大平 修司(おおひら しゅうじ)さん/大歩危峡まんなか

COREZOコレゾ「人こそ全てと、すぐにやるを積み重ね、大歩危とまんなか流もてなしの世界ブランド化に取り組む、地域期待の社長」賞

shuji-ohira

大平 修司(おおひら しゅうじ)さん

プロフィール

徳島県三好市山城町出身、在住

峡谷の湯宿 大歩危峡まんなか 代表取締役社長

大歩危峡観光遊船有限会社

ジャンル

地域おこし

人づくり

観光地域振興

経歴・実績

東京の方の大学(決して東京大学ではない)卒業

アウトドア用品のモンベル(東京の店舗)に3年間勤務

2005年 大歩危峡まんなか 入社

レストランまんなか1年間勤務後、ホテルに異動

大平 修司(おおひら しゅうじ)さんとCOREZO賞

ご縁があって徳島県三好市大歩危の「峡谷の湯宿 大歩危峡まんなか」さんの大平会長、大平社長には、20年以上前からお世話になっており、COREZO賞表彰式でも第1〜2回、10回、今回の15回と4回も開催してくださっている。

その経緯は、大平修司さんの専務時代をご一読ください。

大平 修司(おおひら しゅうじ)さんと楽天トラベル

今では、楽天トラベル他のOTAを利用している方は多いと思うが、楽天トラベルは、非公表ではあるが、日本のOTA取扱高では、1、2位を争っているようだ。

楽天トラベルで、徳島県 の大歩危・祖谷・剣山・吉野川地域の宿を検索すると、なんと、「峡谷の湯宿 大歩危峡まんなか」さんがTOPヒットする。

この掲載順位には、口コミ、対前年比、楽天トラベルの施策への取組み度、広告費などの要素もあるが、最も重視されるのが、集客の占有率らしい。

他社予約サイトでは、決められた情報を入力してお客様を待つのみだが、楽天トラベルでは、HTMLで自施設のトップページを構成できるため、自由度が高く、自社のオリジナルでアピールや表現ができ、また、多数の方法(無料)でお客様に自らPRできる大きな利点があるとのこと。

また、楽天独自の掲載順位のアルゴリズムがあり、楽天で売る→次月の掲載順位が上がる→露出が増える→売り上げが上がる→次月の掲載順位が上がる→露出が増える→売り上げが上がる→という他のOTAにはない好循環が得られるメリットも大きいという。

楽天トラベルアワード

「峡谷の湯宿 大歩危峡まんなか」さんは、2013年度より、「楽天トラベルアワード」を次々に受賞するようになり、2016年には、当時の最高賞である、レジャー部門四国地区ダイヤモンド賞(2024年現在はない)まで受賞された。その後、「楽天トラベルアワード」が改正されたが、毎年、「ゴールドアワード」を受賞され、通算11年連続、そして、日本の宿TOP47も7年連続でW受賞されている(2023年度時点)。

楽天トラベルアワードは、「楽天トラベル」において顕著な実績をあげ、高い評価を得られた宿泊施設に贈られる賞とのこと。

このアワード受賞目指した理由を「峡谷の湯宿 大歩危峡まんなか」社長の大平修司(おおひら しゅうじ)さんに尋ねた。

東京で修業をしていた現大平社長が家業に戻り、宿泊施設を任され、取り組んだのが一般客の集客だったが、約30室、100名収容の外観も客室も地方によくあるビジネスホテルと云う印象で、地域内の他ホテルでは、ケーブルカー利用の峡谷や山上の露天風呂をウリにするなか、そのような特色もなく、施設も老朽化が進んでいたため、清掃、接客、食事…、できるところから徹底して改善していかれた。

既存の旅行会社からの団体旅行は、料金をたたかれ、減少傾向にあったため取り扱いを縮小した一方で、OTAが台頭してネットでの個人予約が増加傾向であり、楽天トラベル営業担当の小川さんとの信頼関係が築けたこともあって、それまで主力だったOTAから「楽天トラベル」での集客に注力することにされた。

そして、他OTAでは、取扱額が評価の基本となっている中、楽天トラベルでは、最も重視されるのが集客の占有率とのことで、規模の小さな宿泊施設でも評価されることもあり、楽天トラベルのカンファレンスに出席して、楽天トラベルアワードの表彰式を間近に見た大平社長は、 従業員のモチベーションを上げるためにも受賞を目指そうと決意したそうだ。

