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COREZOコレゾ「民間が手を組み、行政の協力・支援も得て、地域全体で魅力を高め、国際的な知名度向上に取り組む大歩危・祖谷のリーダー」賞
植田 佳宏(うえた よしひろ)さん
プロフィール
香川県高松市出身、在住
ホテル祖谷温泉 経営
祖谷渓温泉観光 取締役会長
大歩危・祖谷いってみる会 会長
ジャンル
観光・地域振興
宿泊施設 経営
経歴・実績
某航空会社での営業職、空港勤務を経て、
2000年 ホテル祖谷温泉 代表取締役社長
大歩危・祖谷いってみる会 会長
受賞者のご紹介
ケーブルカーで下る渓谷の秘湯
植田 佳宏(うえた よしひろ)さんは、どこかニ◯ラス・ケイジ似の、徳島県、祖谷温泉の和の宿「ホテル祖谷温泉」の社長であり、「大歩危・祖谷いってみる会」の会長である。
祖谷温泉の和の宿「ホテル祖谷温泉」は池田から祖谷に通じる旧祖谷街道の祖谷口と西祖谷の中間ぐらいの地点にある。周囲には、車で2〜30分走らないと、他の施設どころか、民家も一軒もないまさしく秘境と呼ぶのがふさわしいところだ。従業員の皆さんは2泊3日の泊まり勤務だそうだ。
秘湯ブームもあって、ケーブルカーで渓谷を下って行く、源泉掛け流しの露天風呂が人気で、いつも賑わっている。少しぬるめの露天風呂に浸かっていると、渓流や渓谷の自然に包まれたようで実に気持ちが良い。但し、最近は、人気があり過ぎて、人が多すぎるのが玉にきず。そんな方のために貸切露天風呂も用意されている。
自然の中での商売は災害もつきもの⁉︎
2011年、その自慢の渓谷の露天風呂が、台風の大水で流されてしまった。ご縁があって、2003年頃より、懇意にして頂くようになってから、3回目の被害である。お見舞いに伺ったところ、
「災害にはもう慣れていますし、私どもは、こういう自然の中で、商売させてもらっているのですから、ある程度は仕方がないことです。心構えもできていますし、経験を積んで、それなりの対策もしています。こういう危機、ピンチの時こそ、みんなで何とかせないかんという一体感が生まれます。ご覧のように社員も一丸となって復旧作業に取り組んでくれていますので、組織としても強くなれるのかもしれません。」と、いたって前向きだ。
従業員の皆さんはその露天風呂を楽しみにしておられるご予約のお客様へのお断りとお詫びの対応に追われたそうだが、反対に励ましの言葉を頂き、キャンセルも思ったほどは出なかったそうだ。
「我が社の経営理念は『全従業員の物心両面の幸福を追求する』です。具体的にはお客様はもちろん、従業員同士、出入り業者の皆さんも全ての人を大事にしようということです。誰かに損をさせて、自分だけが得をするということはないよということです。まっ、理念は理念ですけどね。」と、植田さん。
家業を継いだもののその実情は…
「父親から『他に誰が継ぐのか?帰って来い。』と言われた時には、正直、もう少し勤めていた航空会社にいたかったのですが、そろそろ先の昇進、出世が見えて来る時期でしたし、一回、社長をやってみるのもいいかなとも思い、戻って来ました。」
「妻はもちろん、『貴方が行くなら、愛があるから、どこでもついて行くわ』と、言ってくれましたよ。ハハハハ。先日、以前の勤め先の社長に会う機会がありましてね、『本当はウチの会社に戻りたいんじゃないの?』と聞かれましたが、『いいえ、私には大事な社員達がいますから。』とお答えしました。ハハハハ。」
「戻ってきて、自分の目で見た現実は、駐車場に自販機が並んでいて、ドライブインに毛が生えたようなボロボロのホテルでした。ハードがボロボロなことで、従業員が責められても、従業員には何の落ち度も責任もない。経営者の責任ですよ。」
ハードのリニューアルに着手
「ウチはオーナー会社でしょ?ハードの部分は私が何とかしなければならない。欠点を承知した上で、やれるところからリニューアルを続けてきました。従業員も変化を目の当たりにして、『このホテルはいいですね。』と、ハードを褒めて頂いたとしても、自分が褒められているようで嬉しくなって、自分達ももっと良くなろうと努力してくれるんですね。」
「リニューアルに当たっては、この大歩危・祖谷地域の他ホテルとの競合は避けたい・・・。『ホテルかずら橋』さんは田舎料理を囲炉裏端で提供しておられるし、田舎でもちょっと都会的な感覚を取り入れる方向を目指しました。北陸の温泉旅館や京都の町家にデザイナーと一緒に出掛けて価値観を共有しました。」
「客室のリニューアルでは客室を25室から20室に減らしましたが、その分人手を減らすことができた上に、お客様の単価を上げることができたので、収益性は高まりました。」
