イオン交換膜塩の安全性と問題点
化学塩?だとか、ミネラルバランス?が悪いとか、何かと批判されるイオン交換膜塩を調べていると、加工助剤?なる表示が免除されている添加物が浮かび上がってきた。
衛生面
海水のろ過工程
上水道水以上の精密なろ過が行われ、濁度にして水道水の10分の1程度の0.2ppmに達し、海水中の目に見える物質はこの工程で除かれる。
膜濃縮工程
溶存している海洋汚染物質、例えば、環境ホルモン、ダイオキシンなどの有機塩素化合物、世界的に汚染が拡大している都市排水からの洗剤や糞尿などに由来する生物系の汚染などが分子レベルで除去される。
煮詰め工程
では、真空式蒸発缶(立釜)にて高温で焚かれる為、完全に滅菌される。
食品衛生法で表示を免除される添加物
食品加工において、さまざまな認可された食品添加物が使用されていて、食品製造における食品添加物には表示が免除されている添加物もあり、食品加工における製造過程では、そのような表示の義務の無いものも使用されていると考えられる。
栄養強化の目的で使用されるもの
栄養強化の目的で使用されるビタミン類、ミネラル類、アミノ酸類など
加工助剤
食品の完成前に除去されるもの
例)油脂製造時の抽出溶剤であるヘキサン
最終的に食品に通常含まれる成分と同じになり、かつ、その成分量を増加させるものではないもの
例)ビールの原料水の水質を調整するための炭酸マグネシウム
最終的に食品中にごくわずかな量しか存在せず、その食品に影響を及ぼさないもの
例)豆腐の製造工程中、大豆汁の消泡の目的で添加するシリコーン樹脂
キャリーオーバー
原則として、食品の原材料に使用された添加物についても表示する必要があるが、食品の原材料の製造又は加工の過程で使用され、その食品の製造過程では使用されないもので、最終食品に効果を発揮することができる量より明らかに少ない場合は、表示が免除される。
添加物を含む原材料が原型のまま存在する場合や、着色料、甘味料等のように、添加物の効果が視覚、味覚等の五感に感知できる場合は、キャリーオーバーにはならない。
保存料の安息香酸を含むしょうゆでせんべいの味付けをした場合、この安息香酸は含有量が少なく、せんべいには効果を持たない。
→ キャリーオーバーとなり、表示の必要なし。
着色料を使ったメロンソースをメロンアイスに使用した場合、最終製品にも色としての効果がある。
→ キャリーオーバーとならなず、表示が必要。
発色剤を使用したハムをポテトサラダに入れた場合、ハムはそのまま原型を止めている。
→ キャリーオーバーとならなず、表示が必要。
参考
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/shokuten/shokuten6.html
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/index.html
塩の製造で使われる加工助剤
一般に、塩の製造にも凝集処理剤、pH調整剤、スケール防止剤、消泡剤等の加工助剤が使用されているそうだ。
次亜塩素酸ナトリウム
海水導入管の生物汚染防止用に使用され、添加量が少なく濃縮膜へ入る前に大部分が分解する。
亜硫酸ナトリウム
次亜塩素酸ナトリウムの残存防止用中和剤。塩化ナトリウムと硫酸ナトリウムになるので無害となる。
塩化第二鉄
海水中の懸濁物を除去するための凝集処理剤として使用。海水中で水酸化第二鉄となり固形化する。砂ろ過工程や濃縮膜にて除去される。
塩酸
かん水を酸性に保つことで濃縮膜への析出物を防止する。かん水のpHはpH5となり酸性に傾くが、製品は中性ないし弱アルカリ性であり残存はまったく無いと考えられる。 なお、HCl(塩酸)は解離して海水成分と同じになる。
ポリリン酸
蒸発缶のスケール防止剤として使用される。ポリリン酸は大部分が分解してリン酸塩になってにがりに移行し、塩には移行しない。
消泡剤
脂肪酸のグリセリンエステルが一般的に使用されている。蒸発缶の沸騰により、泡立ちが激しい時に間欠的に使用されるもので、使用量は限られる。 大部分はにがりに移行し、一部は分解するので製品中への移行は無い。にがりを塩に添加する場合、移行量は推定0.1ppm。
スケール(せっこう・湯垢)とは?
