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COREZOコレゾ 「危険物でありながら、人を集め、魅了する花火、その安全面、技術面他を火薬・安全・環境、三位一体の知見から 研究者・審査員として、日本の花火文化を支え続ける学者」賞

新井 充(あらい みつる)さん/公益財団法人 総合安全工学研究所 理事長/東京大学 名誉教授
プロフィール
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受賞者のご紹介
プロフィール
新井 充(あらい みつる)さん
公益財団法人 総合安全工学研究所 理事長。
東京大学 名誉教授。
火薬化学を基盤に、安全工学、環境分野へ研究領域を広げ、長年、日本の産業安全や爆発・火薬安全研究に携わってきた研究者。
大学時代に所属した研究室は、旧海軍技術将校の流れを汲む火薬研究の系譜にあり、ニトロ化合物を中心とした火薬化学を専門としていた。
その後、1970年代の光化学スモッグ問題を契機に、窒素酸化物(NOx)の反応機構研究へと研究領域を広げる。火薬研究で培ったニトロ化学の知見を、環境問題や安全工学へ応用し、「火薬・安全・環境」を横断する独自の研究領域を築いていった。
さらに、自動車用エアバッグなど高速作動装置の研究、安全性評価、事故解析にも携わる一方、花火業界とも長年関係を深め、花火の発色、安全性、保存劣化などを研究。花火師たちの経験則を科学的に検証し、職人技と学術研究の橋渡しを続けてきた。
現在は、全国花火競技大会「大曲の花火」審査委員長をはじめ、「高崎HANABIコンクール」、「大曲の春 新作花火コレクション」、「やつしろ全国花火競技大会」で審査委員長を務めるほか、「隅田川花火大会」では審査副委員長、「にし阿波の花火」では審査委員を務めている。
プロローグ
全国花火競技大会「大曲の花火」審査委員長を務める新井先生は、同じく「大曲の花火」の審査員だった作詞家の及川 眠子(おいかわ ねこ)先生からのご紹介でお話を伺うことができた。
大曲の花火審査では、花火そのものの技術的完成度だけでなく、芸術性や表現力も重要な審査対象になるという。そのため、工学や火薬研究の専門家だけでなく、及川先生のように、言葉や表現を生業とする審査員も加わっているそうだ。
「火薬を使う場合、例えば発破をかける時は、『危ないから、あっち行って、来るなよ』って言うじゃないですか。でも花火だけは、“おいで、おいで”なんですよね」
そう語る新井先生は、火薬化学、安全工学、環境分野の研究者として歩む一方、長年、花火文化とも深く関わってこられた。
火薬とは、本来、危険だから、人を遠ざけるものである。しかし花火だけは違う。人々は夜空を見上げ、その爆発に歓声を上げ、自らその場所へ集まっていく。
新井先生は、そんな「人を呼び寄せる火薬」である花火を、研究者として、そして審査員として見続けてこられたのである。
研究の出発点と専門領域の変遷
研究基盤
新井先生が所属した研究室は、旧海軍技術将校の流れを汲む火薬研究の系譜にあり、ニトロ化合物を中心とした火薬化学を専門としていたが、戦後は、研究領域に制約を受けることになる。
火薬は、一つの化合物の中に酸素を抱え込み、一気に分解・燃焼することで巨大なエネルギーを生み出す。その中心にあるのが「ニトロ基」と呼ばれる構造で、新井先生たちは、そうした化学反応を研究しておられた。
ニトロ基とは、窒素(N)と酸素(O)からなる「-NO₂」という構造のことで、火薬や爆薬のエネルギー源になる重要な化学構造である。分子の中に酸素を抱え込んでいるため、一気に燃焼・分解しやすく、大きなエネルギーを生み出す。一方で、狭心症治療薬として知られるニトログリセリンのように医薬品にも使われている。
環境分野への展開
