中島 孝行(なかしま たかゆき)さん/建築士・八女町並みデザイン研究会

COREZOコレゾ「八女福島の伝統様式・構法を習得し、継承していくため、全国の作事方と連携する建築士」賞

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中島 孝行(なかしま たかゆき)さん

プロフィール

福岡県八女市緒玉出身、在住

NPO法人 八女町並みデザイン研究会 理事長

八女ふるさと塾 代表世話人

中島孝行アトリエ 代表

ジャンル

住まいづくり

地域振興

まちおこし

町家再生・町並み保全

経歴・実績

1994年 八女ふるさと塾 設立

1995年 国土交通省「街なみ環境保全事業」による整備事業開始

1997年 造り酒屋跡を復元整備した「八女市横町町家交流館」開館

2000年 地元建築士らによる「八女町並みデザイン研究会」発足

2001年 「八女市文化的景観条例」制定、「八女市文化的景観審議会」発足

2002年 八女市福島地区が国の60番目となる「重要伝統的建造物保存地区」に選出

2003年 八女の文化の継承と発信を活性化する「八女文化振興機構」発足

2003年 空き町家の紹介等に取り組む「NPO法人八女町家再生応援団」発足

動画 COREZOコレゾチャンネル

中島 孝行(なかしま たかゆき)さん/建築士・八女町並みデザイン研究会(その1)「重伝建地区での町家再生の取組」

中島 孝行(なかしま たかゆき)さん/建築士・八女町並みデザイン研究会 (その2)「建築士から見た八女福島の魅力」

受賞者のご紹介

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中島 孝行(なかしま たかゆき)さんは、福岡県八女市の町家と町並の再生、再活用に取り組む建築士。そのソフト面を「NPO法人八女町家再生応援団」代表の北島 力(きたじま つとむ)さんが担い、ハード面を「NPO法人八女町並みデザイン研究会」理事長の中島さんが担って、2人3脚で町家と町並の再生、再活用に尽力して来られた。

2013年10月、北島さんのご紹介で、中島さんにお目に掛かり、八女市福島地区にある「横町町家交流館」でお話を伺った。

町家と町並の再生、再活用の事業に取り組むきっかけ

ー 元々、建築士を目指されていたのですか?

「いいえ、美術系を志していたのですが、いろいろありまして、建築に進みました。」

ー 木造伝統建築を勉強されていたのですか?

「いいえ、一般の新建材を使った建物設計に携わっていました。」

ー では、どうして、町家と町並の再生、再活用の事業に取り組まれるようになられたのですか?

「埼玉県の川越はご存知でしょうか?西武新宿線で新宿から1時間位のところにある町ですが、その市街地に個性のある30数棟の蔵造りの建物が並ぶ一角があり、『蔵造りの町並み』と呼ばれています。」

「蔵造りは、普通、『倉』に用いられますが、川越では、一般の町家の家全体を土蔵造りにしています。黒漆喰を塗った厚い壁、大きな鬼瓦と高い棟、どっしりとした風格のある蔵造りが特徴で、あれだけ軒を連ねて残っているのは他では見られない景観だと言われています。学生時代に、自主協定で景観保全のルールを作り、町並み保存をしておられる取り組みを見学して、感銘を受けました。」

1991年の台風で大きな被害を受け、将来に危機感

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「八女福島も2002年に文化庁の『重要伝統的建造物群保存地区』に指定されましたが、川越はそれより早い、1999年に指定を受けています。」

「1991年の台風で大きな被害を受けた八女福島の町並みの将来に危機感を持った有志が集まり、1994年、『八女ふるさと塾』が発会して、まちづくりの活動を始めました。八女福島のまちづくりを担う住民組織は、当会の他に、『八女福島町並み保存会』、『NPO法人八女町並みデザイン研究会』、『NPO法人八女町家再生応援団』、『NPO法人八女文化振興機構』、『八女福島町家保存機構』等があり、八女市と協力しながら様々な活動を行っています。そして、各団体には、八女ふるさと塾の会員が重複して参加しており、当会はそれぞれの活動の情報交換の場となっています。」

「時系列が前後しますが、こうした市民の町並み保存運動は、八女市の行政を動かし、1995年には旧建設省(現国交省)の『街なみ環境整備事業』(以下、街環事業)で町家の修理・修景事業が始まり、2002年には国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、文化庁の保存修理事業(以下、伝建事業)も始まりました。」

