高橋 一也(たかはし かずや)さん/旅する八百屋「warmerwarmer」

COREZOコレゾ「 生産者と消費者をつなぎ、昔から受け継がれてきた命ある種と本物の野菜を子供たちにつなぐ、旅して、種を蒔く八百屋」賞

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高橋 一也(たかはし かずや)さん

プロフィール

東京都吉祥寺

旅する八百屋「warmerwarmer」 代表

https://www.facebook.com/warmerwarmer

ジャンル

在来種、固定種のみを扱う八百屋

「古来種野菜」のマーケット創造

略歴

株式会社レストランキハチで調理師として働き、「有機野菜」と出逢う。

1998年に自然食品小売業、株式会社ナチュラルハウスに入社後、アメリカのオーガニックスーパーマーケット「ホールフーズマーケット」、ヨーロッパドイツのオーガニックスーパーマーケット「ベーシック」をベンチマークし、オーガニック食品の販売、店舗統括、販売企画、商品部青果バイヤー等の業務を行い、取締役に就任。2011年退社。

「warmerwarmer」を設立し、日本の有機農業生産者の支援と新たなオーガニック市場の開拓活動(「自家採種、固定種、在来種」を守る)、固定種・在来種の知識を語り繋げる活動として、レストラン、野外イベント等で移動八百屋を開催、対面販売を行う。

受賞者のご紹介

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高橋 一也(たかはし かずや)さんは、旅する八百屋「warmerwarmer」 代表 。

2014年5月、在来種、固定種の種を扱っておられる浜名農園 光郷城畑懐(こうごうせいはふう)の中村 訓(なかむら さとる)さんのご紹介で、中村さん、高橋さんが出店しておられた東京都内のデパート屋上の催事場でお目に掛かった。

「warmerwarmer」とは?

ー 「warmerwarmer」は、どういう八百屋さんですか?

「私が、『古来種』と呼んでいる野菜を知っていただき、その種と生産者を守るため、それらの販売と語りつなげる活動、また、消費者やレストラン、料理教室からの『どこのどういう野菜を食べる?』、『こうゆう野菜を食べたい』等のご相談、ご要望にお応えしながら、お野菜のセレクション、コーディネートやプロデュースの他、さまざまな『古来種』とそれを種採り生産する農家さんの特長や得意分野を知っているからこそできることをしています。」

『古来種』とは?

「『古来種』というのは、私の思いを込めた、在来種、固定種を表わす造語です。種を蒔き、芽が出て、ふくらんで、花が咲き、種を採り、そして、また、その種を蒔く。そうして、幾年もの時間をかけて命の循環が絶えなかったのは、種そのものの生命力とそれを守ってきた日本人の土や未来への想いがあったからです。それらすべての種、そして、その想いを総称したものを『古来種』と呼んでいます。」

旅する八百屋とは?

「まず、『古来種』がどうして大切か、その考え方とか想いの種をまずいろんなところに蒔かなければなりません。野菜の生産も、種を蒔かないと芽が出て来ませんし、先に収穫はできません。種を蒔くには旅をしなければなりません。だから、声がかったら、机ひとつと野菜を持って、どこにでも出掛けて、移動八百屋を出店します。いろんなところに『旅する八百屋』であり、いろんな人に『種を蒔く八百屋』でもあります。」
「その他にも、カフェやイベントでのトークイベント、ワークショップを展開したり、新しいカタチの八百屋のプロデュースや『種市』という、古来種野菜ファーマーズマッケットの企画も手掛けています。とにかく、一度、昔から受け継がれてきた『本物の種』のお野菜を食べて欲しいと願って、活動をしています。」

「『古来種』のように、命ある種から作った野菜は、いつか食べたことのあるような懐かしいおいしさを持っていて、きっと食べた方の心も体も喜ぶはずです。同時に、その野菜の背景には、物語がたくさん詰まっています。『生命力のある野菜を頂いている』と感じると、土との距離が近くなり、四季折々の私たちの暮らしが豊かになります。そういうライフスタイルまで語り継ぐことができる八百屋を目指しています。」

『平家大根』とは?

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ー 「warmerwarmer」を始められたきっかけは?

