土居 純一(どい じゅんいち)さん

土居純一

目次

COREZOコレゾ「日本独自の昆布文化を繋げたい、親子二代、天然昆布の不作が続く漁師町で食育を続ける大阪の老舗昆布屋四代目」賞

土居 純一(どい じゅんいち)さん

土居純一

プロフィール

有限会社こんぶ土居 代表取締役

受賞者のご紹介

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1年間のイタリア生活で、昆布文化の素晴らしさを再認識

「僕がウチを継いだのは、今から17年前の28歳の時で、それまでは、本当に自由にさせてもらい、バックパッカーで世界各国を巡ったり、好きなことをしていました。」

「父親に継げと云われたことはないし、これは推察ですけれども、自分の息子がいるんだから、継いでくれた方がそれは嬉しいですよね、父がどんな思いでこの仕事をしていてしてきたか、っていうのは、背中を見てわかっているつもりでしたし、そんな昆布屋を潰すのも忍びない、とは思いましたが、絶対にやりたい仕事があったら、そちらに進むつもりでした。」

「それが見つからなかったのですが、会社勤めしている人も、どうしてもその会社に入りたい、と願って入社し、やりたい仕事をしてる人ってそんなに多くないんじゃないでしょうかね。」

「自分の身近にあるもの、普通にあるものを、一旦、外に出て、外から見ると、これはこれで大事だな、すごく大きな価値を持っているんだな、と感じるんですよ。それこそが、今、昆布屋をやっていることに大きく繋がってると思います。」

「中でも、20代半ばに、イタリアで過ごした約1年は、その後に大きな影響を受けました。」

「今、日本も含めて、自国の伝統とか文化とかを大事にしていない国が多いと思うんですが、イタリア人には、伝統好きなところがあるように思います。食べ物でも手を抜いて作ろうと思えばいくらでも作れるのでしょうけど、自分たちの生まれ育った地域に根ざした材料とか製法とかを大事にするんですよね。伝統に価値を見いだしているんでしょうけど、実際、そういう伝統的なものがたくさん残っているし、僕は、それを見たくてイタリアに行ったんです。」

「でも、滞在しているだけだとお金がどんどんなくなってい行きますよね?レストランなんかで働きながらそういう文化を見てきたんです。僕がイタリアに行った20代の半ば頃は、多くの日本の若者が世界各国に出て行ってた時代なんで、料理人になろうと思っていたわけじゃないんですが、当時、イタリアやフランスに行くとそんな若い人たちがたくさんいて、給料は安かったですが働き口には困りませんでした。」

「僕がイタリアで学んだことが今の仕事にものすごく大きな影響を与えています。それは、地元のものを大事にする、と云う文化で、イタリア人たちがそんなふうにやっているのを目の当たりにして、大阪人である僕は何をしたらいいのか?って云うことを自分なりに突き詰めました。」

大阪の昆布の文化

「平安時代の文献にも昆布の話が出てくるんですが、その頃は大変貴重なものであっただろうから、庶民の口に入るようなものではなかったはずです。江戸時代中期以降、北前船が入ってきて、大阪は、昆布の集積地になりました。」

「実は、昆布の産地である北海道では、あまり昆布を食べないんですが、大阪で昆布がよく使われるようになったのは、今もそうでしょうけど、大阪の人たちが食に対して貪欲だったのと、江戸時代の大阪は、日本一の経済力があったからでしょう。」

「鰹節の産地は、鹿児島とかが多いですよね、北海道から昆布、鹿児島から鰹節を運んできて、出汁の文化をつくった、と言うのも凄い話で、経済力のある大阪人が日本中から美味しいものを集めてきたんじゃないでしょうか。」

「北海道の昆布の産地には、縄文時代の遺跡があって、そこで昆布を食用にしていたと言う痕跡が残っています。昆布と言う言葉はアイヌ語源であるという説があり、アイヌ語の「ダシが出る」ということに関係していると言う話もあるので、昆布から出汁が取れて、おいしい役割を果たすというのは、大昔からわかっていたと思うんです。」

