目次
COREZOコレゾ「和の調味料としてのソースを極めたい、こだわりの野菜・果物を生から煮込み、コンブと鰹節のうまみを加えて、木桶で熟成する無添加のソースづくり」賞
鳥居 大資(とりい だいし)さん
プロフィール
静岡県浜松市
鳥居食品株式会社(トリイソース) 代表取締役社長
経歴・実績
1971年、静岡県浜松市生まれ。
幼少時代、家族でTBS系列「クイズ天国と地獄」に出場し、優勝。副賞で行ったヨーロッパ旅行で海外への興味が芽生える。
應義塾大学経済学部に進学し、在学中は、外務省経済局にあるOECD閣僚理事会準備室でのアルバイト、カナダのブリティッシュコロンビア大学に交換留学、日本経済新聞社主催の日米関係における学生論文で入選、日米学生会議に出席するなど国際関係の学問に没頭。
同大学卒業後、内閣府主催の世界青年の船にアシスタント・ナショルナル・リーダーとして乗船し、シンガポール・スリランカ・インド・ケニア・ギリシアを訪問。
帰国後、大学時代の指導教官であった鳥居泰彦元慶応塾長の薦めで渡米し、アメリカのスタンフォード大学大学院にて日米中の三国間関係を専門に修士課程修了。
96年、三菱商事に入社。大学時代から将来の事業承継を意識し始めていたこともあって、食品関連の国際貿易部門を希望したが、配属先は与信管理・リスクマネジメント業務などを担当する審査部門で、財務分析と商事法務に従事。
4年間の業務は国内中心で、審査マンとして財務分析と商事法務のスペシャリストとなっていたが、海外業務への気持ちが強くなり、当時、三菱でリスクマネジメント研究のモデル企業の一つであったGE(ジェネラルエレクトリック)社に転職を決意。
2000年、GE(ゼネラル・エレクトリック社)に転職。当時のジャック・ウェルチCEO肝いりのGE内部の幹部候補養成コースとして名高いCAS(Corporate Audit Staff)に配属され、アジアと北米を中心に4ヵ月毎にGEが買収した会社を巡り、内部監査を行う。
2001年9月11日の同時多発テロの時は、ちょうどWTC(World Trade Center)の斜め隣のビルの6階で働いており、2機目の激突を目の当たりにする。
2004年、GEでの仕事が4年を経ようとした頃、先代社長の入院・手術・療養を機に家業の鳥居食品株式会社に戻り、1年後の03年、3代目として代表取締役に就任。
受賞者のご紹介
鳥居大資(とりい だいし)さんは、静岡県浜松市の鳥居食品株式会社(トリイソース)の代表取締役社長。
2016年6月、愛知を訪れた際に日東醸造の蜷川社長から、「名古屋のデパートでりんねしゃの大島さんが企画した催事をやってるんですが、木桶で熟成しているトリイソースさんとか、COREZOな人たちが集まっているので、行ってみませんか?」とお誘いを受け、ホイホイとついて行った。
「確か、ブラック蜷川さんとこも『オメガソースブラック』を製造販売してはりましたよね?確か、ソースって、野菜や果物をぐつぐつ煮込んで、酢とか塩、砂糖で味付けをし、香辛料で香りと味を調えてつくっているんですよね?」
と尋ねると、
ソースメーカーは自社で生鮮野菜から煮込んでつくらない⁈
「イヒヒヒヒ…、今どき、そんなもん、生の野菜や果物を選別、洗浄するだけでも、莫大な人件費と設備投資が必要で、それに衛生管理までせなあきまへんねんでぇ、自社で生鮮野菜から煮込んでソースをつくっているメーカーなんかおまへんわ。どこも、専業メーカーからペースト加工した野菜や果物を買ってきて、自社でブレンドしてまんねん。でなけりゃ、あんな値段でスーパーに並ぶわけおまへんやろ?選択と集中、効率と利益の最大化の結果でんがな、ブラックでっしゃろ?ガハハハハ…。でも、鳥居社長はホワイトやから、生の野菜や果物から作っておられると思いますよ。」
とのことだった。
そのトリイソースの代表取締役社長、鳥居大資(とりいだいし)さんをデパートの催事場で紹介してもらった。
なんともにこやかで柔和な方で、ホワイト系経営者に見えた。その時は、おひとりで販売をしておられたので、簡単に挨拶をして、熟成ソースとウスターソースを購入させてもらった。
粉もん文化にはソースが付きもので、関西人の筆者は、ソースには子供の頃から親しんできたが、諸般の事情で家族と離れて関東に暮らしていると、なかなか粉もんを食す機会もなくなり、ソースとも縁遠くなってしまった感がある。
その桶で熟成したソースを味わってみたく、戻って、早速、熟成ソースとウスターソースの合わせ技で焼きそばをつくってみたら、これがウんマい。
さらに、大阪の串カツ屋でやるように、生のキャベツをウスターソースに漬けて食べると、これもイケる。ビールが進む、進む。
これは、製造現場に行ってみなくっちゃ~、てなわけで、浜松のトリイソースを訪ねた。
ソースとは?