「『平家大根』という、800年間、命をつないできた、日本で一番古い品種の大根に出会ったことですね。全国の生産者の中には種を守っている人がいるんですよ。」

「米国には、USDA(米国農務省)オーガニックマーク、EUには、EU産有機農産物マークがありますが、日本でも、2001年に、農水省が『改正有機JAS法』を施行し、『有機JAS認証』が始まりました。」

「その頃、私は、自然食品店で野菜のバイヤーをやっていて、2006年から3年間、流通の立場で、生産者に呼びかけて、認証の取得を推進し、欧米のように有機JASの野菜を増やそうと全国を駆け廻っていました。もちろん、それが全てではないし、世間が求める安心、安全の基準が変化していく中で感じる違和感もあり、それが少しずつ私の中で大きなジレンマになっていきました。」

「そんな時、たまたま、種を守り、非常に珍しい野菜をつくっておられる生産者に出会い、それまでに見たことのない野菜が目の前にありました。その中の『平家大根』は、どこか野生的で、ずっしりとした重みがあり、葉は力強く弾力があって、私が扱ってきた自然食品店に並んでいる『青首大根』とは、全く違っていました。」

「形もサイズもバラバラで、太かったり、細かったり、丸みをおびていたり・・・。何より、その大根のもつエネルギーの強さに魅かれました。どこか懐かしいような、やっと会えた、というような感覚でした。自分自身の感性か何かが反応したんですね、これはおもしろい!って。」

古来種にはそれぞれにストーリーがある

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「古来種にはそれぞれにストーリーがあって、実は、『平家大根』は、宮崎県椎葉村の焼畑農で有名なおばあちゃんの家で代々守ってきた種を、長崎県雲仙市で、自家採種し、種を守っておられるパイオニア的な生産者が、譲り受け、大切に繋いでおられるのです。」

「でも、東京で見かけることはありません。形は揃わないからバラバラだし、味もバラバラ、日持ちもしなかったり、全部同じような形や規格に揃うよう人為的に作られた野菜とは違い、流通には乗らないのです。」

ー 『平家大根』の味の方は如何ですか

「辛味が強いので、すりおろしにしてもとても辛く美味しいですし、また、煮込み大根などに調理すると、しっかりと大根としての味を主張してくれます。」

*「平家大根」とその種の画像は高橋一也さんの承諾を得て、掲載させて頂いた。

独立を決意したきっかけ

「やはり、3.11の東日本大震災の原発事故がきっかけになりました。福島第一原発の傍の浪江町という町に、種を守っている生産者がおられて、代々、受け継いだ種を子供さんたちにも引き継ごうとしていたのに、福島第一原発の事故で、畑も種も失くされました。」

「その方から、『種が無くなった。種の賠償を求めに行ったら、たかが種って、笑われた。』と、電話が入って、二人で悔し涙を流しました。それは、対応した電力会社の社員が悪いワケではなく、先祖から受け継いできた野菜の種が大事だという情報が世の中にないから、誰も知らないだけだと思い知りました。」

「今、種の大切さを誰かが伝えて行かなければ、このまま、みんな知らないままで、何百年と続いた歴史が終わってしまうのは、もう時間の問題だ、と痛感しました。勤めていた会社で取り組んでもらうことも考えましたが、企業で取扱い規模が大きくなると、小量多品種の取扱いは難しいし、形がバラバラなので1本いくらで売れないし、店舗でもネットでも量り売りは難しいし、会社に勤めていて今のような活動はできないし…、どんどん古来種の種が失われている状況から、一刻の猶予もないと思いました。」

自分ができると思ったことをやった人が社会をつくる

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「99%の人に反対されましたが、できるイメージ持ってるんでしょ?イメージできなかったらやりたいと思わないし、自分ができると思ったことをやった人が社会をつくってるんだよ、自分がやれると思ったならやればいいじゃん、と背中を押してくれる人もいて、そうだな、だめだったらやめればいいんだなって、会社を辞め、独立しました。」

「自分の子供の世代に、どういう野菜を残して行くべきなのか?次の社会にどういうものを残して行ったらいいのか?ということを考えた時に、人為的に作られた今の野菜ではなくて、先祖から受け継いだ大根がちゃんとあるんだよ、それは命がつながっているから食べたらおいしいよ、ということを誰かが教えないといけない。」

「『平家胡瓜』というキュウリもあるのですが、そういった昔から受け継がれてきた野菜を東京の人にも知ってもらいたい、先祖から受け継いできた野菜の歴史を途絶えさせてはいけない、と思い、それを自分自身の活動と仕事にしました。」

古来種の『平家大根』とF1種の『青首大根』を比べて見えてくるもの

ー その古来種、在来種、固定種と呼ばれている野菜だけを扱っておられるのですね?

