千葉 周秋(ちば かねあき)さん/金ケ崎まちづくり研究会

COREZOコレゾ「文化財の発掘調査・保存一筋、重伝建造地区の選定・保存、住民主導のまちづくりに尽力する地域文化学研究家」賞

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千葉 周秋(ちば かねあき)さん

プロフィール

岩手県金ケ崎町出身、在住

地域文化学研究所

金ケ崎まちづくり研究会

ジャンル

文化財発掘調査・保護

まちづくり

まちおこし

経歴・実績

金ケ崎町中央生涯教育センター主幹、 文化係・伝統的建造物群係等

2001年 城内諏訪小路地区一体が「重要伝統的建造物群保存地区」に選定

2013年 第8回「幽霊化け物妖怪画展」

第2回「幽霊化け物妖怪会議」

受賞者のご紹介

金ケ崎町の重要伝統的建造物群保存地区の選定、保存に尽力

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千葉 周秋(ちば かねあき)さんは、岩手県金ケ崎町の重要伝統的建造物群保存地区の選定、保存に尽力され、岩手県の「蘇民際」にも詳しい民俗文化の研究家で、地域で伝承されている「妖怪」にも精通しておられる。金ケ崎町の職員を定年退職後、地域文化学研究所を立ち上げ、民俗文化の研究と地域おこしの活動他を続けておられる。

筑波大学で、地域の伝承として残る妖怪伝説を中心に妖怪学を研究しておられる市川寛也(いちかわひろや)さんから、岩手県金ケ崎町で「幽霊化け物妖怪会議」というイベントがあり、それを企画しておられる千葉さんというオモシロイ方がいらっしゃるという話を伺い、それは行ってみましょ、ということで、2013年8月、大歩危峡まんなかの大平社長ご夫妻とご一緒した。

金ケ崎町には初めて訪れたので、町のWebサイトを調べたところ、くどくどと、サッパリわからん感満載なので、以下、バッサリ要約して抜粋、

金ケ崎町は、岩手県南西内陸部の胆沢郡北部に位置し、東西21.8km、南北14.4km、面積179.77k㎡、北は北上市、他は奥州市と接していて、人口は16,325人(平成22年国勢調査)。

基幹産業は農業、米・野菜・花きの栽培が盛んで、西部山麓地帯では広大な牧草地を活用した酪農や大型畜産が行われている。また、県内最大の工業団地を有し、医薬品、半導体、自動車組立工場を含む自動車関連企業などが立地し、工業出荷額は県内市町村でもトップクラス。

歴史的には、大和朝廷の蝦夷征伐で活躍した征夷大将軍坂上田村麻呂の伝承が町内に伝わり、近世、伊達領北限の南部領との境の地で、南北に通る旧奥州街道沿いには伊達氏の拠点「金ケ崎要害」があり、その城と武家町の歴史的景観が今もなお色濃く残り、平成13年6月には、金ケ崎城郭跡を含む家臣団屋敷の城内諏訪小路地区一体が貴重な歴史的文化財として高い評価を受け、国から「重要伝統的建造物群保存地区」に選定された。

「金ケ崎のあの妖怪達は今?」民俗文化の研究と地域おこしの活動

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金ケ崎まちづくり研究会主催の「金ケ崎のあの妖怪達は今?」と題した、「幽霊化け物妖怪会議」と「幽霊化け物妖怪画展」というイベントが、その「重要伝統的建造物群保存地区」にある侍屋敷大松沢家、旧坂本家侍住宅で開催された。恒例の納涼イベントらしく、今年で8回目を迎えるという。

昼間、「重要伝統的建造物群保存地区」へ下見に訪れ、「白糸まちなみ交流館」に立ち寄って、係の人にいろいろ話を伺った。保存地区は東西690m、南北980m、面積約34.8haの範囲で、かつての要害と武家地のほぼ全域に当たるらしい。要害って何?と尋ねると、戦略上、重要な場所に築いた砦や要塞(ようさい)とのこと。もうちょい調べると、居城に対して、臨時に詰める戦闘本位の城郭を指すようだ。

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夕刻、「幽霊化け物妖怪会議」が開かれる大松沢家に行くと、これがなかなか立派で、風情のある庭園のお屋敷だった。それもそのはずで、大松沢家は、山林奉行を務めていたそうだ。

