「本みりん」はどっち?「ホンモノのみりん」と「みりんのようなもの」の見分け方

ホンモノのみりんとは?

ホンモノのみりんとの出会い

もう何年も前のこと、葦の堆肥を使った循環型農法による古代米作りにより、日本人で初めてスローフード大賞とアジア初の審査員特別賞を受賞した武富 勝彦(たけとみ かつひこ)さんがこだわりの国産蕎麦粉で打って下さったもり蕎麦をご馳走になった。もちろん蕎麦はおいしかったのだが、かえしも抜群においしかったので作り方を尋ねた。

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みりんが決め手だ、とおっしゃって見せて下さったのが、角谷文治郎商店の「有機三州味醂」だった。

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そばつゆの濃さを調整するだしは別に用意してあって、かえしはそのみりんと武富さんが仕込んだ醤油だけでつくった、とおっしゃるのだが、だしが入っているとしか思えないほどうまかったのである。

家に戻って、早速、取り寄せ、家にあった本みりんと味を比べると、甘味の質が全く異なる別物のおいしさなのである。自分でもかえしをつくってみたら、もう市販のそばつゆやめんつゆには戻れなくなってしまった。

かえしの応用でだし醤油やポン酢も自分でつくるようになった。市販の結構高いポン酢を使っていたのだが、どんな醤油やみりんを使っているかわからないし、裏を見ると、結構、あんなものやこんなもの、いろいろ入っているのである。

柑橘類を搾るのが手間だが、醤油とみりんを選んで仕込んだ方が間違いがなく、自分がおいしいと思う味にできるし、結局、安上がりなのである。

本みりん=ホンモノのみりんというワケではない⁉︎

本みりんは、みりん風調味料と区別するために、メーカーが使い始めた言葉だそうだ。

ホンモノのみりんの見分け方

見分け方と云うより、味分け方なのだが、みりんは甘口の高級酒だったので、ホンモノのみりんは、お酒としてもおいしく飲める。

もち米、米こうじ、本格米焼酎だけでつくる本来の「みりん」と、その他の酒税法で定められたいろんなものを使った「本みりん」やみりんの風味を真似て人工的に調合してつくった「みりん風調味料」を一口含むだけで、違いがおわかり頂けると思う。そういうモノを料理に使っているのである。

この違いがわからなければ、ご自身の舌を疑ってみられた方がいい。砂糖をはじめとする直接糖や糖度の高い甘味料を摂り続けていると、本来、素材そのものが持つ微妙な甘さやその違いを感じ取れなくなることが懸念されているそうだ。

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みりんで仕込んだ梅酒も実においしい

その理由は、

砂糖には蔗糖の1種類の甘みしかないが、もち米を丁寧に醸造して造ったみりんには、こうじの力で、ブドウ糖の他、希少なコージビオース、ニゲロース、イソマルトース等の二糖類、三糖類、オリゴ糖他、何種類もの糖類がつくり出されていて、砂糖にはない上品でまろやかな深い甘さが特長で、しかも、甘さが舌に残らないからだ。

価格差以上の価値とおいしさ

伝統的製法でつくられたホンモノのみりんは、本みりんやみりん風調味料と比べると、2〜5倍の価格だ。しかし、製品になるまでの時間だけでも工業生産される本みりんの8〜12倍掛かっていて、調合するだけで出来上がりのみりん風調味料とは、比較のしようもないが、その原材料費、手間、おいしさを含めて考えれば、とても良心的な価格だと思う。

料理に使うのはモッタイナイ?そういう方は、仕上がる料理もそういうのがお好みなのだろうから、これまで通り、いろんなものが入っていて飲めないシロモノを選べば済むことだ。

伝統的製法と工業的製法のみりんの違い

伝統的製法では、米1.5升で、みりん1升

「伝統的製法では、米1升、みりん1升と云われていますが、実際には、焼酎にも米を使いますので、米1.5升ぐらい使って、みりん1升とみりん粕ができます。みりん粕はそのままでもおいしく召し上がれますが、お菓子や守口漬等の漬け物にも使われて人気があります。」(角谷利夫社長談)