八女福島の伝統様式や伝統構法の知恵を共有し継承していく必要性

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「しかし、初期の修理・修景事業では、建物の修復をその建物が新築当時の建築技術も知らない工務店に丸投げしたために、建物の歴史や履歴に関係なく修復作業が行なわれ、八女福島の伝統様式に沿わない事例も少なくはなく、地元住民も福島らしさがないと意識するようになりました。」

「補助事業による修理・修景事業について地元の建築士及び工務店等が八女福島の伝統様式や伝統構法の知恵を共有し継承していく必要性を痛感し、これではイカンと、当時の市の担当者であった北島さんと共に、先進地視察や研修会等に参加し、他地区の町並み保存の取組みや体制づくりを参考にして、福岡県建築士会八女支部の会員に呼びかけ、2000年に『八女福島町並みデザイン研究会』を設立し、4年後には、社会貢献団体としてNPOの認証を受け、名称を『八女町並みデザイン研究会』と改称しました。また、2009年には、同じ八女市の黒木の町並みが重要伝統的建造物群保存地区に選定されたことから、黒木町居住の会員を拡大しながら活動しています。」

『八女町並みデザイン研究会』の活動とは?

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ー 具体的にどのような活動をしておられるのですか?

「学校と連携して地元福島小学校の6年生を対象に町並みに関する出前授業及び体験学習会を実施しています。地域の未来を担う子どもたちに町並みや伝統的な建造物の歴史・文化を継承していくことが重要と認識し、子どもたちには郷土の歴史文化への誇りと愛着を持ってもらい、この中から、伝統構法にたずさわる職人等を目指す子供が出てくれればと期待しています。」

「それから、伝統構法の技術習得として修理・修景事業の現場を利用しての学習会や他地区の技術者と交流を目的に見学会や研修会に参加しています。設計担当者会では伝統構法の設計単価(代価)の検討会や痕跡調査・履歴調査の学習会も行っています。」

「また、地元住民向けの無料相談や修理・修景後の見学会等も定期的に行い、修理・修景事業や伝統的な建造物の維持の普及活動、市からの要請された伝統的な建造物の家屋調査(履歴調査)活動も行っています。」

実際の修理、修景事業とは?

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ー 実際の修理、修景事業はどのように実施しておられるのですか?

「八女市では、伝建事業、街環事業の補助事業として年に9~10棟の修理・修景事業を行っています。その設計監理と施工は別々に会員が担当します。設計監理の担当は会員の中から希望者を募り、理事会で決め、施工の担当も希望を募り、1物件、3~4施工者による競争入札で施主が選びます。」

「特に、設計においては、施主や市担当者と十分な協議を行い、また、大学の専門家(伝建審議会の学識経験者)の指導も受けながら、入念に時間をかけて現況調査・履歴調査を行い、実施します。また、修理・修景した建造物のデータベース化も少しずつですが進めています。」

伝建地区の修復・再生事業の難しさとは?

「建物の歴史や履歴をよく調べて、できる限り、その建物が新築当時の建築技術で修復・再生することが重要なのですが、初期には、外壁にべんがらや柿渋ではなく、よく似た色のキ◯ラデ◯ール等の化学塗料を安易に使用していたのです。技術は復活できるものもあるのですが、明治初期まで使われていた和釘等はもう手に入りません。」

具体的に修復に必要な金額は?

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「一般的な事例で説明すると、構造、外壁については、国が65%、県と市で10%負担して、最大960万円の補助が出ますので、個人の負担は個人240万円程になります。それに内装設備工事が平均すると約1000万円ですね。」

中島さんが担う仕事とは?

「私の仕事は、主に施主さんの説得ですね。調査をして、ご希望を伺うのですが、あれもこれもとお施主さんの要望を取り入れて行くと、最終見積りは、当初の見積りから、大抵、5〜10%アップしてしまいます。そこで、最初に、どれだけ出せますか?とストレートに尋ねて、当初の見積りからのアップが5%以内に収まるように心掛けています。」

八女に残っている職人さんとその技術の継承

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ー 八女福島の伝統様式や伝統構法の知恵や技術の習得、伝承は進んでいるのですか?

「はい、今では、設計士15、工務店36、行政マン2で、正会員が53名になり、55名の職人の育成にも取り組んでいます。」

ー まだ、八女には、職人さんとその技術は残っているのですか?

