佐藤 睦(さとう むつみ)さん/鹿島みかん村・佐藤農園株式会社

COREZOコレゾ「人も自然も笑顔になる、有機・無農薬栽培のみかんとジュースづくり」賞

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佐藤 睦(さとう むつみ)さん

プロフィール

佐賀県鹿島市出身、在住

認定農業生産法人 佐藤農園株式会社 代表取締役

有機栽培みかん

ジャンル

食・農業

有機栽培みかん生産/販売

有機栽培みかん加工食品製造/販売

経歴・実績

1967年 有吉佐和子著「複合汚染」を読み、環境問題を意識する

1968年 みかん栽培を始める

1987年 現在の無農薬、有機栽培に徐々に切り替える。

2001年 みかん農園7.6haが有機JAS認定を受ける

2010年 第16回環境保全型農業推進コンクール 大賞農林水産大臣賞受賞

2011年 認定農協生産法人化、加工施設の設置

2011年 第8回野菜ソムリエサミット購入評価部門第1位「さとうのみかん」

受賞者のご紹介

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2012年5月、佐賀の武富勝彦(たけとみかつひこ)さんのご自宅を訪れた際に、「このジュース、飲んでみて。」と差し出されたのが、佐藤さんの「有機栽培みかんジュース」だった。子供の頃からみかんは食べるが、加工したみかんの缶詰は大嫌い、甘いものが苦手で、ジュースもほとんど飲まないのだが、武富さんに勧められた食材でマズかった試しはないので、一口飲むと、「ウマい」のである。エグ味が全くなく、加糖していない自然な甘さで、みかんジュースってこんなにおいしかったのかと思う程、ウマい。外国産オレンジジュースにはない上品な味だ。これならあと2瓶ぐらい飲める。

自分の思うジュースを作るために、最近、自社工場まで建てられたという。是非、お会いしてみたいということで、武富さんに訪問の段取りをして頂いた。

佐賀県鹿島市といえば、有明海の干潟とムツゴロウを思い浮かべるが、みかんも特産品のひとつらしい。佐藤農園の事務所は干潟から山の方に入ってすぐのところにあった。ご健康そうに日に焼けた佐藤さんは満面の笑みで出迎えて下さった。訪問の目的は、「ジュースが美味しかったのでどんな方が作っておられるのか会いに来た。」程度にしか伝えていない。

作業場の一角の打合せスペースのようなところにご案内頂き、お話を伺った。

他のみかんジュースとは全く違うウマさの秘密は?

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「秘密は何にもありません。原料のみかんを農薬や化学合成した肥料を一切使用せず、手間ひまを惜しまずに作っています。農作物を育てるには、土が大事なのですが、ウチの畑の土は生きています。一般のみかん畑と比較して、ろ過能力というか浄化能力が違います。雨水を畑の土がろ過してキレイな水に変えて、それをみかんの木が吸収して実をつけるので、果汁が違います。食べて後味がいいです。そのみかんを安定剤などの添加物を一切加えずにジュースにしています。ただそれだけです。」

みかんの無農薬、有機栽培を始めたきっかけは?

「みかん栽培を始めて、大量に農薬を散布して立派なみかんを作っている農家ほど、自分の体をこわしている人が多い現実を見てしまったんですね。健康を害している生産者が、消費者の方に健康を届けることはできません。安全でおいしい農産物を生産して、消費者の皆さんに安心して食べもらって、健康になってほしいという生産者としての願いからですね。」

「徐々に無農薬、有機栽培に徐々に切り替えて行ったのですが、従来型農法で作るみかんと比べると、薬をかけない分、形が悪かったり、傷が入ったりします。見た目では勝てないので中身で勝負をしてきました。結果として、甘みと酸味が調和したみかんが生産できるようになって、『昔懐かしいみかんらしい味がする。』と言って下さる消費者の皆さんが年々、増えましてね、耕作放棄されているみかん農園もお借りして、今では東京ドーム約2個分の広さの農園で栽培しています。」

「それに、最近、小、中学生が起こす事件が多すぎます。子供たちだけでなく、アトピーやアレルギーのある人も増えています。私見ですが、便利な世の中になって、食べ物、飲み物に含まれる添加物や残留農薬を知らないうちに摂っているのも一因ではないかと考えています。ウチのみかんはアトピー治療施設で治療を受けている皆さんにも安心して食べてもらっています。ジュースも有機JAS認証を取るために自社の加工工場をつくりました。食べ物の大切さを若いお母さん達にも伝えていきたいですね。」

有機JAS認証とは?

