていて、実際にそれを利用して実用化もされているのに、科学的に解明されていない自然や生命のメカニズムはまだまだ多いようだ。

浅知恵を振りかざすな、ということかもしれない。

イネ、米の品種改良は雄性不燃を利用したF1だけでなく、放射線照射による突然変異育種も多く使われているようで、改めて調べてみたい。

調べられたのはここまで、間違った理解をしていたり、この辺のことをよくご存知の方がいらっしゃったら、是非、ご教授願いたい。

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COREZO (コレゾ)賞 事務局

初稿;2015.05.28.

編集更新;2015.05.28.

文責;平野龍平

 

 

 

 

 

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