太田 由美(おおた ゆみ)さん/徳島県三好市職員

COREZOコレゾマイク片手にのど自慢、笑顔で観光案内のボンネットバスガイドから市職員に転身しての観光地域振興」賞

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太田 由美(おおた ゆみ)さん

プロフィール

徳島県三好市三野町出身、東みよし町在住

元、四国交通 定期観光ボンネットバス ガイド

ジャンル

観光地域振興

国内観光ガイド

フリーバスガイド

フリー添乗員

司会業

実績・経歴

1988年 両備バス 入社

結婚してUターン

1991年 美馬観光 入社

育児休業

1996年 四国交通 入社

2014年 フリーランスに

受賞者のご紹介

大歩危・祖谷をボンネットバスで案内する定期観光のバスガイドだった…⁉︎

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太田 由美(おおた ゆみ)さん、大歩危・祖谷をボンネットバスで案内する定期観光のバスガイドさん。いつも明るく元気いっぱいで、地元のイベントでは司会進行等にも引っぱりだこの人気者。

岡山のバス会社でバスガイドとして勤務後、結婚のため地元に戻って来られた。育児で休業したあと、現在の勤務先に入社し、ボンネットバスに乗務するようになった。当初、車内はテープ案内で、テープも運転手さんが操作していたので、人数確認や後進誘導等の車掌業務だけで、全く手持ち無沙汰の状態だった。

岡山のバス会社では、定期観光はバスガイドの基本だと叩き込まれて、トレーニングも経験も積んできていたので、「定期観光はテープ案内で充分。テープ案内なら誰でもできる。」と言われるのは悔しかった。

乗務初日から、テープ案内とテープ案内の間の無言状態がたまらなかった。3乗務の間、辛抱した。すぐ目の前にマイクがある。バスガイドの血が騒いだ。気がついたら、マイクを握ってしゃべっていた。「おもしろかった。」、「楽しかった。」とお客さまに声を掛けてもらうと、バスガイドという職業の喜びが甦ってきた。乗務するボンネットバスのコースを調べ出すと止まらなかった。自分はバスガイドという職業と故郷が本当に好きなんだなあと再認識した。そして、会社に掛け合って、定期観光でのガイド業務を許してもらった。

日本ではガイド業務に資格が不要⁉︎

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実は、日本ではガイド業務に資格が不要で、バスガイドにも資格がなく、それぞれのバス会社が独自の研修をして育成しているのが現状だそうだ。育成するのに時間とコストがかかり、飲み物の提供等の接客サービスのみで、案内業務を全く行なわない乗務員を乗せているバス会社もあったが、最近では、ガイド業務の重要性が見直されているそうだ。

かつては、バスの後方誘導は車掌の業務で、二人乗務が義務づけられていたが、バックモニターの設置でワンマン運行が可能となり、2000年の道路交通法改正により、それまでバス貸切料金に含まれていたバスガイド料金が切り離されて、別料金になった。バス会社の経営はどこも厳しく、旅行会社も価格競争のため、バスガイドは、一切乗務しない、あるいは必要な一部の行程のみに乗務するケースが増えているという。また、2008年の改正では着席案内となり、乗務中に立って案内することはできなくなった。

定期観光の「西祖谷コース」

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定期観光の「西祖谷コース」は阿波池田から、小歩危、大歩危、妖怪屋敷、平家屋敷、かずら橋、祖谷渓谷、小便小僧岩、阿波池田たばこ資料館等を巡る。見どころを尋ねると、特に大歩危峡の遊覧船と祖谷渓谷がオススメで、大歩危峡の遊覧船は川面から見上げる四季折々の渓谷美が楽しめ、祖谷渓谷は、大型バスが通行できない旧祖谷街道から、深くV字型に切れ込んだ渓谷と山々の絶景を満喫できる。世界的有名な某観光ガイドブックでも紹介された「ひの字渓谷」他、4カ所のビューポイントでバスを停車し、写真タイムを取っているそうだ。

「西祖谷コース」は、繁忙期の5月、8月、10月、11月は毎日運行しているが、その他の月は土、日、祝日のみの運行である。東祖谷の奥祖谷二重かずら橋や落合集落を巡る「奥祖谷コース」は、残念ながら、2011年度で運行休止となった。

※ボンネットバスの運行状況は四国交通でご確認ください。

「2012年の大河ドラマは『平清盛』で、平家の落人伝説が数多く残る奥祖谷は盛り上がっているのに、不採算路線だったのはわかりますが、どうして休止したのか私には理解ができません。せめて今年度(2012年)までは運行して欲しかったですね。」と、太田さん。

ボンネットバスには、太田さんともう1名のガイドが交代で乗務しているが、週末は貸切バスにも乗務することも多いそうだ。貸切バスでは宿泊が伴うことも多く、定期観光より多少収入は増えるが、太田さん自身は、大好きな地元をご案内できて、お客様と触れ合う機会の多い定期観光の仕事の方をやりたいそうだ。でも、それは会社の方針なので仕方がないとおっしゃる。

ただ、太田さんの勤務形態は、実働に応じて給与が支払われるしくみで、、貸切バスの需要は週末に集中し、定期観光も週末が中心で、貸切バスの仕事が増えても太田さんの実働日数自体はほとんど変わらない。生活のため、勤務先に許可をもらって、弁当店でアルバイトもしておられる。

「有難いことにバスガイドの仕事がない時だけ、アルバイトさせてもらっているのですが、私、こんな性格でしょ?配達に行っては、冠婚葬祭やイベント、催し物などの弁当の注文ももらって来るので、結構、重宝されていて、お弁当屋さんにも向いているのかなとも思います。でも、こちらの都合を優先して働かせて頂いているに申し訳ないですが、一番したい仕事は地元のバスガイドですね。」と、太田さん。