「そうです。古来種の『平家大根』とF1種の『青首大根』を比べてみると、いろんな社会の仕組みが見えてきます。今、市場に流通している野菜の99%が規格の揃う、人為的につくられたF1種です。」

「F1野菜が出てきて、小売りでは、昔の量り売りは無くなり、この規格のこのサイズは1本、1個いくらという販売方法に変わりました。現状の流通に都合のいいように規格が決められ、野菜も人為的につくられています。本来、同じ野菜が、形が悪い、不揃いだからと安く売られるのもおかしな話です。」

F1種とは?

「皆さんが普通に食べている野菜は、種を蒔いて、実がなって、種ができて、それを蒔いて、というのを繰り返していると思われていますが、F1種の農業生産者は、自分で種を採らずに、毎回、種苗会社から購入して栽培しています。」

「実は、F1種というのは、一代交配種という意味で、一代限りしか命をつなぐことができない野菜です。というのも、同じ種類の野菜でも、大きく育つとか、病気に強いとか、次の代に受け継がせたい異なる性質を持つ品種を人為的に交配すると、両親のいいところだけを受け継ぎ、両親のどちらよりも丈夫でよく成長し、品質もよく、収量も多い子が、一代に限りできます。」

「これは雑種強勢という、動植物に発現する自然界の仕組みを利用しているのですが、二代目からは、バラバラなものができるので、種は採れても、一代限りしか栽培できません。交配も、昔は、ピンセットを使って、手作業で雌しべに受粉していたのですが、今では、雄性不捻という技術が使われています。これを説明すると長くなるので省きますが・・・。」

種なしトマトや種なしスイカに違和感を感じない⁉︎

「今では、バイオ技術の力や、農作物を人為的に交配させて、病虫害に強いから農薬を使わなくていいとか、栄養価を高くするとか、里芋とかの皮を剥く時に手が痒くならないようにするとか、大抵のことはできてしまいます。例えば、種がないトマトとか、種がないスイカも開発されているそうです。種なしトマトは、種を取除く手間が省けるし、可食率が高いはずですから、レストランには売れると思います。」

「私は、別にそれに反対している訳ではありませんが、種がないのはおかしくないですか?人間に種があるのと同じように、野菜にも種があるのが普通でしょ?なんで種がないの?って、疑問に思うのが普通なのに、科学技術の力を使って、F1とか、人間の都合のいいように人為的につくられた野菜がどんどん増えて、種なし◯◯等が、ごく普通に日常生活の中にあるので、違和感を感じなくなってしまっているのです。」

昔のニンジンと今のニンジンの違い

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「昔のニンジンは、表面がとてもゴツゴツしています。洗う時もヒネリながら丁寧に洗わないと土が残ってしまいます。ところが、今、スーパーで売られているニンジンは、ゴツゴツ感がなく、スラッと真っすぐで、表面もツルッとしていますよね。出荷時に、洗浄機に掛けて、効率よく洗えるように、種の時点で、真っすぐ、凹凸のできないよう、その上、規格やサイズまで、人為的にコントロールしちゃうんです。」

「例えば、通常、45日で収穫するホウレンソウが、30日で収穫できるようになれば、単純に、1枚の畑を1.5倍に活用できるのですから、ものすごく効率がいいですし、生育期間が短くなれば、端境期も短くなるので、生産者にとって、人為的に種をコントロールして野菜がつくれるのは都合のいいことです。」

「それにしても、人間は、この先の人生、例え45日先でもわからないのに、F1の野菜は、45日後がわかるって、すごいことですよね?私が扱っている在来種、古来種というのは、人間と同じように先がわかりません。その上、味、形、色、・・・、規格が揃わないし、非効率で、非経済的だから、店頭に並ばなくなりました。」

「青首大根」しか「大根」として認識されない時代

「今の子供たちはスーパーに並んでいる野菜しか見ていませんから、『青首大根』しかなければ、それ以外は、『大根』とは認識されなくなります。5年後、10年後、どうなっているのでしょうか?そういう種の野菜は、歴史から無くなっているかも知れません。」

有機JAS認証の野菜って、美味しくて、身体にいいの?