工業的製法では、米1升から5〜6升の本みりん

「これに対して、戦後から行われるようになった工業的製法では、米1升から5〜6升の本みりんをつくるようです。足らない分は、といっても、米の2.5倍量ぐらいになりますが、ブドウ糖で増量します。使うブドウ糖というのは、水あめです。コーンスターチ等のデンプンにシュウ酸を加え、加水分解してつくります。」(角谷利夫社長談)

どうして、これが「みりん」または、「本みりん」と名乗っているかというと、次の規格があるからだ。

みりんの規格

みりんは、酒税が伴うので、農水省ではなく、財務省の管轄のようである。

みりんとは、次に掲げる酒類でアルコール分が15度未満のもの(エキス分が40度以上のものその他酒税法施行令第5条第1項に規定するものに限る。)をいう

  1. 米及び米こうじにしようちゆう又はアルコールを加えて、こしたもの
  2. 米、米こうじ及びしようちゆう、アルコール又はみりんにその他水のほか、①とうもろこし、ぶどう糖、水あめ、たんぱく質物分解物、有機酸、アミノ酸塩、清酒かす又はみりんかす又は②米又は米こうじに清酒、しようちゆう、みりん若しくはアルコールを加え、又はこれにさらに水を加えて、すりつぶしたものを加えて、こしたもの
  3.  みりんにしようちゆう又はアルコールを加えたもの
  4. みりんにみりんかすを加えて、こしたもの

以上のように酒税法に規定されている。

これを見る限り、もち米でなくても、米ならなんでもよく、1粒でも原料として使っていれば、みりんと称してよいと解釈できるし、焼酎も使わなくてOKだし、結構、あんなもんやこんなもん、いろんなもんを入れてつくってもOKと言う訳だ。

「みりん」と「みりんのようなもの」の種類

伝統製法でつくるホンモノのみりん

原材料

もち米、米、米こうじ、米焼酎(乙類)のみ

製法

本格仕込み、もろみ90日、熟成300日以上、出荷まで2年以上

特徴

アルコール分約14%未満 塩分0%

本みりん

原材料

もち米・米こうじ、醸造アルコール、糖類など酒税法で定められた原料

製法

糖化熟成、もろみ30日前後、熟成60日前後、出荷まで2〜3ヶ月程度

特徴

アルコール分約14% 塩分0%

みりん風調味料

JAS規格が見当たらない

原材料

糖類・米、米こうじ・酸味料、調味料など

製法

調合など

特徴

アルコール分1%未満(酒税がかからない)、塩分1%未満

発酵調味料(みりんタイプ調味料、醸造調味料)

JAS規格が見当たらない

原材料

米・米こうじ、糖類・アルコール、食塩、酸味料、調味料など

製法

塩水中でアルコール発酵、調合など

特徴

アルコール分5-14%、塩分2〜3%(塩を加えて飲めないようにしているため、酒税がかからない)

まとめ

角谷文治郎商店さんのみりんに出会って、今まで使っていたみりん?は何だったんだ?というぐらいの衝撃を受けた。

是非、角谷 利夫 (すみや としお)さんのみりんづくりにかけておられる熱い思いをお読み頂き、福々しいご尊顔をご覧頂きたい。この方がおつくりになるみりんがおいしくないはずがない。

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そんな角谷さんがつくるみりんと本みりんが同じ規格で一括りにされていることが不可解に思えてくるはずだ。

しょうゆの格付け、規格と同じようなことが云えると思う。再度ご確認頂きたい。

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和食の基礎調味料を見直すことで見えてくるもの

いいみりんと醤油でかえしをつくれば、いい蕎麦を食べたくなるし、逆にいい蕎麦が手に入ればいいかえしやだし、ホンモノのワサビで食べたくなるはずだ。

いい醤油が手に入れば、ちょっと奮発して天然鯛のお刺身を食べたくなったり、逆に、いい天然鯛の刺身が手に入れば、いい醤油で食べたくなるかもしれない。また、魚のおいしいお店でマズい醤油が置かれていたらガッカリしたり…。

天然鯛と養殖鯛の違いは?と気になられたら、ご自身でお調べになったり、魚屋さんに話を聞いて、食べ比べてみて頂きたい。そういうことが、味覚や食文化を育てたり、お子さんの食育にもつながるのではないだろうか?

