井出 行俊(いで ゆきとし)さん/最高においしい牛乳「いでぼく」

COREZOコレゾ「全責任を負って、臭わないピッカピカの牛舎から絶対の自信がある最高の牛乳を生産し、自分で価値を決めて販売する、孤高の酪農経営者」賞

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井出 行俊(いで ゆきとし)さん

井出 俊輔(いで しゅんすけ)さん

プロフィール

静岡県富士宮市

いでぼくグループ 代表

ジャンル

食づくり

牛乳および乳製品の生産・加工・販売

経歴・実績

受賞者のご紹介

「いでぼく」グループは、「井出種畜牧場」が前身で、豚の種畜と酪農から、酪農専業に転じ、徹底した衛生管理から生産できる高品質生乳に拘り、主に高速道路のサービスエリアを中心に、牛乳、ヨーグルト、アイス、ジェラート他乳加工製品の直販ルートを構築し、安全、安心、高品質の上、その圧倒的な美味しさから、年々、「いでぼく」ファンを増やし続けておられる。

さらに、自社で製造した堆肥を提供し、地元の農家が生産した野菜を「いでぼく認証野菜」として販売するなど、地域ぐるみで地場産品のブランド化を推進しておられるという。

筆者は牛乳が苦手で、日常的に飲む習慣がなく、全く興味がなかったのだが、道畑センセや他の方々から、「いでぼく」さん、「いでぼく」さんと、ミョーに耳に残る固有名詞を度々聞いていて、気にはなっていた。

その道畑センセとエイブルデザインの土屋会長さまが富士山の裾野に筆者を訪ねて下さった折に、その「いでぼく」さんにも訪問されると伺って同行させて頂くことにした。

「いでぼく」さんは、静岡県富士宮市の富士山の裾野にあり、富士五湖からだと小一時間で行けるところにある。ちなみに「いでぼく」という名称は、「井出種畜牧場」から、近所の方々に「いでぼく」さんと呼ばれていたことに因んでいるそうである。

臭わない牛舎

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着いて早々、牛舎を見に行くと、ホルスタイン種、ジャージー種に加えて、日本では数少ないと云われるブラウンスイス種の3種が飼われているのだが、驚く事に、臭わないのである。

「いでぼく」の敷地内にあるチーズ&ピザショップ「大地」でお待ちしていると、一世を風靡した某プロゴルファー3兄弟のような風体の代表の井出行俊さんが満面の笑みで現れた。

ご挨拶もそこそこに、

―どうして牛舎が臭わないのですか?

牛の餌

「牛はね、きれい好きだからさ、いつも掃除をして清潔に保っているのもあるけど、餌だね、餌。」

―餌っていうのは?

「うん、そう、日本人に体臭が少なかったのは、食事の中心が野菜だったからで、牛にはご存知のように胃が4つある。それは、牧草、いわゆる草ね、そんなのを食べてきたから進化の過程で、4つも胃ができて、反芻して消化してきたわけ。」

「でもさ、今は、効率よく搾乳するために、穀物やサプリメントと称して油脂を与えると、胃なんて4つも要らなくて、一気に腸まで届くから、原価を抑えて、効率よく生乳や肉を生産ができる。」

「でも、そもそも、なんで牛に胃が4つあるかというと、草を食べて生きていけるように、1回胃に入れて、反芻して、噛み砕いて、胃に入れて、反芻して、を繰り返して、草の繊維をアンモニア、窒素、たんぱく質なんかに変えて体内に吸収する構造になっている。」

「それなのに、穀物をうんと与えたら、胃は100%動かないよね?人間が栄養ドリンクを飲んでいるようなもんだ。そんなことを毎日やってると、本物の野菜そのものを食べてもそれに含まれるビタミンとか鉄分とかミネラルとかを吸収できる能力がなくなるよね?」

「それと同じで、そんな餌ばかりやり続けていると牛の胃の中に住んで消化を助ける微生物も減って、胃の中に熱を持っちゃう。そうしないためには、穀物を減らして、できるだけ良質の繊維質で牛を育てること。そうすれば、微生物は自然に増えて、胃も100%働いて、完全に消化したいいウンチが出るから、熱を持って酪酸発酵したような嫌な臭いも少なくなる。」

「牛の胃は大きな発酵槽みたいなもんだから、仔牛の時からそういう風に胃の中の微生物も一緒に育てないとそうはならないんだね。」

牧草と経済効率

「でね、経済効果で云うと、今、穀物は55円/kgぐらいだけど、良質の乾燥牧草は65~75円/kg、穀物1kgで摂れる栄養価を良質の乾燥牧草で摂るには5kg以上やらなければならない。」

―牧草だけで育てると餌の原価としては6~7倍かかるってことですね?

