東條 邦昭(とうじょう くにあき)さん/かんずり・新潟県妙高市の伝統食

COREZOコレゾ「苦労の末、消滅寸前だった郷土の手作り香辛料を商品化して、全国展開し、世界にも羽ばたく、タネから唐辛子を育てるかんずりづくり」賞

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東條 邦昭(とうじょう くにあき)さん

プロフィール

新潟県妙高市

有限会社かんずり 代表取締役

ジャンル

地域食文化

原材料から生産する食品加工販売

地域振興

受賞者のご紹介

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東條 邦昭(とうじょう くにあき)さんは、新潟県妙高市の有限会社かんずりの代表取締役である。

2014年7月、東洋大学講師の道畑美希さんのご紹介で、有限会社かんずりの本社を訪ね、お話を伺うことが出来た。

かんずりとは?

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ー かんずりは関西のスーパーでも販売されていて、冬場の鍋料理には持って来いですし、ちょっとクセになる辛うまさですね、マスコミで評判になって、一時、品薄だったこともありました。

「有難うございます。3年間の熟成を要しますので、すぐに増産という訳にもいかず、ご迷惑をおかけしたこともありました。」

ー 新潟市にお住まいの方たちと市内で飲んでいて、かんずりの話をすると、お店の方も含めて、皆さんご存じなかったのですが、こちらの地域だけの香辛料なのですか?

「新潟県でもこの辺りだけなんですよ。もう既に、全国展開はしているのですが、未だ、地元以外の新潟での知名度は低いかもしれませんね。」

ー 新潟は南北に広いですものね。てっきり、大阪のたこ焼きみたいに、新潟全県民が、心から愛するソウル・フード、ソウル・香辛料かと思っていました。

「かんずりは、元々、寒づくり(寒造里)から来た名称ではないかといわれています。実は、戦国時代からあったようで、弊社商品のラベルにも上杉謙信の戦の神様、『毘沙門天』のシンボルマークである『毘』の文字が書いてあるように、上杉軍は、寒中の戦の際に、これを竹筒に詰めて携行し、舐めて体を温めたり、手足に塗って凍傷予防に用いたそうです。」

「冬の保存食、夏のスタミナ源として、上越、特にこちらの新井地方の各家庭で作られていた調味料で、手前みそと同じように手前かんずりとこの辺では言っていたのですが、せいぜい、自家消費するもので、販売目的でつくっていた訳ではありませんでした。」

「戦後、甘いものが重宝されて、だんだん、つくられなくなり、このままでは消滅してしまうと、危機感を持った私の父が中心になって、地元の名物として売り出そうと、市の商工産業課あたりとタイアップして商品化を始めたのが1960年頃からで、法人化したのが1966年です。」

「当初は全く売れなくて、山の木を売ったお金をつぎ込んだりして大変でしたが、10〜20年掛かって、食生活が甘口から辛口に変化を始めたことや、辛口ブームの時流に乗って、漸く、かんずりのファンが少しづつ増えてきて、今日があります。」

かんずりは登録商標

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ー こちらのかんずりは、東條家の味がベースになっているのですか?

「そうですね、他の手前かんずりには、味噌を入れたり、酒粕を入れたりしたのもありましたが、商品化する際に、我が家の味をベースに、何年も試行錯誤を重ね、地元の味噌や酒に使用されている糀を使ったら、これだという、一番おいしいレシピが完成したので、商標登録をして、製法特許も取得しました。」

ー 商標を取られているということは、かんずりは、商品名で普通名詞ではないのですね?有限会社かんずりという社名ですし、他のメーカーではつくれないということですか?

「似たモノをつくっているところはありますが、商品として売るため、後で何か問題が生じないように商標登録しましたので、当社でしか製造も販売もできません。当初はそんなもの売れないのにと笑われましたが、今となっては取得しておいてよかったと思います。」

「海外進出にも備えて、既に、米国、中国、韓国、台湾、シンガポール、EUでも商標登録を済ませています。父には、地元の調味料を後世に残したいという並々ならぬ思いがあって、私はその思いを継いでいる訳ですが、独自性、個性があって、時間は掛かりましたが、苦労をして認められるようになったというウラ話も知って頂ければうれしいですね。」

かんずりの原材料

ー かんずりの原材料を教えて頂けますか?

「かんずりは、地元産の唐辛子、海の塩、柚子、糀が主な原材料ですが、全部、自前で調達しようということでやっています。今では、日本で流通している唐辛子は98%が輸入品で、以前、商社が持って来たのを見たのですが、とても危なくて使えませんでした。当初、規模も小さかったものですから、自社栽培と足りない分は地元新井の契約農家さんにお願いして始めました。」

自社で無農薬栽培するこだわりの唐辛子とは?