宿泊施設と楽天トラベル担当者の関係

小川さんがおっしゃるには、カンファレンスに出席して楽天トラベルアワード受賞を目指す施設は多いが、徐々に熱が冷めていき、本気で獲ろうという施設はごく僅かだし、当時、まだ全国的に有名な観光地でなく、売り上げの立ちやすい規模でもなかったので、この地域で獲るのは厳しいことを十分説明した上で、大平社長の本気度を確認して、全従業員の前で「ひとりひとりの日々のがんばりが口コミにも現れるので、全員で獲りに行きましょう!」と、具体的なレクチャーをされたそうだ。

また、訪問の度に従業員の皆さんとの積極的なコミュニケーションを心掛けて、細かな改善点をアドバイスし、大平社長と従業員の皆さんも「すぐにやる」ことで応え、さらに日々、お客様からいただく声を毎朝礼で共有し、改善を積み重ねることで、モチベーションも上がっていった。

コメントの評価が上がるにつれ、スタッフの皆さんが自信を持っておもてなしをされるようになり、この施設で働くことに誇りのようなものも感じられるようになった、と小川さん。

そんな担当者にも恵まれ、取り組み始めて1年目の2013年にアワード銀賞を初受賞し、2016年にはその当時の最高賞であるダイヤモンド賞を受賞した。その後、制度変更があったが、結果として、2023度まで11年連続受賞しておられると云うことである。

楽天トラベルアワード受賞のメリット

利用者の立場からすると、楽天トラベル等のOTAは目的地域の宿泊施設の比較がネット上でできて便利なので、つい利用してしまうし、ポイントがもらえるので利用評価をする人も多いとのことで、2024年4月の時点で、まんなかさんの顧客の評価は4.67と、アワード受賞施設の中でも高いが、1点が3件、2点が8件あり、コメントを確認すると、それって?という内容ばかりだが、どうしてもクレーマー的な低評価は避けられないため、できるだけ評価の数を増やすことが大事で、全1,555件の評価の母数が高評価につながっているようだ。

また、アワード獲得には、具体的に当該ホテルの評価が数値化されるので、一喜一憂することもあるが、問題点がわかるため、すぐに改善可能で、スタッフ全員の励みにも繋がり、一丸となって、目標に取り組めるようになったとのこと。

楽天トラベルの取り扱い増の取組みにはそれなりの戦略と努力が必要で、アワード獲得の裏を返すと、楽天トラベルへの貢献度を評価してもらうための取組みになるのだが、一般の消費者には知る由もなく、結果として、自社サイトやその他のOTA経由の取り扱い増にもつながり、また、かつてはアワードの表彰式には従業員を順番に行かせることができた(現在は制度が変わった)のでモチベーションの維持、向上にもつながっていった。

自社で集客するには相当の広告宣伝費が掛かるが、「まんなか」さんのように規模が小さく、施設に特色がなかった宿でも、高評価を得て、広報宣伝までしてもらい、売り上げ増につながっているので、現状では、送客手数料を支払っても、自社ブランドを確立するための最も合理的な手段、方法のひとつと考えている、と大平社長はおっしゃる。

2023年度の楽天アワードの1位は、大平社長の知り合いのホテルだったのだが、この宿も大平社長と同じように考えて、2018年度から取り組み始め、2019年に初受賞してから6年で現在の最高賞を極めたようだが、徹底して楽天トラベルに選択と集中をしたそうだ。

「まんなか」さんは、楽天トラベルの徳島県全体でも上位に掲載されていて、2023年度の「Hotel & Ryokan of the Year」では、2位に「グランドニッコー東京ベイ 舞浜」、10位には、「京急EXホテル札幌」が選出されており、大手やホテルチェーンにとっても相応のメリットがあることが推測できる。

宿側は、じゃらん、楽天、Booking、一休、Expedia、るるぶ他のOTA からの送客には手数料が発生し、それら複数の予約サイトやオンラインプラットフォームの宿泊情報を一元管理して、リアルタイムで同期させるサイトコントローラーやホテル・旅館の予約から客室管理、請求までを処理する宿泊施設の基幹システムであるPMS(Property Management System)にも費用が掛かるが、省力化につながるメリットもある。

さらには、トラベルコやトリバコ、トリップアドバイザーなどの料金を比較するメタサーチをどう上手く活用するかの戦略にも迫られるが、それでも他のOTAにない楽天トラベルの特徴を知って、上手く活用すれば宿側にも大きなメリットが生まれると云う。