1970年代、光化学スモッグが大きな社会問題となる中、NOx(窒素酸化物)もまた窒素と酸素の反応であり、ニトロ化学を専門としていた研究室には、その反応を理解し、応用できる基盤があったので、研究は、「環境」分野にも展開していった。
安全工学
さらに、火薬研究では、単に「爆発するかどうか」だけでなく、「事故が起きた時に、どう被害を最小化するか」、つまり、火薬の性能とその危険性の評価も重要になる。
新井先生は、それらの知見が求められる事故調査にも長年関わってこられた。
その中で重要なのは、「事故のきっかけ」と「被害が大きくなる原因」は別だという視点で、事故のトリガーと被害拡大要因を分離し、法令違反による過量保管など管理不備が被害増幅の主因であると強調される。
事故そのものは様々な要因で起こり得る。しかし、被害が拡大する最大の原因は、法令違反による過量保管など、安全管理上の問題であることが多いという。
火薬そのものの性能だけではなく、保管方法、管理体制、配置、運用、法令順守ほか、さまざまな要因を含めて安全を考える研究は、現場の安全実務に学術的裏付けを提供し、やがて「安全工学」へと発展していった。
火薬の安全装置への応用
「エアバッグってどんなイメージを持たれているかわからないですけど、あれ、ぶつかった時に「シュー」って開くんじゃなくて、「バン!」って開くんです。でないと間に合わないから」
「割と最近まで研究していたのはエアバッグ。自動車用のエアバッグ。それはもう、ほとんど火薬による作動なんです」と、新井先生。
自動車用エアバッグは、空気で膨らむ装置のように思われがちだが、その起動には、高速展開(「バン!」)が必須で、火薬の高速反応が中核となる。安全に高速展開させる設計や取扱い技術を研究し、用途に応じた燃焼・爆発制御へ知見を活用されてきた。
「火薬・安全・環境」の三位一体の研究領域
こうして、「火薬・安全・環境」の三位一体の研究領域が形成されていった。
花火との関わり
花火との出会い
「まあ、多分、最初は事故だと思いますね。事故を解明していく中で、お互いに役に立つことがあるのかな、みたいなところから始まったんだと思いますね」
花火は、美しさや芸術性が注目される一方で、本質的には“火薬”を扱う世界でもある。そのため花火業界では、安全管理が極めて重要視され、新井先生たちには、爆発物、火薬、環境、安全工学に関する知見があり、事故調査や安全対策を通じて、学術側と花火業界との交流が始まっていったようである。
やがて、新井先生たちは、トラブル要因を解明する中で、花火業者が抱える現場の課題についても話を聞くようになっていく。
「花火屋さんって、職人芸ですよね。『こう言われてるからこうやってるんだけど、なんでかわからないんだよ』みたいなのがあったりするんですね」
そうした経験則で受け継がれてきた職人技について、「なぜそうなるのか」を科学的に検証していった。
また、「逆にこちらから聞きに行って、どういうことを悩んでますか、みたいなのもありますし」と、研究者側から花火業者へ課題を聞きに行くこともあったという。
さらに事故が起きれば、事故調査に入り、「ここが怪しいのではないか」という原因仮説の検証を研究テーマ化し、現場改善へフィードバックしていく。こうして、安全管理をきっかけに生まれた交流は、やがて花火師たちの経験則や職人技を、科学的に検証していく取り組みへと発展していったようである。
また、新井先生が所属していた研究室では、師匠筋の先生方も花火審査や花火研究に関わっていたという。
「僕のすぐ上、それから師事した先生と、その間にもう一人先生がおられて、その先生も花火の審査とかをされていたので、それが回ってきて、今、6つやってます。花火の審査」と、新井先生。
花火の色を科学する 職人の経験則を科学的検証で可視化
花火の色彩史
新井先生たちが取り組んできた研究の一つが、花火の「色」である。
「花火の方も、いかに綺麗な色を出すかとか、いかに安全に扱うかとかっていうことをやってきた」と、新井先生。
