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COREZOコレゾ 「当主からのご恩に報いたい一心で 気配りを絶やさず、社業を盛り立て 正保2(1645)年創業の伝統を次代に引き継ぐ 老舗八丁味噌蔵『番頭』役の鑑」 賞
西尾 孝志(にしお たかし)さん/株式会社カクキュー八丁味噌 常務取締役
プロフィール
京都府宇治市出身
中学1年の時、父の転勤で愛知県岡崎市に
33歳の時、合資会社八丁味噌に入社、営業部、本社事務、観光部の立ち上げを経て、
本社より独立した株式会社カクキュー八丁味噌 常務取締役に就任
カクキュー八丁味噌
(爆笑!)西尾常務のカクキュー入社秘話
西尾さんは、カクキューさんの営業にも関わっておられるので、いろんなところでお目に掛かり、個人的に何度もお酒もご一緒していた。
西尾さんは、着物や宝石の訪問販売をしておられたのだが、土日もない仕事だったので、奥様からの要望もあって転職しようと、今のハローワークで、「カクキュー」さんの隣にある「まるや八丁味噌」さんの求人を見つけ、履歴書を持って出向いたところ、「当社では募集していません」と云われた。
それもそのはず、当時、西尾さんは、岡崎市には、八丁味噌の会社が「カクキュー」さんと「まるや八丁味噌」さんが隣り合って2社あるのに、1社しかない、と思い込んでいて、先に目に入った「カクキュー」さんを「まるや八丁味噌」さんだと勘違いして訪ねてしまったのだ。
その時、履歴書をご覧になられた当時の専務から、社内で検討するからちょっと待っていてください、と云われてそのまま帰宅し、後日、面接を受け、「カクキュー」さんに就職した、と云うお笑い武勇伝の持ち主。
味噌蔵見学の観光営業
八丁味噌の営業、本社事務を経て、会社を挙げて、味噌蔵見学(産業観光)に力を入れることになって、その営業職として西尾さんに声が掛かった。
最初は何をすれば良いかも分からず、地方の宿泊施設や土産物店他、観光施設の旅行会社への営業を代行する、大阪の案内所を紹介してもらい、同行セールスを開始した。旅行会社への営業の仕事がどう云うものかある程度わかった時点で、人口も旅行会社も多い東京を営業先にして、一人で回るようになり、徐々に団体が入ってきて、この仕事も楽しくなっていった、とおっしゃる。
工場見学の団体も順調に増えていき、工場見学の後、試食コーナーと購買店というスタイルが長らく続いたが、旅行会社からは、「昼食も一緒にできたら良いのに」と云う声を聞くようになり、2004年、食事処 久右衛門を新設し、2017年、フードコート「岡崎カクキュー八丁村」に拡大していった。
最高の味噌カツを目指して
フードコートには、地元他の飲食店3店にテナントとして入ってもらっていたのだが、諸事情により、コロナ禍前に直営で営業することになり、八丁味噌蔵の飲食店には、「味噌煮込みうどん」だけでなく、「味噌カツ」は、なくてはならない看板商品になるだろうと確信し、会合等で顔を合わせていた、ほうろく菜種油の杉崎さんといさむポークの磯貝さんにお願いして、協力してもらえることになった。
最高の豚を最高の油で揚げて、カクキューさんの味噌ダレをかけたら、これ以上の味噌カツはないだろう。しかし、良い原材料を使うと原価率が上がるが、どうしてもこの最高の組み合わせでやりたい、と原価計算はしっかりやりながら、なんとか手頃な販売価格に抑えて、2022年5月、販売を開始したところ、大ヒット商品になった。
当初、社内では反対する声もあったが、西尾さんは、肉を切ったり、揚げたり、ウエイターまで率先してやり、徐々に売り上げも上がってきて、協力も得られるようになった。まだ、コロナ禍も明けておらず、売り上げも厳しかった中、「味噌カツ」をメニューに加えて良かった、とおっしゃる。
老舗の番頭役の気配り
西尾さんに今回の取材をお願いした際、早川副社長の取材の方を先に、と伺い、早川副社長にはしばらくお目に掛かっていなかったこともあり、副社長に就任されていたことを存じ上げず、失礼を詫びて、早川副社長にも取材をさせていただいた。
正保2(1645)年創業の老舗八丁味噌蔵、創業家が代々世襲し、当主が19代、20代と続く歴史と伝統がある企業で、「番頭」役を務めてこられた西尾さん、気配りが流石だな、と感心した。
ある年の11月、工場見学の営業が絶好調で、月間500台、1日最大105台と云うバスが来て、過去最高の業績を上げたのだが、駐車場が足らなくなり、いろんな駐車場を探しても手当がつかず、近隣からも苦情が出て大問題になり、社内からも批判が起こって観光事業の責任者だった西尾さんは引責辞職も覚悟されたそうだ。
その時、「この厳しい業績の中、借入しなくても冬のボーナスを支給できたのは、これだけの数字を上げてくれたおかげだ」と、早川社長が西尾さんを擁護し、その場を収めてくださった。その時のご恩に報いたいという一心で仕事に取り組んでいる、とおっしゃる。
早川社長の著書「カクキュー八丁味噌の今昔」には、創業以来、決して順風満帆だったわけではなく、何度も存亡の危機に直面し、都度、その困難を乗り越えるために尽力した番頭さん役の方々の名前が挙げられている。代々、番頭さんをはじめ従業員の皆さんを大切にして、しっかりとした信頼関係を築いてこられたからこそ、380年も続く老舗企業の今がある、と拝察する。
西尾さんは、早川副社長が社長に就任されるまでには、次の代の「番頭」役を育てられることだろう。
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