「まんなか」さんの改善の積み重ね

筆者には、温泉や大浴場に入りたいという欲求がほとんどなく、温泉旅館より自由に過ごせるホテルの方が好みだが、温泉好きにとってみても、「まんなか」さんの温泉は他所の泉源からタンク車で運んできた汲み湯だし、露天風呂の眺望も国道の橋桁が目に入り、特段優れているわけではなく、設備はかなり老朽化していて、山側の客室は景観が良いとは云えないのだが、小川さんからのアドバイスやお客様の声を積極的に受け入れ、日々、改善を積み重ねて、客室、食事処(レストラン)、ロビー他の改修も進められている。

「まんなか」さん流のおもてなし

そんな「弱み」があっても、「まんなか」さんは、リピーターが2~3割を占めているそうで、あの有名旅館、由布院玉の湯の溝口会長がこの宿を利用されたことがあり、「行き届かないところもあったけれど、従業員の皆さんが一生懸命なのがとてもいいですね」とおっしゃっていたが、いつ利用させていただいても、どの従業員の皆さんも親しみ易く、付かず離れずのホスピタリティが心地よくて、泊まり心地の良い宿だと思う。

2023年度に改修した客室

大平社長厳選のマニアック家電を設置

女性用、男性用それぞれにこだわりのコスメを設置

高級一流ホテルで見かけるハンガー類を設置

痒い所に手が届く備品類

全てのタイプのスマホ充電コード、延長コンセント他、痒い所に手が届く必要な備品が全ての客室に設置されている。

水廻り通気口

清掃を怠りがちな通気口にも塵埃一つない

朝ごはんをお櫃で提供

2019年黄綬褒章受章の東京會舘元日本料理総料理(現顧問)鈴木 直登(すずき なおと)さんがおっしゃるには、

炊き立てのご飯って、どんなご飯かご存じですか?ご飯を炊いた釜から直接、茶碗によそったのは、炊き立てのご飯ではありません。」

日本の炊きたてご飯っていうのは、炊いたご飯を釜からおひつに移して、おひつに余分な水分を吸わせてから、茶碗によそったのを炊きたてのご飯、って云うんですよ。おひつに移すことによりご飯の粒が立ち、茶碗にくっつかないんです。」

「ご飯が冷めると、おひつの木が吸った水分は、ご飯に戻されるので、パサパサにならず、冷めてもおいしくいただけます。」

とのこと。

お櫃の手入れは手間がかかり、怠るとすぐに黒カビが生じるため、高級旅館でもご飯をお櫃で提供しているところは滅多にないが、「まんなか」さんは、朝食のごはんはお櫃で提供されている。

「まんなか」さんの今後の取り組み

大平社長は、OTAの担当者である小川さんと出会い、信頼関係を築けて、改善を続けてこれたからこそ今があり、今後も小川さんとの信頼関係を大切にして、「まんなか」ブランドを確立していきたい、とおっしゃる。

小川さんによると、11年連続で楽天トラベルアワードを受賞するのは並大抵のことではなく、楽天トラベルアワードの常連であることから、楽天トラベルの上層部にも認知されているそうで、日々、重ねてこられた努力への勲章とも云えるだろう。

大平社長と小川さんが出会い、築いた信頼関係は、宿泊施設「まんなか」さんの付加価値を上げ、OTA楽天トラベルの取扱いシェアを増やし、正しい情報の発信と的確なプランの提供による施設とのミスマッチのない送客で利用客さんの満足度も上がり、さらに施設の注目度も上がると云う、三方よしのハッピーなサイクルを生みだしていている。

大平修司さんの専務時代

修司さんが家業を継ぐまで

hotel-mannaka

大平 修司(おおひら しゅうじ)さんは、徳島県三好市の景勝地、大歩危にある「大歩危峡 まんなか(大歩危峡観光遊船有限会社)」の現会長、大平 克之(おおひら かつゆき)さんのご子息。

修司さんは、大学卒業後、お父様のコネでアウトドア用品のモンベルに入社、渋谷店新規オープン等に従事した後、大歩危に戻り、大歩危峡まんなかのレストラン勤務後、ホテルまんなかの運営を任された。

中学生の頃にはチャリンコで夜間徘徊していて補導されたことがある。警察から電話がかかって、「修司は寝ちょるきん。」と、お父様が部屋を覗いたら、もぬけのからだったそうだ。また、地元の有名高校に進学後には、原チャリの3人乗りでとっ捕まって、「しょーもないことで捕まるな。」と、どきんこつの制裁をくらった。

東京(の方の)大学に進学し、一人暮しを始めた途端、「しつこい新聞の押し売りを断り切れん。」とお父様に助けを求めた。心優しく、純朴に育った修ちゃんは、いきなりギスギスした都会の洗礼を受けたのである。

祖母さまからの寵愛を一身に受ける走り屋とは?