まずはソースのおベンキョー
ソース(sauce)は、調理において、他の食品に添えたり、調理に用いられる液状またはペースト状の調味料全般を指し(トマトケチャップもソースだそう)、日本では、単に「ソース」という場合は、一般にウスターソース類全般のことを指し、「ウスターソース」と言えば、ウスターソース類の中でも粘度の低い狭義のウスターソースを指すことが多いとのことだ。
ウスターソース類の日本農林規格
で、ウスターソース類の日本農林規格を調べると、ウスターソース類の定義は、次に掲げるものであつて、茶色又は茶黒色をした液体調味料をいう、とある。
1 野菜若しくは果実の搾汁、煮出汁、ピューレ又はこれらを濃縮したものに砂糖類、食酢、食塩及び香辛料を加えて調製したもの
2 1にでん粉、調味料等を加えて調製したもの
この内、粘度と野菜及び果実の含有率によって、ウスターソース、中濃ソース、濃厚ソースの3種類に分類されている。
つまり、中濃ソースや関西でとんかつソースと呼ばれている濃厚ソースもウスターソースの一種と云うことになる。
詳しくは、下記参照。
http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/kikaku_32.pdf
参照すると、何でも使えるんかい?って突っ込みたくなるでしょ?
ウスターソースの誕生
ウスターソースの誕生は、諸説あり、19世紀の初め、英国ウスターシャー州のウスターで生まれたという説が有力で、市内に住む主婦が余った野菜や果実の切れはしを有効に利用しようと香辛料をふりかけて壺に入れ、腐敗しないように塩や酢を加えて保存したままにしたところ、それが長い時間をかけて熟成され、液体ソースになった、というのが有力だと云う。
英国産で最も有名なのがリーペリンブランドのウスターソース(リーペリン・ソース)で、英国のみならず世界各国で広く使われているが、英国のウスターソースは主原料に、モルトビネガーに漬け込んで発酵させたタマネギとニンニクの他、アンチョビや多種のスパイスが使われているそうだ。
それが日本や東南アジアにも伝わり、独自の製法が生み出された。
わが国では、野菜・果実、砂糖、食塩、香辛料、食酢を原料とし、それらの組み合わせや配合を変えることで味の違いが出せることから、日本各地にソースメーカーがあり、その数は、日本ソース工業会の会員だけでも77社あるが、全国ブランドになっているのはごく僅かで、トリイソースのように非会員のメーカーも相当数あり、それぞれの地域ごとに異なる消費者の嗜好(しこう)に応じて、独自のいわゆる「地ソース」が生産されている。
一般に、関東地方以北では中濃ソースが好まれ、近畿地方以西では、濃厚ソースがお好み焼きやたこ焼きに必須であることから、ウスターソースととんかつソースやお好み焼きソースを分けて使うことが好まれる。中京圏では、ウスターソースをより濃くした「こいくちソース」と呼ばれる独特の濃厚ソースが好まれているそうだ。
以上、おベンキョー終わり。
トリイソースのこだわり
― 貴社のWebサイトを拝見すると、鳥居社長はスゴい経歴の持ち主ですが、どうして家業を継がれたのですか?
