タネ・種子がアブナイ⁉︎ 種を制するものは世界を制する

「F1種」、「GM種」の隆盛と「固定種」、「在来種」、 種の多様性の消滅の危機

佐野 正則(さの まさのり)さんは、自社の実験農場で「在来種」を育てておられ、自然農の村上 真平(むらかみ しんぺい)さんからは、「F1種」の話を伺った。それ以前にも、農業をしておられる皆さんから、遺伝子組み換え作物、バイオメジャーの独占、ジャガイモの発芽を抑制(芽止め)するための放射線照射、ミツバチの大量失踪等々の話を伺っていて、断片的な知識はあったのだが、自分たちが普段食べている農産物、そのタネのことについて、何も知らんことに気が付いた。

気になり出すと、気になってしかたがない。佐野 正則(さの まさのり)さんのご紹介記事を書くのに、一から調べて、勉強することにした。

https://corezoprize.com/masanori-sano

https://corezoprize.com/shimpei-murakami

ネットで「在来種」、「F1種」と検索すると、ある方のサイトが次々と上位にヒットする。2013年9月、ダメもとで一面識もないそのサイトの方に連絡をしたところ、幸運にも、会って下さることになり、その上、講演まで拝聴させて頂き、お話を伺うことができたので、その内容を自分なりに理解できたことだけを備忘録としてまとめておく。

種の歴史

元禄年間   初めてのタネ屋が誕生

明治時代   欧米の種が流入

大正時代   ナスで世界最初のF1野菜誕生

1940年代 アメリカで玉葱のF1品種誕生

1960年代 F1が世界的に増えだす

1980年代 日本の種の海外採種が始まる

2000年代 バイオメジャーが種苗業に進出

タネの種類

タネの種類には、「在来種」、「固定種」、「F1種」、「GM種」がある。

「在来種」

農家が自家採取を続けてきたタネ(自家受粉しない他家受粉植物では交雑して変化していることも多いとのこと)。

「固定種」

タネ屋が形質を固定したタネ(変異を固定し、受粉を自然に任せたタネ)

「F1種」

f1-seed

異品種を人為的に掛け合わせて作ったタネ(交配種・一代雑種)

「F1種」とは、一代雑種「first filial generation」(種苗業界用語では一代交配種)の略で、文字通り、一代限りの雑種(英語ではハイブリッド/hybrid)で、遺伝的に遠縁の系統をかけあわせて作られた雑種は、もとの両親より生育が早くなったり、大柄になったり、収量が多くなったりすることがあり、この現象を「雑種強勢(ヘテロシス/heterosis)」という。

「雑種強勢」が働くよう、雑種にされて販売されているタネがF1で、F1種の登場により、日本の野菜生産量はぐんと増加した。雑種化する前の昔のタネが、「固定種」で、F1の両親が、遠縁の二系統以上なのに対し、両親とも同じ単一の系統なので、タネ屋の業界では「単種」と言うこともあるそうだ。この「固定種」からF1への変化は、生産性の向上という点で画期的な出来事だった。

現在、種苗店や園芸店、ホームセンターなどで販売されている野菜のタネも、スーパーで売られたり、外食、中食産業で使われたり、現在、流通している野菜のほとんどが「F1種」だそうだ。

「GM種」

遺伝子組み換えされたタネ(Genetically Modified Seed)

GMO遺伝子組み換え作物についてどれだけご存知ですか?

「固定種」と「在来種」の違い

農家が自家採種した「在来種」の中には、交雑などで雑種化した「交配種」もあるらしく、この「固定種」は、「在来種」と区別するための種苗業界の用語で、タネ屋さんが、種取り種として交雑しないよう慎重に育て、遺伝子を固定化した「自慢のタネ」なのだそうだ。

固定種の長所と短所

固定種の長所としては、味が良い(伝統野菜の場合)、自家採種ができる、多様性・環境適応力がある、長期収穫ができる(自家菜園向き)、さまざまな病気に耐病性を持つ個体がある、オリジナルの野菜が作れる等があるが、反面、姿形、大きさ、収穫時期が揃わない。

F1種の長所と短所

F1種の長所として、そろいが良い(出荷に有利)、毎年種が売れる(メーカー利益)、生育が早く、収穫後の日持ちが良い(雑種強勢が働いた場合)、特定の病害に耐病性を付け易い、特定の形質を導入し易い、作型や味など流行に合わせたバリエーションを作り易い等がある。

F1は全て同じように成長するので、同時に蒔いたタネは一斉に収穫時期を迎え、全部引き抜き、水洗いし、束ねて出荷すれば、一度の手間でお金になる。この方が、農家にとって効率的なわけで、農家はそういう種を欲しがり、種屋は一所懸命そういう種を作り、日本中がそういう種で栽培するようになって、固定種が世の中から忘れ去られていったという。