「そういうこと。今度は、5kgの餌を喰わせられますか、って問題が出てくる。それを喰えるだけの微生物を胃の中につくってやらなきゃならないけど、経営としての経済効果は悪くなる。それをやるには、牛乳を通常より高く売ることを考えないといけない。」

「ウチの場合だと、普通の酪農家より、コストが2割余計に掛かっているから、通常の乳価より2割高く売れればいいんだけど、実は、その2割が普通の酪農家の利益で、その2割がなくなると、儲けは0になっちゃう。要するに、例えば、乳価が100円だったとすると、110円に1割上がるだけでも、フツーの酪農家ならまともな経営ができる。」

乳価とは?

「生乳は、農協があって、経済連があって、それから乳業メーカーに行くわけ、極端な話、酪農家は孫請けなんですよ。皆さんが飲む牛乳の孫請けの仕事をやっているわけだから、自分で自分の生乳の値段を決めらんないんだよね。」

「日本の酪農家は、今のTPPの問題も含めて、計算のできる経営をやりたいのに、米価は既に解除されたけど、乳価と云うものは酪農家の経営を安定をさせると云いながら、その実、邪魔をしているんですよ。」

牧草にも硝酸態窒素

「いい牛乳を生産するには、健康な牛を育てなければならないでしょ?そのためには、人間と同じで、食べ物が大事だから、ウチは、牧草にもこだわっていて、自分の目で確かめた信頼できる良質なオーストラリア産のを使っているけど、硝酸態窒素の含有量を定期的に調べていて、取り決めた量より多ければ、全量、突き返している。」

みそも〇〇も一緒にしたんじゃ意味がなくなる

「でもね、ウチが酪農専業になってから、同業者がウチに見学に来て、アンタとこがいくらいい牛乳を搾ったって、他所んとこの牛乳と一緒にしたんじゃ、意味ねーじゃん、って云われたんだね。」

「というのは、ウチのように牛を清潔に育てて、衛生に配慮して搾乳しても、農協がタンクローリーで集めに来て、他のところの生乳と一緒になって、そこに糞尿が1滴でも混じっていたら、汚染されちまって、ウチの努力も何も水の泡ってこと。」

「消費者云々という前に、まずは自分の意識の問題なんだけどね。食品と云うものをどう考えるかということ。搾乳する牛を糞尿だらけにするっているのは、意識が低いから、そういうことが平気でできちゃう。実際、牛のまだら模様もなんだかわからないぐらいにまみれちゃってるところが多いよ。」

牛はきれい好き

―牛は嫌がらないのですか?

「牛はきれい好きですよ。イヤに決まってるじゃない?でも、与えられた環境だから仕方がない。要は、○朝鮮にいるようなものだから、飼い主には逆らえないんだよ。」

衛生的な搾乳

―衛生的に搾乳するには?

「もちろん牛舎を清潔に保つのが第一だけど、ウチでは、搾乳前に殺菌水で洗浄したあと、殺菌用ウェットティシュで乳頭の先をひとつひとつ人の手で丁寧に拭いてから機械にかける。殺菌水を使ってそんなことしてる酪農家は他にはいないと思うよ。」

―普通はどうやるのですか?

「パーラーっていう自動で搾乳する機械、要するにロボットを使っているところもありますよ。シャワーみたいなので洗浄して、搾乳機を取り付けて、そんなのを自動でやるんですよ。見た目はカッコいいですよ。でも、どんなに高価で立派な機械でも、洗浄中に飛び散って乳頭に付いた汚物までは除去できませんよ。最後は人が目視して、指先できれいに拭いてやらないと…。人の目や手に勝るものはないですよ。」

日本の農業にハイテクが必要か?

「日本において、農業にハイテクが必要かどうなのかってことだよね。808って工場生産する水耕栽培のような野菜があるけど、野菜は太陽と土の中の微生物で育つのに、あんなものはCO2を出すだけで、野菜だなんて、云われたくねえぇよなぁ。」

「日本は農耕民族で、弥生時代から土を耕して循環型の農耕をしてきた訳じゃない?みそも醤油も微生物の力を借りて作った伝統的な発酵食品はそんな生活から生まれたんでしょ?日本には水もいい土もあるんだから、ああいうものは、中東とかアフリカのような砂漠地帯で耕作できないところでも野菜を食べれるようにするものであって、耕作放棄地がたくさんある今の日本で何をバカなことをやってんだ、って言いたいよ。」

畑を潰すな!