私は、三代目になるのですが、先代社長である父の手術入院、療養が家業を継ぐ契機となりました。トリイソースは、私の曽祖父である鳥居芳太郎と祖父の鳥居徳治が1924年(大正13年)に始めたソース屋で、それから90余年、この浜松という地域を中心にソースを作ってきました。
私にとってソースというのは、グツグツ煮込んで、それらの味を凝縮してつくる調味料だと思っていますが、その子供の頃から慣れ親しんできた地域の味を絶やしたくなかったのと、野菜や果物をグツグツ煮込むことでしか出せない味をさらに多くの方々に知って頂きたいと思い、家業を継ぎました。
就任後は、伝統を守りながらも、より多くの皆さんに喜んで頂ける新しい商品づくりにも、日々、取り組んでいます。
― トリイソースのこだわりとは?
大きく4つあります。第一は、原材料にこだわり、タマネギ、トマト、セロリ、ニンジン、ニンニク、リンゴなどの野菜・果物を自社で選別、洗浄し、生の状態からグツグツ煮詰めてつくっていることです。
ソースといえば、グツグツ煮込んだ野菜や果物の凝縮した味に尽きるのですが、そのうまみを届けたいという思いから、昔ながらのウスターソースに使用する野菜・果物は、100%国産にこだわり、タマネギやニンニクは、可能な限り地元浜松の契約農家から、できるだけ良いものを選んで使っています。
第二に、ほとんどの行程を手作業で行っていること。第三に、スパイスをパウダーで加えるのではなく、ホールの状態で煮出していること。そして、最後は、熟成に木桶を使っていることです。
― ペースト加工した野菜や果物を原材料に使うメーカーが多いと聞きましたが?
そうですね、ウチのように自社で選別、洗浄して煮込んで、熟成なんてしていたら、効率が悪いですからね。でも、何度も申し上げますが、ソースは、グツグツ煮込んだ野菜や果物の凝縮した味に尽きると思っているので、昔ながらの製法を守っています。
― 手づくりにこだわる理由は?
例えば、香辛料に使う唐辛子もすり潰してパウダー状にしてしまうと、辛さばかりが際立つのですが、丸のまま、ホールで使うと、唐辛子の持つ微妙な甘さや旨さも引き出すことができます。こういうのは手づくりならではの良さであり、手づくりでしか出せない味です。
― スパイスを丸のまま原型で使う理由は?
一般的な大量生産ソースの場合、香辛料はすり潰してパウダー状にし、ソース原液に溶かし込みます。その方が手間は掛からず、より少量で済むからですが、香りが逃げてしまい、味もストレートで尖ったものになりがちです。丸のまま原型で煮出すと、香りが立ち、味もマイルドになって、後からじんわりスパイスの風味が伝わってきます。
― 熟成に木桶を使う理由は?
木桶の古いものでは創業当時から95年使っている木桶もあり、ウィスキーやワインの熟成に使われるように、木桶は呼吸しているので、ステンレスやFRP等のタンクに比べて、よりまろやかに熟成すると云われています。また、ウチのウスターソースは、木桶に継ぎ足し、継ぎ足し、熟成させています。90年以上使い続けている桶だからこそ、そこにこれまで幾度と無く作り上げられたソースの風味が加わり、よりまろやかで深い味わいのソースが出来上がるのです。
― ソースの熟成期間は?
1日です。
― えっ、1日ですか?
一般的なソースメーカーの場合、野菜や果物のペーストを使おうが、野菜や果物を煮込む過程があろうがなかろうが、それらに調味料と香辛料を加えて、ボトリングすれば出来上がりなので、1日で出来ちゃいます。
― ソースはビン詰めした後も熟成すると聞いたことがありますが?