現在では、花火は赤、青、緑、紫、金など、多彩な色が夜空を彩る。しかし、もともと江戸時代頃までの花火は、線香花火のような炭火色というか橙色が中心だったという。
明治以降、西洋の花火文化が入ってきて、高温燃焼可能な薬剤や、発色に使う金属化合物が導入されることで、多色化が進んでいった。近年はチタン導入で金色表現できるようになり、さらに日本人が好きなパステル調の色彩まで色の表現が拡張されているそうだ。
混色の難しさと青・紫の課題
例えば、ナトリウム → 黄色、バリウム → 緑、銅 → 青など、それぞれ金属によって発色が異なる。
しかし、美しい色を出すことは、単純ではない。特に難しいのが「青」だという。
青は銅化合物によって発色するが、高温になると発色の原因となる分子が壊れてしまうため、「明るさ」と「鮮やかな青」を両立するのが難しい。
さらに紫は、赤と青を組み合わせて表現するため、青の発色が難しいので、鮮やかな紫も難しくなる。
テレビやディスプレイは、赤・青・緑の「光の三原色」を組み合わせることで、様々な色を表現できる。しかし花火は、それぞれの色ごとに発色する化学反応や最適な燃焼温度が異なるため、単純に色を混ぜれば綺麗に発色するわけではない。
また、色を混ぜれば混ぜるほど綺麗になるわけでもない。絵の具は全ての色を混ぜ合わせると、黒くなるが、光は混色すると白っぽくなりやすく、彩度が落ちてしまうためである。
職人知と学術知の相補
こうした花火の発色は、単純に色を混ぜ合わせれば作れるものではなく、化学反応、燃焼温度、金属元素、酸化反応など、複雑な科学の上に成り立っている。
一方で、新井先生は、花火の世界には、昔から受け継がれてきた職人技の凄さもあると語る。
職人技だけで作られてきた伝統的な配合や技法の中には、現代の化学的見地から見ても、極めて合理的なものが少なくないという。
近年では、花火業界にも化学系出身者が増え、職人の経験と科学的知見の両方を活かしながら、新しい花火づくりが進められているそうだ。
花火は「人を呼び寄せる火薬」
「火薬を使う場合、例えば発破をかける時は、『危ないから、あっち行って、来るなよ』って言うじゃないですか。でも花火だけは、“おいで、おいで”なんですよね」と、新井先生。
鉱山で岩盤を砕く発破も、工事現場の爆薬も、本来、火薬とは人を遠ざけて使うものであり、「危険だから近づくな!」それが、火薬を扱う際の常識だ。
しかし花火だけは違う。人々は、わざわざ火薬を集めて打ち上げる会場へ自ら足を運び、夜空を見上げ、歓声を上げる。
しかも、花火は単に爆発して終わるものではなく、色、形、残光、消え際、音、間、さらには観客の感情まで含めて、一瞬の表現を作り出している。
新井先生は、視覚障害者の方が、花火の「音」や身体に響く「振動」で花火を楽しんでいた話にも触れておられたが、花火は、「見る」だけではなく、音や空気の振動も含めて体感するものなのだろう。
研究・実験の安全管理
花火は観客を招く火薬なので、高度な安全運用が必須。学内では取扱量を最小化し、主要実験は花火会社や外部研究機関で実施しているという。
危険物でありながら、人を集め、人を惹きつけ、人の心を動かす。
新井先生は、そんな花火という存在を、何よりも安全を第一に、研究者として、そして審査員として、長年関わり続けてこられたのである。
全国花火競技大会(大曲の花火)
新井先生は、大曲の全国花火競技大会で長年、審査員を務め、2011年から審査委員長。現在は、大曲春・夏、髙崎コンクール、隅田川(副委員長)、八代、にし阿波(審査委員)の6大会(隅田川、にし阿波以外は委員長)の審査委員を務めている。
「大曲の花火」とは、秋田県大仙市大曲で春・夏・秋に開催される、3つの花火大会の総称で、8月の「全国花火競技大会」は、1910年より続く国内随一の伝統と格式を誇る大会で、国内唯一「昼花火」の競技も執り行われ、この大会で受賞することは、花火師にとって最高の栄誉とされているそうだ。
全国花火競技大会
