山口 昇 (やまぐち のぼる)さん/老舗八女提灯「ヤマグチ」当主

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COREZOコレゾ「盆提灯生産では日本一を誇ってきた八女提灯の灯を灯し続ける老舗提灯屋当主」賞

山口 昇(やまぐち のぼる)さん

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プロフィール

株式会社ヤマグチ 代表取締役会長

受賞者のご紹介

動画 COREZOコレゾチャンネル

山口 昇 (やまぐち のぼる)さん/八女提灯㈱ヤマグチ「盆提灯生産量日本一の八女提灯の灯を灯し続ける」

八女提灯とは?

山口昇(やまぐちのぼる)さんは、150年以上の歴史がある八女提灯の老舗、株式会社ヤマグチの代表取締役会長。

八女提灯は、山には、提灯の材料となる真竹が豊富にあり、矢部川流域では、和紙が盛んに漉かれていたことから誕生したと云われているが、かつては、当時の八女市福島町で生まれたことから福島提灯と呼ばれていたそうだ。

提灯は、「提げる(さげる)」という言葉が示すとおり、今でいう懐中電灯と同じ役割を担っていて、文化年間(1813年頃)に荒巻文右衛門(あらまきぶんえもん)によって創製されたといわれる福島提灯は、場提灯(ばちょうちん)と称され、夏場の夜、納涼の灯りとして人気を博した。

因みに、石灯籠は、野外に設置する固定型の灯りで、燃料には、提灯と同じく、菜種油や鯨油が使われていたそうだ。

安政年間(1854~1859年頃)になると、同じく福島に住む吉永太平(よしながたへい)により意匠が凝らされ、提灯の骨に使う竹を細く裂いて一本に繋げ螺旋状に巻く「一条螺旋式」を考案、典具帖紙(良質のコウゾ繊維を原料とし,「紗」を使って薄く手すきした和紙)に類似した薄紙を用いて、ほのかに内部が透けるように改良が加えられ、その後、八女地方全域で生産されるようになったことで、福島提灯は「八女提灯」と呼ばれるようになった。

提灯の種類

提灯には、地元に伝統的に伝わる円筒形で長細い「住吉」や、吊り下げ式で丸型の「御殿丸」などがあるが、現在では脚が付いた「行燈(あんどん)」が最も一般的で、八女生産の約8割がお盆の時期に仏壇等の前に飾る「盆提灯(ぼんちょうちん)」だが、祭提灯や神社用、宣伝用の提灯なども生産している。 

八女提灯の特徴

八女提灯の特徴は、この一条螺旋式(いちじょうらせんしき)」の竹骨(たけぼね)と、薄手の「八女手漉き(やめてすき)和紙」や絹布に花鳥や草木の美しい彩色画が施された「火袋(ひぶくろ)」で、一本の細い竹ヒゴを、提灯の型に沿って螺旋状(らせんじょう)に巻く「一条螺旋式」は、現代の盆提灯の起源とも云われている。

なお、八女と岐阜が提灯の2大産地で、盆提灯では、八女が全国1位だそうだ。

盆提灯

八女では、お盆になると提灯を飾る習慣があり、仏壇は京都から来たもので、当初は、皿に入れた油で灯りを灯していたが、美しく飾るために提灯が用いられるようになったと云う。

目に見えないご先祖様の霊を想い、供養し、感謝の意を示すための道具として、提灯が用いられ、地域や宗教、宗派にもよるが、大きいほど、多いほどご先祖様を慕う気持ちが大きいという訳でもなく、また、対で飾れば見栄えが良いが、盆提灯には絶対的な「このように飾りなさい」という決まりはなく、ご先祖様を偲ぶ気持ちが何よりも大切なことで、昨今の住宅事情もあり、「小さくても良いものを飾る」ことが一般的になりつつあるそうだ。

提灯の製作工程

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提灯

1.ヒゴの準備

火袋(ひぶくろ)の骨は、一本の細い竹ヒゴを螺旋状に巻きつけることにより製作し、材料となる長い竹ヒゴは、直径が約0.4mm、長さが約4.5mの竹ヒゴを12本~25本程度つなぎ合わせて作る。

2.木型の組み立て

製作する提灯(ちょうちん)の大きさや形に合わせて、竹ヒゴを巻き付けるための木型を組み立てる。木型は「羽」と称される三日月のような形の板と、羽を固定する「円盤」により構成され、通常必要な羽の枚数は8枚から16枚。

3.ヒゴ巻き

木型の上部と下部には、木型を固定するための「張り輪」をはめ、竹ヒゴの一端を木型上部の張り輪に固定した後、竹ヒゴが螺旋状になるように、羽の溝に沿って下部の張り輪まで巻き付けていく。竹ヒゴの巻き付けが完了したら、提灯の伸縮による紙の破損を防ぐために「掛け糸」を施す。糸は、竹ヒゴの上を上部の張り輪から下部の張り輪にかけて真っすぐに渡していき、糸の両端は上下の張り輪に留める。

4.地絹(じぎぬ)の張り付け

張り付けは、現在では絹が主流で、張り付けた絹を剃刀などで裁断する作業、その絹の上に「ドウサ」を塗る作業はします。「絵付け」作業も生産性を向上させるため「速画」という独自の技法が発達しました。筆絵師は、既に頭の中に入れた絵の構図を基に、一度に10以上の火袋に下絵無しでひとつひとつ細かく筆を入れていきます。筑後の職人の心意気が、ここにも息づいています。

