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放射線照射による品種改良
放射線照射によって品種改良されたサラダゴボウや小粒納豆の原料になる小粒大豆の話を書いたが、なんと、食品原料となる農作物、酒、味噌、醤油などの発酵食品の製造に使われる微生物(麹菌や酵母など)の育種(品種改良・新種開発)には、放射線照射を禁止する規定もその表示の義務もなく、日本で栽培されているお米の品種改良には、放射線が広く利用されているというのだ。
放射線照射による品種改良の歴史
1920年代に、ショウジョウバエやトウモロコシなどにエックス線を照射すると突然変異の確率が高まり、元の個体とは違う形質を持つ新種ができることが発見された。
植物の人為突然変異を誘発することに初めて成功したのは、1928年、米国で行われたトウモロコシやコムギの発芽種子にX線を照射した実験で、実用化されたのは、1950年代、スウェーデンで開発された人為突然変異種の大麦だったという。
それ以降、世界各国で品種改良・新種開発に放射線が利用されてきたが、日本でも、イネをはじめ麦、大豆、トマト、レタス、モモ、ナシ、キノコなどの作物やキク、ベゴニア、サツキ、バラ、トルコギキョウなどの花類、日本酒や焼酎、味噌、醤油などの製造に使われる麹菌や酵母が数多く放射線照射による突然変異でこれまでにない形質を持つ新種としてつくりだされてきたそうだ。
放射線育種とは?
植物に放射線(x線、γ線、電子線、イオンビームなど)を照射することにより、遺伝子を変化させたり、壊したりすることで突然変異を生じさせ、形質が様々に変化した突然変異帯の中から有用な形質を持つものを選抜する品種改良法。
元来、品種改良や新種開発は、自然の中の微量放射線や紫外線の作用、遺伝子の複製ミスなどによって偶然に生まれた突然変異種を長い時間かけて見つけ出し、選抜を繰り返すなどして商品化してきたが、放射線を利用することで、自然界で突然変異が起こる確率を1/100万とすると、1/1千程度と1000倍以上も発現確率が高まり、その時間と手間を省くことができるという。
放射線育種と遺伝子組換えの違い
遺伝子組換え技術が、対象の植物に本来存在しない遺伝子を導入することで新しい品種を作るのに対し、放射線育種は植物が本来持っている遺伝子を壊すことにより変異を促し、遺伝子組換えが全く別の遺伝子をプラスするのに対し、放射線育種は本来持っている遺伝子を変異させたり、マイナスさせるものなので、全く別の技術であると云われている。
放射線照射による品種改良の現状
人為的に引き起こした突然変異による農作物の品種改良は、1950年代に実用化が始まってから、全世界では2,500種を超える突然変異品種が作られ農業に利用されてきた。この間、突然変異を起こすための各種の方法が試されたが、放射線照射、なかでもガンマ線が最も有効で安全性も高いとされ、世界の突然変異品種の70%以上にガンマ線が用いられているらしい(他に化学物質、培養、エックス線など)。
日本初の突然変異品種は、「ゴールド二十世紀」
1960年、放射線育種研究のセンターとして設置された放射線育種場(現、国立研究開発法人「農業生物資源研究放射線育種場」)で、ガンマ線照射によって実用化に成功した第1号は、病害抵抗性突然変異品種の「ゴールド二十世紀」だったそうである。
「二十世紀梨」は非常に良い品質を持ち、青ナシの主要品種として栽培されてきたが、ナシ黒斑病という病気にかかりやすく、それを防ぐために大量の農薬散布など、多大な労力が払われてきたが、ガンマ線の照射により突然変異体を得る実験が行われた結果、黒斑病への抵抗性を持つ以外は二十世紀梨とほぼ同じ性質を持つ梨を生み出すことに成功し、「ゴールド二十世紀」と名付けられて、現在も生産、販売されているとのこと。
日本における突然変異の品種数
日本における突然変異の品種数は,320品種(2003年)を数え,その72%の品種でガンマ線が用いられ、突然変異品種は、50作物種に及び、イネの131品種、キク25、ダイズ17、オオムギ9,バラ6品種の順になるそうだ。
突然変異育種がイネの改良に果たした役割
特にイネの改良では、戦後間もない頃までの日本のイネ品種は、茎が長く倒れやすく、収量が不安定であったが、突然変異により茎を短く強くすることで、イネの収量が増えた上に安定するようにななって、大きな経済効果を持たらし、突然変異育種は大きな成功を収めているらしい。
この放射線照射による突然変異種のイネ(うるち米)には、倒れ難く、多収量に改良された、レイメイ、ムツホナミ、アキヒカリ、キヌヒカリ、はえぬき、ゆめあかりなどの品種、酒米(醸造用)として大粒でデンプン質が多くなるように改良された、美山錦、雄山錦、誉れ冨士などの品種があり、また、低アミロース米、巨大胚芽米、低たんぱく米、低アレルゲン米などの機能性に特化した形質を持つイネも開発されているという。
突然変異品種の作付面積と生産額
これまでの突然変異品種の栽培面積を農林統計により集計(1966〜2000年)すると、イネ、コムギ、オオムギ、ダイズ、ゴボウ、ナシの 6作物で565万ヘクタールになり、この面積は日本の全耕地面積(499万ヘクタール・2002年当時)の1.13倍に当たり、また、突然変異品種から生産された農産物の総額は約7兆円(内、うるち米が6.8兆円)に達し、この額は平成14(2002)年度の日本の農業生産の1年分に相当していたという。
ガンマ線がどのように照射されているのか?
