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COREZOコレゾ「使う人の品格をも問われる名品、最高級紀州産棕櫚束子を復活し、たかが束子からされど束子に、束子づくりをカッコええ仕事に変えた三代目」賞
髙田 大輔(たかだ だいすけ)さん
プロフィール
和歌山県海南市
株式会社コーゾー、髙田耕造商店の三代目
動画 COREZOコレゾチャンネル
髙田 大輔(たかだ だいすけ)さん/紀州棕櫚たわし「髙田耕造商店」(その1)「今や、貴重となった国産棕櫚たわし」
髙田 大輔(たかだ だいすけ)さん/紀州棕櫚たわし「髙田耕造商店」(その2)「調理師を辞め、家業のたわしづくりの道へ」
髙田 大輔(たかだ だいすけ)さん/紀州棕櫚たわし「髙田耕造商店」(その3)「国産(紀州産)棕櫚(しゅろ)たわし復活への長い、長い道のり」
髙田 大輔(たかだ だいすけ)さん/紀州棕櫚たわし「髙田耕造商店」(その4)「雑誌に取り上げられたことが大きな転機に」
髙田 大輔(たかだ だいすけ)さん/紀州棕櫚たわし「髙田耕造商店」(その5)「紀州産棕櫚(しゅろ)の最高級たわしは価値がわかるお客様からだけの受注分しかつくれない理由」
受賞者のご紹介
束子(たわし)の原材料が何かご存じだろうか?
かつては、棕櫚(シュロ・ワシュロ)でつくられていたが、現在、私たちが束子と思い込んでいるのは、大半が海外産のパームヤシ製品で、棕櫚であったとしても全て中国産らしい。
堀田雅湖さんから、日本(紀州)産の棕櫚でつくったホンモノの束子を日本で唯一、製造販売している「髙田耕造商店」というメーカーがある、と聞き、天王寺から特急くろしおに乗って約1時間、和歌山県海南市にご一緒した。
白浜や勝浦には何度も訪れているが、途中の和歌山県海南市は、初めてである。
和歌山県海南市は、スポンジやブラシ、マットなど家庭日用品の一大生産地だそうだ。それは原料となる良質の棕櫚が近隣で採れたため、たわし、箒、縄などの棕櫚加工品の製造が盛んになり、その後、時代の流れと共にプラスチックや化学繊維を原料とする製品にシフトしていくが、今でも、炊事、洗濯、トイレ、風呂など水回り品におけるシェアは全国の8割強を占め、中小含め企業数は100近くに上り、中には、大都市圏に販路を持ち、全国の大手流通に商品供給しているメーカーもあるそうだ。
近年、安価な輸入品に押され厳しい状況が続いたが、アイデア商品や高付加価値商品開発で差別化を図り、新たな活路を見出しているとのことだ。
株式会社コーゾー、髙田耕造商店の三代目、商品開発と営業担当の髙田大輔さんは、「だって、束子づくりの仕事って、カッコええですか?そりゃもう、カッコ悪いでしょ?だから、家業を継ぐ気なんて全くありませんでしたよ。」と、調理師専門学校を卒業後、大阪のイタリアンレストランで調理師として働いておられた。
働いていたレストランを辞め、独立して自身の店舗をオープンするつもりで、実家に戻って来たが、思うような店舗がすぐには見つからず、いつの間にか、家業を手伝っていた、と云う。
棕櫚(シュロ)はヤシ科の常緑高木で、その樹皮は腐りにくく、柔軟性に富み、古くから繊維を取って縄やほうきなどに加工されてきた。冒頭に記したように、国内では、和歌山県が産地で、特に北部の海南市と紀美野町にまたがる「野上谷」一帯の棕櫚は良質とされていたそうだ。
所謂、「亀の子たわし」は、100年ほど前に誕生し、紀州の棕櫚たわしも人気を博したが、やがて安価な輸入のパームヤシや中国産棕櫚の製品に押され、昭和40(1965)年代を境に衰退し、今や、化学繊維の束子やスポンジに取って代わられてしまった。
髙田耕造商店も地元の同業他社と同様、プラスチックや化学繊維を原料とする製品の製造販売が主力になっていたが、その傍らで、細々と輸入した棕櫚を使ったたわしもつくっていた。
10数年前、髙田耕造商店の代表で父親の英生(ひでお)さんが、極小サイズのたわしストラップを思い付き、商品を開発していた。大輔さんはそのたわしを持って高野山の土産物店等に売り込み、好評だったのだが、店主から、「あんたとこの地元の山には、棕櫚がそれこそヤマほどあるのに、なんで中国産なんか使っているの?」と、問われ、大輔さんのスイッチが入った。
