中川 安憲(なかがわ やすのり)さん/合名会社 代表/宝山味噌 宝山たまり

COREZOコレゾ 「140年以上続く豆味噌・たまり醤油づくり 国産大豆と塩のみを原材料に 木桶仕込み、天然醸造で 伝統の風味を実直に守り続ける六代目」 賞

中川 安憲(なかがわ やすのり)さん/合名会社 中定商店 代表/宝山味噌 宝山たまり

プロフィール

合名会社 中定商店 代表社員

合名会社 中定商店

中定商店の歴史

明治維新を経て、港や鉄道の計画がなされ、大きな発展を遂げようとしていた長尾村(後の武豊町)の中、初代中川定平は成長産業であった味噌・たまりの醸造業に目をむけ、この地の温暖な気候と良質な水を用いる事により良い味噌・たまりが出来る、と確信して、明治12(1879)年6月、念願の味噌・たまりの醸造蔵を創業。

後を次いだ2代目定平(佐一郎)は、さらに良い味噌・たまりを造ることに情熱を傾け、良質の麹を安定的に造る技術を確立して、味噌・たまりの品質は大きく向上し、多くの顧客の支持を得て大正から昭和初期にかけて急速に生産量を拡大し、名古屋に第2生産蔵(名古屋醸造所)と愛知県内に3つの支店を開き、昭和7(1932)年3月、合名会社中定商店を設立、中川定平の中と定を使い中定商店とした。

平成16(2004)年より、多くの人に味噌をより身近に感じて頂くために、手作り味噌教室を開催。

平成16(2004)年及び、平成21(2009)年、社団法人中央味噌研究所主催の全国味噌鑑評会にて農林水産省総合食料局長から優秀賞を受賞。

中定商店 六代目

愛知県武豊町は、知多半島にある中部国際空港セントレアの反対側(東側)の海に面して位置し、温暖な気候と良質な水に恵まれ、明治の初め頃から醸造業が盛んで、武豊線・武豊港が開通・開港して流通経路が確立されたことにより、飛躍的に発展し、最盛期は50件もの蔵が軒を連ねた。その後、戦時体制の強化等により、次第に数も減ったが、現在も6軒の醸造元があり、豆味噌・たまり醤油は、地域の食文化として根付いている。

中川さんは、1879年創業の中定商店さんの六代目、敷地内には、有形文化財の建物があり、木造、土壁、瓦屋根の大正時代からの仕込み蔵で、140年以上に亘り、国産大豆と塩のみを原材料に、木桶仕込み、天然醸造で豆味噌・たまり醤油づくりを続けておられる。

豆味噌(宝山味噌)

原料は大豆で(国産;主に北海道産と愛知県産)と食塩のみで、大豆を豆麹にして食塩水とともに木桶(新しい桶でも80年経過しており、木桶には発酵に有用な微生物が沢山棲みついている)で仕込み、温度を加えたり、添加物を一切使用することなく、3年間、全く自然のまま、菌は気温が上がると活動が活発になり、下がると休むと云う、自然の流れに沿って発酵を繰り返すことで、菌も良い働きをするので、美味しい味噌に仕上がる。大豆のたんぱく質を多く含むため、長期間熟成により、色が当初の山吹色から赤褐色へ変化していく。

味噌玉麹による全麹仕込みという古来からの方法で醸造しており、特徴は、濃厚なうまみがあって、米味噌と違い煮込めば煮込む程、美味しくなり、また、肉や魚介類とも相性が良く、お互いのうまみを高めあう効果がある。

一般的に愛知県では「豆味噌」より、味噌の色が赤褐色であることから「赤味噌」と呼ばれることが多く、色が濃いので、塩辛いと思われがちだが、塩分濃度は他の味噌と変わらないそうだ。

粒味噌

木桶から掘り出したまま袋詰めしているので、大豆の粒が少し残っているが、その粒自体に豊かな風味があり、調理の際、味噌漉し等で擦って濾すと味噌の香りが立ち上り、豆味噌本来の風味が味わえる。

