農林水産省からの改善命令
2014年11月、日東醸造株式会社蜷川社長より、いつになく神妙なトーンで、「2014年度のCOREZO(コレゾ)賞受賞を辞退したい」という旨の電話を頂いた。
聞けば、「日東の白醤油 松 1.8L 瓶入り」他、6商品について、窒素分調整目的で若干量のアミノ酸液が使用され、混合方式で製造したにもかかわらず、本醸造を要件とする JAS 特級に格付し、その表示を行っていたことに対して、改善命令が出される予定で、COREZO(コレゾ)財団・賞に迷惑をかけたくないとのことだった。
改善命令の内容
決して、悪意があって故意に行ったことではないが、表示違反をしたことは事実であり、そのことに気づかなかった責任は免れず、厳粛に受け止め、業務改善に努めるとのことだった。
http://nitto-j.com/pdf/osirase.pdf
http://nitto-j.com/pdf/150327.pdf
確かに、本醸造製法に関してはアミノ酸液の使用を認めていないようだ。
詳しくは下記、
https://corezoprize.com/soy-sauce
醤油の全窒素分とは?
JASの規格にある醤油の全窒素分という基準がよくわからなかったので、蜷川社長に尋ねてみた。
以下、蜷川社長からのご回答
まず醤油の全窒素分について、比較的わかりやすい資料はこちら
https://www.soysauce.or.jp/gijutsu/jas/top.html
表-2を見ると5種類の醤油の規格値がまとめられていて、全窒素はしろ以外の醤油では上の等級から下がるに応じて、規格値も下がります。
しろ醤油のみは特級0.4~0.8、上級と標準0.4~0.9と明らかに他の醤油と異なる規格基準です。
醤油のうま味成分であるグルタミン酸やその他のアミノ酸類は、必ず窒素分を含んでいるので、窒素分の多い少ないで、醤油のうま味が多いか少ないかを表します。
但し、しろ醤油に限っては、そのうま味よりも無塩可溶性固形分(いわゆるエキス分)と直接還元糖の多い少ないで、その等級を区別する基準になっています。
つまりJAS規格では、しろしょうゆはうま味じゃなくてエキス分と糖分で評価する、ということです。これは間違いではないと思います。
弊社が の社内管理基準をなぜ0.52(±0.05)とJAS規格よりも下限で0.07高く設定していたのか、私にも工場長にも明確な理由が判りません。
想像ですが、過去には今よりも大豆の使用量が多くて、元液の全窒素値がもっと高かった、或いは昔の原料小麦に含まれるタンパク質が今の品種よりも多く、結果として元液の全窒素分が高かったのかもしれません。
また、それがある時期から(私や工場長が入社する前の時代)、徐々に元液の全窒素が下がり、社内規格を見直さずにアミノ酸液で調整するようになってしまっ たのかもしれませんが、何れにしろ、不適切な表示を見逃してきた責任は重大で、今後、このようなことを二度と起こさないよう、私が率先して全社員のコンプライアンスに対する意識を向上し、全社員が一丸となって、全力で信頼回復に努める所存です。
以上
表示ミスが発覚する前から、アミノ酸液で調整しなくても全窒素分のJAS基準は満たしていたそうで、現在は、社内管理基準を0.49(±0.05)に下げて、全て基準をクリアして生産しているとのこと。
アミノ酸液等(酵素分解調味液及び発酵分解調味液を含む)を使用しなくても、規定の全窒素分基準を満たしていたのだから、農林水産省から指導される前に自主的に改善すべきであったのではないかと思う。
COREZO(コレゾ)財団・賞の考え
JAS法の規定に則った表示をするならコンプライアンスを厳守するのは当然のことであり、食品メーカーとしての責任は重いが、農水省の改善命令という社会的な制裁を受け、すでに業務改善に取り組んでおられること、蜷川社長から経緯経過をお伺いする限りでは、故意に行った悪質な虚偽表示とは考えにくいこと、COREZO(コレゾ)賞に関しては、「しろたまり」づくりに対して受賞して頂いたのであり、その他の商品づくりは対象としていないこと、以上により、継続して受賞していただくこととした。
