土屋 修三(つちや しゅうぞう)さん/デザイナー・エイブルデザイン

COREZOコレゾ「『エシカル(ethical)』な思想、価値観で、社会に貢献したいと活動する信州デザイン界の大御所」賞

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土屋 修三(つちや しゅうぞう)さん

プロフィール

長野県長野市

株式会社エイブルデザイン 創立者 相談役

NPO法人長野都市経営研究所(NUPRI) 理事

NPO法人信越トレイルクラブ 理事

信州・橋の日推進協議会 事務局長

信州スローフード協会 事務局 専務理事

ジャンル

地域づくり

文化振興

受賞者のご紹介

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土屋 修三(つちや しゅうぞう)さんは、長野県長野市にある株式会社エイブルデザインの取締役会長。

2014年7月、小布施堂社長の市村次夫さん東洋大学講師の道畑美希さんのご紹介で、長野市にある株式会社エイブルデザイン本社を訪ね、お話を伺うことが出来た。

NPO法人長野都市経営研究所(NUPRI)とは?

ー 市村社長から「信越トレイル」の助成金獲得にご尽力されたと伺いましたが?

「1998年に開催された長野オリンピックの後、長野市を中心としたオリンピックゾーンの将来のあるべき姿を研究し、その実現に向けて提言・実践活動をしていく団体として、『長野都市経営研究所(NUPRI)』が設立されました。最初は任意団体だったのですが、今は、NPO法人(特定非営利活動法人)になっています。」

「私は、設立当時から、理事をしていますが、過去の開催地を調べても、オリンピックの跡地はトレーニングセンターぐらいしか有効活用されておらず、実際には、利用価値がないのが現実でした。そんな時、2000年度の国土交通省『北陸地域の地域づくり戦略』事業の一環として、助成事業の募集があって、同じく理事で、今は副理事長をしておられる小布施の市村さんたちと企画を考え、『長野都市経営研究所』を通じて、応募したところ、採用されました。それが、長野県飯山市にある長野県と新潟県の県境に続く関田(せきだ)山系のブナ林の活用をして、観光、健康にも通じるトレッキングでした。そこから、始まったのが、『信越トレイル』です。」

「信越トレイル」とは?

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「当時は、タウンウォーキングなんかがまだ始まったばかりで、トレッキングなんてみんな知らなかった。雪道を歩くスノーシュー、所謂、ガンジキですね、それも知らなかった。僕も知らなかった。欧米では既に製品化されていましたが、国産のものはまだ無かった。スキー、スノーボードはみんな知っていますが、まだ、世間に知られていなかったスノーシューを履いて森林浴をしながら雪山を歩く、新しいウィンタースポーツとして提案しました。」

トレッキングとウォーキングとの決定的な違いとは?

「トレッキングは、冬だけでなく、四季折々の楽しみ方があるのですが、ウォーキングとの決定的な違いは、『自然』です。自然の中を歩き、自然に触れることで自然と人との共生のあり方を感じ取れたりできるのが、ロングトレイルの魅力です。」

トレイルコースの整備

「『信越トレイル』は、長野・新潟の県境に位置する標高1000m前後の関田山脈のほぼ尾根上に延びる全長80kmにおよぶ国内でも数少ないロングトレイルです。ブナ林に育まれた自然豊なこの山脈は、かつて信濃と越後を結ぶ交通の要所として16の峠道が存在し、越後からは塩や海産物が、信濃からは内山和紙や菜種油が運ばれ、戦国時代には上杉謙信が川中島の合戦の際に何万もの兵を連れて峠越えをしたとも言われています。」

「その自然環境と歴史、文化を守りながら、山と人とのかかわりを後世に伝えていくことを目的として、新たに開発したのではなく、元々、あった峠道を利用して自在に歩けるトレイルコースに整備しました。2000年の調査段階から8年かけて、2008年に全線が開通しました。開通に至るまでには、国、長野・新潟両県、隣接する9市町村(当時13市町村)との調整が大変でしたが、地域内の関係団体、アウトドアメーカーをはじめとする企業、何より、多くの一般ボランティアの皆さんによる協力で実現しました。」