最近では、粒味噌を商品として販売しているところは少ないらしく、希少性も高いそうだ。

すり味噌

粒味噌を機械ですり潰した味噌で、調理の際、味噌漉しを使う手間が省ける。

どちらも加熱殺菌していない生のみそなので酵素や乳酸菌が活きているそうだ。

あまみそ

宝山味噌に粗糖、本みりん、生姜、蜂蜜など原料にこだわった、保存料無添加の味噌だれで、上品な甘さであきがこないのが特徴。

ふきのとう味噌、田楽、和え物、生野菜、味噌カツにはもちろん、パンにつけるのもオススメとのこと。

豆味噌と八丁味噌との違い

八丁味噌も豆味噌の一種で、蒸した大豆から味噌玉をつくり、そこに麹菌をつけて味噌玉麹にする、と云う、豆味噌の独特の作り方は同じだが、その味噌玉麹の大きさが異なり、八丁味噌はかなり味噌玉が大きく、中定商店の味噌玉はその半分程度の大きさで、また、麹を生育する時間は、中定商店の豆味噌の方が短く、仕込み水の量も少し多い。

これらが味噌になった時の味の違いとなって現れ、中定商店の豆味噌は、うま味やコクはしっかり出ているが、苦味、酸味が抑えられマイルドな仕上がりとなる。

豆味噌の使い方

さつまいも、かぼちゃのように「甘み」の出る材料を使ったり、隠し味としてみりん、砂糖を加える、また、関西系の甘い白みそを混ぜる等、「甘み」を加えることが、豆味噌を使って、おいしく調理するコツ、だとのこと。

豆味噌の正しい保存法

宝山味噌は、加熱殺菌処理をしていない「生きている味噌」なので、完全に熟成が止まっている味噌と違い、わずかながらでも熟成が進んでいるため、温度変化にも敏感なので必ず冷蔵庫での保存が必要。

たまり醤油

豆味噌を作る過程でにじみ出た汁が桶の底にたまり、これを取り出したのがはじまりと云われ、醤油の原点とも言うべきのもの。

たまり醤油の特徴は他の醤油と比べて塩分が少なめで、とろりとして濃厚な味わい、主原料が大豆なのでタンパク質が多く、人間の体に必須のアミノ酸やうまみ成分であるグルタミン酸もたくさん含まれている。

たまり醤油を使った料理は、この地方独特の食文化でもある。

しょうゆの塩分濃度(参考)

  • 濃口醤油(こいくちしょうゆ):16~18%
  • 淡口醤油(うすくちしょうゆ):18~19%
  • 溜醤油(たまりしょうゆ):12~13%
  • 再仕込醤油(さいしこみしょうゆ):11~13%
  • 白醤油(しろしょうゆ):13~14%

幻蔵・宝山たまり /5分(ごぶ)仕込み

豆麹:仕込みの塩水量によって10:5なら「五分仕込みたまり」、10:10なら「十水仕込みたまり」と呼ばれ、数字が少ない方がより旨みが凝縮された濃厚なたまりになる。

杉の大桶で天然醸造した味噌から自然にしみ出た汁を桶の底から引いた生引(きびき)たまり醤油で、その色の濃さは、3年という長期熟成の時間が作り出した自然の色。

幻蔵・宝山たまりと十水・宝山たまりの使い分けは、消費者の好みによるが、幻蔵・宝山たまりは値段が高い分、濃厚で使う量が少なく済むので、お得かもしれないとのこと。

十水・宝山たまり/十水(とみず)仕込み

豆麹:仕込みに使う塩水の量を10:10で仕込んだたまり醤油を「十水仕込みたまり」と呼び、「十水・宝山たまり」にも十分濃厚な旨みがあり、「幻蔵・宝山たまり」よりあっさりとした味わい。