―耕作放棄地で大規模なソーラーパネル発電をやってるところがありますが、ヒ素なんかの猛毒が含まれているらしいのに、寿命が尽きた後、どう処理するかなんて、全く考えてませんよね?

「そうだよ。屋根に置け、畑を潰すなよ。で、処分料はどうすんだ?きっと、そのまま放置されて、土がダメになり、環境汚染が進むんだよ。」

「そういうことも含めて、親父の代からそうなんだけど、家畜は清潔な環境で育てるし、牛乳は衛生的にちゃんとした形で搾るってことをしてきた。プロなんだから、自分の孫子に飲ませても、誰が飲んでもさ、牛舎から搾ってきたのを安心して飲める牛乳をつくんなくっちゃなんない。」

売れるものをつくしかない

「自分が作って出荷する野菜を孫子にそのまま食べさせられるの?って。本来はそうでしょ?でも、そういう野菜を作りたくっても、今は、消費者がそれを認めない世の中になってしまって、売れるものをつくしかないということになっちまったんだ。」

「だから、消費者には農薬と化学肥料をたっぷりとやった野菜を作り、自分たちや孫に食べさせる野菜はそんなのをやらないで別に作る。それは消費者がそうさせているんだから仕方がない。」

酪農の現状

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「今の酪農家っていうのは、100頭いたなら、1/3は太った肉牛の予備軍、1/3はバランスのいい牛、1/3は最高に搾乳できる牛。それは何でかというと、搾乳量が減ってくると太らせて肉牛として売るの。太らせると肝臓が脂肪肝になって、きれいな血液が循環しなくなるので、ほろ苦い牛乳が出るようになる。そうすると、1/3は不味い牛乳が混じることになるんで、全体として牛乳が不味くなる。」

「ウチは、見てもらえばわかるけど、太ってもいないし、痩せてもいない、コンディションのいい牛ばかりなんだけど、他の酪農家に迷惑がかかっちゃうから、声を大にしては言わない。」

乳房炎の膿って?

「でもね、せめて、せめてだよ、きれいな牛乳、質のいい牛乳を搾る努力はしようよ、乳房炎になって膿が混じった牛乳は捨てようよ、とは言いたい。」

―えっ?乳房炎の膿って?

「牛床、要するに牛の寝床が汚染されていると、搾乳時にも汚染されるし、特に夏場は、大腸菌が乳腺に入って乳房炎になる可能性が高くなる。それに罹ると、牛の乳房で白血球が戦って、その菌の死骸とかが膿になって、搾れば、乳と一緒に出てくるってこと。だから、牛舎、牛床を清潔に保つことが第一なんだよ。」

「普通は、そのまま一緒にタンクローリーで運んで、メーカーで遠心分離器にかけて、膿を飛ばしちゃう。」

―ということは、牛舎や乳房、乳首を清潔に保っていると、乳房炎に罹る可能性は低くなるし、一般に販売されている牛乳は菌を完全に除去できないでしょうから膿入りってことですか?

「そう、だから熱処理が必要になる。当然、ウチではほとんど乳房炎に罹らないけど、万が一、罹った牛が出たら、その生乳は全部捨てちゃうよ。」

他所の牛乳は飲まない

―ワタクシは好き好んで牛乳を飲まないのですが、いでぼくさんの牛乳なら飲んでみたいですね。

「オレも他所の牛乳は飲まないし、親父も家族も飲まない。ウチの女房なんて、オレが同業者のところに行って帰ってきたらすぐにわかるんだって、そこのニオイが付いてるから…。」

国民が食べる農産物を作る畑と農民をどう残すか

―賢い消費者が増えないとホンモノは残せませんね?

「今朝もニュースでTPPのことをやってたんだけど、農家のダメージを最小限に抑えるために審議委員会をつくる、って云ってる。最小限って、何をもって最小限って云うのかってこと。100あったのを70で収めるのか、50なのか、30なのか、最小限とか、少々とかは、為政者には都合のいい言葉なんだよね。」

「それに文句言うつもりもないし、どうぞご自由に、なんだけど、農家を守んなきゃ、何かあった時にどうすんの?って、大事なのは、国民が食べる農産物を作る畑と農民をどう残すかってだけでしょ?」

「富裕層、富裕層って、日本の富裕層は人口1億の内、1千万って云われているけど、中国は人口14億で2億という桁違いの富裕層がいるんで、そんなのに売ろうとしてるわけ。オレの考えは、わざわざ輸出しなくても、国内の富裕層というより、心が豊かな人に買ってもらえるようなマーケットを創ればいいだけのことだと思うよ。」

美味しいものを少量食べたいという人も増えている

―日本のGDP500兆に対して食品廃棄物が11兆というバカげた現実もありますよね?

