菅 美佐子(かん みさこ)さん/民宿かわせみ・森の駅どんぐり

COREZOコレゾ「元トップセールスマンとーさんと料理自慢かーさんがもてなす、1日1組の農家レストラン・宿」賞

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菅 美佐子(かん みさこ)さん

プロフィール

熊本県阿蘇市出身、在住

民宿かわせみ 女将

森の駅 どんぐり 駅長

ジャンル

食・農業

民宿・飲食店経営

料理人

経歴・実績

2003年 森の駅「どんぐり」オープン

2008年 民宿「かわせみ」オープン

阿蘇グリーンツーリズム 会長

阿蘇地域づくり協議会 役員

受賞者のご紹介

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菅 乃保留(かん のぼる)さんと菅 美佐子(かん みさこ)さんご夫婦は熊本県阿蘇市で農家レストラン「森の駅どんぐり」と民宿「かわせみ」を営んでおられる。

2005年、ある観光地域振興事業の仕事で、阿蘇地域がその対象地域になり、当時、財団法人阿蘇地域振興デザインセンター(以下、阿蘇DC)の事務局長をされていた坂元 英俊(さかもと ひでとし)さんにご紹介頂いて、食事や宿泊で何度もお世話になっている。

菅 乃保留(かん のぼる)さんは家業の農業を営み、農閑期には土木作業手伝いをしていた。段取りの悪い現場監督には意見をするだけでなく、時には現場監督を任される程だったという。その頃に覚えた橋掛けや石積みの技術が、今の民宿の施設の増改築の際に役に立っているそうだ。ところが、35歳の時、農地の基盤整備事業の作業をしていて、事故で大けがを負って1年間入院し、さらに1年間リハビリに費やした。

車のトップセールスマンになる秘訣とは?

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農業をするのはもう身体的に無理だと判断し、37歳の時、近所の車の販売店の門を叩いた。営業所では採用できないから、熊本の本社に行け、と言われ、面接を受けて採用された。阿蘇の営業所に配属され、所長から、「営業所の隣から1軒ずつ廻って来い。」と言われ、言われた通りに、初日に5〜60軒廻ったところ、1台売れた。1ヶ月後には5台売れ、初年度に70台も販売していた。当時の上司のマネージャーが年間50台程度だったので、迷惑がかかかると思い、それ以上売らなかったら、営業所長に理由を聞かれ、「同じマネージャーになれば、迷惑はかからんだろ?」と言われて、マネージャーになった。

2年目に100台、3年目に130台、4年目からは150台以上を売り上げ、熊本県下でトップセールスマンになった。

その秘訣は?と尋ねると、

「何もないです。言われた通りに営業所の隣から1軒ずつ営業に廻っただけです。それと、当時のトップセールスマンの方の話を聞いて、引き合いが入ったらすぐに車を持って行き、アフターサービスが大事と教わったので、お客様の車が調子悪いと聞くと、すぐに伺って対応していました。ただ、当初は、私が所有していた他社の車で営業していたのですが、お客様から自分が売る会社の車にした方がいいよ、って言われました、ハハハハ。」と、乃保留さん。

定年退職後、中古車販売会社を興し、成功した秘訣とは?

トップセールスマンを5〜6年続けたあと、営業所長になり、県下トップの売上を7〜8年続けて、惜しまれつつも55歳で定年退職した。今でも販社だけでなく、メーカーの役員とも交流があるという。

退職後は好きな焼物の「小石原焼」を習いに行くつもりだったが、周りから勧められて、中古車販売を始めた。仕入れた車は全部売れたそうだ。その秘訣も気になるが、

「それは自分が買いたいと思う車しか仕入れんことです。10年間、中古車販売をして、在庫を1台残らず売り切って、廃業しました。」と、乃保留さん。

菅 美佐子(かん みさこ)さんは35年間、看護士を勤めた。ご主人の乃保留さんが病気で入院していた時(事故で大ケガをする前)に知り合った。

「男の隠れ家」とは?

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老後をどう過ごすか考える年齢になって、乃保留さんが好きな写真と焼物(陶磁器)を展示して、お茶やお菓子をお出しするギャラリーをしようかと相談していたが、乃保留さんも美佐子さんは食べ歩きが趣味で、美佐子さんは料理を作るのも大好きだった。 「美佐子かーさんの手料理でもてなして、お客様に喜んでもらえたらいいね。」ということになり、中古車販売をしていた10年間は、毎週末、由布院や黒川温泉の他、話題になっている観光地を巡っては勉強し、準備をしてきたそうだ。

中古車販売の利益を全て注ぎ込んで、移築した古い米蔵を利用し、「森の駅どんぐり」を3年がかりで建てた。大工棟梁と一緒に設計から考えたこだわりの建物で、太い梁と柱が交錯して、木の温もりがたっぷりの趣のある空間に仕上がっている。地下には「男の隠れ家」と名付けられたワインセラーがある。地下を作ったらワインの貯蔵に丁度良い温度であることがわかり、レンガを積んでセラーにしたそうだ。

「森の駅」らしくするために、周囲の環境と雰囲気も整えた。雑木を千本以上植樹し、特に、駅名の「どんぐり」のなるカシやコナラ等の樹種を多く植えた。湧き水の水基を設置、川の水を引いて敷地内にせせらぎを造ったり、遊歩道まで整備した。ほとんど乃保留さんが自分で手がけたそうだ。

「森の駅どんぐり」をオープン

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そして、2003年、「森の駅どんぐり」をオープンした。宣伝も何もしなかったので、最初は近所の方々が、時々利用してくれる程度だったが、料理のおいしさと雰囲気の良さが気に入った阿蘇DCの坂元さんが、阿蘇に視察に来たお客様等を次々に連れてきて下さったり、徐々に、評判が口コミで広がり、取材が入ったり、マスコミでも紹介されるようになった。