日本初ともいえるロングトレイルが完成

「中でも、日本を代表するバックパッカーであり文筆家であった加藤則芳さんという方がいらっしゃって、環境省や観光庁にも話のできる方で、コースの策定から、信越トレイルの基本理念、運営の仕組み、トレッキング憲章を策定するなど、多大なサポートをして頂き、日本初ともいえるロングトレイルが完成しました。しかし、惜しくも、昨年、2013年に亡くなられました。」

「トレイルの整備や維持管理は、『NPO法人信越トレイルクラブ』が主体となり、周辺地域のボランティアの方々の協力によって行われています。市村さんはそのNPOの副理事長で、私も理事をしています。当時、『北陸地域の地域づくり戦略』事業の一環として採用された助成事業は、4件ありましたが、今でも存続しているのは、『信越トレイル』だけです。」

「信州・橋の日推進協議会」とは?

「映画『スターウォーズ』に『スカイウォーカー』というのがありましたね?そんな発想からすると、トレイルは、フォレストウォーカー、海辺歩きは、シーサイドウォーカー、川歩きは、リバーサイドウォーカーでしょうか。」

「ここは信州ですから、山の次は、リバーサイドウォーカーかな、って思ったのですが、川辺歩きは、堤防を歩く人ももちろんいるのですが、ダムがあったり、支流があったり、行く手が途切れちゃうんですよ。それで、川を渡る橋を歩く方がおもしろいよね、っていうことになって、『信州・橋の日推進協議会』というのを始めて、僕は、事務局長をしています。」

橋巡りのツアー

「長野県に橋は5千ぐらいあるんですね、橋の日というのは、語呂合わせで、8月4日なんですけど、その近辺は、この辺りのいろんな地方のお祭りがあります。そんなこともあって、今年は7月25〜6日に橋巡りのツアーを開催します。」

「いくつかの橋をバスでめぐって、徒歩で渡り、その後、講演会、シンポジウム、懇親会等で意見交換をします。橋の愛好家には、橋のある風景そのものが好きな人や、橋の上からの眺め、下から橋の構造を仰ぎ見るのが好きな人など、さまざまなタイプがいますが、僕は、橋に佇んで浴びる風や夕日に何とも言えない風情を感じ、それが橋の大きな魅力であると思っています。実際、橋の真ん中に立って、川上に向かって深呼吸をすると、空気が驚くほどオイシイんですよ。アルプスから川の水が空気も運んでくるんでしょうね。」

「僕は、絵を描くのですが、橋のある風景を描こうとすると、橋は構造が複雑なので、描くのが面倒で、なかなか難しいんですよ。橋だけで時間が無くなってしまいます。そんなことをしながら、地域の景観の美しさを再認識するとともに、歴史を遡り、先人の生活に思いを馳せることで、橋も貴重な観光資源の一つになると思っています。」

信州スローフード協会

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ー スローフードの活動もされているとか?

「スローフード協会は、社会構造のファスト化、ファストフードの席巻、地域の郷土料理の消滅、人々の食品に対する興味の減退を危惧し、食べ物がどこから来て、どういう味で、私たちの食べ物の選択が、世界にどのような影響を与えるのかについて、より多くの人々が気づき、食を通じて、自分たちの幸せな未来を共に築いていくことを目的に、1986年にイタリアのブラ(BRA)で設立されました。」

「信州にはたくさんいいところがあります。あまり先を急ぎすぎず、少し立ち止まって、ゆっくりするのもいいだろうと思って、スローフードを始めました。イタリアにスローフード協会があるのを知って、特定非営利活動法人スローフードジャパン設立時の役員も務め、今は、信州スローフード協会の事務局、専務理事をやっています。」

「来年、北陸新幹線が開通して、小布施の隣町の飯山に駅ができるのですが、それに合わせて、市中心部を通る中央橋の架け替え工事が進んでいます。スピードアップするのはいいのですが、車窓からの景色があっという間に通り過ぎてしまいますので、景色を楽しむ風情が無くなって、いけませんね。」

デザインと社会活動の関係とは?