しろたまりにアミノ酸液が使用されていない検査結果
http://nitto-j.com/pdf/shirotamari.pdf
レンブリン酸反応が出なければ、アミノ酸液を使っていないことが証明できるらしい。
そもそも、「しろたまり」は、原材料に大豆を1粒も使っていないので、「しょうゆの日本農林規格」に適合しておらず、大豆を1粒でも使えば、「しょうゆ」と表示できるのに、信念を貫いておられるところも受賞していただいた理由のひとつである。
https://corezoprize.com/yoichi-ninagawa
https://corezoprize.com/rates-soy-sauce
付録 アミノ酸液
アミノ酸液とアミノ酸の違い
アミノ酸液
脱脂加工大豆や小麦グルテン等の植物性蛋白質を塩酸で加水分解してグルタミン酸、アスパラギン酸、アラニンなど多くのアミノ酸を作り炭酸ナトリウムで中和した、旨味の強い液体調味料で、醤油の原材料として扱われる。第二次世界大戦後に生まれた技術で、九州地方ではこのアミノ酸液の味が好まれる。
濃塩酸のかわりにタンパク質分解酵素を用いたものを酵素分解調味液、小麦グルテンを発酵、分解したものを発酵分解調味液と呼んでいるそうだ。
蜷川社長のお話では、これを少量加えるだけで、うま味成分に含まれる窒素値がケタ違いに上がることから、うま味成分が凝縮された液体と云える。
調味料(アミノ酸等)
食品添加物で、JAS法において、アミノ酸系、核酸系、有機酸系の3種類があり、その中のアミノ酸系はグルタミン酸ナトリウムが主で、他にもアラニンやグリシンがある。JASマークのついた醤油に添加される添加物は全てJAS法で使用が認められている添加物。
本醸造方式と混合醸造方式、混合方式の違い
本醸造方式(生産割合約80%)では、現在材料としてアミノ酸液は使えないが、使用できる添加物は他の方式(等級)と共通。
ただし、特級さいしこみしょうゆにアミノ酸液等の使用は可能で、規定では、「アミノ酸液等の使用割合(混合醸造方式によるものに限る。)20%以下であること」になっているが、この規定に関する業界からの質問に対して、
その場合、アミノ酸液等の占める窒素比が20%以下になるよう配合する。なお、当該規定は、うまみ成分としての全窒素に占めるアミノ酸液等の全窒素の比率だが、アミノ酸液等由来の全窒素を分析により算出することは不可能であり、「重量比の規格」については、何に対する比率であるかが不明であることから、現行のとおりとする。
って、どーゆーこと?
混合方式(生産割合約14%)でのアミノ酸液使用割合は、業界の自主規制で、このアミノ酸液80%未満、本醸造しょうゆ20%以上となっているようだが、混合醸造方式のアミノ酸液使用割合の規定が見当たらない。
現状、醤油の全生産量の内、消費者向けが約30%、食品加工等の業者向けが約70%だそうで、農産物の消費割合と同じような比率になっている。今の日本人の食生活を反映しているように思う。
アミノ酸液は日本農林規格(JAS)しょうゆの原料として認められていると誇らしげな日本アミノ酸液工業会
http://www.aminosaneki.gr.jp/example_detail.html
一体、規格や規定、制度って誰のためにあるのだろう?
繰り返すようだが、本来、伝統的なしょうゆの原材料は大豆(日東醸造のしろたまりは例外)、小麦、塩、麹、水だけだったはずなのだが…。
以上
COREZO(コレゾ)賞 事務局
初稿;2015.04.06.
最終更新;2015.04.06.
文責;平野 龍平
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