木村 憲政(きむら のりまさ) さん/金時生姜の愛知県「木村農園」

COREZOコレゾ「ホンモノのはじかみはウマい!天然の赤色鮮やかさ、辛味のうまさ、香りの濃さに魅せられた親子三代、金時生姜づくり一筋」賞

木村 憲政(きむら のりまさ) さん・伊藤 将弘(いとう まさひろ)さん

プロフィール

愛知県稲沢市

有限会社木村農園

代表取締役 木村憲政さん

営業部長 伊藤将弘さん

 

経歴・実績

▼昭和24年

先々代の園主が山梨、千葉、静岡、三重、愛知をまわり金時生姜の種栽培に適した土地を探し、現在の愛知県平和町にその礎を築く。

▼昭和42年

当時非常に困っていた金時生姜の病気の研究。その結果、独自の研究により農薬を使わない栽培床での栽培において、金時生姜の病気発生を防ぐことに成功。

▼昭和50年

大阪府立大学教授に金時生姜の病気についての指導を受ける。

▼昭和52年

2代目園主が主力となりより品質の良い生姜づくりを目指す。

▼昭和59年

京都大学教授の指導の下で栽培方法をさらに研究。赤味の強い生姜をつくることに成功。

▼平成15年

インターネットを通じた販売を開始

▼平成22年

3代目園主が中心となり、全国の百貨店での販売や物産展の出品を通じ、金時生姜の味を知ってもらう活動を行う

動画 COREZOコレゾチャンネル

木村 憲政(きむら のりまさ) さん/金時生姜の愛知県「木村農園」(その1)「はじかみ(矢生姜)をつくる金時生姜」

木村 憲政(きむら のりまさ) さん/金時生姜の愛知県「木村農園」(その2)「希少な金時生姜の美味しい食べ方」

受賞者のご紹介

「はじかみしょうが」とは?

「はじかみ」って、ご存じだろうか?

はじかみ生姜は、一般的に「新生姜」と呼ばれている、種生姜の上に生える新しい芽の部分を湯通しし、塩をふって熱を取った後、甘酢に漬けた、芽生姜の甘酢漬けで、かつては、和食のお店で提供される焼き魚などに添えられていた。

筆者が子供の頃、仕出し屋の幕の内弁当にも必ずと云っていい程、添えられていて、甘酸っぱくて、生姜辛く、何とも云えない大人の味がして、両親や祖母の分ももらって食べていたものだ。

この本来のはじかみ生姜は、とても鮮やかな色をしているが、薄紅から濃い紅色のグラデーションになるのは、酢と生姜の色素が反応して生まれる自然なものだそうだ。

生姜のほろ苦さと甘酢の甘酸っぱさで、口の中に残る脂分の多い焼き魚の魚臭さなどをサッパリと口直しすることで、次のお料理を食べる前に味覚をリセットできるだけでなく、寿司屋にガリが置いてあるのは、生姜には抗菌作用があり、食中毒の防止の役割もあったと聞いたことがある。

ところが、社会人になって、自分が稼いだお金で和食を食べるようになったころから、この「はじかみ」が、マズくなったどころか、ヘンな味がして、とても食べるきが失せてしまったが、その内に、このあしらいの「はじかみ」自体が、酢レンコンやミョウガの甘酢漬け等に置き換わっていったような気がする。

2016年のフーデックスを訪れた際、同行して下さった堀田雅湖さんに木村農園の伊藤将弘さんをご紹介頂いた。

木村農園さんが無農薬で生姜栽培をしておられると伺い、別の農家の方から、一般的に生姜栽培では根茎腐敗病という病気に悩まされる事が多く、畑の土を毒ガス(臭化メチル剤は、2012に使用禁止、現在は、クロルピクリン、クロルピクリン+DーD、ダゾメット、DーD、ヨウ化メチル等が使用されているらしい)で土壌消毒をして栽培している、と聞いていたので、大変、興味を持った。

金時生姜

後日、日東醸造の蜷川社長にお連れ頂き、社長の木村憲政さんと娘婿で営業部長の伊藤将弘さんにお話を伺った。

―金時生姜は、一般にスーパーとかで売られている生姜とは異なる品種なのですか?

生姜はショウガ科の多年草植物で、熱帯アジア・インドからマレーシアにかけてが原産で、約100種類あると云われています。

金時生姜は、我が国独自の品種で、日本の風土、水、土壌で確立された品種です。その栽培方法は他の生姜と大きく異なり、繰り返し同じ土壌で栽培するとその品質が著しく低下してしまうため、一度使用した畑は7~8年間、栽培できません。それだけ、大地の栄養素を吸収しているとも云われています。

生姜には大きく分けて、大生姜、中生姜、小生姜があり、スーパーでよく見かけるのが大生姜で、高知が代表的な生産地です。中生姜は、茎がほんのり赤い三州生姜が代表的な品種で、これも多くつくられています。小生姜は、この金時生姜とか、谷中生姜とか、小型の在来種です。