「大昔、北海道でそういう風習があったとしても、それをわざわざ北海道から運んできて、出汁を取ったり、食べたりするようになり、庶民の食文化にまでなったのは、驚くべきことで、江戸時代には、昆布の産地の格付けのような文献もありました。」

年々、昆布の消費量、生産量が減っている理由

「昔の人は、昆布や煮干し、鰹節なんかで出汁をとるしかなかったわけですが、時代が変わっていって、顆粒だしの素のようなものが出てくると、そっちの方が値段はめちゃくちゃ安い上に、水に溶くだけなので手間もかからない。」

「パッケージの原料を見ると、昆布や鰹節と表示されていても、使われている量はごく僅かです。そういうものが普及して、使われれば使われるほど、昆布の消費量は減り、生産量も減って、文化が廃れ、昆布業界も廃れていったわけです。」

「父に文化を守ると云う意識があったかどうかは分かりませんが、そういう物は、一切使いませんでした。少なくともうちの父は、良いものを作ろうと一心でやってきたと思うんです。」

「今、考えれば、結局、それが伝統的な昆布文化を守ることにつながったんではないかと思いますが、この先、近い将来、昆布の文化が良い方向に向かっていくかも、と云うような楽観的な考えは僕にはありません。」

「先程の顆粒だしの素を例にとってみても、あえてイミテーションと云いますが、化学調味料のようなイミテーションが生まれた黎明期には、味に変な違和感やエグ味があったりして、決して品質が高くなかったはずです。ところが、うまみ調味料業界も日進月歩で、最近は技術力がどんどん向上していて、明らかに化学調味料だとわかるようなうまみ調味料が少なくなり、そこそこの味がするものに進化しています。」

「その一方で、昆布が採れる海の環境は悪化の一途をたどっています。例えば、僕の父親の世代、さらに祖父の世代の昆布業界の人たちは、昔の昆布はこんなのではなかった、もっと大きくて分厚くて品質が良かった、と口を揃えてそう云われます。」

「僕は、そんな昆布を見たことがないんですが、今は、昆布が大不作なので、イミテーションのクオリティがどんどん上がってくるのに、本物のクオリティーは下がっていってる状況なんですよ。」

今や昆布も鰹節削りも出汁をとる文化も風前の灯火状態

「こんな現状ですから、値段も高いわけです。それでも違いを理解してくださって、買ってくださるお客様っていうのは、間違いなく大多数ではありません。ウチのような仕事は、いろんなことに関心があって、社会を良い方向にしていきたい、と云う、ごく一部の方々に支えられて続いていくタイプの仕事なんだろうな、と思います。」

「だから、昆布業界全体で云うと、ものすごくしんどいことになっていくだろうし、真に極めたものを作らない限り、この先残っていかないんじゃないか、と思っています。」

「鰹節を削る文化と云うのも、ものすごい勢いでなくなっていますよね?今、45歳ですが、僕の同級生で鰹節を削ったことがあると云う人は多分いないと思います。僅かな時間の内に、急激にいろんな文化がどんどん無くなっていくのはすごく恐ろしいことです。」

「ウチは、有難いことに、10倍だしだけでなく、昆布そのものが売れているのは、ウチに来て下さるお客様はある意味、特殊なんだろうと思います。」

風評に踊らないお客様

「面白いもので、テレビの情報番組で、鯖缶の情報が流れたら、スーパーの棚からなくなる、ってことがよくありますよね、一過性のものですが、昆布でもそういう情報が流されることがたまににあって、おぼろ昆布が何々に効く、とかって云う情報が流れると、スーパーの棚からなくなる、ってことが起こりますが、そんな時、ウチもおぼろ昆布を売っているのに、幸いなことに、何の影響もないんです。」

「これは、きっと、なんとなく購買層が分かれてるような感じがしていまして、ウチの昆布がどういう風にやってきて、どういうものを売っているのか、ということをよく理解してくださるお客様が来てくださっているようで、これも地道に何十年とやってきた成果なのかなと思っています。」

お客様には、若い世代、新規も多い

「昆布屋の主要客層は、高齢層の女性客の方々だと思いますが、ウチは、ほんと有難いことに、一般の方、料理人の方を問わず、若い世代のお客様が多く、固定客のお客様も多いですけども、どこかでウチのことを聞いて新規の方も次々来てくださいます。」

