
目次
COREZO賞の今後

COREZO賞を始めた経緯
私自身、美味しいものを食べるのは大好きですが、消費地である都市部で暮らしていると、お金さえ払えば大抵のものは手に入るので、長い間、生産現場や生産者のことは何も顧みないで、生活してきました。
消費を担当する「便利な都会」と生産を担当する「不便な地方」
当時、20年以上、旅行業に携わっていて、仕事や添乗で、日本全国、海外も何十カ国と巡っていたのですが、いつも宿泊はホテルや旅館、知り合ったり、お付き合いをするのも観光関連の方たちがばかりで観光地の表層しか見ていませんでした。そんな私が旅行業を離れ、地方で生活されている方々と交流する旅を通じて、その暮らしの奥に潜む「圧倒的な価値」と「不都合な真実」に気付きました。
お金さえ払えば大抵のものは手に入ると思い込んでいましたが、生産を担当する「不便な地方」にこそ、お金では買えない本当に美味しいものがあり、古来、資源に乏しかった日本で、自然に寄り添いながら、先人達が創意工夫をして進化させてきた伝統文化、産業、暮らしの知恵や技他が、それらを育んできた地域と共に消滅の危機にあります。
「農家のネギごはん」が教えてくれたこと

ある農家で食べさせてもらった、炊きたてのご飯に刻みネギを載せ、醤油を回しかけただけの「ネギごはん」が衝撃的に旨かったのですが、採りたてなのはもちろん、「家族が食べる農作物には、農薬も化学肥料も使わない」とのこと。決められた農薬を決められた分量と回数散布していないと農協に出荷できないため、家族が食べる農作物は別に耕作して、できる限り使わないそうで、地方の常識は都会の非常識であったり、その逆もまた然りで、都会で暮らしているだけでは決して見えない、この「常識のズレ」の中に、私たちが守るべき「大切なもの・こと」が隠されていました。
ホンモノの醤油とスーパーの特売で水より安い醤油は似て非なるもの

日本には、いまも1,000社以上の醤油メーカーがあると云われていますが、それにもかかわらず、大手流通チェーンの棚に並ぶのは、大手メーカーやプライベートブランドの商品ばかり。売られている食品は、日本全国どこでも同じ商品になり、特売では、醤油が水より安く売られていることもあります。