一般の生姜と比べてかなり小さく、香りと辛味が大変強いことが特徴で、これは、香り成分のガラノラクトン、辛味成分のショーガオール、シンゲロールを多く含むからです。その金時生姜を種として育つ「矢生姜(はじかみ)」の特徴は、鮮明できれいな赤色で、料理に彩りを添えます。

はじかみとして使えるのは金時生姜だけで、他の生姜を使っても赤くなりません。

金時生姜の主な産地は愛知、静岡で、矢生姜(はじかみ)は、愛知県で栽培されており、静岡では主に種用が栽培されています。

日本では平安時代の辞書に「はじかみ」との記載があり、尾張藩の文献をみると、はじかみという言葉が出てくるので、この辺りでも江戸時代からあったものと推測できます。

この金時生姜は、辛味成分が多くて、風味が良く、硬い(水分が少ない)ため、乾燥生姜をつくるのに歩留まりが良く、戦前戦後、大量につくられて、主に香辛料として輸出もされ、外貨を稼ぐ貴重な農産物でした。

乾燥させるので、揮発性の香りは飛んでしまうのですが、それでも金時生姜の場合は、他の生姜より、香りが残ります。

かつては、乾燥生姜だけでも、生姜農家は生活ができていました。私の子供の頃は、朝、ムシロに生姜を並べ、夕方、夜露の当たらないところに取り入れるというのが、生姜農家の子供の日課でした。

金時生姜は、この地域の特産品でしたが、生姜の中でも健康に有効だとされる辛味成分が他の生姜より豊富だということがマスコミを通じて話題となり、種屋さんが種生姜を買い付け、今では、全国に広まっています。と云っても、生姜全体の生産量に金時生姜が占める割合は、0.1%あるかないかです。

その中でも、「はじかみ」として出荷されるのは、多い日でも、太田と築地市場を併せても、東京中で10ケース(6,000本)もいかないでしょう。かつての1/20と思って頂いて、間違いないと思います。

高級料亭の多い京都の市場に、一級品として出荷しているのは、ウチだけだと思います。

はじかみの一級品とは?

―一級品、二級品とは?

高級料亭などで使われるのが一級品ですね。種生姜からは、バラバラな太さや色の芽が生えて来るので、太さと色の鮮やかさで選別し、一級品にもサイズによってLやMがあります。自然のものだから、工業製品のように姿形は揃いません。

―生のまま出荷されるのですか?

料理屋さんは自分のところで甘酢にされるので、生でないとダメなんですよ。漬けて5~6時間で食べれますが、出来立ては噛んだときの香り、辛味、風味が最高です。

「一番おいしい食べ方をご紹介しましょう。5分だけ待って下さい」と、収穫したての金時生姜のはじかみを本醸造の醤油に5分漬け、食べさせて下さった。さわやかな生姜の風味が口中に拡がり、これをアテにビールを飲んだらさぞかしウマいだろう。

金時生姜は香りがすごくいいので、これが金時生姜美味しさを最高に引き出す食べ方です。

—木村農園では代々金時生姜をつくっておられたのですか?

母の実家がある愛西市佐織町には、生姜農家が多く、母も生姜農家に生まれ、私の父母がこの地ではじかみづくりを始めたのは約70年前になります。

私は、母からの強い希望で生姜農家を継ぎました。「矢生姜(はじかみ)」の一番の魅力は、鮮やかな赤で、昔からきれいな赤い色の矢生姜をつくるためにいろいろな努力がされてきました。一生懸命、手入れすればするほど、それに応えてくれるように赤い色がきれいに出るようになるんです。私も、惚れ惚れする程のその自然の赤色に魅せられて、よりいい生姜をつくろうと、さらに、一生懸命、栽培管理をし、研究を重ねてきました。

生姜の連作障害

ー生姜は畑を消毒しないといけないと聞いたことがありますが?

連作障害があります。特にこの金時生姜は、この種生姜をつくる時には、畑を8〜10年開けないとダメです。ウチの場合は、こちらから栽培方法を指定して、他の農家さんに栽培管理と収穫をお願いしていますが、全農地の1/10ずつ作ってもらって、10年で一周するようにつくってもらっています。

1年か2年しか空けずに同じ畑で種生姜をつくって、貯蔵庫に入れると、春まで持たずに1〜2月頃には腐ってしまいます。きっと生姜は土から特殊な養分を吸収していて、その養分が少ない畑だと自身の栄養バランスが欠いてしまい、10年経つと、地力が回復して、必要な養分を吸収できるからだと思います。

ウチでは、創業以来、矢生姜の栽培に最も適した木曽の川砂を使用しています。一度利用した砂はすべて捨て、栽培ごとに毎回新しい川砂を利用しています。これは、土壌を消毒せずに安全な作物を作るためです。先人の知恵と伝統を現在に生かした生姜つくりが私たちの誇りです。

一般的に新生姜が採れるのは初夏だけなんですが、ウチはハウス栽培することによって、年中、新生姜を生産しているので、年中、はじかみの味も一定なんですよ。

―木村農園さんのように金時生姜を作っている農家は?