上部と下部のそれぞれの張り輪から、骨の4本か5本までの部分に絹を貼り付け、提灯の口の部分を補強し、掛け糸によって仕切られた各区間の竹ヒゴに、刷毛(はけ)でショウフ糊(のり)を塗り、地絹を一区間おきに一枚ずつ少したるませながらあてがっていく。

5.地絹(じぎぬ)の継ぎ目切り

掛け糸の各区間の地絹(じぎぬ)は、余分な部分をカミソリ等で切断し隣と重なる継ぎ目の幅を1mm程度に揃える作業は、熟練と繊細さを要する。

6.ドウサ引き

火袋の表面には、絵付け用の顔料がにじまないように「ドウサ」と呼ばれるニカワとミョウバンの水溶液を均一に塗る。

7.型抜き

火袋(ひぶくろ)を乾燥し終えたら、中で木型を分解し全て抜き取る。

8.絵付け

「絵付け」作業も生産性を向上させるため「速画」という独自の技法が発達し、絵付け専門の職人「絵師」は、既に頭の中に入れた絵の構図を基に、一度に10以上の火袋に下書き無しでひとつひとつ細かく筆を入れていく。

木地

1.木地づくり

専門の職人「木地師」が手で板を曲げることにより、提灯の上部と下部に付けられる「加輪(がわ)」を製作し、「ミシン鋸(のこぎり)」を使って、厚手の板から「手板(ていた)」を切り出し、ヤスリをかけて滑らかに仕上げる。

2.漆塗り(うるしぬり)

漆塗り職人「塗り師」が漆を2度塗りする。

3.蒔絵(まきえ)

漆塗りが乾いた後、蒔絵師(まきえし)が蒔絵の下絵が描き、下絵が乾いたら、金や銀の色粉の蒔き付け、光沢のある貝殻を貼り付ける螺鈿(らでん)装飾を施す。

4.仕上げ

絵付けされた火袋(ひぶくろ)と装飾済みの加輪(がわ)、手板(ていた)が提灯屋に集められ、専門の職人により組み立てられた後、仕上げに房や金具を取り付けて完成。

八女提灯の現状

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「提灯屋は、その昔は照明器具屋だったので、日本全国にありましたが、材料等の関係で、大々的にやったのが、岐阜と八女、そして、名古屋、東京とその周辺で、だんだん、産地が集約されていきました。」

「明治以降、絹が張り付けに使われるようになり、この布に使う絹糸は日本で生産できる最も細い糸を使い織られた高品質の原反なので、薄くて灯りの透過度が高く、八女提灯の美しさに欠かせない原材料なのですが、生産できる工場が僅かしか残っていません。」

「竹骨に使う細い竹ひごを引ける職人も高齢化しており、その前の竹を切り出して、割る職人も高齢化しており、竹屋さんが消滅する危機があるため、組合で竹山を購入し、維持管理をして、将来的な原材料を確保しようとしましたが、現状、できていません。」

「時代と共に、竹ひごの代わりに防食加工を施したワイヤーを使ったり、純和紙の代わりにビニロン等の化学和紙を使ったり、コストを抑え、合理化をする工夫をしてきましたが、伝統的な産業を残していくには技術の継承が必要です。」

伝統工芸士

「後継者不足等により低迷している伝統的工芸品産業の需要拡大を狙って1974(昭和49)年に誕生した、経産省傘下の(財)伝統的工芸品産業振興協会が認定する『伝統工芸士』と云う資格制度がありますが、資格を取得しても、仕事が保証されるわけではありません。」

「以前、イサムノグチがデザインした和紙を使った行燈や提灯の『AKARI』が一世を風靡し、その製造は、当初、八女が担っていましたが、台湾、中国へと製造が移り、今は、タイ、ベトナムですが、提灯の技術も持っていかれてしまいました。」

「残念ながら、八女提灯を取り巻く環境は厳しく、提灯屋の数も年々、減っているのですが、悲しいかな八女提灯協同組合の組合員、非組合員に関わらず、どこも自分のところのことで精いっぱいで、業界が一枚岩ではないのが現状です。」

八女提灯の今後

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「八女提灯の製造工程を見てもらえばわかるように、提灯は、竹屋さん、貼り屋さん、塗り屋さん、絵師さん、蒔絵屋さん他の小規模な専業が分業制をとっていて、最後の仕上げ加工をしているのが、私ども提灯屋です。」

「組合の力、一業者、ひとりの力には限界があるので、伝統工芸士も提灯屋も得意先も三位一体となって業界を盛り上げて、共存共栄を図らないとないとどんどん先細るのは目に見えています。」

「博多織は、400年以上の伝統があるので、いろんな補助が付いて、米国で展示会をやったり、新商品も開発して、少し良くなったと聞いています。」

「全国レベルで、他の生産地の材料屋、仕入れ業者を含め、提灯に関わるもの全てが一丸となり、意見やアイデアを出し合って、提灯の技術、材料を使った既存とは異なるマーケットに向けた商品開発や情報発信をして、価値を高めていくしかありません。」

COREZOコレゾ「盆提灯生産では日本一を誇ってきた八女提灯の火を灯し続ける老舗提灯屋当主」である。

取材;2018年10月

最終更新;2019年6月

文責;平野龍平

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