熟成はソースに限ったことではないと思いますが、一般的には表面積に関わることなので、大きなタンクで熟成した方が、まろやかに熟成が進むのではないかと考えていて、ウチの場合は、木桶で約1ヶ月熟成させてから瓶詰、出荷しています。
実はですね、皆さん、よくご存じのある大手メーカーさんなんかは、それぞれのパイプから供給される野菜や果物のペーストや調味料、香辛料他の原材料が途中で、ブレンド、加熱され、それがノズルからボトルに注がれて、フタをして、あっという間に出来上がりです。ソースって、そんなんでできちゃう世界なんですよ。
例え、ウチのように、野菜や果物を生から煮込んだとしても、4時間ほどでソースの原型はできちゃうんです。
― 原材料の酢も自社醸造しておられるとか?
ええ、そうです。ソースの原材料として使うのは、酒粕仕込酢ですね。地元酒蔵の吟醸酒を作る時にのみ出る酒粕を原料にして、ウチの場合は、半分種酢で、半分新しい仕込という仕込み方をしていて、静置法で約2ヶ月間静置醗酵させたものを使用しています。
元来、お酢屋さんがやっていた酒粕仕込でつくってきて、地元のお寿司屋さんにも卸しているのですが、正直言って、他と差別化ができないので、僕が継いでからは、みかんやブルーベリー、なしのお酢を商品開発して、つくっています。今は、2割程度ですが、今後はこちらを増やしていきたいと考えています。
砂糖に関しても、自然な甘味をソースの味に加えるために、精製前のさとうきびにより近い鹿児島県種子島産の粗糖を使用しています。
GE仕込みの経営手腕⁈「弱み」を「強み」に
― 社長になられてから11年ということですが、どういうことに取り組んでこられましたか?
ソース業界の産業規模は縮小傾向にあったのですが、数年前からは600億円ちょっとのところで落ち着いていて、外資は利益率が低い食品業界には手を出さないだろうから、財務のプロの僕が経営すれば、なんとかなると思っていたのですが、GEのような大企業でやってきたことは、日本の零細企業では通用しませんでした。
当時の社員は高齢化しており、原料を煮込む鍋は小さくて、小ロットにしか対応できないし、原料を熟成させる桶(おけ)は創業以来、使い続けてきた木桶で、ソースの充填(じゅうてん)装置もプラスチック容器には未対応のガラス瓶詰め専用でした。
どれも時代遅れも甚だしい設備でしたが、償却はすべて終わり、手形や借入もなかったので、先代の深慮には感謝しましたね。
帳票類は未だ手書きでしたから、事務のIT化、作業効率の向上を図りながら、主力商品のソースとあまり向き合わずに、先に、みかんのお酢やオムライス用ソース、カレー用のスパイスソース等、比較的簡単にヒットが打てそうな商品から手掛けて、僕自身がきちんとソース屋に向き合う時間を稼がせてもらいました。
まず、原材料を見直して、なるべく地元産の食材を使うようにし、他所から仕入れるのではなく社内で加工するようにしましたが、弊社のような多品種少量生産だからこそ、できることでした。
さらに、創業以来使い続けている木桶や手づくりで小ロット生産しかできない昔ながらのソースづくりを逆手に取って、それらを大切に守ることで他との差別化を図りました。
ただ、容器は、新規の設備投資ができる余裕がなかったので、ガラス瓶を使うしか選択肢がなく、どうしても、重く、割れやすいという弱点がありました。
そこで、今使っている200ミリリットル入りの小さな商品を開発し、厚紙製の箱型パッケージを瓶に履かせることで、ラベルを貼る手間を軽減し、小売店でも目立ち、厚紙が底と側面をカバーしているので瓶も割れ難くなり、リユース瓶で環境面にもアピールできるようになりました。
「弱み」と思われた要素は、「木桶を使用した伝統的な製法」、「多品種少量生産ならではの地産地消」、「循環型容器による環境保護」など、消費者に対する訴求力の高い「強み」に転換することができました。
僕が継いだ当時、業務用と一般消費者用の売り上げ比率は9:1と業務用に偏っていたので、一般消費者向け商品にも注力するようにしてきて、今では、家庭と業務用の比率は半々くらいになり、個人的にはこの割合がちょうどいいように思っています。
無添加ソース製造への道
― 無添加でつくろうと思われたのは?