木桶で仕込む再仕込醤油は、砕いていない丸大豆と小麦、塩のみが原材料で、仕込木桶や仕込蔵に棲みついた何10種類もの菌も参加する自然醗酵で醸造され、4年の年月が掛かるものもある一方で、工業的に大量生産される醤油は、脱脂加工大豆を原料に効率的な製法により約3ヵ月間で醸造されます。どちらを選ぶかは、お調べになればすぐにわかることで、その方のモノサシ次第です。
ホンモノを選ぶ権利と自由
私たちは、知らないうちにホンモノを選ぶ権利と自由を失い、ホンモノを知らないままの人が増え、大量生産品は使い捨てられ、食品廃棄物は年間数兆円規模にのぼるとも云われていますが、水より安い醤油を廃棄しても惜しくはないのでしょう。
「どこか、おかしくありませんか?」
経済性、効率、利便性、快適性…。それらが優先され、工業化・規格化・画一化が進み、安く、便利で、誰もが買える商品が増え、それは確かに、私たち消費者に大きな恩恵をもたらしました。しかし、その一方で、原材料を吟味し、手間ひまを惜しまず、真面目につくられてきた「ホンモノ」は、大量生産品に押され、今、絶滅の危機に瀕しています。
ホンモノは、ホンモノのつくり手・担い手にしかつくれません。しかし、その価値を理解し、買い支える人がいなければ、どんなに素晴らしい仕事や活動も、続けることはできません。
ホンモノを選ぶ権利と自由を守り、その選択肢を、子や孫の世代に引き継ぎたい、世間一般の皆さんがCOREZOホンモノを再認識できる機会となり、COREZOホンモノの活動をされている方々が続けることができるようにしたい、と願い、勝手に始めたのがCOREZO賞です。
「権威なし」、「名誉なし」、「賞金なし」の三拍子揃った「三なし賞」
COREZO賞には、「権威」も「名誉」も「賞金」もありません。ただ、真っ当なことを、ごく当たり前に続けてきたつくり手・担い手の皆さんに光を当て、その生きざまが生み出した「ホンモノ」という選択肢を、未来へ手渡していくことを目的としています。
賞の選考に基準などありません。棚田を再生する人、種を護る人、伝統の技を繋ぐ人……、受賞者の皆さんの「考え方」や「行動」には、私たちが忘れていたこと、気付いていなかったこと、これからを生きるための知恵が溢れています。そんな方々の想いや行動を採点し、数値化なんてできるはずもなく、賞の価値は、受賞者の皆さんの「顔ぶれ」をご覧いただければご理解いただけるでしょう。
COREZO賞は、主宰者である私自身が現場へ足を運び、観て、聴いて、「これぞホンモノ!」と感心し、心が震えた感動、「よくぞ続けてくださいました」という感謝の気持ち、そして「これからも続けてください」という心からのエールを勝手に送らせていただいてるだけです。
ヘンなおっさんが始めた、ワケの分からない、COREZO賞のほんの短い歴史
COREZO賞を始めた頃、「なんやこのヘンなおっさんは?」「何しに来てん?」という反応がほとんどでした。それはそうですよね、その業界のことも、その職種のこともほとんど知らないおっさんが訪ねてきて、アレコレ聞くのですから、怪しいこと、訝しいこと、この上ありません。
第1回目は、ほとんどがそれまでの人脈を使った受賞者の皆さんでしたが、約70名に受賞していただいたので、自分の人脈は使い果たしてしまった訳です。でも、世の中、面白いもので、第1回目に受賞してくださった方々の中には、こんなワケの分からない賞を面白がってくださって、「こんな人が居るよ」、とか、「この人どう?」とご紹介くださることが増えて、受賞者の皆さんが受賞者=被害者と揶揄される「COREZO被害者」の輪が広がっていきました。
とにかく、第1回目は、COREZO最大の被害者である、開催地の大平克之さん、大平修司さん親子に会場のご提供の他、多大なご協力をいただきましたが、受賞者の皆さんの宿泊費、祝賀懇親会費、記念品費はこちらで負担する予定でした。ところが、記念品は、製作者の山田脩二さんが寄贈してくださり、受賞者の皆さんの中には、アンタみたいなヘンなおっさんに出してもらうのは気持ちが悪い、と、当日、受賞者ご自身がご祝儀を包んでくださったり、後日、宿泊費、懇親会費分を返金してくださる方が何人もいらっしゃって、これに調子こいて、第2回目以降、旅費交通費自腹、祝賀懇親会費自腹、記念品費自腹、と、「三なし賞」の上に、受賞者が「三段自腹」でご負担いただくという、とんでもない顕彰事業となりました。
おかげさまで、表彰状の作成と受賞候補者の皆さんに取材に伺う旅費他、主宰者の費用負担はポケットマネーでもなんとか賄える額となり、2025年度まで、14年間、16回も続けることができました。最初から今現在まで、COREZO賞は、被害者である、受賞者と関係者の皆さんのご協力とご支援により成り立っている顕彰事業で、感謝しかありません。
ホンモノという選択肢を残すには?