「有機食品のJAS規格に適合した生産が行われていることを登録認定機関が検査し、認定された事業者のみが有機JASマークを貼ることができます。この「有機JASマーク」がない農産物と農産物加工食品に、「有機」、「オーガニック」などの名称の表示や、これと紛らわしい表示をすることは法律で禁止されています。」

農水省が定める有機食品の検査認証制度。消費者としては、基準は大切だと思うが、細かく決めれば決める程、抜け道が増えるような気がする。その登録認定機関というのにも利権の匂いがする。生産するのが人なら、検査、認定するのも人ですよね?個人的には生産者の人柄の方が大事だと思うが、ま、公の機関が生産者の人柄の審査なんてできないだろう。

生産者の人柄の審査は?

「ハハハハ、さすがに人柄の審査はありません。最初の認証時と年に1回、いろいろな項目の厳しい検査があります。費用もかかりますが、有機栽培を表示するにはJAS認証を受ける他ないのです。加工工場でジャムやマーマレードも作っているのですが、これに使用する砂糖も有機認定を受けた外国産の高価なものを使用しないと認証が受けられません。」

この後、有機JAS認証を受けている別の生産者を訪ねたのだが、丹誠込めて育てている農作物が、次々に食害にあうのを目の当たりにすると、年に一回の検査の後、その原因を駆除できる薬品(一年も経てば検出されないらしい)を、産卵時期に1回だけでも散布したいという衝動に駆られることもあると伺った。事実、散布している生産者もいて、翌年の検査にパスしたというのを聞くと、さらに悪魔が耳元でささやくのだが、「自分が決めてやっていることだからウソはつけない。」と、自分に言い聞かせて、その衝動を押さえ込んでいるそうだ。

触らぬおカミにタタリなし

結局、人なのである。ネットで調べると、認定の調査料は規模によっても違うが、かなりの高額である。自然食品店?でオーガニック食品?を見たことがあるが、一般のスーパーで売られている同じ商品より明らかに高価である。手間が掛かっているのは推測できるが、販売価格にはその認定費用も上乗せされているようである。興味のある方はネットでお調べ頂きたい。また、この認証制度が始まってから、農水省が業務停止や業務改善を命じたことのある登録認定機関が10以上あり、倒産したところもあるようだ。そんな登録認定機関を認めた責任や、そこで認証された生産者はどうなるのだろう?

草生栽培とは?

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話は戻って、その佐藤さんのみかん農園を見せて頂いた。作業場・事務所から10分ほど山に入って行くと、辺り一面がみかん農園である。当日はあいにくの雨だったので、青空バックではないのが残念だが、他のみかん農園との違いは一目瞭然、草がボウボウなのである。その上、桜、松、カリン、ビワ、ヤマモモ、ツバキ・・・、みかん以外のさまざまな樹木が混栽されている。

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「これは草生栽培といって、フルーツグラスという草を生やして、雑草の生育を押さえると共に、刈り取ってしまわずに草を倒して、土を覆い、保水性と土の有機層を増やしています。醤油の搾りカス等を再利用した有機肥料を必要な場所に必要な分だけ、施肥します。」

「病気の原因になる枯れた枝や、カイガラムシ等の害虫発生枝は徹底して剪定し、取除きます。みかんの害虫であるカミキリムシは捕殺、ヤノネカイガラムシは食用油を噴霧したり、手作業で除去するので、農薬や除草剤を使わない分、手間はかかります。」

