種タネの話11、ジャガイモの発芽抑制に放射線照射って⁉︎

食品への放射線放射の現状

ジャガイモの発芽抑制に放射線照射が使わているのはご存知だっただろうか?その他の食品への放射線照射の現状を調べてみた。

放射線の働き

放射線(エックス線、ガンマ線、電子線、重イオンビームなど)の強いエネルギーは、たんぱく質でできている組織を破壊する。生物の設計図である遺伝子はたんぱく質でできているので、放射線を当てることで、食品についた細菌や虫の遺伝子を破壊して殺したり、作物の発芽細胞の遺伝子を損傷して芽が出るのを抑えることができるという。

食品や虫、微生物に放射線を照射する効果、目的

  1. 食品についた細菌や虫を殺し腐敗や食害を防ぎ(殺菌・殺虫)、発芽を抑制して保存性を高める。
  2. 農作物を食害する虫の雄を不妊化して放ち、根絶する(不妊虫放飼法)。
  3. 作物や有用微生物の突然変異を誘発して特定の形質を高めるなどの品種改良や新種をつくりだすこと(放射線育種)。

など。

食品への放射線照射の利点

  1. 放射線は均一に食品の中を透過するので食品を均一に処理することが可能であり、厚みのある食品の処理にも利用できる。また、わずかな隙間や複雑な形状を有する食品でも高い信頼性をもって殺菌などが可能。
  2. 放射線照射による温度上昇はわずかであり、加熱できない食品の殺菌、殺虫などに適している。生鮮物、冷蔵品、冷凍品の処理が可能。
  3. 放射線照射は化学薬剤などを使用しない物理的処理であり、薬剤による汚染や残留の問題がない。
  4. 放射線は透過力が優れているために対象となる食品を包装してから処理できる。包装してから食品を放射線殺菌・殺虫することにより、殺菌・殺虫した食品の微生物や害虫による再汚染を防ぐことができる

以上のような利点があるとされる。

日本での食品への放射線放射

ジャガイモの発芽抑制に利用

ジャガイモは、保存中に芽が出ると商品価値がなくなってしまうので、発芽を抑えるために低温倉庫で長期保存すると多くの費用がかかり、また、低温保存すると、デンプンの糖化が進んで、出荷後、すぐに発芽してしまうなどの問題があった。

1972年、ジャガイモに放射線を照射して発芽細胞の遺伝子を損傷すると、発芽を抑制でき、室温での長期間保存が可能になることがわかり、ジャガイモの発芽を抑制(芽止め)する目的でのみ、コバルト60を源線とするガンマ線(吸収線量150グレイ以内)を一度だけ照射することが食品衛生法で認められた。

1973年、北海道士幌町に馬鈴薯照射施設が建設され、1974年1月からジャガイモへの実用照射が始まったそうだ。

消費者にはわからない放射線照射食品

ガンマ線を照射したジャガイモの容器や包装には、「ガンマ線照射済」の表示が義務づけられているそうだが、スーパーなどで箱から出され、小分けしてバラ売りされたり、総菜、レストランなどのメニューの一部、加工食品原料として使われる場合には表示義務がないので、消費者には放射線照射食品であることはわからない。

放射線を照射され保存されたジャガイモの出荷時期は、国内産ジャガイモの端境期(3月下旬~5月初旬)で、ピーク時には年間およそ2万トンが出荷されていたが、近年では表示の強化や消費者の放射線照射に対する拒否反応の影響もあって需要が減少し、出荷量も減っているそうだ。

香辛料への放射線照射の許可要請

日本では、今のところ、ジャガイモ以外の食品への殺菌目的での放射線照射は認められていないそうだが、2000年と2006年に当時の原子力安全委員会(現原子力規制委員会)は、全日本スパイス協会から厚生大臣宛に出された香辛料への放射線照射の許可要請を後押しする形で、食品への放射線照射の解禁を求める報告書「食品への放射線照射について」をまとめ、厚生労働省に提出したという。

放射線照射の解禁が要請された香辛料は、ニンニク、ニンジン、ニラ、タマネギ、ウコン、ショウガ、ゴマ、ワサビ、ペパーミント、レモングラス、セージなどの野菜、ハーブ類、粉末や混合物を含む94品。

放射線照射の許可要請の理由

香辛料のほとんどは、熱帯、亜熱帯、温帯地方で生産、乾燥調整され、また、微生物汚染の防止等の対策が講じられていないことも多く、微生物汚染や害虫混入などが避けられず、防除するのは困難だが、放射線は透過力が強いので最終包装状態で処理できる上に、温度上昇が小さいので、辛料のように加熱により香味が損なわれる恐れがある食材には、放射線殺菌が最適、というのがその理由らしい。

すでに世界中で香辛料へ殺菌照射が行われているが、これまでに照射された香辛料による食中毒は報告されていないので効果が高く、薬剤処理では懸念される残留性の問題もないので安全である、としている。

しかし、香辛料は加工食品の原料として広範囲に使われているので、放射線照射が認められると多くの加工食品に放射線照射された香辛料が含まれることになり、また、食品全体に放射線照射が解禁されるきっかけを与えることにもなる、との指摘もあるようだ。

これまでの香辛料の殺菌方法

香辛料の加熱殺菌は、熱による香味、色調の劣化がおこる可能性が高いので、以前は非加熱殺菌法としてエチレンオキシドガスが利用されていたが、処理後残留しているエチレンオキシドの毒性・発ガン性のため、日本では使用が禁止され、代って気流式過熱水蒸気殺菌が用いられている。

過熱水蒸気殺菌は、香味の劣化を最小限に押さえるために開発され、香辛料を百数十℃の過熱水蒸気に数秒程度暴露する。条件によっては殺菌効果が高いが、ごく短時間の過熱水蒸気の処理であっても香辛料の種類によっては色や風味等に影響を及ぼすものも多いとされる。

参考

http://foodirra.jaea.go.jp/dbdocs/006001003068.html

世界における食品照射の実施状況

2005年時点で、処理量千トン以上の国が16カ国、世界における処理量の総量は40万5千トン。

中国146,000トン、米国92,000トン、ウクライナ70,000トンの処理量が突出し、品目別に見ると、香辛料類の殺菌が18.6万トン(46%)、穀物・果実の殺虫が8.2万トン(20%)、ニンニクなどの発芽防止が8.8万トン(22%)、肉・魚介類の殺菌が3.2万トン(8%)となっており、香辛料の殺菌がほぼ半数近くを占めているそうだ。

参考

http://jrafi.ac.affrc.go.jp/FItoha.htm

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/housya/

まとめ

ジャガイモの発芽抑制に放射線が使われているのを農業関係の方から聞いて驚いたのは、ほんの数年前のことであるが、既に1974年に実用化されていたのである。

過熱水蒸気殺菌か?薬剤殺菌か?放射線殺菌か?

多少、風味が落ちたとしても過熱水蒸気殺菌のような気がするが、放射線照射後の残留線量は人体に問題がないとする意見はいつも推進側に多い。

その是非については皆さんでお考え頂きたい。

ただ、日本は唐辛子や山椒、山葵以外のゴマを含む香辛料のほとんどを輸入に頼っているはずだから、放射線照射された香辛料を知らないうちに摂っているのではないか?

次回は、放射線照射による品種改良について。

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COREZO (コレゾ)賞 事務局

初稿;2015.05.30.

編集更新;2015.05.30.

文責;平野龍平

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