市場からのニーズ

また、収穫物である野菜が、工業製品のように均質であらねばならないという市場からの要求も大きかった。

F1以前のダイコンは、同じ品種でも大きさも重さもまちまちだったため、野菜をいちいち秤にかけて、1貫目いくらとかで売っていた。それでは大量流通には向かないが、F1野菜は、メンデルの法則によって、異品種間の雑種の一代目は、両親の優性形質だけが現れるため、見た目が均一になる。箱に入れたダイコンの太さが8cm、長さが38cmというように、どれも規格通り揃うので、一本100円均一などで売りやすくなった。

しかし、F1種はその名の通り、一代限りの雑種で、買ったタネの一代目だけが決められた揃いの良い野菜になるが、そのタネを採って蒔いても、親と同じ野菜はできず、姿形がバラバラな異品種ばかりになってしまうので、毎年高いタネを買い続けなくてはならない。こうして、昭和40年頃を境にして、日本中の野菜のタネが、自家採種できず、毎年種苗会社から買うしかないF1種子に変わってしまったという。

「F1」の作り方

野菜の種類、花の性質や構造によって異なるが、「人為的除雄」、「自家不和合性」、「雄性不稔」がある。

人為的除雄

世界初のF1野菜は、大正13年(1924)、埼玉県農事試験場で作られたナスだったそうだ。同じナス科の両全花(雌雄同花)のトマトも、花が開くと、自分の雄しべの花粉で受粉(自家受粉)して種を実らせるので、蕾のうちに雄しべをピンセット等で取除き、交配する父株から集めた花粉を付ける「人為的除雄」で、F1種を作っていた。既に、1965年にはトマトの販売種子の80%がF1種になっていたというから、今や在来種のトマトの味を知っている人は希少なのだ。

雌雄異花のウリ科の場合は、雌花が開花する前に、雄花を取り除いたり、開花しないようにピン止めして、交配したい雄花の花粉を付けていた。江戸時代に日本で栽培されていたスイカは旭大和という品種で、縞がなく、甘くておいしかったそうだが、皮がもろかったため、流通に適さず、明治になって、西洋の皮が硬く、縞のあるスイカを父親にして掛け合わせて、縞のある方が優性遺伝するので、縞のあるスイカが誕生したという。縞のあるスイカが登場する時代劇は、時代考証がキチンとされていないことになるという訳だ。

ナスもトマトもスイカも一回の人工交配で数百粒のタネが採種できるので、人件費をかけても販売量が確保できるが、アブラナ科のハクサイやキャベツは、一回の人工交配では10粒前後のタネしか実を結ばない。これでは人件費に見合う販売種子が収穫できないので、「自家不和合」という、日本だけのガラパゴス技術が開発されたそうだ。

自家不和合性

大根や白菜等のアブラナ科の野菜の場合は、雌雄同花で、自家受粉を嫌い、自分の花粉では種を実らせない「自家不和合性」という性質を利用して、その機能が働かない蕾の内に自分の花粉を付けてやれば、同一の個体(クローン)を無限に増殖でき、採種したタネは全部同じ遺伝子だから、同品種間の子はできないことがわかった。

子ができないハクサイと、子ができないカブを作っておいて、交互に並べて、畑にまけば、ハクサイとカブの雑種を栽培することができる。ただ、この場合、ハクサイの花粉で実ったカブと、カブの花粉で実ったハクサイの、二通りのタネが畑にできてしまので、混ざったままのタネを販売すると均一なF1野菜が栽培できない。求めるF1ハクサイのタネがカブにハクサイの花粉がかかったものだとしたら、カブの花粉がかかったハクサイのほうは、タネが成熟する前に、全部踏みつぶしてしまうそうだ。

カブとハクサイって交配するの?

えっ?カブとハクサイって交配するの?その雑種って?という素朴な疑問が湧くが、同じアブラナ科アブラナ属のカブとハクサイは交雑するらしい。「オレンジクイーン」という品種は、白菜とヨーロッパ産のカブを交配したもので、外葉は緑色だが、中の葉はオレンジ色をしているのが特徴。甘味が強く、漬け物や炒め物はもちろん、生のままサラダにしてもおいしく食せるとこと。へぇーっ、だ。

かつて、F1種のカブを育種する大手種苗業者の農場では、菜の花ざかりの春、虫が入れないように密閉されたビニールハウスの中で、毎日、おびただしい数のパート主婦が手作業で蕾受粉を繰り返していて、全ての産業同様、種苗業界も、資本力のある大手の寡占化がどんどん進行していったそうだ。