shuji-ohira-3

何せ、大平家では50年振りに誕生された、待望のおの子である。前まんなか会長の祖母さまからの寵愛を一身に受けておられた。

東京から戻って来るというので真っ赤なランサーエボリューション(通称、ランエボ、走り屋御用達の車として名高い)の購入費用の半分以上を出してもらった。小さなおケツでも窮屈なフルバケットシートで、少々、恰幅の良い?前会長をお乗せしたら、「こんな車、誰が買うたんじゃ!」と逆鱗に触れて、二度と乗っては下さらないそうだ。

また、ある夜、お父様に頼まれて、そのエンスー車を駆って迎えに出掛けた。大歩危から愛媛県川之江方面に向かう国道のカーブでドリフトを決めようとして、見事にスピン。車幅位の山道に側面からハマってしまい、前後が大破した。現場検証中には、「当事者以外は立ち入らないで!」と、警察からは相手にもしてもらえず、お父様からは、「もう、車は買わさんきんな!」と言われて、大破した愛車を修理したという経歴の持ち主だ。

最近(2013年)では、何故か、ランエボはもちろん、営業用のワンボックスカーをはじめ、すべての車両の合法的な運転を数ヶ月間できなかった期間もあったらしい…。

ある調査事業でお世話になることに…

shoji-ohira-4

ご縁があって、2003年頃から毎年、大歩危・祖谷を訪れていて、修司さんは、2005年に戻って来られたようだが、大歩危・祖谷には個性的な方がたくさんおられるので、当初は、名刺を交わした程度だった。

記憶に残っているのは、「大歩危・祖谷いってみる会」の総会で、ホテルかずら橋の谷口社長と司会進行をされるようになってからだが、お父様の大平社長さん世代の皆さんとのお付き合いが主だったので、親しく話をすることもあまりなかった。

2011年9月、ある調査事業で、大歩危・祖谷に長期滞在することになり、宿泊を大平社長さんが引き受けて下さって、修司さんが滞在中の面倒を見て下さった。

およそ50連泊したのだが、毎日、朝夕の献立を変えて下さり、その調査事業にも何かと協力して下さった。おかげで、大歩危・祖谷の皆さんとのご縁がいっそう深くなり、年に何度となく訪れるようになったのだが、その調査事業の期間中に思いついたのが、COREZO(コレゾ)賞だった。

COREZO(コレゾ)賞でもお世話になることに…

shuji-ohira-5

まず、表彰式が開催できるところを確保する必要があったので、大平社長にご相談したところ、ご賛同頂き、修司さんにも快く(否応無しに?シブシブ?)、引き受けてもらった。そして、表彰式と懇親パーティーを見事に取り仕切って下さったのである。

段取りは口頭でお伝えし、概要はWebサイトにアップしていたのだが、さすがに心配になられたのか、1ヵ月前には電話をして来られた。

「そろそろ何を準備したら良いか指示して下さい。」

ー 何で?

「受賞者の皆さんの顔ぶれを見ていたら、心配になりまして。」

ー 何が心配?

「その道を極めた方々ばかりなので、どのようなご要望があっても、できる限り、お応えしたいと思いまして・・・。」

ー ホテルのスタッフを全員、若いおね〜ちゃんにできる?

「それは…。」

ということで、一応、思いつくことは電話で伝えて、現場でやった方が早いと、表彰式の1週間前には大歩危入りをした。

shuji-ohira-7

テキトーに作った式次第を渡して、表彰式と懇親会の2箇所の会場の設営と進行、準備する備品、スタッフの配置、料理内容、送迎等の打合せ、当日宿泊される方々の部屋割り等々をチャッチャとやっつけて、進行表、案内表示等々の作成やこちらが手の廻らないところも手伝ってもらっているうちに、あという間に前日になった。

会場の準備をしながら、前日入りされた受賞者の皆さんの対応をしているうちに、前夜宴会になり、当日の朝を迎えた。

由布院玉の湯の溝口薫平さんから絶賛された理由

shuji-ohira-6

当日は、前途多難なのを象徴するかのような、生憎の雪模様だったが、午前中のリハーサル時には、ザックリするにも程があるやろという式次第から読み取ったリストが作成され、必要な備品がカンペキに揃えられていた。そうこうする内に、受賞者の皆さんが次々に到着され、受付が始まり、プレゼンテーターが雪の影響で会場入りがギリギリになったが、慌てることもなく表彰式が始まった。

