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COREZOコレゾ「そば打ち、民謡、かずら細工…、何でもござれ、今や、インバウンド観光客にも大人気の祖谷のスーパーかーちゃん」賞
都築 麗子(つづき れいこ)さん
プロフィール
徳島県三好市東祖谷出身、在住
奥祖谷めんめ塾 体験工房 主宰
ジャンル
食・料理
観光・地域振興
受賞者のご紹介
「奥祖谷めんめ塾」とは?
都築 麗子(つづき れいこ)さんは、徳島県三好市の奥祖谷と呼ばれる東祖谷で、「奥祖谷めんめ塾」を主宰しておられる。「めんめ」とは「銘々、面々、各々」の意。各々が持つ伝統芸能、工芸、食文化に関する、技術、経験、知恵等を後世や、観光客の皆さんに伝える活動だ。都築さんは古式そば打ち体験やかずら工芸等を教えたり、地域の平家伝説や歴史を伝える語り部としても活躍しておられる。
大盤振る舞いの「古式そば打ち体験」
古式そば打ち体験は、そばの実を挽く、振るう、こねる、打つ、切る、茹でる、食べるまでを約1時間で体験する。「食べる」には、「せっかくこんなとこまで来てもらうきん。」と、近くの山々で採って来た旬の山菜や薬草、きのこ料理まで付いて来る。自分で打ったお土産用のおそばも5~6人前付いて、体験料金は3000円。大盤振る舞いだ。体験する時間が無い方は、そばにおにぎりや山のおかず、山菜、薬草が付いて1000円で頂ける(予約制)。
当日は、予約して伺った。祖谷そばは通常、温かい汁そばなのだが、その日は暑かったので、ざるそばでお願いしたら、「なんちゃない。好きなように食べたらええんじゃ。」と、気軽に応じて下さった。あんまり旨いので3枚もご馳走になった。
「祖谷そば」とは?
世間一般の「もり」は、固めに茹でて、冷水でキュッと締めて、コシを残すようにするが、芯までしっかりと茹でて、茹がき立てのそばに熱いだし汁をかけて食べるのが「祖谷そば」だそうだ。
結構なそば好きなのだが、祖谷そばは、この10年間、色々と食べたが、どうも好きになれなかった。そば殻も一緒に挽いて、つなぎをほとんど使っていないらしく、短くて切れやすく、ボソボソして、よくある十割そばと比較しても、ツルツルと口に入る普通のそばのイメージからは程遠い。そばと沖縄そばのように全く別ものであれば、納得しやすいのだが、「そばがき」をそばのように切ったといえばイメージが伝わるだろうか、「祖谷そば」は、そんな感じなのである。
「そばは、挽き立て、打ち立て、茹がき立ての三立てがうまいんじゃ。茹で方は三返り言うてな、3回差し水するんじゃ。そうすると、そばの香りが立って、舌触りがよく、旨いんじゃ。この辺は水もええしな。」とのこと。
麗子ちゃんの打ったそばを食べて、初めて祖谷そばが美味しいと思った。温かい祖谷そばでも、三立ては旨い。というか、芯までしっかり茹でるので、三立てでないと旨くないのかもしれない。その後、都築さんのところ以外でも美味しい祖谷そばのお店を何軒か見つけた。祖谷そばに限らず、きちんと手を抜かずに作ったものは美味しいということだ。
周辺の宿泊施設では、昼頃には夕食配膳の準備が始まり、祖谷そばも茹でそばを器に盛りつけて用意を済ませ、給仕時にポットの汁をかけて提供していると聞いたことがある。それでは旨いはずがない。
「峡谷の湯宿 大歩危峡まんなか」の大平修司さんは、茹でたての祖谷そばを提供するのは難しいので、メニューから外し、大歩危祖谷地方で生まれた郷土料理である「そばすべし」をCOREZO(コレゾ)の調味料で蕎麦の風味をより生かした優しい味に仕上げて提供しておられる。
それはそれで一つの見識であり、むしろ良心的だと思うし、その「そばすべし」が、某大手ネット宿泊予約サイト主催した「朝ごはんフェスティバル2014」で、麺・スープ部門全国1位、四国エリア1位、そして得票数も1561票で全国3位となったという。
また、そばを米に見立てて炊いた「そば米雑炊」もこの地の名物で、元々、平家落人が山深いこの地に身を隠し、米の代用食としてそばを栽培して食べ始めたと伝えられている。この辺の皆さんは自分の畑でそばを栽培していて、祝い事には家庭で打ったそばを食べるそうだが、自分家で作る時は誰も手抜きをしない。この辺りのご馳走は、昔から猪や野鳥で、正月にはそれらで取った出汁で食べるお家もあり、美味しいと聞いたことがあるが、確かにそれは旨そうだ。