「自家不和合性」も、さら進化していて、密閉したハウス内の二酸化炭素濃度を3〜5%に上げると、開花した菜の花でも自家受粉してタネをつけることがわかって、ミツバチを使って受粉させているとのこと。現在の大気中の二酸化炭素濃度は0.037%で、これまでの地球の歴史上でも0.6~0.04%程度での変動であり、ハウス内の濃度は非常に濃く、人間なら酸欠になるが、ヘモグロビンを持たないミツバチは、そんな中でも平気で交配作業をするという。

雄性不稔

1929年にアメリカの農業試験場で花粉が出ない「雄性不稔」の赤タマネギ(イタリアンレッド)株が発見された。「雄性不稔」とは、雄しべがないもしくは、雄しべはあっても花粉がなく、雄の機能を果たさないこと。

試行錯誤の結果、雄性不稔の個体は、花粉がつく正常な個体と掛けあわせても雄性不稔となり、母系遺伝で子に伝わることが判明した。メジャーな黄たまねぎにするために、雄性不捻の赤タマネギに黄タマネギの花粉をかけると、赤50%対黄50%の子ができ、できた子も雄性不捻になるので、この作業を繰り返すと、次は、赤25%対黄75%となる。同じことを5〜6回繰り返せば、限りなく黄タマネギに近づいていく、こうして、雄性不捻の黄タマネギが誕生した。

このように、他品種から必要な性質を取り込む方法を、「バッククロス」または、「戻し交配」と呼び、1944年、こうしてできた雄性不捻のF1タマネギが販売開始され、以後、このたった一個の赤タマネギから見つかった雄性不稔因子は、どんどん増殖され、世界中のF1タマネギの母親株として受け継がれているそうだ。

その後、トウモロコシ、テンサイ、ニンジン、ラディシュ等で雄性不捻株が見つかり、母系遺伝の便利さから、欧米のF1育種の中心技術として広まり、日本でもネギを筆頭に、日本独自の野菜も雄性不捻になっていった。

雄性不稔のしくみ

「雄性不稔」は、突然変異によるミトコンドリア異常に由来する形質であることがわかってきたという。

およそ100個のミトコンドリアを持つ精子が卵子と受精すると、卵子内の細胞分裂の過程で、精子から運ばれたミトコンドリアは全て分解されるため、全てのミトコンドリアの遺伝子は母系遺伝する。基本的には「雄性不捻」の母親の子供はすべて「雄性不捻」になる。この性質を利用すれば、「戻し交配」を繰り返すことによって、既存のF1品種の母株を簡単に雄性不稔化することができる。

ダイコンを使ってキャベツやハクサイの雄性不捻F1種を作っている?

さらに、驚いたことに、雄性不捻株が出る確率が高い品種の大根(アブラナ科ダイコン属)を使って、同じアブラナ科アブラナ属のキャベツやハクサイの雄性不捻F1種を作っているというのである。

その方法は、「雄性不捻」の大根を雌株に、キャベツを雄株にして、先程の「自家不和合性」の進化形と同様に、ハウス内のCO2濃度を高め、ミツバチを放つと、大根はキャベツの花粉でも受粉して子供を作るそうだ。その後、「戻し交配」をして、「雄性不捻」のキャベツが出来上がるというのだ。但し、二酸化炭素は受粉し易くするためで、なくても手作業でもダイコンとキャベツ類の交配ができ、雑種は作れるそうだ。

こうなると話がややこしいのだが、見た目は同じダイコンやハクサイ、キャベツのタネで、できるのも昔と同じようなダイコンやハクサイやキャベツだが、実体は、ダイコンともハクサイともキャベツとも言えないものに遺伝子が変化しているそうだ。

ナス科

果菜類のナス科のピーマンでも雄性不捻がみつかり、シシトウでは、『雄性不捻』を売りにした品種が販売されていて、生産日本一の高知県南国市では、その品種が99.9%だそうだ。キャベツ、青首大根、玉ねぎ、人参も全て雄性不捻のF1になってしまっていて、買ってきたタマネギやニンジンを1株か2株、庭にでも植えておくと、冬を越して暖かくなれば花は咲くが、雄しべがないから花粉は出ないという。我々はそういう野菜を食べているというのだ。

キク科とマメ科

キク科とマメ科の植物は、強力な自家受粉性があり、また、非常に手間がかかるので、今までF1がなかなかできなかった。キク科の花は1つの花のように見えて、何百という小さな花の集まりで、その中から雌しべが成熟して筒の中にできる花粉をつけて上がってくる仕組みになっていて、交配しても種がたった1粒しかできないので、非常に効率が悪い。しかし、雄性不稔が見つかれば、虫にそれを花粉交配させれば種ができる。その雄性不稔株を農水省の研究所が見つけたという。

キク科のレタスは、ミツバチの脳や複眼とレタスの花粉の形との相性が悪いようで、目を傷つけられるから嫌がるのか、ミツバチがこの花に集まってこないので、F1種の開発が難しかったそうだ。