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「10倍だしだけでなく、昆布そのものを購入してくださるお客様も多くて、それも有難いことです。」

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手軽でお子さんが安心して食べられる商品

「そういう若い世代のお客様のお子さんが安心して食べれるような商品開発もしていて、出汁をとった後の昆布と鰹節で作っているふりかけなんてめちゃくちゃ売れています。」

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「ウチが厳選した昆布と鰹節で作っていますが、結構量が入っていて250円で販売しているので、売り切れていたら、泣き出す子供さんもいらっしゃいます。

「ウチは、一部の方々に支えられて成り立っている商売であることは間違いありませんが、その一方で、一部の経済的に裕福な方々に支えられることを望んでいる訳ではなく、ごく普通の所得の方でも、ご自分のお子さんにできるだけ良いものを食べさせたいと思っている方はたくさんいらっしゃるわけで、僕らもできるだけそういう想いにお応えしたいと願っていて、社会的な役割としてそういうことができたら、こんな素晴らしい仕事はないと思うんです。」

「真っ当なほんまもんは、一部の高所得者層にしか食べれなくなる方向にはあると思いますが、まっとうなもので買いやすいものをつくるということも同時に考えていて、ウチのふりかけを買う人を特殊ではなく、普通にしたいんですよね。」

良い昆布の選び方

「世間一般の答えはどういうものかと云うと、どこかの料理の先生とか、食関係のジャーナリストの方々は、幅が広くて、色が黒くて,分厚い昆布を選びましょう、と云われることが多いと思いますが、僕らは、これは見事にド素人の回答と思っています。」

「一言で簡単に答えるのはとても無理なんですが、僕の答えは、「ウチが一番良いと思って取扱ってきた昆布」ということになります。」

「どういう軸で見るかということにも寄りますが、例えば、昆布の品種、産地、天然物か養殖物によってもの違いがあります。コシヒカリとあきたこまちは、同じお米でも品種が違いますし、同じ品種でも産地によって味が変わるのは、お米と一緒ですね。」

「タイコウの稲葉さんは鰹節の目利きですが、昆布を扱う僕は、昆布の目利きでないといけないわけで、昆布の素性は、品種や産地である程度固定されていきますけれども、鰹節の生産者の方にも優劣があるように、海から昆布を上げて乾燥させたりする工程があるんですが、そういう昆布漁師さんの仕事のクオリティによっても出来上がりが変わってきますので、僕らは、その昆布を見て、判別し、良いものをお届けする、と云うのが仕事なんです。」

昆布の品種の中でも真昆布が最上級

「品種で言いますと、大阪では、真昆布が好まれてきたのは間違いありません。先程も江戸時代のお話をしましたが、昔からそうで、通常、最高級の昆布と云えば、真昆布とされていました。」

「羅臼も、いい昆布だと思います。ですから、古い時代から、取引価格も真昆布に匹敵するような値段で、真昆布よりちょっと低い位の値段がついていました。」

「今、利尻昆布は、ものすごく高い値段がついているので、一般の方には、利尻昆布が高級品のように思われていますが、かつては真昆布の半値程度の値段で取引されていました。」

「では、真昆布がなぜ良い昆布なのかと云うと、うまみ、甘みが強いんです。羅臼も非常に強く、うまみ成分の強さは、羅臼が一番ですけれど、若干出汁が濁るとか、クセがあるとか、マイナスポイントもあるので、真昆布の方が上品で、うまみも強いところが最高級とみなされてきました。」

「一方、利尻昆布は、明らかにうまみ成分が弱く、昔からそう認識されていて、僕もそう思います。」

昆布には、天然か養殖かの表示義務がない

「天然と養殖に関しては、別に養殖だから悪いと云う事はないですが、天然か養殖かの表示義務がないため、パッケージには書かれていないので、百貨店やスーパーでも『養殖昆布』という昆布はご覧になられた事はないと思います。現状、養殖か天然かは、消費者の立場からは全くわからないので、改善すべきだと思っています。」

調べてみると、

海藻や貝類等で給餌を行っていない場合には、養殖の表示は必要ないのですか?