ー 有機JAS認証の野菜って、身体にいいとか、美味しいというイメージがありますが?

「一般には、そういうイメージがあるかも知れませんが、有機JASの野菜も、基本的にF1種です。単一種を大量生産しているところもあれば、こだわりを持って多品種を小量ずつ作っているところもあって、有機JAS認証を受けていても、それぞれの生産現場の背景によって、できた農産物の品質にも大きな違いが出てきますから、一概にはいえませんね。」

「有機JASの検査員もしているので、産地を廻ったり、有機JASの生産者と直に話をする機会もありますが、どうしても、経済性や効率をどう高めるか、グローバルスタンダードといわれている欧米と同等性を持って、如何に競争力をつけるか、という話に終始します。」

有機JAS認証の2つの意味とは?

「元々、有機JAS認証には、日本の農産物を世界に向けて輸出できるように、ガイドラインをつくることと、グローバル化することという2つの意味があります。」

「それまでの日本の有機農業は、契約する概念がなかったので、生産者がトレーサビリティとか、栽培履歴を記録する習慣がなく、ちゃんと記録を残しておくことによって、海外にも輸出することができるようになったのですが、それは、社会の経済システムの中でのガイドライン、仕組みであって、有機JASだから美味しいという保証ではありません。私は、そういう風に認識しています。」

大事なのは農法ではなくて、その違いを消費者が知る事

「全国の生産者のところを廻っていると、有機栽培、特別栽培、自然農法、なんとか農法とか、いろんな栽培方法があって、皆さんから、ウチの栽培方法はどうかって聞かれていたのですが、最終的な結論としては、農法というのは生産者の生き方だと思いました。」

「有機JASが悪いという訳ではないし、慣行で農薬を使っている生産者が悪いという訳でもない。生産者、それぞれの生き方だと思っています。結局、それにどれだけ賛同している人がいるかということです。決して否定するものではないし、私は、何が悪いだとかは、一切、言ったこともありません。」

高橋さんが扱う古来種の野菜はどこで買える?

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「常設の店舗を持っていませんので、『warmerwarmer』のWebサイトでの通信販売や、こうした催事やイベントの他、声が掛かれば、いろんなところで出店している移動八百屋ですね。」

「伊勢丹新宿店さんでは、売場を設けて、私の納品した野菜を販売して下さっていて、時々、私もお客様と直接コミュニケーションするために店頭に立っています。レストランや店舗に卸もしていて、食べられる場所や移動八百屋のスケジュールはWebサイトにアップしています。」

今、残っている在来種、固定種の種類

ー 今、残っている在来種、固定種の種類は?その内、扱っておられる種類は?

「命が途絶えてしまった種もありますが、守っている人もいるし、まだ、全国各地に残っています。大根だけでも100種類以上残っているといわれています。私が扱っているのは、年間で5〜60種類でしょうか、まだ、出会っていない野菜がたくさんあります。」

「地方に行くと、おじいちゃんやおばあちゃん、年配の方々が、今でも、その地域にしかない野菜を守り続けています。これだけ経済が発展して、大手のチェーン店が全国展開し、どこでもネットが使えるような時代に、まだ、先祖から受け継いだ野菜を守っている人がいるって素晴らしいことだと思います。」

日本料理の組合せの妙が見えてくる

「昔からある在来のキュウリって、苦いんです。それで、苦味をとるためにどうしたらいいかと思って、塩でもんでもダメなのに、味噌と一緒に食べると、苦味がとれるんですよ。それを食べた時に、『あっ、そうか』って、居酒屋でもろきゅうってあるでしょ?味噌も付けて食べますよね?元々、キュウリって苦かったから、あの食べ方が広まったんでしょうね。」

「在来の野菜を扱っていると、日本料理では、どうしてこの組合せなのか、という答えが見えてきます。全て意味があるのがわかってくるんでおもしろいですよ。」

昔のキュウリは皮が薄く、それを守るために自ら表面に白っぽいロウ質の粉(ブルーム)をふいていたが、農薬を思わせるからと、カボチャを台座にした粉をふかないブルームレスキュウリが開発されて、今では、それが主流になっているが、皮が硬く、中味が柔らかく、味は水臭くなって、昔のキュウリの方が、少々、苦くても歯触りがよく、本来のおいしさがあるそうだ。

『種市』とは?