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司会進行を務められたのが千葉さんで、「幽霊化け物妖怪会議」の趣旨、経緯経過の説明があり、まず、胆沢の奇人さんという方から「大工と鬼六の鬼の行方」の報告があった。

「大工と鬼六」という民話は、

流れの速い川に橋を掛けるのに難儀していた大工に、川の中から現れた鬼が、3日で掛けてやるから、その代わり、大工の目玉をよこせ、と要求し、もし、鬼の名前を当てたら許してやると言って、鬼は橋を作り始めた。完成間近になって、恐ろしくなった大工は山に逃げたが、途中で、手まり唄が聞こえて来て、「鬼六〜、目玉持って帰って来い〜」と唄う女の子の頭に鬼の角があるのを見つけて、既に、完成した橋に戻り、「橋を架けたは鬼六」と叫ぶと、鬼は川の中に消えたという話。

この話も地域や伝承者によって少しずつ内容が異なるらしく、胆沢の奇人さんの解釈が報告された。

次に、四国の秘境「山城・大歩危妖怪村」から、コナキヂヂこと、大平克之さんが、その活動や取り組みの実例を紹介し、妖怪伝説が残る地域同士、連携して地域を盛上げましょう、と呼びかけた。また、その報告内容と地域に残る幽霊・化け物・妖怪の伝承を活かす地域活性化等について、活発な意見交換がされた。

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その後、夕食を頂いたのだが、これが凝りに凝っていて、視覚的にも楽しめる手作りのお弁当だった。帰る頃には、日もとっぷり暮れて、幽霊・化け物・妖怪の話にはピッタリの雰囲気だった。

翌日、改めて、市川さんからご紹介頂き、旧坂本家侍住宅で千葉さんのお話を伺うことができた。

千葉さんのこれまでのお仕事

「県や行政の臨時職員を40歳までしていて、それから金ケ崎町の正職員になって、定年まで、文化財の発掘調査、保存の仕事をしていました。」

「当時は、行政も文化財の調査に正職員を充てる余裕がなかったのではないでしょうか?この辺りには旧石器時代以降の遺跡が数多くあり、私は、文化財の発掘調査の仕事をしたくて、ずっと続けてきました。その内に、道路建設等の公共工事による遺跡破壊がマスコミに取り上げられて、問題化し、行政も本腰を入れてやらざるを得なくなり、高速道路建設用地の事前調査等での発掘調査を数多く手掛けました。」

「当時、まだ、雇用期間についてはルーズで、私が県の臨時職員をしていた7年目に、別の方の雇用問題が起こって、3年以上の臨時職員は全員解雇されました。その後、旧水沢市や金ケ崎町の臨時職員をしましたが、金ケ崎町も町内の文化財の発掘調査を本格的にすることになったので、正職員に採用されて、定年まで20年間勤めました。」

何カ所位の文化財の発掘調査を?

「金ケ崎の正職員になってからは、15ヵ所ぐらいですね。1ヵ月間調査して、30〜100冊の報告書にまとめるという作業のくり返しなので、とても時間が掛かり、地道で根気の要る作業なんですよ。」

『重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建)』に関わられたのは?

「旧水沢市の臨時職員をしていた頃から、個人的に、後に『重伝建』に指定される地区の調査を始めていて、ガリ版で報告書も作っていました。」

「平成3年に金ケ崎町の文化財係になって、行政として、その地区の建物の調査を開始し、平成5年には、要害と庭、樹木の調査も始めました。そして、平成8年には、文化庁から総合調査の予算が付くことになったのですが、重伝建に選定されるには、住民の合意が必要なため、当時の町は積極的には動きませんでした。ようやく、平成12年に申請をして、13年に選定を受けました。」

「重伝建」とは?