水産物品質表示基準の定義にあるとおり、給餌していなければ養殖には該当しませんので、養殖の表示は不要です。

 

と云うことらしい。

最高級品の真昆布は、白口浜の中でも、川汲浜や尾札部浜産

「今年は、昆布は大不作で採れてないのですが、最高級の真昆布の中でも、道南3銘柄と呼ばれ、最高の格付けをされてきたエリアがあって、格が高い順に、白口浜、黒口浜、折浜で、白口浜の中でも、川汲浜や尾札部浜で採れた昆布が川汲浜や尾札部浜で採れた昆布が、最高級品とされ、昔から献上品にも指定されていた程で、ウチは、そういうところの昆布を厳選して取扱ってきました。」

天然は1%、養殖が99%

「今年の白口浜産真昆布の生産予想が出ているので、計算してみたところ、天然は、全生産量の1.1%で、98.9%までが養殖物で、今年は天然真昆布が不作なので極端な例かも分かりませんが、養殖昆布の方が圧倒的に多く、今、流通しているのは、養殖昆布が主になっているのは確かです。」

「漁師さんからは、天然真昆布と養殖昆布は別物として出荷され、僕らは、見ただけでわかりますが、一般の方が見分けるのは難しいでしょうし、百貨店やスーパーで、販売される時に表示されていないので、気にされることもないでしょうね。」

『何しろ、ウチは、このように小規模な商売なので、いろんな種類の昆布、いろんな昆布商品を取り揃えると云うより、ウチが本当に良いと思うものだけをご用意すると云うスタンスでずっとやってきました。」

天然昆布は2年生で、6年連続不作

「昆布は、2年間、海の中で生育したものを採ります。漁期は、7~8月で、2年生の昆布を採り、1年生の昆布は、翌年のために採らずにもう1年生育させるのですが、今年は、1年生の昆布も全くなかったので、来年も不作だということが確定しています。」

「天然昆布の最後の豊作年は、2014(平成26)年だったので、6年連続不作が続くことになり、昆布屋にとっては、死活問題です。」

天然昆布が不作になっているグローバルな要因

「地球の温暖化で、実際、海水温も上がっています。気候も変わってきていて、今年の5月ぐらいだったか、北見のあたりで気温が35度になっていたり異常なんですよね。北海道ですから基本的には寒いんですけれども、積雪量も昔と比べて明らかに減っていて、スキーシーズンがどんどん短くなってきているようです。これって、やっぱり地球規模の気候変動だと考えていいと思うんで、そこが昆布に悪影響を与えている可能性があります。」

「海水温が上がると昆布にとって決して良いことではないし、降雪量が減れば、山に雪が積もる量が減り、海に流れ込む雪解け水も減るので、山からの栄養分が減っていることになります。」

天然昆布が不作になっているローカルな要因

「山が大事なのは、海で仕事をしている皆さんは、ご存知だと思うんですけれど、土木工事とかも本当に頻繁にされていまして、僕が初めて浜に行って、漁師さんたちの手伝いを始めたのが2004(平成16)年でしたが、それから15年のうちに、田舎の漁師町にも、山の中にバイパスが通って、すっかり様変わりしてしまいました。」

「東日本大震災の津波であれだけの大きな被害が出たので、震災後、日本中の沿岸で護岸工事が行われていると思います。もちろん、人命を守る事は最優先ですが、昆布の生育を考えた時にどうなの?と云うことです。」

「人の命を守るのと同時に、天然資源の持続可能な取組みの両立を考えないといけません。今まで、そういうことあまり考えてなかったのではないか、と思うんです。」

天然昆布の不作が養殖昆布の高値を呼ぶ

「今、天然昆布の良いものは、史上最高値で取引されています。こういうことを申し上げると北海道の漁師の皆さんはみんな大変な思いをされているんじゃないかと心配してくださる方が多いんですが、皮肉なもので、養殖の昆布は採れているんですよ。天然の昆布がないので、天然昆布の値が高騰するわけですが、そうなると養殖の昆布の値段も引きずられて高くなるんです。」

