那須 矩三世(なすくみよ)さん/「藤野醤油」昔ながらの醤油づくり

COREZOコレゾ「自然の成り行きで経営者になり、有機JAS認証を取得して、衛生管理を徹底し、醤油は塩辛いものと、余計なことは一切しない、昔ながらの醤油づくり」賞

那須 矩三世(なす くみよ)さん

プロフィール

和歌山県東牟婁郡那智勝浦町

有限会社藤野醤油醸造元 代表取締役

大正9年 藤野醤油醸造元創業

昭和49年4月 有限会社藤野醤油醸造元

平成13年10月 有機JAS認定工場を取得

受賞者のご紹介

2018年7月に訪問した際、お嬢さんと一緒に商品のラベル貼りをしておられたので、一瞬、パートさんかと思ったが、現場で働く那須社長の姿だった。

自然の成り行きで、社長に

「今は、油圧の圧搾機が主流やけど、この辺りは、那智山からの伏流水が豊富に湧き出て、裏に井戸掘ってるから、私とこら、水圧なんよ。」

 

先々代の藤野さんが大正9年に創業し、那須さんご夫婦は、縁あって、従業員として働いておられた。跡継ぎがいなかった藤野さんは、那須さんのご主人にあとを託したが、そのご主人を57歳の若さで亡くし、那須さんがその後を継いで、今年で21年になるそうだ。

「もう、21年、こんなことしてます。えらいこっちゃ。お父さん亡くなった時、3ヶ月ぐらい、いろんな人に相談して、従業員たちもまだ若かったので、引き継ぐことにしてんけど、私、ここの従業員やってんよ、もう誰も退職金くれへんねんで。今、やってんのも、自然の成り行きや。名刺も仕方なしや、肩書き、書いてるだけや。」

「私、これは、運命とか、宿命とかって、もう頭切り替えて行ってるけどね、別に、醸造業とか、食品つくったり、料理したりするのん、好きやからね、やってられる。」

有機JAS認定の取得

那須さんが引き継がれてから、主婦の目線で、蔵の衛生管理を徹底する、社員教育も兼ねて、平成13(2001)年10月、有機JAS認定工場を取得した。

「毎朝、毎朝、5時半に起きて、今でもやで、社長自ら、モップ提げて、工場の隅々まで清掃することから1日が始まるんやで。この21年、ずっとや、せなんだらきもち悪い。それを続けることによって、まぁ、商売も続けていけるかな、って思てます。」

「有機JASの申請は大変やったし、認定後も帳面や記録をキチンとつけなあかんし、何もかも、書類、書類で、手間やけど、自分らのPRできる看板はできたわな。ま、和歌山ではウチだけやもん。」

醤油は塩辛いもんじゃ

那須さんのご主人は製造で、那須さんは、経理事務と製造の手伝いをしておられたので、製造工程は一通り、経験していたし、ご主人がご自身の経験をもとに、誰でもつくれるよう、詳細な製造マニュアルを作成してくれていたそうだ。

「私が引き継いだ頃は、商売は順調やったけど、平成23(2011)年9月、豪雨で那智の川が氾濫したやろ、あの時、幸い、ここはこの辺で土地が一番高いんで、床に水がついた程度で済んだんやけど、他は、ひどい災害で、商売やめたとこ、いっぱいでした。ウチも従業員の家が被害を受けたんで、再開には何ヶ月もかかりました。」

「お父さんの時代は、全部の仕込タンクが一杯で、塩分を丸くするのに寝かせる間もなく出荷してたら、塩辛いって云われたことがあったけど、お父さん、醤油は塩辛いもんじゃ、って、それで通ってた時代でした。」

「ウチ、良い食品の会に入ってるんやけど、私、その会で講演したことがあって、お父さんから、醤油は辛い、酢はすっぱい、って聞かされてきて、自分もそう思てますって云うたら、みんな、大笑いでしたわ、ハハハハ。」

「私とこの昔ながらの本物の醤油は、塩辛い、って云われるけど、砂糖や化学調味料入れんかったら、醤油は甘くならんわ。」

藤野醤油が濃いと云われる理由

「この間、JASの検査員が来た時に、藤野さんとこ、もろみ絞るとき、薄めへんのか?そんなことしとったら、儲かれへんで、って云うんやよ。私とこの丸大豆醤油も薄めてないから、皆さん、濃い、濃いって云うんやよ。量、調整してもろたら済むことやろ、ちょこん、ちょこんと付けてくれたらええことやん。安い醤油かて、安い云うて、ダボダボに付けとったら、塩分取りすぎやで、って云うねん。減塩にしたら、保存料とかが要るって、わかって欲しいわ。」

藤野醤油醸造元では、化学調味料・保存料・着色料等の添加物は一切使用しない、遺伝子組み換え原料は一切使用しない、余分な味付けはしない、温上をして熟成を早めることは絶対しないで、もろみ蔵にはもろみが活き活きと熟成するようモーツアルトが流れ、衛生的な工場で、昔ながらの製法で醤油がつくられている。

 

当たり前のことを当たり前に、まともなことをまともに続けることが難い時代になった。

 

COREZOコレゾ「自然の成り行きで経営者になり、有機JAS認証を取得して、衛生管理を徹底し、醤油は塩辛いものと、余計なことは一切しない、昔ながらの醤油づくり」である。

 

取材;2018.07.

初稿;2018.08.

最終更新;2018.08.

文責;平野龍平

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