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COREZOコレゾ「デザインの力で企業の誇りをカタチにし、地方の伝統産業や老舗の再生にも新たな息吹を吹き込む、ロック魂溢れるデザイナー」賞
小玉 文(こだま あや)さん
プロフィール
株式会社BULLET (カブシキガイシャバレット)代表取締役
グラフィックデザイナー
1983年大阪生まれ
東京造形大学デザイン学科グラフィックデザイン専攻領域卒業
株式会社粟辻デザインへの7年間の在籍を経て
2013年、株式会社BULLETを設立
東京造形大学 助教
動画 COREZOコレゾチャンネル
小玉 文(こだま あや)さん/デザイナー・BULLET代表(その1)「今代司酒造『錦鯉』制作秘話」
小玉 文(こだま あや)さん/デザイナー・BULLET代表(その2)「紙を使ったデザインを極める」
小玉 文(こだま あや)さん/デザイナー・BULLET代表(その3)「デザインとロックンロール魂」
小玉 文(こだま あや)さん/デザイナー・BULLET代表(その4)「実際に有名ロックバンドのグッズもデザイン」
受賞者のご紹介
錦鯉
数年前、偶然、今まで見たことのない、美しく、斬新なパッケージデザインの日本酒(4合瓶)をネットで見つけ、中身のお酒はともかく、「うわぁ、これ、めっちゃ、欲しい。」と、思ってしまった。
ボトルに錦鯉の模様が入っており、紙の箱に収めると、錦鯉が泳いでいるように見えるデザインで、「グッドデザイン賞2016」だけでなく、「Design for Asia Awards Bronze Award」、デザイン界のオスカーとも称される世界最大級のデザイン賞「iF DESIGN AWARD 2016」をはじめ、国内外の名だたる賞を次々に獲得したそうだ。
どんな人がデザインしたのか興味が沸いて、調べてみると、小玉 文(こだま あや)さんという、大阪出身のグラフィックデザイナーで、ご自身の事務所、BULLETのWebサイトには、モノクロの横顔の画像しかなく、ネットで調べたが、その当時には、見つからなかった。
ところが、それからしばらくして、ある商工会議所の事業で、デザイナーとして参加された小玉さんに出会ったのである。モノクロの画像から、何となく、想像していた通りの、ん〜、女優の原田知世さんのような…、ん〜、なんと、ハードロック、ヘビメタ大好きロケンローラーだった。
その事業には、小玉さんの他にも何人かのデザイナーが参加していたのだが、個人的には、小玉さんのデザインが好みだったので、筆者が担当していた商品開発のパッケージデザインを強引に引き受けていただき、こちらのめっちゃテキトーなイメージを伝えただけなのに、小玉さんらしい柔軟な発想力で、見事にカタチにしてくださった。
凝りに凝ったアイデア満載の年賀状
BULLETのWebサイトには、毎年つくっているらしい、凝りに凝ったアイデア満載の年賀状が掲載されていて、その依頼した仕事は、年またぎだったので、その年の年賀状を楽しみにしていたら、届いたのは、酉年にちなんだ卵形で、殻にヒビが入っていて、それを剥がして行くと、新しい命が生まれるような、その年が良い年になるような、心がホッコリする仕掛けが施してあった。
紙の加工や印刷技術にも実験的な要素がたくさん見られ、小玉さんのチャレンジャブルなアイデアを実現する技術も素晴らしく、仕事仲間や業者さんにも恵まれておられることが伺える。
ロック魂溢れるデザイナー
「年賀状なんかのデザインは、『仕事だとここまでできない』」ことを、いかに盛り込むかがポイントで、ビニール袋に入れないというポリシーもあります。やっぱり、このまま郵便受けに入っていた方がインパクトがあるでしょ?」
「だから、事前に郵便局で確認したり、発送する前に一度、自分の事務所宛に送ってみて、ちゃんと届くか試したりしていますよ。」
面白いアイデアの実現や遊び心を伝えるには、事前確認も抜かりがない。
「『この商品なら、誇りを持って売り出せる』と、依頼してくれた企業の誇りをカタチにすることが、デザインだと考えているので、当たり前のことですが、自分がその商品を売るとしたら、どういうカタチで売りたいかを真剣に考え、全力で取り組んで、自分にとってベストな提案、恥ずかしくないものを出しています。」と、どんな仕事にも全力投球、真剣勝負なのである。
この商品は売り出せるかどうか分からないので、これにはあまり力を入れないで下さい、とお願いしたところ、そういう仕事はできません、と断られたが、当然至極のことで、大変失礼な依頼をしてしまった。
小玉さんの事務所には、レスポールやフライングV、マーシャルなど、1960~70年代のロック小僧たちが憧れたギターやアンプが並べられている。
「ロックが大好きなんです。『この人も戦ってるんだ』、『こういう生き方でもいいんだ』って思えてきて、勇気をもらいます。」
既成概念や体制に立ち向かい、自分のスタイル、自主独立したスピリットを貫いて、自分の音楽(世界)に打ち込む姿勢こそがロック魂だ、と聞いたことがあるが、小玉さんは、まさにロック魂溢れるデザイナーである。
デザインの力でイメージを一変
「錦鯉」は、新潟の今代司酒造株式会社と云う、明治期創業の老舗酒蔵の商品なのだが、日本酒需要の落ち込みで業績不振に陥り、平成16(2004)年、民事再生手続認可を受け、ディスカウントチェーンの支援で、再生に取り組むことになった苦難の過去がある。
その後、地方の伝統的な食品産業の再生を手掛け、ビジネスとして成功を収めている企業の傘下に入り、再興を果たすことになる。
新潟は米どころで、名だたる酒蔵、酒銘柄も多いが、「今代司」と云う銘柄を知っていた方は少ないと思う。
この再生を手掛けた企業のWebサイトによると、下記のようなコンセプトで取り組んだようだ。
「縮小し、シェアの少ない日本酒を飲み慣れている人ではなく、日本酒を飲まない人をターゲットに、日本酒はそれほど飲まないが日本酒の世界観が好きなライトユーザーの市場創造を目指した。そして、ブランディングはプラスイメージの少ない今代司酒造そのものではなく、『日本酒、酒蔵の世界観』にフォーカスし尖らせることにした。ラベル、売店、見学通路は『和モダン』で統一していくことになる。」
もちろん、この再生を手掛けた企業のコンセプト、手腕も素晴らしいが、それを、デザインの力で、後押しし、見事に表現して、魅せた。
今、「今代司 再生」と検索しても、「今代司 民事再生」という、ネガティブな記事は、1件のみで、「錦鯉」の記事ばかりだ。
それほど、小玉さんのデザインの力が、この企業の過去のネガティブな過去を消しさり、イメージを一変させたと云える。
小玉さんはこの他にも、地方の伝統的な食品産業、老舗企業のパッケージデザイン他も手掛けておられる。
COREZOコレゾ「デザインの力で企業の誇りをカタチにし、地方の伝統産業や老舗の再生にも新たな息吹を吹き込む、ロック魂溢れるデザイナー」である。
最終取材;2018.03.
初稿;2018.08.
最終更新;2019.11.
文責;平野龍平
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