修司さんには、いつの間にか舞台監督というか、進行ディレクターのような役をしてもらっていたのだが、おかげで、表彰式開始から懇親会終了まで、こちらは司会進行とイベントの盛り上げに集中することができ、ほぼ予定通りに進行することができた。生業として、過去に大小、数多くのイベントを手掛けて来たが、ここまで気持ち良くスムーズに進行できたイベントはなかった。

kumpei-mizoguchi-12

ご出席、ご宿泊下さった由布院玉の湯の会長、溝口薫平さんからも、「このホテルはいいですね。スタッフの皆さんが一生懸命なのがいい。こちらの大平社長(現会長)さんは息子さんを立派に育てられましたね。」と、絶賛され、大いに男を上げたのである。また、他所から参加された皆さんからだけでなく、地元の皆さんも、「あの子、ようやったなぁ、見直した。いつの間にか、立派なあと継ぎになってる。」と口々に褒めておられた。

「いやーっ、恐れ入りました。」だったのである。

修司さんの仕切りと段取りの良さのヒミツ

shuji-ohira-8

大歩危峡まんなかのスタッフの皆さんとも気心が知れていたところもあったが、超一流といわれるホテルでも、いくら詳細に担当別の進行表、作業指示書を作って、綿密な打合せをしても、最後は人なのである。間に立つ人次第で、現場のスタッフの皆さんにイベントの趣旨や進行の意図が伝わっていると、臨機応変に対応してもらえるが、現場のスタッフに通じていないと、トチることが往々にしてある。

修司さんは、こちらの意図をしっかりと理解して、現場のスタッフに伝え、現場のスタッフも理解した上で、対応して下さったのである。

ー あの仕切りと段取りの良さは、どこで身につけたの?

「当ホテルでも結婚式の披露宴や、大きなパーティーをお受けしていますが、『全旅連(宿泊施設関連の団体)』青年部の委員として、1万人近くを動員した全国大会の企画・運営を担当した経験が活きているかもしれません。」

大歩危・祖谷地区は峡谷で山深い地である。筆者もホテルまんなか滞在中に何度も目にしてきたことだが、いつも地元の老人会や消防団等々の宴会や会合で賑わっている。地元のお客様を大切にするという精神は大平家で代々引き継がれてきたDNAのようで、終宴が夜遅くなっても、山中に点在する集落まで送り届けておられる。

「地域へのご恩返しとしてずっとしてきたことですし、地区のホテルが3セクから都会や他所の企業の指定管理になり、ウチがやっているような非効率的なことはどこもやりませんから…。」と、修司さん。

家業を継ぐ者の心構えとは?

shuji-ohira-9

ー ところで、今更ながら、「大歩危峡まんなか」を継ぐのを決めたのは?

「ずーっと、生まれた時から、ここを継ぐものだと刷り込まれて来たので、家の教育の勝利ですね。」

ウチなんかは(誰も家業を継がなかったので)、家庭教育の敗北である。

ー 他の選択肢とか、やりたいことはなかったの?

「はい、全くありませんでした。」

ー ホテルを任されるようになったのは?

「戻って、1年間はレストランの方に勤務していましたが、ホテルの当時の支配人が辞めることになり、他にする者がいないので、必然的に僕になりました。」

ー ホテルをやりたいとか、自分の意志はなかったの?

「いいえ、家業ですから、自分の意志とかは、関係ないんです。」

他と差別化するために目指す方向性とは?

shuji-ohira-10

ー 最近、泊めてもらう度に料理内容が変わっているような気がするけど?

「ええ、健康志向のお客様が増えているので、地元野菜を多く使ったヘルシーなメニューも取り入れて、変化させています。評判も上々で、料理長はじめ、調理場のスタッフも自主的に料理勉強会を開いたり、積極的に献立の提案をしてくれるようになり、相乗効果も生まれて嬉しい方向に向かっています。」と修司さん。

ー 以前、大浴場にあったのは、「100均で買ってきて、そのまま置いといたけど、なにか?」ちゅーような、綿棒やったけど、気の利いた入れもんに入れ替えてるし、備品も変わってるのでは?

「そうですね、社員教育等、ソフト面だけでなく、全客室に携帯各社の充電ができるアダプターや空気清浄機を設置したり、低反発マットを導入したり、大浴場に宿泊者用のタオルを常備したりと、備品関係は、できるものから、日々、改善するように努力しています。」

ー 変化するきっかけは?