1年物養殖昆布の高値で2年物養殖昆布が激減

「天然物だけでは安定しないので、養殖と両方やっている漁師さんが多いのですが、養殖の昆布は、安定して採れていて、天然昆布の不作により、その取引価格が上がっているので、漁師さんの収入は増えると云う、不思議なことが起こっているんです。」

「養殖物には、1年物と2年物がありますけれども、1年養殖に関しては、過去に不作になったことが1度もないと思います。」

「そもそも天然物が採れないので、養殖の1年物でも充分良い値段がつくようになっていて、そうなると倍の時間が掛かる2年物は経済効率が悪いので作らなくなります。養殖物でも2年物の方が当然大きいですし、味もおいしいです。それを作る人がいなくなっています。」

「かつては、天然昆布があり、2年物の養殖があり、1年物の養殖があり、それぞれにボリュームがあったんですが、今は、1年物養殖ばかりになってしまいました。それにより、昆布業界全体のクオリティーが下がっていると云えまして、料理人さんとかはものすごく困っておられます。」

「天然昆布は、水深2~10mの比較的岸側の起伏に富む岩盤や岩礁地帯に生育し、漁場になるのに対し、養殖は、沖合のブイにロープを張ってつるすような格好で行うので、天然の漁場とは被らないのですが、養殖ものが増えると、どうも天然物の方に行く養分が減るのではないか、と云う漁師さんもいらっしゃいます。」

世界の昆布、日本以外の昆布は美味しくない

「北海道だけでなく、同じような緯度帯で、寒流帯域であれば、昆布類が生育しているのですが、アイスランドやカリフォルニアの昆布を見たこともありますが、北海道のものとは全く別の品種で全くおいしくないんです。」

「今、生産量で云うと、中国では、日本の1桁どころか、2桁違う程の凄い規模で生産をしています。食用にも一部使われているようですが、主に医薬品や化粧品に使われるアルギン酸の抽出原料として栽培されています。

富裕層や大資本の買占めによるさらなる価格高騰の懸念

「ウチがずっと大事にして、取り扱ってきた昆布がそのようなお金を持った人たちに買い占められてしまうのじゃないか、と心配したことがあるんですよ。」

「でも、ウチみたいなこんな規模でも原料調達に困る程度の量しかないんですから、産業規模として小さ過ぎて、うまみがないだろうし、小さな規模だから何とかやっていけるのではないか、とも思いますが、心配は、心配ですね。」

天然昆布を増やすには?

浜の方でそういう取り組みを十分にやってくれているなら、僕がしゃしゃり出ていく必要もないんですが、現実、やれてなくって、この店を誰かに任せて、僕が北海道に移住して、昆布の増産の取り組みをやりたいところですが、まだ、踏ん切りがついていません。」

「北海道の方々は、自分たちの町の浜に生えている昆布の価値をあまりよくわかってないんです。わかってないから、それが不作で大変なことになってると云う実感がなく、同時に、天然昆布の不作により、養殖物の値段が高騰しているので、経済的なダメージは受けていないから、何も困っていません。」

若手昆布漁師の育成

「天然昆布を大切に育てようと云う意識を作ることが大事なので、僕が直接やるか、やってくれる人をつくっていくしかりません。」

「どこの世界でも同じだと思いますが、漁師をやるのもあと何年かなぁ、と云う人たちはなかなかそういうところには取り組まないものです。後継者不足なのでそういう感覚も弱くて、一部、立派な方もいらっしゃいますが、それは、一部であって、大多数は、そうでない場合の方が多いので、自分が今やっているのは若手の育成です。」 

品質向上への取組

「これが本当に息の長い取り組みで、父がやってきたことを僕が引き継いでやっているのですが、父の時代は、まだよかったんですよ、こんなに昆布がない時代を生きてませんので、ウチの父が浜に行ってやってたのは、品質向上なんですよ。」

「海の中では良い昆布であったのにもかかわらず、乾燥の方法とか、人間の手がかかる部分で、せっかくの品質を落とすこともありまして、品質向上のために浜の皆さんといろんな取り組みを始めましたが、父も壁に当たって、苦労をしました。」

