目次
COREZOコレゾ「イベントで見た仕込桶に魅了され、これをつくりたいと、その場で親方に弟子入志願し、奉公期間を全うして、見事独立した女性桶職人」賞
伊藤 翠(いとう みどり)さん
プロフィール
司製桶 桶職人見習
動画 COREZOコレゾチャンネル
木桶職人集団「結い物で繫ぐ会」による日東醸造㈱足助仕込蔵の木桶修理作業
受賞者のご紹介
「結い物で繋ぐ会」
日本で唯一残っている、仕込用の大きな木桶をつくれる製桶メーカーの藤井製桶さんが廃業するかもしれない、という危機感から始まった、小豆島のヤマロクさんの木桶職人復活プロジェクトで『結い物で繋ぐ会』メンバーの岸菜賢一さん、原田啓司さん、宮崎光一さんの3人は出会った。
こだわり食のセレクトショップ「きしな屋」を経営する岸菜さんと桶職人の原田さんは、下積みの期間が同じ3年間あり、すごく気が合って、桶のことを良く知らなかった岸菜さんは、すぐに原田さんが営む、徳島県阿南市の「司製樽」に訪れ、いろんなことを話した。
ヤマロクさんの木桶職人復活プロジェクトで、新桶づくりは存続できる見通しがついてきたが、桶は、修理をしながら、長ければ、200年もの間、使い続けることのできる道具であるのに、修理ができる桶職人がいなくなっているのも大きな問題だった。
桶づくりにしても、売る人、作る人、伝える人と云う、役割分担が必要で、同じく「木桶職人復活プロジェクト」に参加していた、五島列島の「桶光」、宮﨑 光一さんも入れて、3人でチームができる、と直感した瞬間、桶のことが動き出した。
ビジネスとして利益を得る木桶職人集団
ボランティアでは、残らないし、ビジネスとして皆んなが利益を得ないと成り立たないので、仕組みをつくる必要があり、桶づくりから、販売、商品の開発支援まで、3個一で一人前ということもあり、LLC(Limited Liability Company)「合同会社」という形で、法人格の組合を立ち上げた。
株式会社は利益配分や意思決定が出資比率で決まるが、LLC(合同会社)は、出資比率に関わらず自由に利益配分を定めることができ、また、株式会社は出資者である株主と取締役が分かれているが、LLC(合同会社)では出資者である社員が経営の意志決定を行い、株式総会はもとより、役員会の設置義務、役員の任期もなく、決算書を公表する義務もないので、小回りの利く会社経営がしやすいことが特徴。
12本の20石(3,600ℓ)新桶受注
岸菜さんは、発酵茶である高知県の碁石茶の生産者のところに行ったことがあり、仕込桶が痛んでいるのを知っていたので、修理できると伝えたら、2本修理依頼が入り、それを直したら、他の生産者も木桶を復活させたいとう云う話が入り、組合から12本の20石(3,600ℓ)新桶発注が入った。
桶づくりには、教科書がなく、つくって経験を積むしかない。事業継承等の補助金が使えるなら、高額になってしまう新桶もつくれることもあり、いろんな職人が木桶づくりに関わることで職人同士の刺激になるし、仕事の幅が拡がり、技術継承、桶職人の収入確保にもつながる。
お櫃とか、寿司桶とかで、困ってる人が多い現状
「お櫃とか、寿司桶とかで、困ってる人がいっぱいおられるんですが、百貨店とかで取り扱っていても、売ってる人が使ってないから、聞いてもわからない。どこの誰に聞いたらいいのかもわからない。でも、きしな屋に来てもらったら、原田さんに教えてもらって、箍も編めるし、それなりの知識もあるので、対応できます。」と、岸菜さん。
「結い物で繋ぐ会」の木桶修理現場
2019年9月、岸菜さんや司製樽の原田さんたちが立ち上げた、木桶職人集団、「結い物で繋ぐ会」が、日東醸造(株)足助仕込蔵の仕込用木桶の修理に来られると云う話を聞き、蜷川社長に、修理現場の見学に連れて行ってもらった。
そこで出会ったのが、もう一人の桶職人、桶光(おけみつ)の宮崎光一(みやざきこういち)さんと原田さんになんと女性で弟子入りした、伊藤翠(いとうみどり)さんである。
宮崎さんは、小学2年生になる時に家族で長崎県五島に移住し、その近所にあった長崎県最後の桶屋「大島勝」氏に出会い、お父様に付いて、一緒に通い、小学生4年生の時に初めて自分で桶をつくったそうだ。小・中学生時代は、学校帰りや夏休みや冬休みを利用して、桶づくりを学ばれた。
九州大学の農学部に進学して、山のこと、木のことを学んだ後、なんと、五島に戻り、再び大島勝氏の元で1年間修業して、2016(平成28年)4月1日に開業したそうだ。
伊藤さんは、東京でのイベントに出展されていた大桶に魅了され、自分もつくってみたい、とそのイベントに来ていた原田さんに志願し、弟子入りし、住み込みの徒弟制度で、弟子入期間6年のうち、2年半が経過して、大桶の修理に関しては、男性と同じ仕事をこなしておられた。
徒弟制度、修業は辛くないか、尋ねると、「やりたいことをやらせてもらって、楽しくて仕方がない。」とのことだった。休憩中や仕事終わりに原田親方が連発する上品な〇ネタにも全く動じず、きっちりと対応しておられたのが、頼もしくもあった。
日東醸造の蜷川社長によると、しろたまりの仕込桶は、老朽化で液漏れがひどくなり、ステンレスのワイヤで増し締めをしたが、液漏れが止まらず、竹箍で締め直せば止められる可能性があるとのことで、「結い物で繋ぐ会」に修理を依頼した、とのこと。
実際、竹箍で締め直した仕込桶に水を張って漏れの試験をしているのも見たが、全く、漏っておらず、原田さんによると、ワイヤは点でしか締められないため、どうしても隙間が生じてしまうが、竹箍は面で締めることができるので、新しい箍で締め直せば、漏れが収まる可能性が高いそうだ。
「ヤマロクの山本社長が『木桶職人復活プロジェクト』を始めてくれたおかげで、年に何本か新桶がつくられるようになり、弊社も2本購入することが出来ました。その一方で、弊社のように古い桶で仕込んでいる蔵はたくさんあり、修理が必要な桶も多くあるはずですが、ヤマロクの山本社長は、本業の醤油づくりもあり、出張修理まで手が回らないのは、明らかなので、『結い物で繋ぐ会』が、出張して、現場で修理や新桶づくりを始めてくれたのは、非常に有難いことで、彼らの仕事がまわるよう、木桶を使っている蔵の紹介もしています。」と、蜷川社長。
「木桶職人復活プロジェクト」がきっかけとなり、木桶職人集団、「結い物で繋ぐ会」が生まれ、新桶づくり、木桶修理ができるようになって、日本の木桶文化が何十年か延命できた。
更に盤石になるよう、「結い物で繋ぐ会」の原田さん、宮崎さん、岸菜さん、伊藤さんに多くの若い木桶職人が続いて欲しいものだ。
COREZOコレゾ「イベントで見た仕込桶に魅せられ、これをつくりたいと、その場で親方に弟子入志願した、うら若き女性桶職人見習」である。
最終取材;2019年9月
最終更新;2019年11月
文責;平野龍平
コメント