まず「大曲とはどのような大会なのか」、そして「どんな花火会社が参加するのか」を尋ねた。
すると新井先生は、「大曲は競技大会なんですね」と説明された。
一般的な花火大会が、“観客に楽しんでもらう打ち上げイベント”であるのに対し、大曲は、全国の花火会社が技術を競い合う大会として発展してきた。その背景には、1910年(明治43年)に始まった「奥羽六県煙火共進会」を源流とする、100年以上の歴史の中で積み重ねられてきた伝統と格式がある。
選りすぐりの28社
現在、参加する花火会社は28社。しかも自由参加ではない。
「大曲は選ばれてますね。今28社なんですけれども。3年から5年にいっぺん入れ替えがあって、3社入れ替えっていう風になってます」
また、新井先生によれば、大曲の大きな特徴は、主催が自治体ではなく商工会議所であることだという。
「普通は市とか県とか、地方自治体が多いんですけれども、大曲は商工会議所がやっていて、商工会議所がやっぱ花火が好きな人たちばっかりということもあって、もう全国見て歩いてます」と、新井先生。
では、その28社はどれほどのレベルなのか。
「もちろん、もう完全にトップクラス28社。強いて言えば10社、15社ぐらいは本当にトップ・オブ・トップですよね」
大曲に選ばれること自体が、全国トップクラスの花火会社として認められることでもあるようだ。
競技大会である以上、花火会社は新作や自信作、そして自社の中でも選りすぐりの玉を持ち込む。主催側から一定の費用は支払われるが、それだけでは足りないほどの費用をかけてくる会社も少なくないという。
「一応お金は払ってはいるんだけれども、そんなもんじゃ足りないぐらいお金をかけてこられると思います」
もちろん賞金もあるそうだが、それ以上に大きいのは、受賞によって得られる名誉である。
新井先生も、大曲で評価されることで、「翌年、花火大会に呼ばれる時の花火会社としての相場が変わる」という趣旨の話をされていた。
つまり大曲は、花火会社にとって、自社の技術と名誉をかけた勝負の場でもある。だからこそ各社は、力を注ぎ、採算度外視の新作や最高水準の花火を持ち込む。
全席有料でも観覧価値
また、この競技大会では、各社が名誉をかけて新作や高品質な花火を持ち込むため、通常の花火大会で花火会社へ支払うコストでは、到底実現できないレベルの作品が集まる。結果として、観客は、その全国トップクラスの花火を一度に観る恩恵に預かることができるということだ。
さらに、大曲は公式には80万人規模の観客を集める大会で、その運営で大きな負担となるのが警備費である。コロナ期以降は安全確保に予算が厚く配分されてきた。
新井先生は、大曲が全席有料であることについて、商工会議所主催だからこそ実現できた面があるとおっしゃっていた。自治体主催であれば、「税金を使っているのに、無料席がないのか」という議論になりやすい。一方、大曲は商工会議所主催であるため、全席有料化によって警備費や安全対策費を確保しやすくなった上に観客マナー向上にもつながっているという。
競技大会としての権威、花火会社の名誉、商工会議所主催という制度設計、全席有料化による安全な運営、そして全国トップクラスの花火が集まるという魅力。それらによって、全国花火競技大会「大曲の花火」は、全国有数の花火大会として知られる存在になっているのである。
花火の審査
全国花火競技大会では、単に「綺麗だったか」だけで審査が決まるわけではない。
新井先生は、伝統的な花火審査の基本として、座りの良さ、盆の開き、肩の良さ、消え口を挙げられた。
座りの良さ
「座りの良さ」とは、花火が打ち上がった頂点で、しっかり止まったように開いているかどうか。
「上がりながらだとちょっと寸詰まりになる。落ちながらだとちょっと長くなっちゃう」と、新井先生。
花火は、上昇中に開けば光の広がりが下方向へ流れ、逆に下降しながら開けば上方向へ引っ張られるので、より綺麗な真円の花火を観せるためには、頂点で開くことが求められるということのようだ。