「2年位前からでしょうか、施設も地域も最後は人だということを強く思うようになりました。ウチにはすでに建物と設備がありますが、これを他と差別化するのには莫大な資金が必要なので、ウチの宿は、『人財』をウリにすることにしました。」

「人財教育・育成に力を入れ、料理や従業員のもてなし、清掃等の人的サービスでの差別化は、時間と手間はかかりますが、コストはあまりかかりません。それに、施設や設備は老朽化すると、飽きられ、新しいものに目移りしますから、また、投資が必要になりますが、人は磨けば磨く程、価値が高まり、あの人にまた会いたい、と来て下さるお客様も増えると思いました。」

「まんなか流もてなし」とは?

shuji-ohira-13

ー どこかで聞いたような話やけど、具体的にはどんなことをされているのですか?

「ひとことでは言えないのですが、目配り、気配りというか、わかる人にだけわかるような、気付いて下さるお客様にだけ気付いて頂けるような、『まんなか流のもてなし』を創って、実行していこうとスタッフと取り組んでいます。」

ー 雨上がりの朝、営業本部長さま自らが率先して、お客様の車を拭いておられるのをよく見かけるけど、ああいうこと?

「ええ、云ってしまうと値打ちが無くなってしまうので、云わなかったのですが、雨の日だけでなく、夜露が掛かったり、霜が下りていたり、必要に応じて、気付いた者がやっています。それも、できるだけお客様から見えないところでやるようにしています。」

「僕もこれ見よがしの過剰なサービスは好きじゃないんです。かまわれたくはないのだけど、こうして欲しいと思った時に、してあったり、アレがあったら、コレが足りないと思った時に、そこにあったら、嬉しいじゃないですか?お客様とは、付かず離れずの絶妙な距離感とタイミングで、さりげなくサービスをするというのはとても難しいですが、毎日、やっているとできるようになってくるものだ、と信じてやっています。」

究極のマーケティングとは?

「ご予約の時点では、どんな動機で、何の目的でウチのホテルを選んで下さったかは、知る由もありませんが、せっかく訪れて下さった一期一会のお客様に、当地、当ホテルで、どう楽しく過ごして頂くか?お客様を観察するのではなく、積極的に話しかけて、コミュニケーションをするよう心掛けています。会話の中から、お客様とつながり、私たちや私たちの地域のことも知って頂けるよう努めています。それがサービス業の真髄だと思うし、当ホテルはそこを目指そうと決めました。」

「お客様もこちら側も、人間、気付くか、気付かないかのどちらかです。中には、私どものおもてなしに気付いて下さるお客様もいらっしゃって、時間は掛かるかもしれませんが、そういう『まんなか流のおもてなし』を好んで下さるお客様とは、末永いお付き合いができると思いますし、そういうお客様に顧客になって頂けければ、有難いことですし、当ホテルもよりいい宿になっていけると思うんです。お越し頂いたお客様を大切に、当ホテルのファンをコツコツ増やしていくことは、ある意味、究極のマーケティングですし、今後、ウチのような規模の宿が、生き残っていく最善の方法かも知れません。」

修司さんが目指す宿泊施設像とは?

「当ホテルは、お忍びで来て頂くような宿ではありません。また、万人に好まれる宿を目指すと、個性のない宿になってしまいます。家族連れで、ウチのスタッフとの会話を楽しんで頂いて、また、会いたい、触れ合いたいと何度も来て下さるような宿にしたいですね。」

売り手も買い手を選ばないといけない時代になる

shuji-ohira-12

ー さうさう、ワタクシなんか、カズコちゃんや、カツコちゃんに会いに来てるようなもんでしょ?先日、ホンモノの商品を作っている人たちと、その価値をわかる消費者を選んで買ってもらわないとお互いが不幸になるから、これからは買い手に媚びるのではなく、売り手も買い手を選ばないといけない時代になる、というような話になりましたよ。

「お客様を選ぶなんてえらそうなことは言えませんが、この間、紅葉のシーズンで満室の日に、ネットから2連泊で予約されたお客様が、1泊されて、翌朝、部屋と廊下が臭いと云って、1泊分キャンセルされました。ウチは毎日、オゾン脱臭機をかけているので、その匂いかも知れませんが、決して不快な匂いではないと思います。平野さんもご存知の観光関係のお客様だったので、それ相応の対応をしたつもりですが、そういうお客様もいらっしゃるということですね。」

ー ケッコー、匂いには敏感やけど、ホテルまんなかに何十泊もしていて、臭いと思ったことはないけどなぁ。カメムシでも服に付いとったんとちゃうの?クレームはどーにでもつけれるもんね。何でもそうやけど、最後は人間がしていることやから、絶対ということはあれへんし、もし、ミスがあったとしても、「ほどほどに」相手を思い遣る気持ちがあれば、そーゆーことにはならんよね。お互いに気持ちのええ落としドコロをつくって解決できるかどうかで、その人の人間性というか、値打ちが見えるような気がするなぁ。ひょっとして、その人、一泊キャンセルした日は、「ホテル◯◯」に泊まったんちゃうの?