和食文化を支えてきた味噌、醤油、漬け物、日本酒などに欠かせない木桶は、戦後、酒造用だけでも100万桶以上あったものが、2010年代には1万桶弱にまで減り、製造できる会社も、ほぼ1社のみとなっていました。
そんな状況の中で、2013年には「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。
COREZO「絶滅寸前の木桶職人復活プロジェクトを成功させ、ホンモノの醤油を醸造用の木桶から造れる、世界で唯一の蔵元」賞を受賞してくださった、香川県小豆島のヤマロク醤油 代表取締役 山本 康夫(やまもと やすお)さんは、「自社の醤油は、この先も木桶で仕込む」と決心し、仲間と一緒に木桶メーカーで修行して『木桶職人復活プロジェクト』を立ち上げ、毎年、木桶に関心のある木桶職人や醤油蔵が小豆島に集まって仕込用木桶を製造することで、絶滅寸前だった仕込桶の製造や修理ができる桶職人さんが育ち、今や木桶で仕込む醤油蔵さんたちの拠り所となっています。
こうして、木桶仕込みの醤油は、次の世代まで存続できるかもしれませんが、多くの醤油蔵さんでは、仕込桶の老朽化で更新時期を迎えていて、「自分の代は、この創業110年以上のカネイワ醤油本店で木桶を使い続けるかどうかの瀬戸際で、それを決断する役目も担っていて、できるだけ良いカタチで次の代、次の未来に引き継げるよう取り組んでいきたい」とおっしゃる、有限会社カネイワ醤油本店 五代目の岩本 庄平(いわもと しょうへい)さんのような醤油蔵さんがたくさんいらっしゃって、ホンモノをつくり続けることは並大抵のことではありません。
近海一本釣り本枯節、天然真昆布、国産しゅろたわし……。いま、世の中から多くの「ホンモノ」が姿を消しつつあります。それは単なる産業の衰退ではなく、先達たちが積み重ねてきた時間と手間の価値が失われることを意味します。
ホンモノを選択する自由と権利を守り、その選択肢を子供や孫たちの世代に残すには、私たち消費者がホンモノを見極めるモノサシを持ち、選んだホンモノを適正な価格で買い支えるしかなく、この「不都合な現実」に一人でも多くの方が気付き、ご自身ができることを、できる時に、できるだけ、行動を起こすしかありません。
天然真昆布のことが気になれば、「天然真昆布」でWeb検索をすれば、山のように情報が出てきますし、例えば、COREZOが信頼する、大阪「こんぶ土居」四代目の土居 純一(どい じゅんいち)さんのようなご自身が信頼できる方を見つけ、フォローし、応援することです。
この想いを、同じモノサシを持つ方々と共有できたなら、これほど嬉しいことはありません。
COREZO賞の今後
協会設立と事業の移行
2012年、基本財産を出資して一般財団法人コレゾ財団を設立し、勝手に表彰を始めたCOREZO賞は、企業にパラサイトすることで報酬を得て、個人のポケットマネーで活動を続けて参りました。
パラサイト先企業は、定年延長の年齢を過ぎても雇用を継続してくださいましたが、とうとうお払い箱になって、活動資金源がなくなってしまい、勝手に表彰を始めたCOREZO賞ですから、どなたかの援助や支援に頼るのはお門違いですし、2024年度 第15回を最後に幕引きをするつもりでした。財団という形にしたのも、個人で拠出した基本財産を維持できなくなった時点で活動も終わる。それが、自分が勝手に始めたことへの責任であり、引き際だ、という考えからでした。
ところが、有難いことに、COREZO賞の趣旨、活動に賛同し、ご協賛、ご支援くださる企業さま、個人の皆さまが現れて、活動を継続することになり、2025年度は、和歌山県龍神温泉で開催させていただきました。

一個人の活動から受賞者と支援者の皆さんと一緒に続ける活動へ
設立以来、COREZO賞受賞者は、300名を超え、受賞者や本賞の趣旨に賛同してくださる皆さんの親睦団体としての運営を望む声も多くいただくようになりました。
一般財団法人は、基本財産の維持が必要で、また、寄付金が主な収入源となりますが、寄付金での支出は経費計上できませんし、今後、どなたかに引き継いでいただけるよう、2025年11月、基本財産や出資が不要で、会費での運営が可能な一般社団法人COREZO賞協会を設立し、同協会に一般財団法人コレゾ財団の全事業を移管して、COREZO賞顕彰事業他を継続し、同財団は解散致しました。
一般財団法人から一般社団法人に移行した理由
- 基本財産や出資が不要
- 参加型コミュニティへの移行
- 会費制による持続可能な運営
- 受賞者や支援者の皆さんも「自分たちの活動」として運営に参画いただき、この先、どなたかが引き継いでいける仕組み作りができること
これまでの財団運営へのご理解、ご支援に心より感謝すると共に、今後は、一般社団法人COREZO賞協会運営へのご協力、ご支援の程、何卒、よろしくお願い申し上げます。
ヘンがヘンを呼ぶ、ヘンな賞