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「かんずりは香辛料ですから、大ヒットして爆発的に売れるという商品ではありませんが、このまま浸透していくと、原料が足りなくなる心配もあります。そこで、ここから15分ぐらいの標高300mの山中に限界集落になりそうな部落があるのですが、そちらの田んぼや畑を自社で購入したり、借りたりして、交配して改良して来たかんずり用の無農薬唐辛子を数万本単位で育てています。居住スペースのある倉庫を建てて、専従者を雇い、毎年、唐辛子出来のいい実を残して採種し、翌年の苗をつくるという、自然に叶ったサイクルで育てています。将来、そこを『かんずりの里』にしたいと考えています。」

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ー 唐辛子も地元の在来種、無農薬にこだわっておられるのですね、山の中だと、獣害はありませんか?

「元々、地元の手作り香辛料だった訳ですから、地元産の原料を使うのは必須です。この辺の山にはシカは見かけませんが、イノシシやタヌキも食べて辛くて懲りたのか、食害はあまりありません。野ネズミは唐辛子を食べるようですね。」

「唐辛子とネズミは子宝に恵まれて縁起がいいっていうので、よく引き合いに出されます。ネズミはねずみ算式に増え、唐辛子も一本の実の中に、1〜200個の種が成って、ねずみと唐辛子は、子だくさんということで、おめでたいことの例えに使われますし、また、唐辛子は、魔除けに使われたり、幸運を呼び込む縁起のいいものとされています。」

「唐辛子の産地としては、日本で唯一、戦前に輸出までしていた栃木県の大田原市が有名ですが、そこでつくられているのは『栃木三鷹』といって、上向きに実がなる、ごくオーソドックスな鷹の爪のような小さなサイズの唐辛子です。」

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「通常の唐辛子はせいぜい10cmぐらいだと思いますが、かんずり用の唐辛子は、下向きに実がなる『S30』という品種で、大きければいいものではありませんが、大きいものでは、約20cmあって、実厚で塩漬けしても歩留まりがよく、辛みも程よく、味もいい唐辛子です。」

かんずりの製法

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ー かんずりはどのようにつくるのですか?

「製法特許のこともあって、細かいことは云えませんが、ウチの特徴は、糀を使って発酵させているのと、もうひとつは、『雪さらし』です。」

「秋に収穫して塩漬けした唐辛子を、1月20〜21日の大寒入りの頃から雪にさらします。唐辛子の強いアクを雪が吸い取り、塩抜き効果と甘味を増す効果があるようです。3〜4日さらして回収する作業を、春まで14〜5回やるのですが、これが大変な作業で、時には、雪でサンドイッチ状態になった唐辛子を1m近く掘り起こすこともあります。」

「雪さらしは、雪との共生とかんずり(寒造里)の『寒』にもマッチしていることから、冬の風物詩にもなっていて、マスコミの取材やアマチュア写真家の方々がたくさんお見えになります。」

「雪さらし後、井戸水で洗浄した唐辛子・柚子・米糀・塩等を混ぜ合わせ、大樽で3年間寝かせます。私も詳しいことはわかりませんが、唐辛子のタンパク質やでんぷん質を糀菌が食べて発酵が始まるようです。」

「毎年、春先の4〜5月に『かんずり』の樽を引き出し、一本、一本、大きな櫂で手返しをします。気温が上昇する8月前にすることにより、さらに、醗酵を促すとともに場所等の移動により、より均一なものにつくり上げます。」

「熟成3年目の初雪が降る頃、『雪さらし』の行程に入ります。樽を外に運び出し、冬場に外に置くことにより、 この上に雪が積もり、0℃の自然冷蔵庫となるわけです。唐辛子の味を引き締め、より一層マイルドな味に仕上がり、ようやく、商品になります。」

3年間、自然発酵させるのが一番である理由

「今年のは少し味が違うよね、酸味が強いとか、辛味が強いよね、とおっしゃって下さる愛好家の方もいらっしゃって、今年といっても、3年前に仕込んだものですから、その年の天候が良すぎると唐辛子の辛みが増したり、雨が多いと少し酸味が出るとか、データを取っているので、ある程度、予測はできます。糀を増したり、発酵の進み具合の異なる樽のかんずりをブレンドしたり、ある程度の調整をしています。」

「私も若い頃は、暑い、寒い、の温度変化を人工的に調整して、3回繰り返せば、3年熟成と同じ環境になって、熟成期間を短縮できるのではないか、とやってみたのですが、結局、この味は、実際に3年という時間があって、はじめて醸し出されることがよくわかりました。1年目は、発酵して膨張し、2年目はさらに膨張しますが、3年目は、醗酵が進んで熟成し、もう膨張しないんです。3年間、自然にまかせて発酵させるのが一番だということです。」

地元の方々には量り売り

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ー かんずりが商品化されて、ますます、地元の家庭では作られなくなったのでは?