「えっ、わかりました?そういう情報って入ってくるんですよね。」

ー ワタクシもおねーちゃんと一緒やったら、あっちに泊まるな、こっちはバレバレやもん。

「あっちでもバレバレですやん?」

ー ま、その人、たまたま「ホテル◯◯」に行ったのかどうか知らんけど、パッと見は、あっちの方が良さげやし、空室もある、シロートやないから、クレームにしたらキャンセル料かからん、てなことちゃうん?

「ハハハハ、それはわかりませんが、そのお客様がどういう方だったのかは今回のことでよくわかりました。」

ー ネットからのお客様は選ばれへんけど、やることをやってたら、媚びる必要もないし、今回のことでそのお客様が来んようになったら、ミスマッチは解消されるんちゃう?

「そうですね。」

ー でも、その人、また来たりして…。その時はどうするの?

「その時はその時で、もちろん、『まんなか流』でもてなしますよ。」

ホテルスタッフの意識のスイッチが入ったワケ

ー で、スタッフの皆さんの意識が変わってきた、って聞いたけど?

「目標ができたからでしょうか。今年、某大手ネット宿泊予約サイトのアワード獲得を目指しています。僕がホテルの仕事を始めた頃は何の目標もありませんでした。そのアワード獲得には、具体的に当ホテルの評価が数値化されるので、一喜一憂しますが、問題点がわかり、すぐ改善するようになりました。スタッフ全員の励みにもなり、一丸となって、目標に取り組んでいます。裏を返すと、そのネット予約サイトへの貢献度の評価になるのですが、まんなかブランドを確立するための一つの手段と考えています。」

修司さんの妄想と野望とは?

shuji-ohira-11

ー これからの展開と抱負は?

「大儲けしたいですねぇ。でも、したことがないので、何が大儲けなのかよくわかりませんが・・・、ハハハハ、これは、願望というか、妄想ですね。」

「『明日やるというのはバカ者、そのうちやるというのは大バカ者』とよく云うのですが、その日、その時、気付いたらすぐにやる、その日々の積み重ねで、1年後、3年後、5年後があると思っています。大歩危峡まんなかの施設だけがいくらがんばっても、集客には自ずと限界があります。魅力のある人財を育て、魅力のある施設、魅力のある地域にし、10年後には、気の利いた宿と言われるような宿にして、大歩危・祖谷とまんなかブランドを世界に発信していきたいですね。」

ある夜中、酔っぱらって、宿泊先のホテルまんなかに戻ると、いつになく、フロントが慌ただしい。尋ねると、宿泊客に急病人が出て、ホテルスタッフが救急病院にお連れした、という。出張に出掛けていた修司さんも戻った空港からそのまま病院に駆けつけたらしい。

翌日の朝礼で、「昨夜のお客様は大事無く、チェックアウトされました。皆さんの適切な対応に感謝します。ご宿泊のお客様だけでなく、道を尋ねに立ち寄られたお客様であっても、当ホテルを訪れて下さった全ての方々が大切なお客様です。当ホテルの対応を気に入って下さって、いつかご利用頂けるかも知れません。何度でもお越し頂けるよう、これからもスタッフ全員で、まごころのこもった『まんなか流おもてなし』を心掛けて下さい。」と、訓示しているのを聞きたくもないのに、聞いてしまった。

カッコいいぞ、おっとこ前の修ちゃん!いつまでもパラサイトできるようにガンバッテね!!それと、くれぐれも何度もスピード違反で捕まらないようにしようね!!!

誠にお気の毒なことに、初の親子二代でのCOREZO(コレゾ)賞受賞となってしまった。

COREZOコレゾ「人こそ全てと、すぐにやるを積み重ね、大歩危とまんなか流もてなしの世界ブランド化に取り組む、地域期待の社長」である。

後日談1.第2回2013年度COREZO(コレゾ)賞表彰式

shuji-ohira-20

shuji-oshira-21

「これって、ずっと、COREZO(コレゾ)賞の事務局を手伝えってことですよねぇ?」

さすが、おっとこ前の修ちゃん!ご明察!!

shuji-ohira-22

shuji-ohira-24

一応、COREZO(コレゾ)賞の事務局を次回開催予定地の小布施の金石さんと西山さんに引き継いだ

後日談2.「まんなか流おもてなし」の世界制覇が見えてきた⁉︎その1

COREZO(コレゾ)賞のご縁

sobasubeshi

「峡谷の湯宿 大歩危峡まんなか」で朝ごはんの一品として出しておられる「そばすべし」が、何ちゃら「朝ごはんフェスティバル2014」で、麺・スープ部門全国1位、四国エリア1位、そして得票数も1561票で全国3位を受賞されたとのこと。