「単位面積当りの収穫量を上げるためには、できるだけ間隔を狭くして植えるのが当たり前ですが、他の樹木も混栽しているのは、みかんだって、同じみかんの木が押し合いへし合いの状態で暮らすのはイヤでしょ?気持ち良く花を咲かせて、実を付けれるようにしてやりたいのです。農園の作業をする期間は、何かの花が咲くように植えているので、私たちも作業の手を休めて、ふと顔を上げると、四季折々の花が咲いていたら、気持ちがいいでしょ?それに、さまざまな樹木を混植することで、生態系が多様化し、みかん害虫の天敵も含めて、いろいろな生物が定着し、害虫の異常繁殖も抑えられるようなのです。」

乳幼児から化学添加物や農薬に敏感な人も安心して飲めるみかんジュース

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農作業用の道路は不慣れだろうと、雨の中、傘もささずに先に走って、私たちの車を誘導しながら、ご案内下さった。一通り見学させて頂き、作業場・事務所に戻って来て、冷たい「有機栽培みかんジュース」をいただいた。すっきりしておいしい。

「有難うございます。このジュースは乳幼児から化学添加物や農薬に敏感な方にも安心してお飲み頂けると思います。」

若手の雇用創出、研修生も含めて10名以上も…

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「せっかくだから、手を休めて、みんなこっちに来て。」と、作業場の皆さんを集められた。

まだ2〜30代の若い男女の皆さんである。研修生も含めて10名以上いらっしゃるそうで、取締役生産工程管理責任者の宮本さんもまだお若い。家内制手工業?が中心の農業の現場で、こんなに多くの若い方々が働いているところは初めて見る。

こちらで働くようになった理由を尋ねると、「佐藤さんのみかんがおいしかったんで。」、「有機農業を勉強したくて。」、「佐藤さんの笑顔と人柄に魅かれてですかねぇ、ハハハハ。」、・・・と、皆さん、明るく賑やかで、元気一杯だ。

「この辺りはかつてみかんつくりも盛んだったのですが、みかんの価格はどんどん下がって、耕作放棄された荒廃園も増え、就農人口も減り、高齢化が進んでいます。試行錯誤しながら何年もかかって、今の農法に切り替え、有機JAS認定を受け、販路拡大と営業努力をしてきました。ようやく「さとうのみかん」ブランドを確立でき、荒廃園も借り受けて生産規模を拡大するとともに、若手の雇用創出もしています。日本の農業を守るためにも、若い人たちにも農業に関心を持ってもらい、一緒になって、今までとは違う新しいことにチャレンジし、新しいものを創造せんとイカンのです。」

心と体と地球にやさしいみかんづくり

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事務所・作業場には、「自然に逆らわず、自然に学び、自然に優しい農業・・・」の佐藤農園の理念が掲げられている。

「これからも、ウチで働いてくれいているこの人たちと、心と体と地球にやさしいみかんを作って、新しい商品と市場も創っていきます。」とおっしゃる。

佐藤さんは、ずーっと、満面の笑みだった。ここまで来るのに随分ご苦労もされたかと拝察するが、みかん作りへの情熱と信念、そして、何よりもこの仕事が大好きで、楽しく、未来に向かって取り組んでおられる姿勢が伝わって来るスゴイ人なのに、どっからどう見ても「ええヒト」なのである。そんな佐藤さんと佐藤さんを慕う皆さんが作るみかんやジュースはおいしいに決まっている。

「ところで、もっと多くの人に、このおいしいみかんやジュースから佐藤さんの想いを感じ取ってもらいたいと、勝手に思っています。COREZO(コレゾ)賞という権威なし、名誉なし、賞金なしのわかる人にしかわからない三なし賞を佐藤さんにも受賞して頂きたいのですが、如何でしょうか?表彰式は12月の予定です。収穫時期で、お忙しいと思いますが、如何でしょうか?」とお願いすると、

「いいですね、そういう賞。繁忙期は繁忙期ですが、表彰式にも是非出席させて頂きます。」と、ご了解頂いた。

COREZOコレゾ「人も自然も笑顔になる、有機・無農薬栽培のみかんとジュースづくり」賞である。

 

COREZO(コレゾ)賞 事務局

初稿;2012.11.02.

最終取材;2012.09.

最終更新;2012.11.02.

文責;平野龍平

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