製塩業では、製塩の過程で、スケール(せっこう・湯垢、炭酸カルシウムCaCO3と硫酸カルシウムCaSO4)の発生は避けられない問題で、伝熱面に付きやすく釜に付着すると一気に熱効率が悪くり、さまざまな対策がとられてきたそうだ。炭酸カルシウムCaCO3は酸で溶かせるらしいが、硫酸カルシウムCaSO4(石膏ボードに使われる)の方は厄介なようだ。
イオン交換膜式では、イオン交換膜の性質によってカルシウムと硫酸イオンが少なくなり、スケール(せっこう・湯垢)が釜に着き難いそうだ。それでも、スケール防止剤を使用している製塩工場もあるぐらいだから、その他の製塩方法ではもっと深刻なはずだが、どのような処理をしているのか記載しているメーカーは筆者が調べた限り、見当たらない。
固結防止剤フェロシアン化物
フェロシアン化物は、急性毒性についての試験データはあるものの、慢性毒性、発ガン性、遺伝への影響へのデータが不備という理由で承認されていなかったが、2002年8月、厚生労働省により、海外で広く承認されていた為、食品輸入の障壁となるとの理由からフェロシアン化物の使用が急遽承認された。 フェロシアン化物は、酸性で加熱するとシアンに分解することもあり、イメージは非常に悪く、国内ではほとんど使用されていないそうだ。
参考
下記は、イオン透過膜式製塩をしているメーカー、4社の内、唯一、使用している加工助剤を明らかにし、自社の安全・安心な塩作りに対する姿勢も含めて、消費者に情報公開しているメーカー。その他製塩方法のメーカーでも自社の都合のよい情報ばかり強調しているサイトが目立つ中、好感が持てる。
http://www.naruen.co.jp/anshin/
まとめ
岩塩、湖塩の資源がなく、海塩をつくる気候条件にも恵まれていない日本がつくりあげた独自の技術である。経済と効率を最優先するつもりはないが、日本で海塩をつくるには、入浜式、流下式のさいかん、平釜せんごうの製塩は、あまりにも効率(特に加熱の燃費)が悪過ぎ、塩を自給するための苦肉の策であったとも云える。
ほとんどの不純物を排除でき、真空式釜でせんごうするので、エネルギー効率にも優れ、また、イオン交換膜の性質によってカルシウムと硫酸イオンが少なくなり、スケール(せっこう・湯垢)が釜に着き難い等の利点も多い。
ご自分でお調べになればわかるが、化学合成した塩ではないし、塩化ナトリウムは大規模天日製塩や岩塩からつくる方が格段に安く、コストが合わないので、世界的に化学合成では作られていないそうだ。
調べた限り、現在、日本に流通している塩の中では、海水中の有害な重金属もほとんど除去されることと衛生面に関しては、最も安心できると思われる。
製塩加工助剤を使用していない塩を選びたいが、表示を免除される添加物扱いのためか、イオン交換膜式だけでなく、その他の製塩方法のメーカーでも情報公開しているところが少なく、比較検討のしようがない。
特徴としては、塩化ナトリウム純度が高く、カリウムが多くなることであるが、おそらく、工業用途も念頭に置いていたので、塩化ナトリウム純度の高い塩になったのだろう。
ミネラルバランスが悪いという批判に対しては、何がいいミネラルバランスなのか、百社百様なのでなんとも言い難い。
イオン交換膜を工夫して適度なにがり分を残す製塩をすればいいのではないかと思うが、いろいろな事情があるのかもしれない。
1971(昭和46)年の「塩業近代化臨時措置法」で「イオン交換膜製塩」以外の方法で製塩するのを禁止されていなければ、これほど「悪者」扱いされることはなかっただろう。
しかし、この技術をもってしても、メキシコ・オーストラリア産の大規模天日塩に価格面での勝ち目がないようで、今でも、塩の自給率は約11.6%(2013年)しかなく、食品用も自給できていないのが現実だ。
食品加工の業務用としては、輸入天日塩再せんごう塩は品質が安定せず、不純物が混入しているケースもあり、イオン交換膜塩の評価は高いようである。
食塩1kgの標準販売価格が税込115円であり、生命維持に必要な生活用塩供給等事業の役目は果たしているし、もしもの時に自給できる手段として確保しておくべきだろう。
今は選択の自由があるのだから、この塩が気にくわない、あるいは塩として認めない人は何十倍もする塩を選べば済む話だ。
参考
イオン交換膜式製塩
http://www.naruen.co.jp/seien/
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COREZO (コレゾ)賞 事務局
初稿;2015.04.27.
編集更新;2015.04.27.
文責;平野龍平
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