文科省、文化庁のWebサイトによると、

 昭和50年の文化財保護法の改正によって、伝統的建造物群保存地区の制度が発足し、城下町、宿場町、門前町など全国各地に残る歴史的な集落・町並みの保存が図られるようになった。市町村は、伝統的建造物群保存地区を決定し、地区内の保存事業を計画的に進めるため、保存条例に基づき保存計画を定める。国は市町村からの申出を受けて、我が国にとって価値が高いと判断したものを重要伝統的建造物群保存地区に選定する。
市町村の保存・活用の取組みに対し、文化庁や都道府県教育委員会は指導・助言を行い、また、市町村が行う修理・修景事業,防災設備の設置事業、案内板の設置事業等に対して補助し、税制優遇措置を設ける等の支援を行なう。
平成25年8月7日現在、重要伝統的建造物群保存地区は、84市町村で104地区(合計面積約3,697ha)あり、約25,300件の伝統的建造物及び環境物件が特定され保護されている。

重要伝統的建造物群保存地区選定基準(昭和50年 11月 20 日文部省告示第157 号) とは、伝統的建造物群保存地区を形成している区域のうち次の各号の一に該当するもの 、(一)伝統的建造物群が全体として意匠的に優秀なもの、(二)伝統的建造物群及び地割がよく旧態を保持しているもの、(三)伝統的建造物群及びその周囲の環境が地域的特色を顕著に示しているもの。

金ケ崎町城内諏訪小路の種別は、武家町、選定基準は、(二)で、岩手県では唯一の伝統的建造物群保存地区のようだ。

重伝建の選定を受けた物件の補助割合は?

「保存物件の建物、樹木、工作物他に対して1/2です。」

金ケ崎町で重伝建の選定を受けた建物は何棟?

「29棟あり、内、3棟が町の管理で、後は、所有者の個人管理です。その内の3棟が住居として使用されています。」

選定後の、補修、改修、維持について

ー ということは、個人所有で居住していない建物が23棟ってことですか?選定されたことで、補修、改修にもいろいろな規制が掛かるでしょうし、国の補助や県や町の助成があったとしても、この先の維持、保存は難しくないのですか?

「その通りで、町管理の物件も指定管理になっていて、管理が適切に行なわれていないという問題も生じています。今後は財団などを立ち上げて管理するような方策を検討して、早急に手を打つ必要があります。」

「そもそも、重要伝統的建造物群保存地区というは、歴史的・文化的に高い価値を持つ建造物そのものを指すのではなく、建物をとりまく環境も含めエリアごと文化財として保存対象とするというもので、国宝、重要文化財相当の価値があり、それを住民が暮らしながら守って行かなければなりません。江戸時代に、伊達氏が金ケ崎城を中心に武家町・商人町・足軽町を配置して、整備した当時の都市計画が優れていて、利便性が高かったので、地域の住民たちは、代々、この住環境に誇りを持ち、町並を守り続けてきたのだと思います。」

「私もこの地域の住民ですが、重要文化財や重伝建の選定を受けるには、自分たちの町の宝に気づいて、国や行政の規制を受入れる覚悟も必要で、それを守り続けることが、町を元気にする大きな力になることが改めてわかったような気がします。」

「幽霊化け物妖怪画展」や幽霊化け物妖怪会議」が始まった経緯

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「金ケ崎は、大和朝廷の蝦夷征伐で活躍した征夷大将軍坂上田村麻呂の伝承が残っているような土地柄ですから、不思議な伝説も数多く伝わっていて、家によって表情が違うカマドの神様として祀られているカマメンと呼ばれる木彫りのお面や亀の上に人が乗っている魔除けの置物等も残っています。」

「同級生の集まりだった30代後半の住民グループが、自分たちが見たり、聞いたり、経験した不思議なものや話を展示、発表しよういうイベントを企画して、実施しました。その時には、町内32ヵ所で伝承されている不思議な話を集めて、「不思議妖怪地図」も作りました。当初、1年だけのつもりだったのですが、好評で、活動自体も楽しかったものですから、それが、「幽霊化け物妖怪画展」や「幽霊化け物妖怪会議」に発展しました。」

「『幽霊化け物妖怪画展』は、地域に残る伝承や自分たちが考えた幽霊・化け物・妖怪を募集して、展覧会を開くのですが、地元の子供たちからも募集していて、ご両親やおじいちゃん、おばあちゃんと話すきっかけになればいいなと思いますし、市川さんがおっしゃっているような地域固有の文化を創り出せればいいなと思っています。」

今後の展開

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「真夏の夜にナイトツアーやきもだめしをしたり、真夜中に妖怪ワークショップもしたいななんて、考えています。」