山のおいしいもんはいつもサルと取り合い⁉︎
話は戻るが、もちろん、おにぎりもおかずも美味しかったが、その日、麗子さんが採って来たという天然舞茸の天ぷらは絶品だった。デザートのアケビは小学生の頃食した以来の懐かしい甘さが口中に広がった。
「このアケビきれいじゃろ?中の実を全部口に入れて、タネだけぺっぺっと出すんじゃ。この辺は山と一緒に暮らしとるじゃろ?いつ、どんなもんが、山のどのへんにあるか大体わかっとるが、サルもよう知っとって、山のおいしいもんはいつもサルと取り合いじゃ。お金はなんちゃ掛かっとらんが、手間ひまは掛かっとるきんな。来てくれたお客さんが喜んでくれたらええんじゃ。また来てくれたら嬉しいきんな。」
麗子さんはとっても身軽で、お客さんの予約が入ると、ひょい、ひょいと山に入って、山の幸を採ってきて、それらが美味しいおかずになって並んでいるのである。都会で生まれ育った人間からみると山の暮らしは不便で、不自由に思えるが、豊かな山と自然の恵みがたくさんあることがわかると、とても羨ましい。
そばの工場もお持ちで、飲食店や量販店にも卸しておられる。それも全量手打ちしているというから驚きだ。「毎朝、3時に起きて、スーパーに出す分、打つんじゃ。」、「何十玉じゃないでしょ?」、「なんちゃない、パタパタと打って、トントントンと切りゃ2分で出来るきん。」と、事も無げだ。この辺りは正月にそばを食べる習慣があるそうで、年末にはちょっと信じられない数を打つそうだ。
打てるんは、そばだけではないんで
「打てるんは、そばだけではないんで、パソコンも打てるきんな。」と、ネット通販はするわ、ブログはするわ、三味線、お琴、踊りに、絵画、平家伝説ガイド、体験民泊・・・と何でもござれ。民謡に至ってはトロフィーがずらーりと並んでいる。何ともスゴいスーパーかーちゃんだ。
この後は、編集なしで、聞いたままを聞くように読んでもらった方が伝わるだろう。
ー この地域の大実業家ですね、大儲けでしょ?
「まあ、そんな大儲けするほどはないきんが、儲かってないこともないわな。」
「後継ぎ息子は大阪のうどん◯◯で有名な◯々◯に修行に出したら、取られてしもた。今度、全店舗のマネージャーやるんじゃと。」
「この辺は水も空気も美味しいし、人情味もある。近所に何ぞあったら、みんなで助け合うきんな。母親からは、うちんく(自分のところ)で7割方できたら、困ってる人のところに行って手伝ってやれという教育を受けて育ったんじゃ。生き甲斐はお客さんが喜んでくれることじゃきんな。身体は疲れんのじゃ。楽しいて仕方ないきん。」
「体験民泊も受け入れとるきんが、子供たちが1泊しただけで、高校生でも泣きついて帰りとうない言うきんな、学校辞めて、ここでやれ言うたらな、やっぱり帰りよる。ハハハハ。」
都会では問題児でもここに来れば…
「問題児じゃけど、受け入れられるかって聞くんで、何が問題じゃと尋ねると、たばこ吸うじゃと、そんなん何が問題じゃ?どんどん送れと言うたら、のそのそやって来て、オレ、タバコ吸うぞって言うから、吸うなとも言わんじゃったが、農作業体験する畑で、タバコに火を付けよった。お前、ウチの畑で、何しとるんぞ!と、怒って、手で払いのけたら、慌てて火を消しよった。」
「へっぴり腰で、鍬持って、フラフラしとるから、こうやって腰入れてやらんかと教えたら、なかなか上手にできるようになりよった。ちぃっと休んで、ジュースでも飲め言うても、休まんとな、その畑、全部耕しよった。ヤル気になったらできるんじゃ。それで、よっぽどくたびれたんじゃろな。夜ごはん食べたら、すぐ寝てしまいよった。」
「帰る日に、先生からお礼状書けと言われても書かんのじゃ。何で書かんのじゃ?と聞いたら、オレ、不良やのにそんなん書いたら格好つかんと言うんじゃ。ほな、やめとけ言うたのに、なんでか書きよった絵手紙がそれじゃ。(壁に貼った絵手紙を指差して)なかなか上手いじゃろ?根はええ子なんじゃ。周りが煙たがって腹の内を聞いてやらんからいかんのじゃ。同級生の子らがあいつの笑顔初めて見た言うとったきんな。ハハハハ。」