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ー 『種市』は、どんなイベントですか?

「一般のファーマーズマッケット等に出店して、同じ場所で販売していると、古来種でもF1種と同じ土俵に乗せられて、必ず、価格競争に巻き込まれます。それが一番辛いことで、価格競争のないマーケットを作りたかった。代々、受け継がれた野菜だけのマーケットをつくれば、価格競争に巻き込まれることもない。ならば、自分たちでイベントを企画して販売しよう、ということで、『種市』を始めました。」

「『種市』のテーマは、『日本の種を未来につなぐ』ことで、日本の古来種の野菜と種、そしてその生産者さんたちが主役のイベントです。古来種の野菜や種、スイーツが並ぶ『ファーマーズマーケット』をメインに、古来種の野菜は、食べ方がわからないものが多いので、料理を並べて食べてもらったり、なかなか知ることができない種や農や食に関するトークショー、講演会食堂、生産者会議等、見る、食べる、聞く、触れる、様々な角度から種を考える、盛りだくさんな内容です。」

「作っている生産者も、買いに来ているお客様も、お互い『種』を守ろうという共感のもとで、マーケットが立ち上がるから、これこそ、欧米のファーマーズマーケットのような、お互いが助け合う共生したマーケットができるのではないかと、期待して実施しました。」

「第1回目は、もちろん、初めてのことだったので、前日までお客さんが来ないんじゃないかと心配しましたが、2日間で800人ぐらい来て下さって、野菜は全て完売、種なんて即完売でした。見たこともないような古来種の野菜が一堂に集まること自体が珍しかったし、実際に生産者が来て話もしたので、リアリティもあったと思います。そういうマーケットがなかったからでしょうね。」

生産者は売り先がないと作れない…

「市場は需要と供給でできていますが、私は、両方を作らなければならない立場なので、古来種だけのマーケットを作れば、純粋なニーズがわかるし、わかれば、生産者にも作り甲斐が生まれます。定期的に時期を決めてやれば、次は何月にあるから、それに合わせてこの野菜を作ろうとか、生産、販売のリズムもできるでしょう。」

「生産者は売り先がないと作れません。畑で働いている人は日々、孤独なので、そういう人たちに何かしらの勇気を与えたいと思っていました。東京には買ってくれる人がいるし、そういう野菜が大事だというのが少しずつわかり始めているよ、っていうのをメッセージとして出したかったのですが、少しはお役に立てたかもしれません。」

「2013年4月に第1回目を開催して、夏と冬、日本の野菜の多様性をみんなに見てもらおうと、2013年8月に夏の種市、2014年1月には、冬の種市を開催しました。」

古来種普及活動の手応え

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「種を守る活動に共感して、生産者や料理家さん等、『食』に関連して仕事をされている方々をはじめ、協力してくれる方が少しずつ増えてきたのは嬉しいことです。こういう野菜が大事だよね、こういう野菜が欲しかった、という声も聞こえてきて、お互い心の中で仕舞っていたものを素直に出せるようになってきました。」

「そういう人たちが集まってきたのは、本当に嬉しいし、自分がやっていることは、そんなに無理なことでもないんだな、時間はかかるけど、大事なことをやっているんだな、って実感できるようになってきました。」

今後の展開と抱負

「自然食品店さんに古来種の野菜を並べたいですね。意識の高い方たちは、ご自身で考えて、前へ前へと行動されるので、いろんな人たちと連動して、古来種の野菜も並べて下さい、というような声がだんだん大きくなり、小売の方にも届いて、店頭に並ぶようになる、というのが今のところの目標です。種市をやってから、そういう動きが出始めているので、もっと広がればいいなと思います。」

「日本では、生活者、消費者が、自分たちの意識を持って、企業にアプローチすることは、あまりありませんが、社会を変えるような取組みになって、小売店に古来種のコーナーができ、いつでも買えるようになれば、子供たちに引き継ぐこともできます。そうして種を残して行きたいですね。」

「あの震災が起きて、自分たちの食べ物って何だったのか?人間って、何が大事なのか?誰もが少しずつ考え始めたと思います。今、TPPとか遺伝子組み換えのことが問題になっていますし、自分たちが子供たちにどういう食文化を残して行くべきなのか、ひとりひとりが考えて欲しいですね。」