ー 元々、グラフィックデザイナーの土屋さんが、どうして信越トレイルやスローフードの活動を始められたのですか?

「結果的に郷土愛にもつながっているのかもしれませんが、僕には、渇望っていうのか、そうなったらいいなって強く望むところがあって、橋も車で何度も通るけど、どうして歩かないのかな?と疑問に思うと気になって仕方が無い。」

「実際に、歩いて、川上から流れてくる空気がおいしいという発見をすれば、それを旗振りをする人がいてもいいんじゃないか、と思ったり、トッレッキングもただ単に歩くだけなら、くたびれて、嫌になっちゃうかもしれません。僕なんか、家で寝ていた方がいいんだけど、でも、杉の人工林からブナ林に入ると、本当に空気が違うんですよ。これもやってみなければわからない。そんなことなんですよ。」

「デザインというのは、バーチャルで、机上で空想しているよりも、実際に行って、見たり、聞いたり、したり、した方がより良いものになります。おいしいって言っても、食べてみなければわからないでしょ?まず、やってみるというのが大切で、それから始まって、いろいろなものが見えてくるのです。」

里山資本主義とは?

ー 今、興味を持っておられことは?また、今後どのような活動を?

「スローフードジャパンでは、地産地消って云ってたのですが、地産地消と言っても、日本は食料自給率が40%もないでしょ?お金のある人は地産地消できても、お金のない人はできないってことになる、それも国レベルで。地域毎に見ていくと、そもそも、東京のように人口が多く、農産品の生産高の低いところでは、到底、無理な話です。だから、もっと大きな視野をもって、ものごとを見ていかねばなりません。」

「UNEP(United Nations Environment Programme)国連環境計画という国連を主体として行う、環境問題関連活動の総合調整管理機関があります。その日本版が、里山資本主義(お金がすべてという『マネー資本主義』の経済システム対して、お金に依存しないサブシステムを再構築しておこうとする考え方)のような考え方ですね。そういうことに興味があります。」

『エシカル(ethical)』とは?

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「また、環境とCSR(corporate social responsibility・企業の社会的責任)にフォーカスした日本唯一のビジネス情報誌があるのですが、その編集長の話に感銘しまして、これから20年は持つだろう、と思ったキーワードが、『エシカル』なんですね。『エコエティカ(eco-ethica)』ってご存知ですか?日本語では、生きるための倫理、道徳、とか、生圏倫理、つまり、『人類の生息圏の規模で考える倫理』のことです。『エシカル(ethical)』は、元々、倫理的、道徳上という意味ですが、近年は、倫理的=環境保全や社会貢献という意味合いが強くなっています。これは、日本が世界をリードするひとつの思想感だと思うんです。」

「いろんな人が集まって、交流して、感動が生まれる・・・、平野さんのやっているコレゾ賞も、ある意味、ソーシャル・イベントだと思うんですね。私は、教科書も作っているので、教育、環境、暮らし、健康、交流、食・・・、さまざまな分野で、相利共生の精神とデザインを通じ、社会に対して貢献したいと思っています。」

「いろんな人と交流して、そういう『エシカル(ethical)』な思想、価値観に関心が高く、生きがいを感じる人がどんどん集まってくれば、波及、連鎖して、社会全体の価値もより高まるはずだし、そうなっていけば、喜びっていうか、理屈でもなんでもないですよね、もう後、何年も生きられないですが、毎日、こういうふうによく動いたよね、って自分を褒められるようになれたらいいなって思います。」
コレゾ財団・賞の趣旨をご説明し、受賞のお願いをしたところ、快諾して下さった。この先もずっと活動を続けて頂きたい。

COREZOコレゾ「エシカル(ethical)な思想、価値観で、社会に貢献したいと活動する信州デザイン界の大御所」である。

後日談1.第3回2014年度COREZO(コレゾ)賞表彰式

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COREZO(コレゾ)賞 事務局

初稿;2014.11.17.

最終取材;2014.12.

最終更新;2015.03.19.

文責;平野 龍平

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