2010年にある食の雑誌の『全国お宝食材コンテスト』で当社のウスターソースが選ばれたのですが、その審査員だったフードジャーナリストの先生から「カラメル色素が入っているのがちょっと残念」というご指摘を受けたんです。よし、だったら抜こうと、簡単に思って始めたのですが、結局、新しい味をつくるのに4年もかかってしまいました。おかげで、先代や先々代の添加剤を使っていなかった頃はどうしていただろうとか、本流のソースと真剣に真正面から向き合うことになり、2014年9月に主力のウスターソースと中濃ソースを刷新しました。
― どういうご苦労がありましたか?
カラメル色素と味の統一ですね。
業務用の中農ソースが3種類ぐらいあって、それぞれ、一般消費者向けの小口の容器のも作っていたので、どれがお勧めですか?と尋ねられても答えられないぐらい、一本化できていなかったんですよ。それで、添加物を使わない以前に、どう味を統一するかが大きな課題でした。
最終的には、「昔ながらの中濃ソース」という商品のパッケージを踏襲しながら、中身は別の中濃ソースの味に統一したのですが、有難いことに、極端な客離れが起きなかったので、他のソースをお好みだったお客様もなんとか我慢して使ってくださって、今の味に慣れていただいたのではないかと思います。
― トリイソースさんのカラメルは自社で砂糖を焦がしてつくっておられるんですよね?
そうです。一般に販売されているソースはカラメル色素を使ってあのソースの色を付けています。
実は、カラメルメーカーさんがつくっているカラメルは、色も味もうまく出せるように調整されていて、よくできてるんですよ。でも、それを使うとカラメル色素と云う食品添加物を原材料として表記する義務が生じます。
カラメルは糖分を焦がしてつくりますが、製造時にpHを酸性かアルカリ性に調整すると色が出やすくなります。なので、酸やアルカリが使われていて、無毒化するために中和しているものもあります。
カラメルには何種類かがあって、カラメルⅡは糖類に亜硫酸を加えて加熱したものですが、これは、日本では使用禁止となっています。
カラメルⅢは、糖類にアンモニウム化合物(THI)を加えて加熱したもの、カラメルⅣは、糖類に亜硫酸とアンモニウム化合物(THI)を加えて加熱したもので、日本の加工食品に使われているカラメル色素のほとんどが、コストの安い化学合成法でつくられたカラメルⅢとⅣです。
カラメルⅠというのは、でん粉加水分解物、糖蜜又は糖類の食用炭水化物を熱処理して得られたものです。糖類のみを加熱して作る昔ながらの製法なので、ウチで砂糖を焦がして作っているのと同じだと思うのですが、食品への表示は、カラメル色素I、II、III、IVの区別なく、「着色料(カラメル)」、「カラメル色素」と一括表示する義務があり、食品添加物扱いになるのです。
ウチでは、カラメル色素Iを使っていたのですが、無添加と表示するには、食品添加物であるカラメル色素は使えないので、竹炭、イカ墨、ココア、醤油等々、ありとあらゆるものを試しました。しかし、色は付けられても味が出せなくて、最終的に苦みが重要だと気付き、苦みを出すためには焦がすという工程が必要なので、砂糖を焦がしてカラメルをつくるという工程を自社でやることにしました。
「カラメル色素」と云う名称となっていますが、消費者庁も含めて、皆さん、「カラメル」を使用する目的は、着色だと思っているんですよ。僕が最終的にたどり着いた答えは、色も重要かもしれませんが、もっと重要なのは、ソースには苦みを含めた風味が必要だということでした。
消費者庁から問われた時に、「砂糖を焦がしたものです。」と答えると、「カラメルですか?」と問い返されたので、「カラメルと云えばカラメルですが、使用目的は、『風味づけ』です。」と答えると、使用目的が「風味づけ」なら原材料名を「砂糖」と表示してもいいが、使用目的が「着色」なら、原材料名を「着色料(カラメル)」、「カラメル色素」と表示するよう指示がありました。何だかおかしな話でしょ?