その農産物のDNA上のある形質を決める遺伝子が特定されていて、そこにピンスポットで照射するのかと思いきや、照射塔を中心に設置した広大な放射線育種場に、照射塔の近くから遠くまでいくつもの異なる距離(照射量、強さが変わる)に変異を起こしたい農作物を植え、毎日8時間、放射線を照射し続けて都度観察し、偶発的に起こる突然変異を見つけるそうで、とっても、サイエンティフィックでアカデミックな方法なのである。
そのような照射方法であるから、野生の動物は本能的に照射を察知して照射中は近寄ってこないという話だが、そんなはずはないだろうし、土中の微生物や飛んできた昆虫などへの影響も十分考えられるのである。
参考
ガンマーフィールドの照射塔の画像(無断転載不可)は下記
http://www.irb.affrc.go.jp/photo/index.html
少し古いが…、ガンマ線がどのように照射されているかがわかる動画
http://sciencechannel.jst.go.jp/C010204/detail/C010204007.html
微生物の突然変異への利用
酒造りや醤油づくり等の醗酵、醸造に使われる麹菌は穀物に自然に生えてくるカビの一種で、昔は、麹菌が繁殖しやすい場所に穀物を置き、自然に麹菌がつくのを待って麹をつくっていた。
そのうちに、偶然にできのよかった麹を選んで保存し、次の種とする方法が考えだされ、江戸時代には種づくりを専門にする種菌屋も現れた。近代になると、突然変異株の分離や選抜、交配などの方法で品種改良が行われるようになり、麹菌を自家採取・培養していた酒蔵や味噌蔵も、時代の流れとともに、麹菌、酵母、乳酸菌などの発酵微生物(発酵醸造菌)は種菌専門メーカーから購入して使うようになった。
1950年代前半には黒麹菌、黄麹菌へのガンマ線照射によって白色変異株(白麹菌)をつくりだすことに成功し、今では、発酵微生物(発酵醸造菌)の中には、ガンマ線や重イオンビームなどの放射線によって遺伝子操作された突然変異種から分離培養されたものも多いという。
化学物質による人為的突然変異
変異原となる化学物質として有名なものに種なしスイカ作出に使われるコルヒチンがあり、この物質は、細胞質分裂を阻害して、細胞を倍数化させる。リウマチや痛風の治療に用いられてきたが、毒性が強く、下痢や嘔吐などの副作用を伴うので、現在は主に痛風にのみに用いられているそうだ。
第2次大戦中には、マスタードガスが変異原となることが明らかになり、その他にもエチルメタンサルホネート、亜硝酸、アクリジン系色素など多くの化学物質が変異原となることが知られているが、これらの変異剤は遺伝子疾患、眼や皮膚の重篤な薬傷・損傷、アレルギー性皮膚炎などを引き起こすおそれや発ガンのおそれのある物質でもあるらしい。
イオンビームによる人為的突然変異
原子力機構の量子ビーム応用研究センターでは、サイクロトロンを用いて、イオンビームによる突然変異育種の研究に1990年から取り組んでいるそうだ。
イオンビーム
電離放射線(ionizing radiation)の一種で、水素イオンや炭素イオンなど、色々な原子のイオンをサイクロトロンやシンクロトロンなどの加速器を使って高速に加速したもので、アルファー線(ヘリウム4の2価陽イオン)やベータ線(電子線)と同様、粒子線に分類され、物質に電離(イオン化)作用を及ぼす。
放射線とイオンビームの違い
X線やガンマ線は電磁波であり、物質に付与するエネルギーは低く、物質に対して散逸的にエネルギーを与えるが、非常に高い物質透過性(物質を突き抜ける能力)がある一方で、イオンビームは、電磁波に比べて物質透過性は比較的低いが、物質と作用する際に、莫大なエネルギーを局所的に与えるので、ガンマ線では、細胞のあちこちの領域に数多くの電離が起こるのに対して、イオンビームはでは、せいぜい数個程度の局所的な電離が起こるそうだ。
このようにガンマ線とイオンビームでは性質が大きく異なり、電磁波とは異なった新しい性質を持つ変異原として期待されているそうだ。
イオンビームの特性を利用したガン治療
このイオンビームの特性を利用したガン治療は、高エネルギーのイオンビームの収束性や制御利便性とともに、イオンが停止する直前で最大エネルギーを与える性質を利用して、ガン病巣を狙い撃ちするもの。イオンビームを用いたガン治療は、日本だけでなく、世界中で行われているが、高エネルギーのイオンビームを突然変異育種の変異原として利用しているのは、今のところ日本のみだとのこと。