「料理長と一緒に他のスタッフも連れて、評判の店にも行きます。今は季節によってメニューを大きく5回入れ替え、マイナーチェンジも数回行っていますが、その都度、スタッフ全員で試食会を行います。料理長には歓迎できないことでしょうが、その分、有無を言わせないよう気合いも入れてくれます。これは女性には味が濃い、量が多いというような貴重な意見も出て、積極的に取り入れています。」
「これからは更に欧米からのお客様を積極的に呼び込みたいと思っています。ベッドの導入も考えましたが、実は、ベッドのご要望は日本のお客様の方が多く、海外からのお客様は、せっかく日本旅館で泊まるなら布団で寝てみたいとおっしゃる方が多いのと、布団の方が客室定員を柔軟に設定できますしね。」
「ハードのリニューアルは、レストランを終えてある程度答えができてきました。最終的には人の温かみがこのホテルの雰囲気を創ると考えています。従業員の採用は真面目さを重視しています。阿波踊りのライブをはじめ、これからが新たなスタートだと思って、社員と一緒に取り組んでいます。」と、植田社長。
以前のレストランは板張りの座卓だったが、椅子とテーブルに替わり、高級感が増して、雰囲気がぐんと良くなった。ご存知のように、徳島といえば阿波踊り。阿波踊りを踊るグループは「連」と呼ばれ、小中学校にも「連」がある程、阿波踊りが盛んで、ホテルの従業員の皆さんも、このレストランで、随時、披露しておられる。また、夕食後は照明を落として、お酒を頂けるスペースにもなる。周りに何もないある意味贅沢なひと時が楽しめる。
ええ話ばかりなので、全部カットしたいところだが、従業員の皆さんからも聞き取り調査をしたが、皆さん、意識が高く、植田イズムが浸透しているようだ。
「大歩危・祖谷いってみる会」とは?
植田さんは、自社のホテルの改革と並行して、「一つの施設が自社だけで集客するには自ずと限界があり、同じ地域の施設がお客様の取り合いするのではなく、協力し合って、地域全体の魅力を高め、活性化しなければ、今後、観光地は生き残っていけない。」と、大歩危・祖谷両地域の主要ホテル5社を説得し、自らが発起人、会長となって、2000年に「大歩危・祖谷いってみる会」を設立した。
当初は行政の支援もなく、民間主導で、互いに協力し合って「大歩危・祖谷温泉郷」として、地域全体を売り出し、地域の活性化を図るとともに、共同企画の商品を旅行会社に売り込んだり、共同仕入れを始める等、地道な活動を続けてこられた。その成果が、県や観光庁他、行政からも評価、注目されるようになり、大歩危・祖谷両地域は県西部2市2町でつくる「にし阿波観光圏」等、数々の支援や協力を受けるようになったのである。
地域の賛助会員も26社に増え、2010年には、発足10周年の記念事業として「大歩危・祖谷いってみる会」観光フォーラムを開催し、徳島県知事、観光庁観光地域振興部長他を招き、300名の関係者を集めた。
「山の秘境と海の秘境として協力して売り出していきたい。四国の他地域への波及効果も見込める」と、高知県の四万十市や土佐清水市など6市町村でつくる「四万十・足摺エリア観光圏」との広域連携事業も進めておられる。
「大歩危・祖谷いってみる会」の会員の皆さんはそれぞれの役割分担が絶妙で、連携が非常にうまく行っている地域である。強力なリーダーシップを執る人財が居なくなると、まとまりが無くなる地域が多い中で、二代目や若手の人財も育ちつつある。
さらに、植田さんは、大歩危祖谷温泉郷や徳島県、四国だけに止まらず、全国のお仲間の観光地に災害等が生じると、すぐさま支援物資を調達して、送付したり、また、韓国、中国、香港、シンガポール他、東アジアへは、「大歩危・祖谷いってみる会」のメンバーと、直接、営業に足を運び、人的交流も、活動の範囲も拡げておられる。
コレゾ財団・賞の趣旨をご説明し、受賞とご協力をお願いしたところ、
「協力はしますので、私はいいですから、若い人たちを表彰してあげて下さい。」というお言葉。
「でも、大歩危・祖谷では、功労者の植田社長に先に受賞して頂かないと、他の方に受賞してもらい難いので、宜しくお願い致します。」
「ハハハハ、そういうことなら、腐れ縁ですし、もらっておきますか。」と、渋々、承諾して下さった。
COREZOコレゾ「民間が手を組み、行政の協力・支援も得て、地域全体で魅力を高め、国際的な知名度向上に取り組む大歩危・祖谷のリーダー」である。
COREZO(コレゾ)賞 事務局
初稿;2012.11.02.
最終取材2015.02.
最終更新;2015.03.03.
文責;平野 龍平
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