知らないで買うのと知っていて買うのでは大違い

「古来種には、野菜そのものの、作り手の方々の、手にとった方々の、それぞれの時と場所によって生まれるストーリーが必ずあります。それをまるごと、いただくこと。身体の中にとりこむこと、これもひとつの野菜の旨味となり、明日の私たちの身体や心を創るのではないかと、思っています。」

「でも、無理をしない方がいいんです。何も安い野菜が悪い訳ではなく、ひとりひとりの意識の中で持っているかどうかだけなんです。知らないでモノを買うのと、知っていてモノを買うのとでは全然違いますから、知っていて欲しいです。忘れられている種がこんなにたくさんあるんだってことを知っていて欲しい。そして、決して、忘れないで欲しいのです。」

「本来の野菜」、「ホンモノの野菜」とは?

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さて、「本来の野菜」、「ホンモノの野菜」って何か・・・? それが解れば、自ずと、子供たちに何を残すべきなのか、わかるはず。

高橋さんのおっしゃる「古来種」も、あの経済と効率を最優先して、競争原理が働くよう仕組まれた現代社会で、誰かの都合に合わなくなって、姿を消していったのである。

私たちの身体をつくっている「食」を突き詰めると?

COREZO(コレゾ)賞を始めてすぐに、製法だけでなく、原材料についても考えるようになった。そして、農産物の根本である「種」について調べ始めたら、驚くことばかりで、一消費者として、人の身体をつくっている「食」に関して、あまりにも意識が低すぎることを痛感した。

高橋さんがおっしゃった「本来、野菜には、種があるのが普通なのに、種なし◯◯に何の違和感も感じなくなっている。」という言葉に象徴されていて、いつの間にか、それが当たり前のように刷り込まれてしまったのである。それは、どうしてなのか?種なし◯◯が、どうのようにしてつくられるのか?ご自身でお調べ頂くなり、お考え頂きたい。

自分でつくらなくても食せる機会は貴重

在来種、固定種の種を扱う中村さんも含めて、多くの方々から、在来種、固定種の野菜は、おいしいと聞いても、流通していないので、確かめようがない。仕方なく、畑を借りて自分でつくり始めたが、シロートがつくった出来損ない野菜でもひと味違うような気がする。

そういう意味でも、高橋さんがやっておられる活動は貴重だ。自分でつくらなくても、買って、味を確かめる機会が確保されたのである。実に有難いことである。是非、どんな味がするのか、一度食べてみて頂きたい。

種を守っておられる生産者に販売する場を創り、消費者には、「本来の野菜」、「ホンモノの野菜」、「昔から受け継がれてきた本物の種」の情報と購入できる場を提供して、消費者と生産者をつないでおられる高橋さんの活動をもっと多くの皆さんに知って欲しい。

選択肢を残すのは私たち消費者次第

そして、種を守っておられる生産者の農産物を、その価値がわかる消費者が、種を守っていける価格で買い支えなければ、昔から受け継がれてきた「命ある本物の種」を次の時代を担う子供たちにつなぐことはできない。買いたい人の声が大きくなれば、売りたい人が出てくるかもしれないが、買いたい人がいなければ、誰も生産しないから、この世から消えてなくなる。

結局、ホンモノという選択肢を残すのは私たち消費者次第なのである。

シードバンクでは命は繋げない?

余計な話だが、国は、種の命をつなげないシードバンクでの冷凍保存に、多額の税金を注ぎ込んでいるが、年々、種の発芽率は下がり、そもそも、毎年、環境に応じて進化する種が、何十年後に蒔いたとしてもその時の環境で生育できるのかわからないそうである。そんなことより、耕作放棄地等を利用して、種をつくり続けて、命をつなぐ方がよっぽど合理的だろう。

 

COREZO(コレゾ)「生産者と消費者をつなぎ、昔から受け継がれてきた命ある種と本物の野菜を子供たちにつなぐ、旅して、種を蒔く八百屋」さんである。

 

高橋 一也(たかはし かずや)さんに関するお問い合わせは

メールで、info@corezo.org まで

※本サイトに掲載している以外の受賞者の連絡先、住所他、個人情報や個人的なお問い合わせには、一切、返答致しません。

 

COREZO(コレゾ)賞 事務局

初稿;2014.09.04.

最終取材;2014;05.

最終更新;2015.03.21.

 文責;平野 龍平

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