「安いものを選んで無駄にするから、また、安くて品質が悪いものを選んで買う。安いから無駄にしてももったいないとも思わない。外食産業や中食産業もそうだよね?」

「その反面、特Aと呼ばれているお米が40種類以上になっているけど、通常10kg3千円ぐらいなのに2万円もするようなお米が売れているわけ。」

「オレは農業もやっているけど、これから農業をやっていく上で、何が大事かというと、今や、日本は高齢化社会になっちゃって、食べる量もしれているから、美味しいものを少量食べたいという人も増えているんだよね。1食1膳しか食べないなら最高の米を食べたって、しれてるでしょ?そういうことなんだよね。」

「お肉だって、霜降りより上質の赤身を食べたいって人が増えてるんだよね。乳牛の役目が終わっった廃牛は潰して、昔は学校給食にしか行かなかったのに、ウチのは旨いって、欲しがる人が増えてんだね。」

ちゃんと作れば旨いに決まってんだ

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―そりゃあ、餌と飼育環境が違いますもんね

「ちゃんと作れば旨いに決まってんの。オレたちも美味しいものを自分たちで食べたいからちゃんと作る。でも、そうして作ってこれが美味しいんだよって云っても、青虫が付いていたら消費者は味見もしないで買わない。見栄えだけで美味しくないって思っちゃう。」

「でもさ、米国産のブロッコリーなんかは、10日も20日もかけて船で運ばれてきて、日本に着いてもまだ青々してるだろ?おかしいだろ?日本のブロッコリーだったら、10日も放っておいたら黄色くなって腐ってるよ。」

死んでもドライアイスなんて要らねぇ

―輸出前に米国内では使用禁止の農薬で燻蒸処理してるんですよね?

「そうよ、スーパーはそれを勧めているんだよ。オレはいつも笑って言うんだけど、市販の人気のあるアイスクリームなんて、どれもこれ以上入れられないくらい、乳化剤や安定剤を6~7種類も添加してるんだよ。そんなのを毎日、子供に食わしていたら、アトピーにもなるさ、っていうか、毎日食ってたら、死んでもドライアイスなんて要らねぇよ。」

―その話、葬儀社の人から聞きました。真夏以外はドライアイス要らないって

「そうだよ、今の日本人、防腐剤、たんまり食ってるからね。」

種豚のブリーダー

―話は尽きないんですが、もともと豚の種畜をしておられたんですよね?

「そう、種畜と酪農を10頭。親父の時には、種豚の生産、ブリーダーだね。ブリーダーの仕事で大事なのは、まず、長く種付けできる親を育てること。それから、肉の発育のいい系統をつくること。要するに、同じ餌の量で大きく育つ系統ってこと。メスは乳頭の多い系統がいい。10個より12個の方が、たくさん子豚を育てられるし、その方が、効率がいいからだけど、そんな原種の特徴をいかによく知っているかだね。」

「三元豚って聞いたことあるでしょ?あれは、系統の離れた3系統の原種を掛け合わせて、雑種強勢を利用して3系統のいいとこ取りをした豚なんだけど、その三元豚の元になる、繁殖性の優れたランドレース種(L)と大ヨークシャー種(W)を掛け合わせた雑種豚(LW)を初めてつくったのがウチの親父なの。」

―豚のブリーダーって、農作物のF1種開発のような印象を持ちましたが…?

「その通り、でもね、今から30年前、豚が罹るOSPという病気が出たんだけど、幸か不幸か、ここ静岡県だけは出なかった。そうすると、もう県外に流通できなくなって、その上、これが牛に感染すると死んじゃうんで、豚舎の借金はまだ20年分残っていたんだけど、豚をやめて、牛だけにした。」

「両方飼ってた頃から、豚舎も牛舎もピッカピカに掃除してたよ。搾乳に掛かる時間が40分ぐらいだったけど、その前に牛を洗うのに1時間以上かけるの。毎朝だよ。オレがガキの頃からそうだったから、ごく、当たり前にやってきた。」

「親父が厳しくてね、TV見たいから、パッパって早く片付けたら、全部やり直し、オレが小学校5年ぐらいの時だよ、かわいそうでしょ?そういうことをずーっとやってきたんだ。親父は牛の経営全体で日本一取ってんですよ。やっぱ、親父は日本一なんだよね。そういう親父の元で教育されて育てられてきたから、今の自分があるんだよね。」