おいしい調味料に出会うと、それに見合う食材も気にかけるようになり、ホンモノの調味料に使われている原材料や製法にも興味が湧き、水や塩、産地や生産者、農薬や肥料も含めた耕作・生産方法、製造工程や道具にも関心を持つようになる。

そうして、私たちも、農産物の種子の問題や醸造用木桶をつくれる桶屋さんが日本に1社しか残っていないことに気付いたのである。

延いては、原料作物の栽培・耕作方法や種子の問題、「食」全体の問題へと拡がり、さらに知識や理解が深まると、「住」、「衣」、「生活」、「暮らし方」、「働き方」、「生き方」、「文化」、「地域」、「社会」、「国家」、「地球全体」等々を見直すことにも繋がっていくのではないかと思う。

調味料に投資したところで、高が知れている。まずは、和食の基礎調味料を見直すところから始めては如何だろうか?

https://corezoprize.com/japanese-seasoning

国の法律や規格は誰のためにある?

残念ながら、このみりんの規格にしろ、しょうゆの規格にしろ、よくよく調べて、考えれば考えるほど、消費者のためにあると思い込んでいた国の法律や規格は一体誰のためにあるのか?という疑問を持つ。

2010年度の生産量は、みりんが206,160kl、みりん風調味料が51,500kl,発酵調味料が135,500klだそうであるが、伝統製法のみりんは大量生産できないので、シェアはごく僅かであろう。

しょうゆやみりんの業界も大量生産をして、販売シェアを握るところが力を持ち、そちらの思惑が規格にも反映されているのは想像に難くなく、軒を貸してもいないのに母屋を取られてしまった状態なのだろう。

有機J◯S認定にしても、その生産者や認定している方に直接ハナシを伺うと、誰かの都合でつくられたルールには、いろいろとヌケ道があるようで、そういう認定制度は、悪意のある人々を規制するのには有効であるのはわかるが、費用も掛かり、少数の良心的な生産者を守るものではなさそうだ。結局は、自分で調べて、考え、自身のモノサシを持って、信頼できる生産者を自己責任で見つけるしかないということだ。

それが、「経済」と「効率」を最優先する今の社会の仕組みなのかもしれない。だから勝手にやっているのであるが…。

一消費者、一生活者として、すべきこと

1円でも安ければ、「◯◯のようなもの」を選ぶ消費者が圧倒的多数であろうし、そのことを否定するつもりもない。

しかし、スーパーやコンビニの売り場には、「経済」と「効率」を最優先するため、売れ筋とプライベートブランドを中心に売りたい儲かる商品しか置かないので、いつの間にか、日本全国、どこに行っても、同じ商品しか並んでいなかったりする。

それに気付いた時には、もう既に消費者は選択の自由と権利を失っているのである。

また、真っ当で当たり前なことを当たり前に続けておられるホンモノが消滅してしまうと、それを真似ていろんなもので風味付けや色付けをした「◯◯のようなもの」が、「◯◯」そのものになってしまい、ホンモノを全く知らない子供たちを生む危険性がある。

信頼できる人がつくるホンモノのおいしさや価値をわかる消費者が、それを次の世代に残していける相応な価格で買い支え、不要なマガイモノを不買することは、誰にでもすぐにできることだ。そして、それは、買い手側から売り手側の意識を変え、私たちの選択の自由や権利と「大切なもの・こと」を守り、今の世の中を少しでも善くしていく行動の第一歩であると思う。

さあ、ホンモノがわかる皆さんから行動を始めて頂きたい。

 

COREZO(コレゾ)賞 事務局

初稿;2015.04.14.

最終更新;2015.04.14.

文責;平野 龍平

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