どこかの誰かに聞かせたい話である。給料もらって登校拒否している?「教師」の受け入れも大歓迎だそうである。
祖谷そばじゃから、ほんとは祖谷で採れたそばで打たんといかん
「祖谷そばじゃから、ほんとは祖谷で採れたそばで打たんといかんのじゃが、今では、この辺の生産農家も生産量も減って、この店で使うぐらいしか手に入らんのじゃ。工場で作るスーパーなんかに卸しとるそばは、北海道なんかの国産を使わんと間に合わんのじゃ。」
「ウチもちぃとは作っとるきんが、今年はそばの実入りがええでな。いつもはお盆前に蒔くきんが、今年は天候がおかしいきん、ちょっと蒔く時期をずらしたのが良かったんじゃな。そばは放っといても育つんじゃが、蒔いて75日経ったら、大体、収穫時期じゃ。1株のうち2~3粒黒うなったら刈って、ハデに掛けて、2~3週間干したら、ムシロの上でカラ竿で叩くんじゃ。今年の新そばは11月の1週目くらいからじゃろな。年末一杯までは新そばじゃ。12月に来れば、ウチの新そばを食べさせてやるぞ。」
という話を伺ったのが、2011年の秋口。ならば、12月に約束通りお伺いしなければなるまい。
絶品!!麗子ちゃんの新そば
てなことで、待望の新そばをご馳走になった。いやーっ、新そば特有の香りが立って、文句なし、断然、「うんまい!」のである。ざる3枚にかけ1杯頂いた。
その日もほどいも(じゃがいもの小さいの)の蒸したのやこんにゃくの煮たの、石豆腐のステーキ、きのこの天ぷら等々、たくさん副菜が付いていたが、完食にてご馳走さま。
でも、またすぐに食べたくなるのである。大歩危・祖谷に行く度に伺って、この半年の間に6回は通っただろうか。スーパーかーちゃんはいつも忙しくて、事前に電話で確認しておかないと、おいしいそばとかーちゃんの笑顔に巡り会えない。
今回も伺う前に連絡をしておいたのだが、電話に出たのが、スーパーかーちゃんのご主人こと、スーピーとーちゃんの方だった。一抹の不安があって、当日、伺う前にも電話を入れたら、また、とーちゃんの方が出られて、「あれ?」という反応に、「ん?」と思いながら、1時間後、到着すると、
「ごめんよ。とーちゃんが、『かーちゃん、予約聞いとるな?』言うんで、『とーちゃん、忘れとったんじゃろ?』って言うたら、気まずそうに出掛けて行ったわ。今度から私のケータイに電話してな。今日はあり合わせでゴメンやで。その代わり、そばはいくらでも打つきんな。」と、麗子さん。
有り合わせで、こんなに用意できるの?というぐらいご用意下さっていた。葉わさびの話をしていると、「ちょっと時期的には遅いきんが、この辺に生えてるの採ってくるから、ちょっと待ってて。」と言って、即席の葉わさび醤油漬けを作って下さった。「もう茎が堅くなってて、あまり美味しくないきんが。」とおっしゃったが、十分、美味しかった。
コレゾ財団・賞の趣旨をご説明して、受賞のお願いをしたところ、
「おもしろいこと考えるきんなぁ、私にもくれるきんがか?権威なし、名誉なし、賞金なし?賞金なんかいらんきん。それよりなんぼか出さんでええがか?えっ?食材も料理も持ち寄り?表彰式は12月か?よっしゃ、ウチの新そば持って行って、打ちゃろ。えっ?唄もか?唄とてよかったら唄うきん。」と、いうことで表彰式にはスーパーかーちゃん都築さんの3立て新そばと民謡もゲットである。有難うございます。
あーっ、また、麗子ちゃんの新そばが食べたくなったゾ。
COREZOコレゾ「そば打ち、民謡、かずら細工…、何でもござれ、今や、インバウンド観光客にも大人気の祖谷のスーパーかーちゃん」である。
後日談1.COREZO(コレゾ)賞表彰式懇親会で美声を披露
後日談2.COREZO(コレゾ)賞表彰式懇親会で、麗子ちゃんの新そばに舌鼓
そばは、都築さんの新そば、茹でたて、かえしは、ヤマロク醤油の鶴醤と角谷文次郎商店の有機三河みりん、あっという間になくなりました。
後日談3.COREZO(コレゾ)賞表彰状
COREZO(コレゾ)賞 事務局
初稿;2012.11.02.
最終取材;2013.12.
最終更新;2015.03.03.
文責; 平野龍平
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