盆の開き
「盆の開き」とは、花火がどれだけ大きく開いているか。
花火では、打ち上げ筒へ込める球状の花火本体を「玉」と呼ぶ。玉のサイズはいくつかあり、そのサイズによって、開く大きさ自体は異なるが、その「玉」のサイズの中で“目いっぱい”大きく開いているかどうかが重要になるという。
肩の良さ
「肩の良さ」は、花火が外側まで均一に、放射状にしっかり開いているかどうか。
「菊型花火って典型的にこう放射状にパーって広がりますよね。あれがこうピシッと全部、同じ長さで、放射状に開くかってことです」と、新井先生。
つまり、一部だけ短かったり、崩れたりせず、外周まで均一に整って開いている状態が、「肩」が良い花火のようだ。
消え口
「消え口」とは、花火が最後にどのように消えていくか。
新井先生の言葉を借りると、「スーッと消える」花火が美しいという。
逆に、一部だけ光が残ったり、消えるタイミングが揃わなかったりすると、全体の美しさが崩れてしまう。つまり「消え口」では、花火の終わり際まで、全体が均一に整っているかどうかが見られている。花火も、「終わり良ければ全て良し」なのかもしれない。
玉名
花火審査において、上位大会では、基本の4要素は、ほぼ満たされるため、差はその先の要素で出る。
新井先生が重要だと語っていたのが、「玉名(ぎょくめい)」である。各玉の玉名に忠実かを重視し、曖昧な命名は評価指標になり難いという。
玉名とは、花火につけられた名称のことだ。
新井先生によると、玉名には、その花火がどのように開き、どのような変化をするのか、いわば“設計図”のような意味が込められているという。「大曲の花火」公式サイトにも、「自ら掲げたテーマを玉名 (ぎょくめい) に託し、その世界観を表現。いかに見る人たちの共感、驚き、感動を呼ぶかが勝負の要」とある。
例えば、「昇曲導付三重芯変化菊」という玉名であれば、その名称を読むだけで、どのような花火なのかをある程度予測できるそうだ。
「昇曲導付」とは、花火が打ち上がっていく途中で、「パッパッ」と小さく開き、尾を引くように光が連続するような演出が付くことを指す。
そして「三重芯」は、花火が開いた時に、中心から三重の輪が現れること。「変化菊」は、菊型に広がった外側の色や光が変化していく花火である。
つまり、このような玉名には、その花火がどのように上がり、どのように開き、どのように変化するのかが、技術的な名称として織り込まれていることになる。
審査員の皆さんは玉名を見て、事前に「どこを見るべきか」をイメージしながら、その花火が名称通りに表現されているかを審査するようである。
一方で、玉名の付け方には難しさもあるようだ。
「例えば、『夜空のお花畑』のような抽象的な玉名だと、夜空に上がった花火なら、どんな花火でもそう見えますよね」と、新井先生。
「技術的な名称でなければダメ」とおっしゃっているのではなく、あまりに抽象的な玉名だと、「どのような花火が上がるのか」、また、「その玉名通りの花火なのか」を判断しづらくなることもあるようだ。
玉名の段階から審査が始まっているように感じた。
目視重視
新井先生は、観客が目で観る体験を基準にすべきとの考えから目視で審査することを重視し、録画検証の導入には慎重なお立場だ。
大曲の競技種目(「大曲の花火」公式サイト)
全国花火競技大会「大曲の花火」では、種目ごとに花火が審査されている。
「大曲ってどんな大会かっていうと、種目があるんですね」と、新井先生。
競技は、昼花火、10号玉2発、創造花火の4種目で競われるという。
10号玉は直径約30センチの尺玉で、1発目は課題玉として多重芯の菊型花火、2発目は自由玉である。
一方、創造花火は、音楽に合わせながら複数の花火を連続して打ち上げる競技。
花火大会の将来
花火文化を後世へ繋いでいくには
有名な花火大会には観客が集中する一方で、関西の PL花火大会のように、中止になったまま再開されていない花火大会もある