3年間という長期熟成のため、色が濃くなるが、塩分濃度は、薄口醤油より低い。

たまりの使い方

まぐろ、ぶり、はまち、さばなど、脂ののった魚や、普通の魚よりにおいが強い魚によくなじみ、うま味を引き出す。

煮魚は、自然な甘みが出て、照りがのりやすく、うま味がでてふくよかな味わいになる。

特にぶりの照り焼き、うなぎの蒲焼は加熱する時にきれいな赤味が出て、照りがよく、うま味が引き立つ。

里芋、れんこん、人参、大根など野菜の田舎煮は色合いがよくこってりとした味わいになる。

佃煮は甘みが出て、照りがよく、塩辛くならない。

オススメは、旨みの濃さだけでなく、照りがよく出るので、鶏の照り焼き、意外なところでは、炊き込みご飯に使うと、旨みが増して、食材の味も引き立ち、中川さんが個人的にお好きなのは、焼き餅にたまりと焼き海苔だそうだ。

脂ののった食材との相性が良いので、マグロの刺身はもちろんのこと、筆者のオススメは、「すき焼き」。関西風は、割下を使わず、すき焼き鍋にザラメを敷いて、肉を焼き、少し焦げ目を付けてから、酒と醤油で香ばしく仕上げるのだが、「たまり」を使うと、さらに旨みとコクがアップする。

筆者は、ザラメや砂糖を使わず、牛脂で肉を焼いたあと、角谷文治郎商店さんのみりん、酒、「たまり」で仕上げ、溶き卵に潜らせて、やまつ辻田さんの極上大辛七味をパラリとすれば、サイコー!セールの切り落とし肉でもランクが2段階上がり、甘いものが苦手で、すき焼きは年に1回するかどうかだったが、この食べ方を教わってからは、月に何度か食べることもある。

しょうゆの種類(参考)

こいくちしょうゆ(全出荷量中約84%)

最も一般的なしょうゆ。塩味のほかに、深いうま味、まろやかな甘味、さわやかな酸味、味をひきしめる苦味を合わせ持っています。調理用、卓上用のどちらにも幅広く使える万能調味料。

うすくちしょうゆ(全出荷量中約12%)

関西で生まれた色の淡いしょうゆで、国内生産量のうち1割強を占める。発酵と熟成をゆるやかにさせるため、食塩をこいくちより約1割多く使用。素材の持ち味を生かすために、色や香りを抑えたしょうゆ。炊きあわせやふくめ煮など、素材の色や風味を生かして仕上げる調理に使われる。

たまりしょうゆ(全出荷量中約2%)

主に中部地方で作られるしょうゆ。とろみと濃厚な旨味、独特な香りが特徴。古くから「刺身たまり」と呼ばれるように、寿司、刺身などの卓上用に使われるほか、加熱するときれいな赤味が出るため、照り焼きなどの調理用や、佃煮、せんべいなどの加工用にも使われる。

さいしこみしょうゆ(全出荷量中約1%)

山口県を中心に山陰から九州地方にかけての特産しょうゆ。他のしょうゆは麹を食塩水で仕込むのに対ししょうゆで仕込むため、「さいしこみ」と呼ばれる。色、味、香りともに濃厚で、別名「甘露しょうゆ」とも言われ、刺身、寿司、冷奴など、おもに卓上でのつけ・かけ用に使われる。

しろしょうゆ(全出荷量中約1%)

愛知県碧南市で生まれ、うすくちよりもさらに淡い琥珀色のしょうゆ。味は淡泊ながら甘味が強く、独特の香りがあります。色の薄さと香りを生かした吸い物や、茶わん蒸しなどの料理のほか、せんべい、漬物などにも使用される。

今後の中定商店

中川さんは、木桶仕込みは、木桶自体が珍しくなって、地元に職人さんもいなくなり、これを維持するのも、また、出来上がった味噌を大きな仕込み桶から掘り出すのも人力なので、大変だが、木桶仕込みの天然醸造でしか出せない味わいがあり、時代に合わせて、限界はあるが、塩分を控えたり、新しい商品開発をしたり、働きやすい労働環境を整えたりして、この140年以上続く、伝統の味、食文化を次の世代に残していきたい、とおっしゃる。

COREZOコレゾ 「140年以上続く豆味噌・たまり醤油づくり 国産大豆と塩のみを原材料に 木桶仕込み、天然醸造で 伝統の風味を実直に守り続ける六代目」 賞である

取材;2023年9月
初稿;2023年11月
文責;平野龍平

 

 

 

コメント