野菜の品種改良の現状
現在、流通している野菜の主流であるF1種について書いてきたが、私たちが食べているのは、どんな野菜なのだろう?
ナス科
果菜類のナス科のピーマンでも雄性不捻がみつかり、シシトウでは、『雄性不捻』を売りにした品種が販売されていて、生産日本一の高知県南国市では、99.9%がその品種だそうだ。キャベツ、青首大根、玉ねぎ、人参も全て雄性不捻のF1種になってしまっていて、買ってきたタマネギやニンジンを1株か2株、庭にでも植えておくと、冬を越して暖かくなれば花は咲くが、雄しべがないから花粉は出ないという。私たちはそういう野菜を食べているというのだ。
キク科とマメ科
キク科とマメ科の植物は、強力な自家受粉性があり、また、非常に手間がかかるので、今までF1種をつくるのが難しかった。キク科の花は1つの花のように見えて、何十、何百という小さな花の集まりで、その中から雌しべが成熟して筒の中にできる花粉をつけて上がってくる仕組みになっていて、交配しても種がたった1粒しかできないので、非常に効率が悪い。しかし、雄性不稔が見つかれば、虫にそれを花粉交配させれば種ができるのだが、その雄性不稔株を農水省の研究所が見つけたという。
レタス
キク科のレタスは、ミツバチの複眼や脳とレタスの花粉の形との相性が悪いようで、目を傷つけられるから嫌がるのか、ミツバチがこの花に集まってこないので、F1種の開発が難しかったそうだ。そこで、世界初のF1レタスを作ろうと日本の種苗会社同士が競い合い、ミツバチの代わりに何を使ったらいいかということを研究していたが、その内の一社が、相性のよいコハナバチというハチを見つけて、世界最初のF1レタスが発売されることになり、そして、もう一社は、キンバエを使ったレタスの交配方法を特許庁に出願したそうだ。
サラダゴボウは、放射線照射した突然変異種
また、キク科のゴボウでは、今のところ雄性不稔の株は見つかっていないのだが、ゴボウの種をポットにたくさん蒔いて、放射線の照射時間、距離など、色んなパターンを試し、そのポットから芽が出たものを畑に植えてみたところ、丈が短いゴボウができた。掘るのが簡単なので、家庭菜園用として売り出したが、「コバルト◯◯」という品種名が悪かったのか、余り売れなかった。
品種登録(植物の特許)は15年間なので、期限が切れると誰でも種が採れるようになってしまう前に、このゴボウをもう一度何とかしようということで、再度、ポットに蒔いて、さらに、コバルト60を線源とするガンマ線照射をしたところ、より短くなった上に、アクが無い品種が生まれた。これがサラダゴボウとして売られている品種だそうだ。
小粒納豆の原料大豆
今は、普通の大豆の大きさの納豆より、ひき割り納豆や、小粒納豆の方が人気があるらしいが、小粒納豆に使われる「コスズ」という品種は、在来種の「納豆小粒」に放射線照射して東北農試が育成した突然変異種で、放射線照射で遺伝子を傷つけて生まれたのがサラダゴボウであり、小粒納豆なのだそうだ。
サヤインゲン
最後に残されたマメ科でも、黒種衣笠という品種のサヤインゲンから雄性不稔株が一株みつかり、これにいろんな品種を掛け合わせてどういうものができるか、農業試験場や種苗各社が研究中だそうだ。そのうちに雄性不稔を利用した枝豆とかそら豆など、すべての農作物が雄性不稔になって、メデタシ、メデタシ、ということになるだろうとのことだ。
砂糖の原料のテンサイとサトウキビ
日本の砂糖の自給率は35%あるそうだが、原料の8割が北海道のような寒い地方で作られるテンサイと2割が沖縄・奄美地方のサトウキビ。実は、このテンサイもすべて雄性不捻のF1で、世界中で使われているF1テンサイの大元は50年以上前に米国で発見された、たった一株の変異株から無限に増やされ、今では、世界中の砂糖の材料になっている。その絞りカスまで、清涼飲料水の食物繊維、その他にインスタントラーメンのつなぎ等にも余さず使われているそうだ。
因みに、テンサイは別名、サトウダイコンとも呼ばれているが、「ホウレンソウ」と同じ旧「アカザ科」の仲間で、従来「アカザ科」に分類されてたが、新しい分類体系ではそれまでの「ヒユ科」と併合し、新たに「ヒユ科」として分類されている。
サトウキビは、栄養繁殖性植物(胚・種子を経由せずに根・茎・葉などの栄養器官から、次の世代が繁殖する無性生殖)であるため、栄養体を増殖し、確保する必要はあるが、種子での増殖が困難で、F1種の開発はできないとのこと。
まとめ
在来種や固定種は、農家や種苗会社がその品種の中から、農家や種苗会社がこれぞと思う個体を選抜して、何代もかけて改良してきた品種であるが、F1種は、種苗会社が「雑種強勢」と呼ばれる性質が最大限発現するように、遺伝的に遠縁の異なる形質をもつ系統の両親を選抜とかけあわせの組み合わせを試験、研究し、雄性不稔の技術を活用して効率的に改良してきた品種であり、根本的な育種のコンセプトからして異なる。
しかし、雑種強勢のメカニズムがまだ解明されていないため、実際のF1種の開発は、多くの時間と労力、費用を投じて、幾つもの組み合わせを繰り返して両親系統の選抜をしているそうで、結果的に資本力のある大手の寡占化が進行し、また、農家は、採種できて次の代を育てても姿形、大きさがバラけてしまって出荷できないので、毎年、種苗会社からタネを買い続けることになった。
有機栽培と云われる野菜もほとんどがF1種であり、有機栽培用に化学肥料や農薬を撒かなくて良い病虫害に強いF1種も開発されているそうだ。
ただし、近代農業=農薬や化学肥料を使う慣行農業が主流だから、基本的には、F1種の栽培は多肥が前提で耐肥性を持つように作られていて、化学肥料を多く投入すれば作物はよく成長するが、他方、雑草もよく繁茂し、その分、除草剤の使用量も増え、短期的に収量が増えても、長期的には、土壌の劣化や害虫の発生などで栽培が困難になり、結局は収量が減ることもあるらしい。
近代農業に必須の三点セットは、F1種、化学肥料、農薬で、これらを農家は毎年購入しなければならず、それだけコストがかかる。大きな成果を期待して近代的農業を採り入れた地域、国々でも、今では、病虫害、土壌汚染、多額の負債、貧富の格差拡大といった問題を抱えるようになっているところもあるという。
雄性不稔を利用したF1育種の場合、雄性不燃系統の株が限られるため、遺伝子が単一化していく傾向があり、種の多様性が失われ、病虫害に対して大きなリスクを負うことになる。
サラダゴボウや小粒納豆に使う大豆が放射線を照射して改良した品種だということを知っている一般消費者はどのぐらいいるのだろう?
気になったので、放射線照射による品種改良について調べてみると、知らなかった驚きの事実が山のように見つかった…(次回に続く)。
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COREZO (コレゾ)賞 事務局
初稿;2015.05.29.
編集更新;2015.05.29.
文責;平野龍平
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