「良い昆布ですから、当然高い値段で取引されますし、当時はまだ昆布産業に力があった時代ですので、天然物の良い昆布なら右から左に売れるわけですよ。品質向上なんかに取り組まなくても売れている、ということもあって、取り組みがなかなか前に進まない。でも、父親は、良い商品を作るために原料の昆布のクオリティーは大事だから、とずっとやってきたわけですね。」

小学校での食育授業

「それでも動かんわけです。ある人から、漁協とかで力を持っている人たちにお願いするのもいいけれど、将来を担う子供たちにそういうことを語りかけたらどうか、と云う助言をもらい、父の後を僕も引き継いで、20年以上、その漁師町の小学校で食育授業を続けています。」

「子供たちは、自分たちのお父さん、お母さんがつくっている、昆布の価値もわからんわけですよ。大阪から僕らが行って、彼らが住んでいる街の浜で生えている昆布がいかに素晴らしいかということを伝えて、やる気を持ってもらって後継者育成にもつなげていきたい、そういう思いで始めましたが、そうこうしてるうちに、今、昆布が採れなくなってしまったわけですけれども…。」

食育授業の成果

「その浜で、何十年もかけてやってきているので、僕が浜に行って初めて会う方に、「大阪の土居です」と挨拶すると、「あー、土井さんね」と、話を聞いて下さるし、小学校で食育する時には、ウチのことを知らん子はおらんわけで、それは、とても有難いことだと思っています。」

「いわば、素地だけはできているわけで、そんな素地がない状態で、僕が浜に行って何かをやるのは、絶対無理なことで、僕が、「こんな問題があるので、こういう取り組みをやりたいやってください」と、云えば、聞いてくれる耳は持っていただいてるんですね。そこが1つの大きな成果だと思っています。」

地元高校修学旅行の見学コースに

「来月、そこの高校が修学旅行で関西に来るんですが、ウチは見学コースになっていまして、彼らが来てくれたら、特殊な目で彼らを見てしまうのですが、この中から、将来、浜のリーダーになってくれるような子、いろんなことをやってくれるような子がいないか、見当をつけています。」

「夏の漁期には、必ず手伝いに行き、秋には、漁協の方々との話し合いの場を設け、小学校での食育をやっていますので、最低、年に2回は訪問して、地道な交流を続けています。」

町に戻って昆布漁師をする若者も

「ウチが取り扱っている浜がある町には、小学校も中学校、高校もあるんですが、高校を卒業すると大学はないので、大学に進学するとか、企業に就職するとかで、9割方、町を出て行きます。」

「漁師と言う仕事は、重労働で、大変な仕事ですけれども、その一方で、ものすごい能力を持った子とかは、別ですが、普通の子が町から1番近い都市の函館とかに出て行って、そこで幾ばくかの賃金をもらって働くわけですよね、それと、今、漁師をやっているのとどっちが所得が多いかと云うと、明らかに昆布の方なんですよ。それに気付いて戻ってくる子もいて、後継者が全くいないと云うことでは無いんですが、十分ではないので、食育に力を入れ、自分が作る昆布の素晴らしさが理解できると頭のスイッチも入れ替わると思うんです。」

「僕がずっとやってきたのは、浜の状態を良くしてくれるのには、次世代の若者が必要で、それに対する働きかけをずっとやってきましたが、町の空気が年々変わってきているのは間違いないです。」

「厳しい状況は間違いないのですが、取り組みを続けてきたことによって、何かのきっかけで変わる可能性は大いにあると考えています。」

日本独自の昆布文化を海外に向けて発信

「昆布の文化って、日本で独自に発生した文化なんですよね。稲作は、大陸から伝わってきて日本で独自に進化しましたし、味噌、醤油もそうですね。鰹節も、スリランカに行ったらモルジブフィッシュとか似たようなものがありますよね。」

「昆布のように、日本が完全にオリジンと云うものは他にあまりないのではないでしょうか?日本とは何かと云う、アイデンティティにも関わってくるような、世界に向けて発信できる誇るべき文化で、これに似たようなものもあまりなかろうと思っていて、それだけ大事に守っていかないといけない文化だと僕は思っています。」