今、ウチで完全無添加でつくっているウスターソースって、いろいろやってきた割には、カラメルをメーカーから買ってくるのではなくて、自社でつくっただけじゃないか、って云われれば、それだけの話なんですよ。
― でも、ソースメーカーさんで、自社で生の野菜や果物から煮込んで作っておられるソース屋さんって希少というか、絶滅危惧種であるのは間違いないですよね?
それはそうでしょうね。
商品構成の見直し
― 典型的な家内制手工業で、手づくりなのに、ソースだけでも種類が多いですよね?一体、何種類ぐらいあるのですか?
現在、ソースだけでなく食酢も含めると、家庭用商品はだいたい300種類ほどになります。私どもの規模にしては少し多いので、もっと集約したいという思いもあるのですが、先代の時からのお付き合いもあるので、少しずつ、少しずつ、終売案内をしながら、新しい商品の導入を図っています。
今後は商品構成を見直すだけでなく、パッケージの変更なども視野に入れて、商品力をさらに強化する必要性も感じています。
―売り上げの構成は?
売上の1割がネット販売と直売店舗販売ですが、まだ、恥ずかしながら、CSのことまで手が回らない状態なので、直販は、今後、10年掛けて伸ばしていきたいと考えています。
ソースの原材料にコンブや鰹節を使う理由
― コンブや鰹節を原材料で使っているソースメーカーはあるのですか?
コンブを使っているところはあります。元々、リーペリンはうま味成分を含むアンチョビを使っているので、日本でソースをつくり始めた頃からコンブを使っていたと思いますが、よりうまみが強いグルソ(グルタミン酸ナトリウム)に替わっていったと考えられます。
外に向かっては、気付いたら、コンブと鰹節という日本のだし文化がソースの中に入っていたというカタチにしておきたいのですが、実は、理詰めで考えていて、コンブのグルタミン酸は鰹節のイノシン酸と合わささると、うまみが1.5倍に拡がるので、その相乗効果を狙ってどうしてもイノシン酸を入れたかったというのもあります。
― 無添加のウスターソースに対する従来からのお客様の反応は?
味が弱くなったというか、パンチがなくなったという声もあります。コンブに鰹節が合わさってうまみが増えた分、よりまろやかになったのですが、まろやかになると角が取れるので、調味料としてのパンチがどんどん薄くなっていくんですね。
よく味わうとちゃんと味はするのだけど、最初に来るパンチが遅れてくる感じになっています。今後、さらに改良を加えて進化させます。
― グルソは、直接、味覚中枢を刺激するらしいので、それに慣れている人にはグルソが入っていないと物足りないのかもしれませんね?
ええ、でも、最近、グルソ等の化学調味料を舌でわかる人も増えてきているので、当社や僕にとっては追い風だと思っています。
今後の目標
次の目標は、定番のウスターソースと中濃ソースは無添加にしたのですが、残りの商品には、まだ、若干、添加物を使っている商品があるので、これを全て無添加商品に切り替えていくことです。
― その他に、これからどのようなことに取り組まれる予定ですか?