「大工さん、左官屋さんは、大丈夫ですね。土壁を塗る技術は残っていましたが、施工がなくなって、知識や技術の途絶えていた外壁塗装等に使う、べんがら(酸化鉄赤の顔料、耐候性が高い)、柿渋(渋柿の青実を醗酵、タンニンが主成分で防腐・防水性が高い)塗りの技術は復活しました。」

「伝建地区では外側の木製建具がほぼ必須ですが、建具屋さんも5〜6軒残っています。曳家さんは2軒の内、1軒が廃業するというので、どこかの工務店さんでの技術の継承が必要でしょう。ただ、屋根瓦は、土葺(つちふき)ができる職人、技術が残っておらず、費用が安く、外観上の差異もほとんど無いため、屋根下地に瓦桟を打ち、これに瓦を引っ掛けて葺く引っ掛け葺きを採用しています。」

再生対象の町家と修復済みの町家の軒数は?

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「200〜250棟ある内の約100軒の修復・再生は終えています。しかし、残りの内、約20軒が空き家になっており、持ち主と連絡が取れない物件もあります。」

ー もう100棟もされたんですね。それはスゴいことですね。対象の町家の修復・再生が全て済んでしまったら?

「きちんと修復・再生をした町家は、修復後、50年は持つと思いますが、補修や小修繕、メンテナンス等の細かい仕事はずっとあると思います。伝統構法の素晴らしい利点のひとつは修理可能だということです。50年後の大規模修理に備えて、修復・再生工事中は、次の修復の参考資料になるよう、都度、写真を撮って、データベース化も図っています。最近では、一般の人も興味を持ち始めたので、伝統工法の住宅を売り出していきたいと考えています。」

現在の建築基準法や確認申請がネックでは?

「その通りです。構造計算に費用が掛かります。注文住宅では、個々に費用が掛かるので、モジュール化をして、構造計算を使い廻せるようにパタン化するような方法も検討しなければならないでしょう。一般住宅で、県産材を使うと100万円の補助が出る制度もあるのですが…。」

ー それなら、修復・再生した町家の方がずっとお値打ち感がありませんか?まず、伝統工法を検査できる検査員から育てなければならない、と富山の棟梁がおっしゃってました。

「そうですね・・・。」

『作事組全国協議会』とは?

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ー 現状の問題点と今後の抱負をお聞かせください

「年々、修理技術は向上していますが、まだ、充分ではありません。痕跡・履歴調査の充実を計り、文化財として、より正確な修理を目指すと共に失われつつある伝統の技も再生し、次代に継承するシステムづくりや職人の育成も急務です。」

「また、八女福島と黒木の町家等にとどまらず、地域に現存する多くの伝統的な建造物の保存再生をも考慮した活動も展開したいと思っています。全国的にも、技術の継承・職人の育成については深刻な問題で、京都の作事組さんや姫路の町家再生塾さんと共に呼掛け人となり、『作事組全国協議会』(伝統工法の技術・技能者の集団としての全国組織)を2009年に発会し、同じ問題を抱える全国の皆さんと伝統技術の課題を少しでも克服しようと連携を深めています。」

「それと旧八女郡役場という大物がこの八女福島には残っています。明治20(1887)年代に建てられたと推定される天井高3,192mmの大型の建築物です。1996年に空き家になってから、荒廃が進んでおり、1日も早く修復をして、八女福島の文化を展示・紹介する学習施設や町並みを訪れる人と地元住民の交流施設、休憩所、集会施設、大空間を利用してのコンサート等に活用したいと思っています。」

COREZO(コレゾ)賞・財団の趣旨をご説明し、受賞のお願いをしたところ、ご承諾下さった。

今年(2013)年、中島さんと北村さんを主役に、行政、持ち主との交渉、借り主との折衝、建物の修復・再生の過程、地域住民との軋轢等、さまざまな角度から、町並み保存に奮闘する姿を描いたドキュメンタリー映画「まちや紳士録」が完成し、公開された。

翌日、北村さんに上映会に連れて行って頂き、拝見したが、福岡県八女発で、これからの日本にとって大切な何かが静かに拡がりつつあるのを感じた。

 

COREZO(コレゾ)「八女福島の伝統様式・構法を習得し、継承していくため、全国の作事方と連携する建築士」である。

 

後日談1.第2回2014年度COREZO(コレゾ)賞表彰式

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九州から遠路はるばるご出席下さった

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 翌日の小布施まちづくりフォーラムにもご参加下さった

COREZO (コレゾ)賞 事務局

初稿;2013.12.19.

最終取材;2014.12.

最終更新;2015.03.18.

文責;平野 龍平

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