「そばすべし」は、そば粉を手で振るってすべらしながら入れていたところから名付けられた大歩危祖谷地方の郷土料理で、COREZO(コレゾ)賞受賞者の角谷利夫さんの有機三州味醂蜷川洋一さんの三河しろたまり等、厳選したこだわりの調味料を使用する事で、蕎麦の風味をより生かした優しい味に仕上がっている。

こだわりの調味料は、夕食の「料理長の一品」で使用しておられるそうだ。

後日談3.2014年夏の豪雨災害にも挫けない結束力とは?

mannaka-9

mannaka-8

hotel-mannaka

こちらが平常時のホテルまんなか

mannaka-7

mannaka-6

2014年夏、豪雨が大歩危・祖谷を襲った。画像を送ってもらったのだが、被害の大きさに言葉も出なかった。9月になって、お見舞いに出かけることができたのだが、ほぼ、復旧されていて、一安心した。

「ウチはここ大歩危や吉野川の自然をすこし使わせて頂いて、商売をさせてもらっています。台風も、大雨も、災害も甘んじて受け入れないといかんのです。」とおっしゃっていた大平社長の言葉の重さを改めて噛みしめた。

また、「『峡谷の湯宿 大歩危峡まんなか』の露天風呂と機械室が完全に水に浸かって大きな被害を受けたが、翌早朝から、ホテルの従業員、スタッフの皆んなが駆けつけてくれ、力を合わせて予約客の対応と復旧作業に協力してくれたことに、感謝で涙が出たのと、「チームまんなか」の結束力があればどんな災害も乗り越えられるという力をもらった。」と修司さん。

後日談3.「まんなか流おもてなし」の世界制覇が見えてきた⁉︎その2

shuji-ohira-33

スタッフの皆さんと一丸になって獲得を目指してこられた「某大手ネット予約サイトアワード」四国エリアレジャー部門で2年連続銀賞を受賞されたとのこと。

おめでとうございます。

後日談4.第3回2014年度COREZO(コレゾ)賞表彰式

shuji-ohira-30

shuji-ohira-31

前事務局長として、前日から小布施入りし、運営、進行等のサポートをして下さった

tsugio-ichimura-24

shuji-ohira-32

翌日の小布施まちづくりフォーラムにもご参加下さった

後日談5.「まんなか流おもてなし」の世界制覇が見えてきた⁉︎その3

「旅館甲子園」とは、全国から選び抜かれた旅館の経営者とそのスタッフが集結し、宿の自慢をぶつけ合い、旅館No.1を決定するプレゼン大会。2015年2月に開催された第2回「旅館甲子園」で、「チームまんなか」がファイナリストの5軒の内の1軒に選ばれ、今後も「まんなか流おもてなし」を進化させ、お客様に感動を与えることができるよう日々精進していくとのこと。

後日談6.「まんなか流おもてなし」の世界制覇が見えてきた⁉︎その4

台湾の高苑科技大学とのインターンシップ協定

katsuyuki-ohira-12

大平社長から伺った話だが、

2015年1月、台湾の高雄にある高苑科技大学の学長、副学長、教授他、職員の皆さんが、職場旅行で大歩危・祖谷を訪れた。

別の宿泊施設を手配していたそうだが、手違いで急遽、「峡谷の湯宿 大歩危峡まんなか」に宿泊されることになって、いつも通りの「まんなか流おもてなし」をしたところ、感激されて、学長から直々に、情報コミュニケーション学科や応用外国語学科があるので、是非、インターンシップで学生たちを受け入れて欲しいとの依頼があった。

大平さんご夫妻は、行政が窓口になるならともかく、一民間企業がそんなそんな受け入れの協定を結べるのだろうかと、半信半疑で台湾に出掛けてみると、大歓迎を受けて、その場で調印式が挙行されたそうだ。

その話を修司さんに話すと、

「ウチのホテルだけじゃありませんよ。遊覧船や近辺の観光案内は和田里君がしたので、例によって例のごとく、あのホスピタリティの塊のもてなしをしたんだと思いますよ、ハハハハ。」

こうして、ご子息とご令嬢婿が見事に連携していくと、まんなかさんはこの先、どんなことになるのか、世界制覇も夢じゃない⁉︎

COREZO (コレゾ)賞 事務局

初稿;2013.11.27.

最終取材;2024.10.

最終更新;2024.12.

文責;平野 龍平

コメント