豚は、手を掛ければ掛けただけ高く売れる

「親父が何で豚をやってたかというと、牛乳は乳価があるんで価格は決められないけど、豚は、自分が手を掛ければ掛けただけ高く売れるからなんだよ。実際、他所のと比べて、何倍もの値段が付いていたんだからね。」

牛専業に

「オレも豚を10年ぐらいやって、チャンピオンやグランドチャンピオンを何度も取ってますよ。豚は米価や乳価みたいなのがないから、楽しいんだ。でも、牛専業になったら、静岡県で乳質も乳量でもトップを取っちゃったんだけど、乳価に縛られちゃって全然、面白くない。」

おいしい牛乳をつくって売れないはずがない

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「で、牛専業になって、5年経って、豚と同じように自分で売ろう、って思ってやり始めたの。話したら、親父にも同じ思いがあって、あっ、そ、って借金の借用書にハンコ推してくれて、当座のお金もないのを知って、農協に行って借越しのワクをつくってくれたの。」

―流通から農協を外して協力してくれるんですか?

「だって、それまでに親父の時代からそれだけの実績は積んでいたからね、農協も協力しないと損をするのは知っていますよ。」

「それが27歳の時で、近所の宅配10軒から始めて、3カ月ぐらいは、残ったのは捨てるともったいないので、近所の肉牛農家に引き取ってもらってた。」

―そこからどう広げたのですか?何か特別なことをやられたのですか?

「ん?おいしい牛乳をつくって売れないはずがないでしょ?あとは気持ちだけ。気持ち!親父にも、借金どうすんだ、って云われたけど、その時は世の中がオレを必要としなかったってことだから、諦めますけど、まだ始まったばかりでしょ、もうちょっと見てて、と云ってる内に、口コミで売れていって、豚舎の借金も残ってたけど、それも合わせて、もう、ほとんど返しましたよ。」

セガレのできが悪けりゃ、育てたオレが悪いんだ

「親父とお袋はオレの最大の理解者だし、女房も全面的に協力してくれたんで、環境は揃っていたね。」

「自分が絶対の自信があることをやってんだから、ウンチクも何にもいらねぇ。それが認めてもらえなければ終わるだけだよ。皆んながオレに云うの、マケーティングがどうのこうのだとか、いでぼくのネーミングがどうのこうのだとか、うるせーんだよ、ね?」

「今のオレがあるのは、育ててくれた親父とお袋のおかげだね。オレは生まれた頃は、今より、もっと可愛いくて、風貌もよくて、いい子だったんだよ、ハハハハ。でも、これは、親父の口癖だけど、コイツのできが悪けりゃ、育てたオレが悪いんだ、って。それが親父の持論なんだ。だからオレもセガレをそう育ててきたし、同じように思ってるよ。」

自分の価値を自分で決めることをやりたかった

「親父が豚のブリーダーをやっていたのを見てきたから、オレも自分の価値を自分で決めることをやりたかったのが一番だよね。他人さまに価値を決めてもらうような下請けはやりたくなかった。下請けは、どこまで行っても下請けだからね。今は、スーパーでも売っているけど、オレが元受で、スーパーの方か下請けだからね。」

「乳牛と云うのは、寿命が10~15年あって、その間に1年サイクルで種付けして、搾乳して、2か月休ませて、お産をさせて、種付けして、という繰り返し。生産しながら、次のことを家畜でやっているのは、この乳牛だけなんだよ。肉牛や豚、ブロイラーは育ててしまえば、出荷して終わりでしょ?」

最高の牛乳を生産して、全責任を負って、自分で販売する

「乳を搾りながら、種付け、お産もしなくちゃならないから、大変だし、観察力も養わなきゃなんない。それで、自分がこれしかないという絶対の自信がある最高の牛乳を生産して、全責任を負って、自分で販売する。下請けをやっていたら責任も薄い代わりに利益も薄いってこと。そんなのはやりたくないね。」

COREZO(コレゾ)賞の趣旨をご説明し、受賞をお願いしたところ、

「オレでいいの?えっ、息子も?いいよ、ハハハハ。」

息子さんの俊輔さんは、株式会社いでぼくの代表取締役として、新しい販路の開拓、乳加工製品の開発などに大活躍しておられる。

COREZOコレゾ「全責任を負って、臭わないピッカピカの牛舎から絶対の自信がある最高の牛乳を生産し、自分で価値を決めて販売する、孤高の酪農経営者」である。

初稿;2015.11.25.

最終取材;2015.11.

最終更新;2015.11.25.

文責;平野 龍平

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