当時、プラスチックや化学繊維製品を廃棄するには、高額な処分費が必要で、地球にも負荷をかけているのでは?、メーカーとして、毎日使うものだからこそ、使う人にも、ものにも、環境にもやさしくありたい、自社の製品の寿命が尽きるまで責任を持たねばならないのではないか、と思うようになっていた時期とも重なった、と云う。
早速、家業のルーツでもある地元の棕櫚のことを調べ始めたが、既に棕櫚山は40年以上放置されて荒れ放題、往時のことを知る人を探し出すのにもひと苦労した。やっと見つけ出した当時の棕櫚採り職人さんも高齢になっておられて、説得するのにももうひと苦労…。最後は、「紀州の棕櫚産業を復活させたい!」と云う、熱意だけで押し切り、職人さんたちと山に入り、手入れすることから始めたそうだ。
「ウチの束子を触ってみて下さい。」
柔らかく、実に心地良い触感で、そこらの百均で売っている束子とは全く別モノである。
「世間では、束子は固いものというイメージがすっかり定着してしまいました。それって、かつて、柔らかく優しい手触りの棕櫚たわしを作ってきた私たちが、大量生産、大量消費に走ってしまい、その価値をしっかりとお客様に伝えてこなかったことが原因です。」
「棕櫚皮の繊維は腐りにくく、伸縮性に富み、1本の棕櫚の木からは1年に10枚ほどの棕櫚皮が採取出来ますが、採取された棕櫚皮はその部位や向きによって繊維の質がまちまちで、たわし製作にちょうど良い太さの皮は全体の僅か3分の1程です。」
「さらに、棕櫚皮の繊維が細いところはブチブチ切れ、逆に太い部分は堅いので、その中間部分の15%程度しか使えません。棕櫚皮10枚でたわし1個できるかどうかなんですが、残りの繊維の太い部分は束ねて『ささら』に、細い部分は縄などに加工するので、全てを使い切り、決して無駄にはしません。」
「この厳選された棕櫚皮を毛捌き機に掛けて繊維状に加工します。この工程で棕櫚の繊維はさらに半分ほどに減ってしまいますが、こうして均一な太さの繊維を集めることで手に取った時の柔らかさにつながります。」
「当社で使っている毛捌き機は、たわし職人が少なくなった現在では製造されていないため、当時の機械屋さんを探しだし、在庫部品を寄せ集めて作ってもらったとても貴重な最後の一台です。」
「この棕櫚繊維をひと掴みし、そのままたわし巻き機にセットされた針金に挟み、針金の間に均一になるように広げ、さらに、入念に棕櫚が均一であることを確認した上で、一気に巻き上げます。この辺りの加減はまさに職人の領域で、繊維が繊細な国産の棕櫚たわしを巻ける職人は、父の英生だけだと思います。」
「今や、日本の棕櫚でつくっているのは、ウチだけだと思いますよ。紀州産の棕櫚で束子をつくっているのは髙田耕造商店だけだ、と公言していますが、今まで一度もクレームを頂いたことがないので、ハハハハ。」
この紀州産棕櫚束子(大)が、3,240 円(税込)。百均で3個入りが30セット(30×3)買える値段であるが、この品質と手間を高いと感じるか、安いと感じるか、人としての感性や品格を問われているような気がする。
この大輔さんがアイデアマンで、人のボディ用束子や孫の手の他、究極の肌触りを活かした商品を次々に開発しておられる。
ちなみに、筆者は、5,940 円(税込)の紀州産からだ用棕櫚たわし(焼き檜柄)を入手して、入浴時に愛用しているが、お肌がとってもデリケートなワタクシでもすこぶる使い心地が良く、欧州で大人気と云うのが納得できる間違った束子の概念を覆す逸品だ。
この紀州産棕櫚束子(大)3,240 円(税込)を躊躇する方には、こちらがオススメ。値段以上の価値があると断言できる。5,940 円(税込)で人としての品格が保つことができればれば、お安いものである。
COREZOコレゾ「使う人の品格をも問われる名品、最高級紀州産棕櫚束子を復活し、たかが束子からされど束子に、束子づくりをカッコええ仕事に変えた3代目」である。
COREZOコレゾ「使う人の品格をも問われる名品、最高級紀州産棕櫚束子を復活し、たかが束子からされど束子に、束子づくりをカッコええ仕事に変えた三代目」である。
最終取材;2017年2月
初版;2017年11月
最終編集;2017年11月
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