今の日本のソースは中途半端な立ち位置にあると思っています。ソースは、元々、イギリスのものなので、日本人からすると洋食、洋のものと思われていますが、全く独自の進化をしてきて、リーペリンとは味が違っているので、海外の人からすると、これは日本の調味料という認識なんですよね。だから、海外で日本の調味料として認知され、もっと消費されるような取り組みをしたい、と思っています。
長期的には、自社商品をもっと和の方向に持って行こうと思っています。2年前(2014年)のリニューアルの時には、それまでずっとコンブだけだったのに鰹節を加えて、だしのうまみをアップしたのもその一環ですね。
将来、海外に打って出てて、「どこが日本的なんだ?」と問われた時に、「日本の地のものを使っているからこの味なんだ。」、「日本のだしの文化もこのソースの中にあるんだ。」、と言える商品づくりを少しずつ進めています。
それから、自分の中では、将来的に海外に出たいという夢があり、焼きそばには、もっとおいしくできる余地がたくさん残っているので、今の段階では、焼きそば屋をやりたいと思っています。
というのも、業務用はロットが増えると、販売単価が低下する傾向がありますが、業務用も適正価格での販売を維持したいので、焼きそば屋は、あくまでもその手段と考えています。フランチャイズで展開して、こちらはパッケージやルールを提供し、トリイソースを購入してもらう仕組みをつくりたいと考えています。
かける調味料としてではない日本のソースの売り方
海外では、日本のソースをかける調味料として売るのは、各国の食文化もある中、時間が掛かるものなので、自分がやるべき仕事としては、時間的にほぼ諦めていて、(ソースで調味した)日本食として売った方が、受け入れられ易いのではないか、と考えています。
海外では、焼きそばだけでなく、片手で食べられる焼きそばパンも受けるんじゃないか、と推測していて、その研究もしています。
国内に関しては、とにかく料理の中にどう混ぜ込むか、ということかなと思っているので、料理研究家の皆さんにも頼んでいるのですが、なかなか、これは、というのに巡り合えていません。
なので、大ヒットするようなソースを使った新しい料理を開発するのは、かなり難しいと考えていて、それよりも、日本の醤油文化の基本である醤油味のところをソース味があってもいいよね?っていうところを探求しています。
例えば、地元である程度認知されてきたのは、ソースだれで漬け込んだ唐揚げとか、ソース味のせんべいとかがあります。
ソースはどちらかと云うとジャンクフードに近いところもあって、7~8年前の景気の悪い頃には、ウチのような手間暇をかけたソースは受け入れられなかったのではないかと思います。
無添加にすることや、オムライスをさらに美味しくするソースや子供用につくった甘口のカレーにかけるだけで簡単においしい辛口カレーに変身させられるカレー専用スパイスソースを開発することで話題性をつくり、新しいソースのマーケットを開拓して来ましたが、新しいソースの開発、使い方の提案だけでなく、今後は、ソース屋でしかつくれないレッシング、それも、ほうろく屋さんとか、いい油が世の中にでてきたので、ノンオイルで、ドレッシングの決め手は酸味だと考えているので、ソースからの引き算からではなく、お酢からの足し算でつくりたいと思っています。
今度、味わってもらえばいいのですが、穀物系のお酢と果物系のお酢では、酸っぱさの重みが全く違うんですよ。せっかくお酢も自社でつくっているので、用途に応じた酢を使ったドレッシングをつくりたいと思っています。
それと、ビジネス的には、中濃ソースのマーケットのない関西以西での販路を拡大するためにも、濃厚ソースの商品開発を急いでいて、本年度中にも発売したいと考えています。
― まだまだ、やることがたくさんありますね。有難うございました。
工場見学のお楽しみ
トリイソースさんでは、工場見学も積極的に受け入れておられて、見学の最後には、ソーズの瓶詰めを体験させてもらって、自分が瓶詰めしたソースを1本、プレゼントして下さるのだが、その時、思わぬサプライズがある(見学に行ってのお楽しみ)。
2回目の訪問時には、新商品の国産ハバネロを使った「カレー専用スパイスソース」(旧称「カレーがからくおいしくなるスパイス」)を購入した。開発のきっかけは、1人をお子様をもつお母様の「自分はけっこう辛いカレーが好きなんだけど、子供がいるとどうしても子供に合わせて甘口のカレーにしなくてはいけない…」というお悩みを解消しようと生まれたという。
ただ辛味が増すのではなく、ベースに『野菜とくだもの完熟ソース』が使用されているので、辛さと共にうま味も増して、辛味を調整しながら、さらに美味しいカレーに変身させることができるのである。
これには、ハマった。家族全員で好みの辛味に調整ができるのでヒット商品になるだろう。ただし、美味しくなるので、つい、入れすぎてしまうところが玉にきず。「カレー専用スパイスソース」のことを思い浮かべながら、この文章を作成していると、頭皮から汗が噴き出してきた。
ハバネロソースと云うより、パブロフソースといった方がふさわしいかも知れない。
COREZOコレゾ「和の調味料としてのソースを極めたい、こだわりの野菜・果物を生から煮込み、コンブと鰹節のうまみを加えて、木桶で熟成する無添加のソースづくり」である。
文責;平野 龍平
最終取材;2016.08.
初稿;2016.11.
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