種タネの話6、F1種のつくり方、人為的除雄と自家不和合性とは?

F1種のつくり方

遺伝と、雑種強勢、メンデルの遺伝の法則が凡そわかったところで、F1種のつくり方について。

野菜の種類、花の性質や構造によって異なるが、「人為的除雄」、「自家不和合性」、「雄性不稔」がある。

F1種は、自然受粉できないようにして、人工受粉して作られる。

「除雄」とは、雄しべをピンセット等を使って手作業で除去し、他の品種と交配させる方法で、日本では大正時代から始まり、「自家不和合性」という近親婚を嫌がる性質を利用する技術に発展し、現在は、「雄性不稔(ゆうせいふねん)」という突然変異の個体を母株に利用する方法が主流になっているという。

種苗業界の歴史

元禄年間   日本で初めてのタネ屋が誕生

明治時代   欧米の種が流入

大正時代   日本のナスで世界最初のF1野菜誕生

1940年代 アメリカで雄性不稔をを利用した玉葱のF1品種誕生

1960年代 F1種が世界的に増えだす

1980年代 日本の種の海外採種が始まる

2000年代 農薬などをつくっていた化学薬品メーカー等のやがてバイオメジャーとなる企業が種苗業に進出

人為的除雄

世界初のF1野菜は、大正13年(1924)、埼玉県農事試験場で作られたナスだったそうだ。

同じナス科の両全花(雌雄同花)のトマトも、花が開くと、自分の雄しべの花粉で受粉(自家受粉)して種を実らせるので、蕾のうちに雄しべをピンセット等で取除き、交配する父株から集めた花粉を付ける「人為的除雄」で、F1種を作っていた。

既に、1965年にはトマトの販売種子の80%がF1種になっていたというから、今や在来種のトマトの味を知っている人は少ないということになる。

雌雄異花のウリ科の場合は、雌花が開花する前に、雄花を取り除いたり、開花しないようにピン止めして、交配したい雄花の花粉を付けていた。

江戸時代に日本で栽培されていたスイカは旭大和という品種で、縞がなく、甘くておいしかったそうだが、皮がもろかったため流通に適さなかったが、明治になって、西洋の皮が硬く、縞のあるスイカを父親にして掛け合わせて、縞のある方が優性遺伝するので、縞のあるスイカが誕生したという。縞のあるスイカが登場する時代劇は、時代考証がキチンとされていないことになるという訳だ。

自家不和合性

ナスもトマトもスイカも一回の人工交配で数百粒のタネが採種できるので、人件費をかけても販売量が確保できるので採算が合うが、アブラナ科のハクサイやキャベツは、一回の人工交配で10粒前後のタネしか実を結ばない。これでは人件費に見合う販売種子が収穫できないので、「自家不和合」という、日本だけのガラパゴス技術が開発されたそうだ。

大根や白菜等のアブラナ科の野菜の場合は、雌雄同花で、自家受粉を嫌い、自分の花粉では種を実らせない「自家不和合性」という性質があり、それを利用して、その機能が働かない蕾の内に自分の花粉を付けてやれば、同一の個体(クローン)を無限に増殖でき、採種したタネは全部同じ遺伝子だから、同品種間の子はできないことがわかった。

子ができないハクサイと、子ができないカブを作っておいて、交互に並べて、畑にまけば、ハクサイとカブの雑種を栽培することができる。ただ、この場合、ハクサイの花粉で実ったカブと、カブの花粉で実ったハクサイの、二通りのタネが畑にできてしまので、混ざったままのタネを販売すると均一なF1野菜が栽培できない。求めるF1ハクサイのタネがカブにハクサイの花粉がかかったものだとすると、カブの花粉がかかったハクサイのほうは、タネが成熟する前に、全部踏みつぶしてしまうそうだ。

カブとハクサイって交配するの?

えっ?カブとハクサイって交配するの?その雑種って?という素朴な疑問が湧くが、同じアブラナ科アブラナ属のカブとハクサイは交雑するらしく、「オレンジクイーン」という品種は、白菜とヨーロッパ産のカブを交配したもので、外葉は緑色だが、中の葉はオレンジ色をしているのが特徴で、甘味が強く、漬け物や炒め物はもちろん、生のままサラダにしてもおいしく食せるとこと。へぇーっ、だ。

かつて、F1種のカブを育種する大手種苗業者の農場では、菜の花ざかりの春、虫が入れないように密閉されたビニールハウスの中で、毎日、おびただしい数のパート従業員が手作業で蕾受粉を繰り返していて、全ての産業同様、種苗業界も、資本力のある大手の寡占化がどんどん進行していったそうだ。

「自家不和合性」も、さら進化していて、密閉したハウス内の二酸化炭素濃度を3〜5%に上げると、開花した菜の花でも自家受粉してタネをつけることがわかって、ミツバチを使って受粉させているとのこと。現在の大気中の二酸化炭素濃度は0.037%で、これまでの地球の歴史上でも0.6~0.04%程度での変動なので、ハウス内の濃度は非常に濃く、人間なら酸欠になるが、ヘモグロビンを持たないミツバチは、そんな中でも平気で交配作業をするという。

まとめ

「人為的除雄」のように人力に頼ったり、「自家不和合性」でも受粉はミツバチに頼る方法では、コストが掛かり、作業をする時期も限られるため、少しでも遅れると自家受粉するリスクがあり、育苗業界では、花粉を作らない性質(雄性不稔)を持った植物をつくる研究がされてきたそうだが、次回は、現在、F1種をつくる主流となっている「雄性不稔」を利用した品種改良技術について。

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COREZO (コレゾ)賞 事務局

初稿;2015.05.25.

編集更新;2015.05.25.

文責;平野龍平

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