「元々、父が始めた頃には、つくられなくなっていましたから、かんずりが全国的に知られるようになって、じいちゃん、ばあちゃんがつくっていたからと再開するご家庭もありますが、ある程度の量を仕込まないとおいしく仕上がらないし、3年も熟成に待てない方々には、6年熟成のもありますので、地元の方々には、量り売りでお分けしています。」

「また、火を通さずに糀が生きている生かんずりは、さらにおいしいのですが、冷蔵管理が必要で、我が社と許可をした販売店でしか手に入りません。かんずりは、賞味期限を設定していますが、唐辛子と塩が入っていますから、元来、それ自体が、天然の防腐剤の役目をするので、実際には、1年以上、長持ちします。」

米国留学で感じた予感とは?

ー お父様を継がれた経緯は?

「兄弟が皆んな外に出てしまっていたので、末息子の私が、大学受験を諦め、家に残って手伝うことになりましたが、あまりに売れないので、嫌気がさして、一度、家出しました。母に泣かれて戻った頃に、海外留学するチャンスがあり、かんずりを持って渡米しました。」

「当時(昭和40年代)、日本の食生活とは随分違っていて、まだまだ庶民には手の届かなかったステーキを誰もが日常的にガツガツ食べているのに驚きました。レストランには、何種類かのスパイスが置いてありましたが、持参したかんずりをつけてステーキを食べてみると、どのスパイスより断然おいしかったのです。我慢してやっていれば、その内、日本も欧米化して、スパイスとして重宝されるようになるのではないか、という予感がしました。」

「商売の見通しがある程度ついてきて、4年前、少々、投資をして、隣にあった社屋をこちらに移しました。それがいいPRにもなったのか、新たな商売が増えたり、マスコミさんも取り上げてくれるようになりました。私は、景観が統一された小布施の町並みが好きで、何度も訪れています。それもあって、こういう数寄屋風というか、古民家風の社屋にしました。」

オンリーワンの自覚とプライド

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ー 全国展開されていて、一番売れるのはどこですか?海外など、今後の展開は?

「やはり、東京を筆頭に関東ですね。当初、刺激物が苦手という関西では売れなかったのですが、最近、徐々に売れ始めています。海外は、ニューヨーク、EU、韓国、台湾等に出荷を始めていますが、まだ、全体の数%程度で、これからの市場ですね。大手流通から、月何トン単位でとか、商標を使わせてくれだとかの話も舞い込んでくるのですが、今も、家内工業レベルなので、量産しようとは思っていません。」

「私は知らなかったのですが、第一次産業×第二次産業×第三次産業を掛け合わせて六次産業化と言っているようですね。私どもは、タネから苗をつくって、育てて収穫し、加工して商品にし、流通に乗せて販売するところまでやっていますので、当初から、六次産業でもあった訳です。」

「かんずりは日本では珍しい糀を使ったスパイスですから、私の会社のモットーは、オンリーワンだという自覚とプライドを持って、欲張らないで、1本のかんずりをみんなで売り込もう、という心です。それから、先程もお話ししたように、今後は、かんずりだけでなく、かんずりの発祥の地である、ここ妙高・新井を『かんずりの里』としても全国に知って頂けるように取り組んで行くつもりです。」

『独断と偏見で勝手に人を表彰し表彰状を乱発する会』とは?

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コレゾ財団・賞の趣旨をご説明し、受賞のお願いをしたところ、

「その前に、私たちも、昔から、『独断と偏見で勝手に人を表彰し表彰状を乱発する会』というのをやっていて、今日は、会長が来れないので、会長代理の私が、私の受賞より、一歩先手を打って、あなたを逆表彰します。」と、表彰状を用意して、表彰して下さった。

「ホンモノの食を残そうという、素材がはっきりした、メイドインジャパン、メイドイン地元のメーカーだけが集まる会に声が掛かって行ったら、由布院玉の湯の桑野さんも来られていて、ウチにも柚子こしょうをつくってもらっています。」とのことだった。なんと、世間は狭いのである。

原材料を自前で育てて使う意義

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その後、自社の唐辛子畑をご案内頂いた。一面の唐辛子畑には、確かに獅子唐より大きな唐辛子がたくさん実をつけていたが、毎年8月中旬ごろから収穫するそうだ。一帯は、過疎化が進む集落だということだが、東條さんが、この畑を見せたくなるのはとてもよくわかる。

とても自然が豊かで、こんなに気持ちのいい高原で、手塩を掛けて、もちろん、無農薬で育てられた唐辛子からつくられたかんずりが、おいしくないはずがない(二重否定=肯定)。原材料を自前で育てて使うというのは、経済と効率を最優先する現代社会の流れに逆行しても、最も、安心、確実で、ある意味、王道であり、贅沢の極みでもある。

COREZOコレゾ「苦労の末、消滅寸前だった郷土の手作り香辛料を商品化して、全国展開し、世界にも羽ばたく、タネから唐辛子を育てるかんずりづくり」である。

COREZO(コレゾ)賞 事務局

初稿:2014.09.04.

最終取材:2014.07.

編集更新:2015.03.20.

 文責:平野 龍平

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