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COREZOコレゾ 「『くらしの中の価値を、かたちに』、デザインと表現の力で、人の営みの中にある豊かさが『見える瞬間』をつくり続ける職人」賞

山根 正充(やまね まさみつ)さん/合同会社くらしとデザイン舎 主宰/食文化ビジュアルディレクター・映像作家/だしソムリエ認定講師

プロフィール
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プロフィール
山根 正充(やまね まさみつ)さん
1977年神奈川県生まれ、東京育ち。
国立音楽大学音楽デザイン学科卒業。在学中はサウンドスケープ(音環境・空気感のデザイン)を学び、目に見えない空気や関係性を捉える視点は、現在の活動にも通じている。
広告制作会社で約15年間、世界的カメラメーカーをはじめとする企業案件のアートディレクションや表現設計に携わったのち、2020年に合同会社 くらしとデザイン舎を設立した。
現在は、グラフィックデザイン、写真、映像、取材、編集、ドローン空撮までを横断しながら、一次産業、食、地域、くらしを主なフィールドに活動している。
また、だしソムリエ認定講師、発酵マイスター、食品表示診断士、食品衛生責任者の資格を持ち、食を単なる消費物ではなく、地域の文化や暮らしを支える基盤として捉えている。
東京・南青山を拠点に、自社キッチンスタジオを活用した撮影やイベント企画も行っている。
くらしとデザイン舎
見えるものの奥にある営みを見つめる
山根さんの仕事の核にあるのは、「見えるものの奥にある営みを見つめる」という姿勢である。
学生時代からデザインの現場に入り、さらにメキシコやキューバを旅するなかで、土地の空気や文化の背景が、人の感覚や価値観に深く作用することを実感した。その経験は、後の仕事に大きな影響を与えている。
広告制作会社では、約15年にわたり商業デザインの最前線に身を置いた。そこでは、視覚的に「伝える」技術を磨く一方で、次第に関心は、単に見せることそのものよりも、その背後にある土地、人、時間の積み重ねへと向かっていった。
2020年に設立した「くらしとデザイン舎」は、そうした問題意識から生まれている。
くらしとデザイン舎の仕事
くらしとデザイン舎は、単なる制作会社ではない。
企画、取材、撮影、デザイン、編集、映像制作までを横断しながら、地域や一次産業、食、くらしにまつわる領域を中心に、その背景にある文脈ごと丁寧に掬い上げ、社会に伝わる形へと整えている。
同社の言葉を借りれば、
見えるものの奥にある営みを見つめ、
くらしの中の価値をすくい、
日常に静かな豊かさを。
という姿勢である。
山根さんが見つめているのは、完成した商品や見栄えだけではない。味が生まれる条件、土地に刻まれた記憶、人々の営みが文化へと育っていく過程…、そうした目に見えにくい価値を見いだし、言葉と視覚の力によって社会に手渡していくことに、仕事の本質がある。
小堀 夏佳さんとの協働

こうした仕事への取り組み、視点は、小堀 夏佳さんとの協働にも自然につながっているように感じる。
小堀さんが畑に立ち、その土地に眠る違いを感じ取り、つくり手の思いや歴史を掘り起こしていく役割だとすれば、山根さんは、それを社会に伝わる言葉や形へと編み直す役割である。両者の関係は、主従ではなく、一方が価値を見いだし、一方がそれを共有可能な形へと整える、その協働によって、土地に眠る意味がはじめて社会に開かれていくのである。
「飲んで食べる おだし、テロワール」

その象徴的な取り組みが、「飲んで食べる おだし、テロワール」である。
長崎県雲仙に伝わる在来種「雲仙赤紫大根」と、地元のいりこを組み合わせたこの商品は、土地に根ざした記憶を、現代の暮らしのなかで無理なく受け取れるように設計された。輪切りにした赤紫大根を乾燥し、いりことともにマグカップに入れ、お湯を注いで二分待つ。それだけで、土地の風土、作り手の時間、そこで育まれてきた記憶が静かに立ち上がる。