その内に、食事に来られたお客様から、「泊まれたらいいのにね。」という声をよく聞くようになり、「宿泊もやりたいね。」と思うようになった。「森の駅どんぐり」を建ててくれた大工棟梁と敷地内にあった納屋を改造して、2008年、民宿「かわせみ」をオープンした。

「せっかく阿蘇まで来て下さったお客さんば、ええ加減なところへ連れて行かれんと。阿蘇全体の印象につながるけん。そこでしか味わえない料理、そこにしかない雰囲気、もてなす人の人柄はとても大事。」と、坂元さん。

何を隠そう、筆者も「森の駅どんぐり」と民宿「かわせみ」の魅力にハマってしまったファンの1人だ。料理がおいしいのはもちろん、それをさらに倍加する周囲の自然と環境、しつらえや雰囲気がとても心地いいのだ。1日1組というのも嬉しい。それに、何よりも乃保留おとーさんと美佐子おかーさんのお人柄。また会いに訪れたいと思ってしまう。

民宿「かわせみ」は吹き抜けの広い土間には水基があり、2階が客室になっている。1階も客室に改装する予定で、テイストが変わると困るのでいつも頼んでいる大工棟梁の手が空き次第になるそうだ。

切り出し溶岩の湯船を独り占め

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夕暮れ時、4〜5人は浸かれる切り出し溶岩の湯船を独り占めする。「んーっ、ゴクラク、ゴクラク。」、リモナイトという阿蘇特産の鉄分を多く含んだ天然ミネラル黄土から造られたセラミックタイルが敷き詰められ、遠赤外線効果が高いので、身体の芯から暖まるそうだ。昼食を利用したお客様も利用できるとのこと。

昼食も夕食もメニューはなく、おまかせだが、好みや要望にはできる限り応えるようにしておられる。自家農園の採れたて野菜を中心に、その時々の旬の食材を活かした美佐子おかーさんの手料理が並ぶ。新鮮な野菜の素材の味がして、しみじみとおいしい。湧き水を引いた池で育てているイワナの塩焼きは、助役の乃保留おとーさんの担当だ。ご飯ものにも工夫が凝らしてある。味噌や梅干し、漬け物も全て自家製だ。夕食には肉料理や刺身も付く。

「田んぼは2町歩あり、今は自分たちの手に負えないので作ってもらっていますが、野菜は、モミガラ等を使った有機堆肥作りからはじめ、もちろん、無農薬で育てています。お料理は出汁を天然のものでしっかり取って、薄味に仕上げるように心掛けています。山のものばかりでは料理の献立も限られ、今はこちらでも新鮮な魚も手に入るので、なじみの魚屋さんにいい魚が入ったら、海のものも使っています。」と、美佐子おかーさん。

助役の乃保留おとーさんにはご自慢のワインセラーから、その夜はスペイン・ラ・マンチャ産の赤ワイン、「ARTERO」をセレクトしてもらった。ラ・マンチャといえば、ドン・キホーテを連想するが、果実の風味が高く、ミディアムボディでどの料理にも合い、実においしかった。阿蘇の10万ドルぐらいの夜景を楽しみながらゆっくりと味わい、語らい、夜が更けて行った。

老後を楽しむために

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「私たちは老後の楽しみにとこの民宿やレストランを始めましたが、普段の生活でも、週1回、地区のバレーボール・サークルで運動したり、月2回、趣味の三線を習っています。また、今年は7月の豪雨災害で大きな被害を受けたのですが、1996年頃からこの近所の黒川の土手に2kmに渡ってコスモスを植え、毎週手入れをして、秋に花咲かせる活動を地区の仲間たちとしています。その会長も引き受けていたり、その他にも、阿蘇グリーンツーリズムの会長や阿蘇地域づくり協議会の役員もしていて、これでも結構忙しいんですよ。」

中学生の民泊も春に12〜3校、秋に5〜6校受入れしていて、今は宿泊と食事を合わせるとお客さまは月に20組ぐらいですが、私たち2人でもてなすには丁度いいくらいです。これ以上は多分、無理だと思います。疲れてしまうと、お客様に笑顔で接することができなくなってしまいます。自分たちが楽しんでやれないとお客様にも楽しんで頂けないと思います。」

「お客様には田舎の実家に帰って来たようにほっとして頂いて、この雄大な阿蘇の自然と空気の中で、ゆっくりと過ごして頂きながら、ここに暮らしている人々の生活、風土、歴史や文化を感じてもらえたら嬉しいです。」

成功の秘訣

「何も成功の秘訣はないと言いましたが、継続は力です。成功するまでやめなければ失敗はしません。」と、乃保留おとーさん。

「やりたくて始めたのですが、最初はどうなるかと不安でした。最近では、また来たよ、と繰り返し来て下さる方が増えて、嬉しいです。毎日が楽しくって、おとーさんと2人とも健康で、末永く続けていきたいと願っています。」と、美佐子おかーさん。

コレゾ賞の趣旨をご説明し、受賞のお願いをしたところ、

「有難うございます。いろいろな分野で活躍されている皆さんとお会いできるのが楽しみです。」と、ご承諾下さった。

COREZOコレゾ「元トップセールスマンとーさんと料理自慢かーさんがもてなす、1日1組の農家レストラン・宿」である。

COREZO(コレゾ)賞 事務局

初稿;2012.11.02.

最終取材;2012.09.

最終更新;2015.03.02.

文責;平野龍平

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