昆布文化を海外に輸出できない現状

「実は、日本の昆布の食文化が廃れる危機に直面してフレンチとかに使っていただくことで解決策の1つになるのではないか、と夢想したことがあります。」

「今、海外で昆布がすごく評価されているので、それを推進して、外国の方々が昆布を珍重して使ってくれることが、日本人の昆布に対する目線を変えることができるのではないかと思って、僕も、昆布の輸出は、ものすごく積極的にやったわけではありませんが、前向きにはやったんですよ。」

「それで、アメリカやヨーロッパに出したこともあったんですが、今や、国内需要でさえ賄えない状態ですから、海外には出せない状態なんです。」

「実際、仕入れの値段が上がり続けているので、値段も上げざるを得ないので、料理人さんをはじめ、いろんな方々に迷惑をかけているわけです。」

そもそも品物がない、とご案内をすると、養殖に代えましょうか、と云う話にもなるわけじゃないですか、それって、そのお店の出汁のクオリティーを下げることにつながるわけで、それは本当に心苦しくて、そんな状況なのに、積極的に海外輸出はできないのです。」

昆布文化を守るには、家庭で出汁をとる日常を取り戻すこと

「養殖昆布の生産量はずっと安定しているっていうのはお伝えしましたよね、例えば、スーパーなんかに行くと、北海道産真昆布とかが売っていて、それが1年物の養殖なのは、ほぼ、間違いないのですが、僕は、全く悪いもんじゃないと思っていて、北海道で採れる昆布は、天然でも養殖でも、まさしく全部昆布なんですよ。ただ、品質の優劣があると云うだけで、マガイモノでは無いわけです。」

「良いものを、となると、今の時代、それを大量に、と云う事は難しくなっていますが、養殖の昆布でしたら採れているので、ウチだけで昆布の業界が成り立ってるわけではありませんし、クオリティーは少し低いかもしれないですけれども、ボリュームとして、そこそこ確保されているものを使うことも大事なんです。」

「出汁の取り方教室も12年ぐらいやっていて、そこでお話ししているのは、ウチの昆布を別に使わってもらわなくても、それはそれでよくて、さっきの所得の話にも関わってくるわけですが、スーパーの昆布でも、鰹節でも、煮干しでもいいから、出汁をとってもらうことをむしろお勧めしています。」

「そうして、出汁の素を使わずに、日常的にちゃんと出汁をとってもらうことが先決で、今以上に、一般家庭で昆布が使われなくなると、昆布は加工用にしか流通しなくなり、昆布文化の先細りは目に見えています。」

何か特別な時にお応えできる存在でありたい

「例えば、何か特別な時、いい出汁が欲しいと云うような時に、ウチは、それにお応えできるような存在でありたい、と思ってるだけです。」

「醤油も、味噌も、米も、鰹節も、昆布も、全部本物で質の良いもの、となると、いくらかかるの、って云う時代になりましたから、普通の所得で、子供さんが2人、3人といらっしゃったら、全然、家計が回らないわけですよ。」

日本独自の昆布文化を繋いでいきたい

「皆さん、良いものを作っていても、ご苦労されている会社さんも多い中、ウチは、有難いことに、いろんな方々に支持してもらって何とかやれていますが、原料確保の問題は切実だし、とろろ昆布を削る包丁を作れる職人さんもいなくなって、原料がないだけでなく、商品を作る道具も手に入らない厳しい時代になりました。」

「ウチが取り扱っている商品は、宿命的にちょっと特殊なものであることは間違いないので、それなりの役割があり、これからもご提供できるように努力を重ねるのは勿論のことですが、それで終わってはいけないと思っていて、先程、お話しした、「ふりかけ」のような、まっとうなものでもお求め易い商品にも力を入れ、本物を普通に食べてもらうことでも日本独自の昆布文化を繋いでいきたいと考えています。」

 

 

COREZO「日本独自の昆布文化を繋げたい、親子二代、天然昆布の不作が続く漁師町で食育を続ける大阪の老舗昆布屋四代目である。

 

最終取材;2019年10月

最終更新;2019年11月

文責;平野龍平