日東醸造(株)の蜷川洋一さんは、なんでこのヘンなおっさんが一銭の儲けにもならんCOREZO賞の活動を続けているのか、不思議で仕方ないから、そのココロ(真意)を知りたいと、新しく設立した一般社団法人COREZO賞財団の理事も引き受けてくださっています。
表彰式にご出席くださった企業の会長さんが「自称、被害者の皆さんは、誑(たぶら)かされているのを承知の上で、全員が楽しんでいる、こんなヘンな会はない!」と、協賛してくださったり、ヘンがヘンを呼ぶというか、ヘンだからおもしろいのであって、COREZO賞受賞者の皆さんは、時流に関係なく我が道を行く、ある意味、奇特な変人・奇人であるから、真っ当なことをごく当たり前に続けておられるのだと思います。
しかも、第1回目より、元国交事務次官の岩村さまがこのヘンな賞の顧問とプレゼンターをお引き受けくださり、観光庁の現役官僚の皆さんが毎回、表彰式にご出席くださっていて、まっこと、ワケの分からない賞なのです。
今では、COREZO賞繋がりで取材に伺うことがほとんどなので、「なんやこのヘンなおっさんは?」、「何しに来てん?」と云う反応は少なくなりましたが、全ての受賞者の皆さんに共通しているのは、主宰者の平野が受賞者の現場に出向き、実際にものづくりや活動を観て、お話を伺っていることです。取材先にとっては迷惑な話でしょうが、私個人にとっては、普通は会えない方にお目に掛かり、未知のことを知る絶好の機会であり、とても有意義な時間で、ある意味、「非常に贅沢で楽しい取材行脚」なのですが、時間と労力が必要なので、このカタチをどなたかに引き継いでいただくのは、難しいかもしれません。
確かに、第2回目以降の毎年の事業運営費は、安月給のリーマンパラサイター(造語)のポケットマネーでもなんとか賄えたのですが、これを老後資金に残しておいたら、もうちょい楽な老後を迎えられたかもしれません。ただ、通常のリーマンパラサイターは、パラサイト先との縁が切れれば、そこで関わった人との縁も切れますが、普通、まず関われない、300人以上のCOREZOホンモノの方々との貴重なご縁を繋げたのは、何ものにも変えられない財産となっています。

COREZO賞をきっかけにたまたま出会って、意気投合した方々と一堂に会して一杯飲めたら楽しいだろうな、というのもCOREZOを始めたきっかけの一つでしたが、毎年、COREZO賞表彰式を開催している内に、いつの間にか、業種も職種も異なる受賞者同士がゆるやかにつながり、競い合うことも、比べることもなく、ただ、それぞれが続けてきた努力と時間に敬意を表して、想いを分かち合い、また集まれる場となっていきました。

COREZOホンモノのものづくりや活動を続けてきた受賞者の皆さんが、「これまで続けてきて良かった」と思い、「これからも続けよう」と感じてくださる、COREZO賞がそんな場であっていけたら、と願って止みません。
やれる限り、COREZO賞の活動を続けたいと思いますが、この先、主宰者がいなくなって、後継者が不在でも、どなたかが音頭を取って、受賞者の皆さんが年に1回とか、ときどき集まり、気の合いそうな友人、知人、仲間の皆さんもお連れになって、その場に居合わせた方同士が自然に言葉を交わし、意気投合して親睦を深められたら楽しいだろうし、COREZO賞がそういう場になっていけたら嬉しいですね。
もしそんな中から、またどなたかが何かを続けたくなったとしたら、それはとても幸運なことだと思います。
2026年、皆さんと一緒に運営するCOREZOの活動は東京から
最後に、丙午の2026年、表彰式の舞台は初めてのお江戸・東京です。どんな人と人の化学反応やおもしろいことが起こるのかワクワクします。一般社団法人COREZO賞協会の活動では、 COREZOホンモノの皆さんと共に、より楽しく、より深く繋がれる場を創って参ります。
東京での開催の詳細は決まり次第、随時、ご案内いたしますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。
文責;平野 龍平

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