戦後この辺りだけでも200軒はありましたが、今は4、5軒しか残っていませんし、ウチと同等の規模でやっているのは、他の農産物もつくっているもう1軒だけで、年間を通じて出荷できるのはウチぐらいになってしまいました。ウチでも最盛期と比べると、生産量は半減しています。

―どうしてそんなに減ってしまったのですか?

昭和の終わりから平成の初め頃でしょうか、中国にはじかみの着色方法を教えに行った人がいて、中国産のものが日本の1/10の値段で入ってくるようになり、珍味屋さんが全国展開して、一気に広まり、はじかみ農家は大打撃を受けました。

今、市場に流通している中国産のものは、中国では、金時生姜が栽培されていないので、白生姜の発芽したもの(芽生姜)に人工着色料で茎だけ赤く染めています。見た目はきれいですが、醸造酢を使うと日持ちがしない(2~3カ月で品質低下)ため、1年でも2年でも腐らないように酢酸を薄めた液を使うので、味はただ酸っぱいだけです。

―子供の頃、「はじかみ」が好きでしたが、社会人になって、自分が稼いだお金で和食を食べるようになった頃から、この「はじかみ」が、マズくなったどころか、とてもヘンな味がして、とても食べられなくなったのは、そういう理由ですね?

その通りです。食べたらまずいから、お客様は食べなくなって、ただの飾りになり、お客様が食べないので、はじかみを使う料理屋さんも減って来て、この和食の名脇役だったあしらいの「はじかみ」自体が、酢レンコンやミョウガの甘酢漬け等に置き換わっていきました。

生産しても人件費も出ない農産物がある理由

―それでもそれなりの和食料理店や料亭からのニーズがあるのでは?

私のところのはじかみは、研究と努力を重ねてきましたので、色が鮮やかで、風味も豊かだという高評価を市場関係者からいただき、宮内庁の公式行事には全てウチの商品が使われていますし、もちろん、有名な和食料理店や料亭でもお使いいただいていますが、どんなに大きなお店でも、毎日、何百本も使うところはないので、いきおい、市場を通じてのお取引になります。

市場を通じると相場が立ち、その値段でしか買ってもらえません。そうすると、例えば、はじかみ1本の原価が30円だとしても、20円でしか買ってもらえないような状況が続くと、生姜農家では食べていけないので、栽培を止めざるを得なくなるのです。

―市場関係者から高い評価を受けても高値で取引してもらえないのですか?

それが、市場を通じた取引、流通の仕組みになっているので、どうしようもないのです。

今や、生姜だけでなく、生産しても人件費も出ない農産物は沢山あります。自分で販路を見つけて、直接、販売できれば、なんとか採算は取れるのですが、こんな状況がこのまま続けば、近い将来、日本の農業は壊滅するのではないかと心配しています。

金時生姜の美味しさをより多くの方々に知っていただくには?

約十年前から、姪にも手伝ってもらって、本格的に加工品の商品開発、販売を始め、生鮮での販売を続けているような状態ですが、よりよい品質のはじかみを生産できるよう、栽培努力と研究を続けて、次の世代にも残していきたいと願っています。

といっても、生姜のジャムなんかは大量に売れるものではありませんし、なかなか地方でも売れません。やはり、都会のデパートや高級スーパーで取り扱ってもらうことで販路が広がります。そこで、積極的に催事やイベントに出展して、試食をしてもらい、気に入って下さったお客様にリピーターになっていただく、という、地道な営業活動を続けています。

おかげさまで、一般のお客様だけでなく、直接、取り引きをして下さる新規の料理店さんも徐々に増えています。

その地道な営業活動をしておられる中心人物が、営業部長の伊藤将弘さんである。木村農園で働く木村社長のお嬢さんと結婚し、農業と勤め人というすれ違い生活を経て、勤め人を辞め、未経験の農業に飛び込まれた。

「生姜栽培に関しては、義父の足元にも及ばない。」とおっしゃるのは仕方ないとしても、木村社長の「この金時生姜のはじかみの素晴らしさを一人でも多くの皆さんに知ってもらい、よりよい品質のはじかみを生産できるよう、栽培努力と研究を続けて、次の世代にも残していきたい」という、想いは、確実に継いでおられる。

高級料亭で使われる「はじかみ」と聞いて、もっと高値で取引されているものとばかり思っていたが、矢生姜(はじかみ)の甘酢漬けは、30本程度は入っていて、70gで864円(税込)、すぐに料理に使える、刻んだ新生姜を玄米黒酢のみで漬けた甘さゼロの「黒酢しょうが」が70gで594円(税込)と、とってもリーズナブルなのである。

その日に買い求めて、愛用しているが、もう生姜はこれ以外に考えられない。このホンモノの「はじかみ」の栽培を続けてもらい、「はじかみ」の食文化を残すためにも、そういう人が増えるのを願うばかりだ。

COREZOコレゾ「ホンモノのはじかみはウマい!天然の赤色鮮やかさ、辛味のうまさ、香りの濃さに魅せられた親子三代、金時生姜づくり一筋」である。

最終取材;2017年6月

初版;2017年11月

最終編集;2017年11月

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