イオンビームで誘発される突然変異の特徴
- 変異の誘発率が高く、選抜の省力化が可能
- 変異のスペクトルが広く、従来法では得られなかった新規突然変異体の取得が可能、
- 目的外の付随変異が少なく、ワンポイント改良が可能
以上の特徴が明らかになっているらしい。
微生物にイオンビームを照射して作出した突然変異体
- 清酒酵母から香気成分カプロン酸エチル生産能の高い突然変異体
- 昆虫寄生糸状菌の殺菌剤耐性変異株
- ダイズ根粒菌の高温耐性変異株
麹菌を用いた、ガンマ線とイオンビームによって生じる突然変異の特徴と違いを解析したところ、これらの放射線が麹菌に対して大規模なゲノム構造変化を誘発することや、ガンマ線がイオンビームに比べて付随変異が多いことなど明らかになっているそうだ。
参考
http://axis-organic.com/essei/post-51.php
http://www.jaif.or.jp/asia/topics/040910.html
まとめ
何と、放射線を照射して改良した品種は、サラダゴボウや小粒納豆だけではなかった。
ある日、ふと気づけば周りの農作物は全て人為的突然変異種だったり、遺伝子組み換え作物だったりするのである。
これからそういう事実も知らないまま一生を終えていく人や、それが当たり前で気にもとめない人がどんどん増えていくのだろう。
それって、幸せなのか不幸せなのか…?
放射線育種は、放射線により植物自身が持つ力によって新形質が創られ、あらゆる種類の作物を対象にでき、現存品種の良さを活かしながら、短期間に品種改良ができるという他の方法にない利点がある。このため、自然環境を乱すことなく迅速に農作物の改良ができる特長を活かして、農業の持続的発展のキーテクノロジーとして、大きな期待がかけられている。
また、近い将来に予測される食糧危機、地球の温暖化、自然環境破壊に備えて、高温、乾燥、塩分濃度が高い環境においても耐えうる農作物の突然変異品種の育成が急がれる。また既に、砂漠化など環境破壊が起きた地域の緑化に役立つ植物の育成が重要になる。以上は地球的規模の重要問題であるが、突然変異育種がこれまで培ってきた技術に、新たな開発技術を融合させれば、不可能ではないと思われる。
本当にそうのだろうか?個人的には、それは素晴らしい、と両手を挙げて賞賛する気にはなれない。
近い将来に予測される食糧危機、地球の温暖化、自然環境破壊に備えて、現代医学と同じような対処療法では根本的な解決にはならないだろう。
自然界でも放射線が存在するというが、放射線育種場では、人間が10分もその場にいたら気分が悪くなるような強さの放射線を農作物は毎日8時間浴びせられ続けているそうで、それが対象となる農作物だけでなく、その照射空間にいる全ての生物が浴びることになるはずである。
放射線を利用することで、自然界で突然変異が起こる確率を高めているだけだというのが、1000倍以上も発現率が上がるっていうのは、とっても不自然な気がする。
放射線照射による遺伝子の突然変異でつくりだされた新種微生物は、遺伝子組み換えとはみなされていないにしても、遺伝子組み換えと同様に現在の科学や知識では予期できない形質がつくりだされる可能性もあり、人間の健康への影響や外部の環境に放出された際には、生態系など環境に及ぼす影響はないのだろうか?
遺伝子組換えが全く別の遺伝子をプラスするのとは異なり、放射線育種は本来持っている遺伝子を変異させたり、マイナスさせるものだから、昔あった映画の「ハエ男」のような生物が生まれるはずがないというのは理解出来るが、人為的に遺伝子を傷つけたり、変化させていること自体に問題はないのだろうか?
時間と手間を省いて経済と効率を得たことで私たちが失っているものはないだろうか…?
知れば知るほど、考えることが増えるのは困ったものだ。
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COREZO (コレゾ)賞 事務局
初稿;2015.05.31.
編集更新;2015.05.31.
文責;平野龍平
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