バスガイド冥利に尽きる瞬間

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ある日の乗務は補助席まで満席だった。旧式のボンネットバスは正シートでも乗り心地が良くない。補助席ではなおさらで、お客さまには少し気の毒だ。補助席の男性のお客さまが出発時からぶ然としておられて、明らかにご機嫌が悪かった。乗り心地が悪い分、楽しんでもらおうと、唄もいつもより多く唄って、あの手この手で車内を盛り上げた。バスを降りる時、不機嫌だったその男性客も「楽しかったよ。有難う。」と笑顔でおっしゃって頂いた。「ヤッター!」、心の中で叫んでいた。バスガイド冥利に尽きる瞬間だ。

「先日、定期観光に乗車して頂いたお客様が、気に入って下さって、同窓会で再度、大歩危・祖谷に訪れたいので、幹事の皆さんと一緒に下見に来られるというご連絡があったのですが、その日はあいにく、貸切バスの仕事が入っていたんです。会社に頼み込んで、乗務予定を変更してもらったのですが、他の幹事さんにも喜んで頂いて、同窓会でもボンネットバスを利用して頂くことになりました。定期観光では、お客様が、バスガイドをご指名頂くことはできないのですが、当日は私が乗務できるように会社にお願いしています。」

以前、某市営バスが運行する大阪市内の定期観光バスに外国人観光客を案内して乗車したことがあるが、乗客はまばらで、車内は終始しーんと静まり返っていた。機械的なテープの音声ガイドでは全く盛り上がらないのである。その後、民間企業が日本初の水陸両用バスを利用した定期観光バスを大阪で運行を始めたので、別の外国人観光客を案内して乗車した。ハイライトはスロープから大川(淀川)の水面に入水?着水?する一瞬なのだが、バスガイドの巧みな話術で、その瞬間はもちろん、発車から到着まで、車内は大盛り上がりで、以前の某市営バスとは大違いだった。

某市営バスの定期観光バスに乗車した外国人観光客は、「楽しかった」とリップサービスはしてくれたが、おそらく、大阪にいい印象を持たなかっただろう。水陸両用バスに乗車した外国人観光客は大はしゃぎで心底楽しんでくれたと思う。改めていうまでもなく、ガイドの技量、力量はツアーの満足度に大きく影響するのである。
観光客にとっては、その観光地で接した人の印象でその観光地全体の印象まで大きく左右されるのである。その観光地を初めて訪れた観光客がテープの音声案内でガイドされたらどのような印象を持つだろうか?

太田さんのプロ根性とは?

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実際に、太田さんの乗務する定期観光バスに乗車させて頂いたが、久しぶりに由緒正しい正統派バスガイドさんの話芸と唄を堪能させて頂いた。そんな達者なガイドぶりに惚れ込んで、バスで大阪方面から大歩危・祖谷へ行くモニターツアーのバスガイドをしてもらったことがあるが、大阪を出発してすぐに、車内アナウンスのマイクが故障して使えなくなった。太田さんは全く動じることなく、地声で大阪から大歩危まで4時間、途中の休憩以外は、しゃべって、唄って、ガイド業務をし続けた。到着時にはすっかり声が枯れてしまっていたが、見上げたプロ根性である。

「ボンネットバスの定期観光では、バスガイドが乗務せず、テープでのご案内の場合もございます。また、車両整備等の関係でボンネットバス以外のバスで運行する場合もありますので、ご容赦下さい。私にとって、大好きな故郷を自分の言葉でお客さまに案内できるのはこの上ない喜びです。大歩危・祖谷へ是非お越し下さい。お目に掛かれるのを楽しみにしています。」と、太田さん。

最近では、太田さんの名ガイドぶりの噂を聞きつけた勤務先以外のバス会社や旅行会社から依頼されて(もちろん、勤務先の許可を得て)、大歩危・祖谷地区だけのガイドを引き受けることもあるそうだ。

太田さんに大歩危・祖谷をガイドして欲しいというご要望があれば、勤務先のバス会社の仕事は優先するが、都合が付く限り、対応するそうだ。ガイドさんを指名して、案内してもらう旅行は如何だろうか?お仕着せではない、オリジナルの旅ができると思う。

コレゾ財団・賞の趣旨をご説明し、受賞のお願いをしたところ、

「有難いですが、私でいいんですか?」

「何がアカンのですか?バスガイドとして、充分地域振興に貢献されていると思いますし、観光ガイドさんも含めて、その地域の重要な観光資源だと思うのですが、今回の受賞をきっかけにさらに世間に認知してもらえるよう活動の範囲を拡げられては如何ですか?」

「有難うございます。頑張ります。」と、快諾して下さった。

※2020年1月現在、三好市職員に転職されて、観光地域振興の仕事をされている。

COREZOコレゾ「マイク片手にのど自慢、笑顔で観光案内のボンネットバスガイドから市職員に転身しての観光地域振興」である。

後日談1.COREZO(コレゾ)賞表彰式では、進行アシスタントをして下さった

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後日談2.フリーのバスガイドに

2014年、色々あって、太田さんはフリーになり、これまで通り、四国交通でのガイドはもちろん、依頼があれば、どこのバス会社でもガイドをするし、旅行会社からの指名も殺到しているそうだ。国内旅程管理者の資格も取得し、国内添乗や四国四十八ヶ所の案内もしているそうで、選挙のウグイス嬢もこなし、持ち前の明るさとよく通る声で、あちらこちらから、引っ張りだこのようだ。

益々のご活躍を祈念している。

COREZO(コレゾ)賞 事務局

初稿;2012.11.02.

最終取材;2015.02.

最終更新;2015.03.03.

文責;平野 龍平

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