そこには、忙しい日常のなかでも無理なく続けられる簡便さがあると同時に、「噛む」という身体感覚を通して素材そのものの力に向き合う時間が生まれる。伝統野菜を現代に生かし直すこの設計には、山根さんの視点が息づいている。
「消費されなければ、栽培を続けることはできず、種も途絶えてしまう」次世代に残すべき在来種・伝統野菜は、生鮮だと、食べられる人も季節も限られてしまうが、手を伸ばせば誰もが味わえるパッケージにデザインした山根さんの手腕は見事である。
山根さんの仕事
「合同会社くらしとデザイン舎 主宰」だけでなく、「食文化ビジュアルディレクター・映像作家」、「だしソムリエ認定講師」…。さまざまな肩書をお持ちだ。
土地の記憶や作り手の思いは、それだけではまだ社会の価値にならない、違いを見出し、その意味を言葉にし、目に見える形へ整え、誰かの暮らしの中に届いてはじめて共有される価値になる。さらに、生産者や職人の営みに宿る時間や価値を、現代の感覚で伝え直す活動にも力を入れている。
山根さんの仕事は、まさに生活者との橋渡し役なのである。
なぜ「だし」なのか
食を単なる消費物ではなく、「文化のインフラ」と捉える視点は、土地の記憶や人の営みを見つめる山根さんの制作活動の根底にも通じているので、山根さんが「だし」に関心を寄せるのも、自然な流れであると拝察する。
だしは、強く主張するものではない。しかし料理全体の土台となり、素材の持ち味を引き出し、食卓に静かな調和をもたらす。山根さんにとって、だしは単なる調味ではなく、暮らしを支える文化の基盤であり、目立たぬところで全体を支える知恵でもある。
だしソムリエ認定講師としての活動は、こうした食へのまなざしと深く結びついている。
近年は、出汁文化や一次産業の背景にある手仕事や文化継承にも関心を寄せ、『利き出汁会』など、体験を通して食文化を伝える活動も行っている。
場の空気を整える人柄

かつて、自社のプロモーションビデオ撮影で、一緒に仕事をしたことがあると云う、日東醸造株式会社 蜷川 洋一 社長は、「誰に対しても人当たりが良く、現場を和やかにして、仕事が円滑に進むようにその場の空気を整える不思議な力がある」と評しておられた。
今回、小堀さんへの取材の場でも、その言葉の意味が自然に伝わってきた。
山根さんは自らの事務所と台所をご提供くださった。飲み物の準備から食事の後片付けに至るまで、目立つことなく、さりげなく動いておられた。小堀さんを主役に据えて、自らは一歩引き、その場にいる人たちが自然体で言葉を交わせるよう、空気を整え、流れをつくっていく。そんな静かな配慮があった。
デザインとは、見えるものを整える仕事であると同時に、人と人との関係や、その場に流れる空気を整える仕事でもあるのかもしれない
暮らしの中にある価値を、伝わるかたちにする職人
山根さんの仕事は、単に形をつくることではない。土地に息づく営みを見つめ、そのなかにある、まだ言葉になっていない価値を見いだし、それを人に伝わるかたちへと整えていくことにある。
そうして整えられたものがあるからこそ、土地の記憶やつくり手の思いは、暮らしのなかにそっと入り込み、次の世代へと手渡されていく。
山根さんは、暮らしの中にある見えにくい価値をすくい上げ、人に届くかたちへと静かに編み直していく職人である。
まとめ
それぞれの地域には、まだ言葉になっていない価値が数多く眠っている。土地の記憶、食文化、つくり手の手仕事、日々の営みのなかにある小さな豊かさである。
山根さんは、それらを見つけ、丁寧にすくい上げ、人に伝わるかたちへと整えていく。目立つことを目的にするのではなく、暮らしのなかに静かに根づいていく価値を育てていく。その姿勢こそが、山根さんの仕事の本質なのだろう。
現在、小堀さんとともに進めておられる「47都道府県テロワール・プロジェクト」も、まさにそうした営みの延長線上にある。各地に息づく土地の記憶や食文化が、人々の暮らしのなかに自然に息づくかたちで次の世代へと手渡されていくことを期待したい。
今回の取材では、小堀さんとの協働による仕事を中心にお話を伺ったが、合同会社くらしとデザイン舎の主宰として、また、だしソムリエとして、山根さんがどのような視点で日々の活動に向き合っておられるのか、改めてじっくりお話を伺ってみたいと思う。
COREZOコレゾ 「『くらしの中の価値を、かたちに』、デザインと表現の力で、人の営みの中にある豊かさが『見える瞬間』をつくり続ける職人」賞である。
取材;2026年3月
初稿;2026年4月

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