日本の種苗会社同士で、どちらが先に世界初のF1レタスを作るか競い合い、ミツバチの代わりに何を使ったらいいかということを研究していたが、その内の一社が、相性のよいコハナバチというハチを見つけ、世界最初のF1レタスが発売されることになった。そして、もう一社は、キンバエを使ったレタスの交配方法を特許庁に出願したという。

サラダゴボウは、放射線照射した突然変異種

また、キク科のゴボウでは、今のところ雄性不稔の株は見つかっていないのだが、ゴボウの種をポットにたくさん蒔いて、放射線の照射時間、距離など、色んなパターンを試し、そのポットから芽が出たものを畑に植えてみたところ、丈が短いゴボウができた。掘るのが簡単なので、家庭菜園用として売り出したが、「コバルト◯◯」という品種名が悪かったのか、余り売れなかった。

品種登録(植物の特許)は15年間なので、期限が切れると誰でも種が採れるようになってしまう。その前に、これをもう一度何とかしようということで、再度、ポットに蒔いて、さらに、コバルト照射をしたところ、より短くなった上に、アクが無い品種が生まれた。これがサラダゴボウとして売られている品種だそうだ。

小粒納豆の原料大豆

さらに、小粒納豆に使われる「コスズ」は、在来種の「納豆小粒」に放射線照射した突然変異種で、東北農試で育成した品種で、放射線照射で遺伝子が傷つくと、奇形になっていき、異常になって生まれたのがサラダゴボウであり、小粒納豆なのだそうだ。

そして、最後に残された豆科でも、黒種衣笠という品種のサヤインゲンから雄性不稔株が一株みつかり、これにいろんな品種を掛け合わせてどういうものができるか農業試験場や各社が研究中だそうだ。そのうちに雄性不稔を利用した枝豆とかそら豆等、すべての植物が雄性不稔になって、めでたし、めでたし、ということになるだろうとのこと。

日本の砂糖の自給率は35%あるそうだが、原料の8割が北海道のような寒い地方で作られるテンサイ、2割が沖縄・奄美地方のサトウキビ。実は、このテンサイもすべて雄性不捻のF1で、世界中で使われているF1テンサイの大元は50年以上前に米国で発見された、たった一株の変異株から無限に増やされ、今では、世界中の砂糖の材料になっている。絞りカスは清涼飲料水の食物繊維、その他にインスタントラーメンのつなぎ等にも余さず使われているそうだ。

因みに、テンサイは別名、サトウダイコンとも呼ばれているが、「ホウレンソウ」と同じ旧「アカザ科」の仲間で、従来「アカザ科」に分類されてたが、新しい分類体系ではそれまでの「ヒユ科」と併合し、新たに「ヒユ科」として分類されているそうだ。

サトウキビは、栄養繁殖性植物(胚・種子を経由せずに根・茎・葉などの栄養器官から、次の世代が繁殖する無性生殖)であるため、栄養体を増殖し、確保する必要はあるが、種子での増殖が困難で、F1種が開発できないとのこと。

遺伝子が画一化していく大きなリスク

今後、GM(遺伝子組み換え)や雄性不捻F1作物ばかりになる危険、GM(遺伝子組み換え)作物が無表示で流通する危険、「固定種」や「在来種」の野菜が生産も流通もできなくなる危険、「固定種」や「在来種」のタネが生産も流通もできなくなる危険、正常な遺伝子が地上から消えてしまう危険等が考えられている。

F1種は、農業を生業とし、世界の人口を養う食糧を確保するためにも必要だが、年々、「固定種」は急速に消滅していて、遺伝子が画一化していく大きなリスクを回避するためにも生物の多様性を残すことが喫緊の重要問題である。

1人でも多くの人がそのことに気付いて、家庭菜園でも何でも、固定種を育てて、種を自家採種しておいておけば、その種の遺伝子が残り、タネが1粒でも残っていれば、1万、1億、1京と増やすことが可能で、ある日、遺伝子組み換えや雄性不稔の食物が、健康上良くない、ということが証明された時に、わずか4年でそれを元に戻すことができるそうだ。

タネ・種の話については、下記の受賞者の皆さんのご紹介ページの内容も併せてご覧下さい。

岩崎 政利(いわさき まさとし)さん/在来種・種採栽培「岩崎農園」

https://corezoprize.com/kazuya-takahashi

https://corezoprize.com/masanori-sano

https://corezoprize.com/satoru-nakamura

https://corezoprize.com/kaoru-ishiwata

COREZO(コレゾ)賞 事務局

初稿;2013.11.20.

最終取材;2013.09.

最終更新;2015.04.03.

文責;平野 龍平

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