ー 昨夜も帰る時にはこの辺りの雰囲気はそういう企画にピッタリだと思いました。

「連続する生垣の向こうに侍屋敷の大きな屋根と屋敷林が見える独特な町並でしょ?でも、私たちが暮らしているこの地域を単なる見せ物にはしたくない、誰でも彼でも観光客を呼び込むのではなく、この良さが本当にわかる方々にきて頂きたいと思っています。」

ー 福岡県八女市の八女福島も確か、「重伝建地区」だったと思いますが、その町家の再生と活用を推進しておられる北島力さんに昨年、COREZO(コレゾ)賞を受賞して頂きました。北島さんも元八女市職員で、町並みの再生保存と活用を15年間され、退職後は、NPOの代表として引き続き、尽力されていますが、

「市に在職中は、議会からは何度も団体観光客の誘致を迫られましたが、『目先の利益を求めて、今のまま、旅行社に団体客を誘致しても、通過するだけですぐに飽きられてしまう観光地になるのが関の山で、個人客が繰り返し滞在したくなる地域にするべきだ。時間はかかるが、町並みの整備を進めて地域住民が住み続けたいと思うまちづくりをして、魅力的な地域にすれば、自ずと外からの訪問客も増えるはず。』と、説得して来ました。この町家の空き家の再生保存、活用は実際に時間も労力も掛かり、とても地味な活動ですが、小さいけれど、新しい店や住民も増え、一定の経済効果が生まれています。コミュニティーや住民の生活を活性化しないと観光客だけでは地域は活性化しません。」

と、おっしゃっていました。

「その通りだと思います。観光客が増加すれば、宿泊、食事や土産など消費も増加し、地域活性化、後継者の育成にもつながる期待ができる反面、生活空間への侵入や、ゴミ、騒音問題、住環境悪化等のトラブル発生の懸念もあります。」

観光客を増やすことが直接的な目的ではない

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「重伝建の選定されたことはきっかけであって、これを保存、維持して、次世代につなぐためには、建物の保存費用、人口減少、後継者不足、空き家の増加、大家が貸したがらない現状、未住居住宅の活用法等、問題、課題は山積しています。この地域で暮らしていることを誇りに思い、文化財を守って、後世に引き継いでいきたい、というのが基本的なスタンスで、住民が楽しく暮らしていない町に外から人が訪れてくれるはずはありませんし、観光客を増やすことが直接の目的ではありません。」

この地域、町並とここに暮らす人が好きになって訪れて下さる方を増やす取り組み

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「町おこしなのか、地域おこしなのか、何をおこすのか、住民自身が考えて、行動しなければなりません。ある大学の先生のご指導もあって、この地域の建物や庭や風景をどう物語として伝えるか、その物語を感じられるようなこの地域ならではの食べ物や飲み物も必要でしょうし、『 』では、いろいろ試行錯誤しながら、取り組んでいます。」

「『幽霊化け物妖怪会議』や『幽霊化け物妖怪画展』も、それに興味を持って外から来てくれた人たちと住民が集まって、ワイワイ、ガヤガヤ、話をする一つのネタなんです。この界隈を地域住民がガイドをして、季節毎に散策するツアーがあってもいいでしょうし、この地域の歴史や文化のワークショップを開催してもいいでしょうし、とにかく、1回こっきりの通りすがりや物見遊山の観光客ではなく、この地域、町並とここに暮らす人が好きになって訪れて下さる方が増えて、交流することで、いろいろなアイデアも生まれるのではと、思っています。」

COREZO(コレゾ)賞・財団の趣旨をご説明し、受賞のお願いをして、ご承諾頂いた。

その日の前後、近隣の観光地を数カ所、訪問したのだが、どこも観光客を呼び込もうと整備された同じような町並で、とてもガッカリした。伊達氏要害の町並がかなりそのままに残っているこの地区の皆さんには、是非、住民主導のまちづくり、まちおこしを成功させて頂きたいものである。

COREZO コレゾ「文化財の発掘調査・保存一筋、重伝建造地区の選定・保存、住民主導のまちづくりに尽力する地域文化学研究家」である。

後日談1.第2回2013年度COREZO(コレゾ)賞表彰式

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COREZO (コレゾ)賞 事務局

初稿;2013.10.21.

最終取材;2013.06.

編集更新;2013.10.21.

文責;平野龍平

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