「今後、花火文化を後世へ繋いでいくには、どのようなことが大事だと思われますか」と尋ねると、新井先生は、まず「安全」を最優先に、その上で「持続可能性」を考えていく必要があると話された。
長岡まつり大花火大会 のような大規模大会では、観客数が非常に多くなる分、警備や安全対策にも莫大な費用がかかる。特に近年は、コロナ禍以降の安全対策強化もあり、警備費の負担がさらに大きくなっているため、観客席有料化の方向に進んでいるという。
その上で「テレビで見るのと全然違う、現地で体感する価値を、しっかり認識してもらうこと」が重要だと新井先生。
「音は聞こえなくても、ここに来る」と、新井先生はお腹の辺りを指しながら、聴覚障害者の方々にも花火ファンが多いことを説明してくださった。花火が開く音は、耳だけでなく身体にも響く。花火とは、映像では伝わりきらない、視覚だけではなく、「身体全体で体感するエンタテインメント」なのだろう。
だからこそ新井先生は、「花火なんかタダで見るもんだって思ってる人たちの気持ちを変えたい」とも語られていた。
花火大会の有料化には、警備や安全対策の予算確保だけでなく、「有料のお客さんの方がマナーが良い」と言われているように、観客マナーを改善し、気持ちよく観覧できる環境を維持する意味合いもあるようだ。
競技大会の将来図
さらに、新井先生は、今後の競技大会の在り方についても興味深い話をされていた。
競技大会では、花火会社側が、名誉や実績づくりのために、高品質な作品や新作花火を投入する。そのため主催者側から見ると、花火会社に支払うコストを抑えて、非常にレベルの高い花火を集めやすい側面がある。一方で、花火会社側には大きな負担もかかっている。
競技大会が増えれば良いってことではなくて、その仕組み自体には自ずと限界がある。
新井先生は、「Jリーグじゃないけど、クラス分けみたいなのするとかね」というアイデアにも触れられていた。
新規参入の花火会社が競う登竜門的な大会から、全国トップレベルの頂上決戦まで、競技大会そのものを段階的にステップアップできる仕組みにしていく。そうすることで、競技大会の裾野を広げながら、花火業界全体の技術向上にもつながっていくのではないか、という考え方である。
競技大会と一般の花火大会
その一方で、花火会社の事業を持続できる一定の収益が確保できる花火大会の存続も必要である。
さらに新井先生は、「安全体制とか、運営体制とか、観客への配慮とか、そういう必須条件を高いレベルで全部満たした大会に、一番レベルの高い花火屋さんが集まるようになるとかね」とも話されていた。
つまり今後は、花火そのものだけではなく、「花火大会そのもの」が評価される時代になっていくのかもしれない。
すべての大会が同じ方向を目指すのではなく、競技大会は競技大会として技術を磨き、地域の花火大会は、地域密着型大会、観光型大会など、それぞれの大会が特色を持ちながら発展していくことも重要になる。
新井先生のお話からは、日本の花火文化を未来へ残していくためには、花火そのものだけでなく、「花火大会の仕組み」、それを支える「制度」や「運営」まで含めて考えていく必要があることが伝わってきた。
花火会社が無理なく技術を磨き、主催者が安全な運営体制を整え、観客が現地でその価値を体感できること。花火会社、主催者、観客、この三者が無理なく支え合える「花火大会の仕組み」をつくってこそ、日本の花火文化は次世代へ受け継がれていくのだろう。
まとめ
煙火とは花火の業界用語だそうだ。
新井先生は、火薬化学(ニトロ化学)を基盤に、NOx反応などの環境問題や、安全性評価の研究へと領域を広げ、さらにその知見を、エアバッグや花火といった実装分野へ応用してこられた。
花火分野では、発色や保存時の変化、煙火材料の安全性評価、さらには事故調査にも長年携わり、職人の経験や勘によって支えられてきた世界を、科学的視点から支えてきた。
その一方で、職人の経験や感覚によって受け継がれてきた伝統的な配合や技法の中には、現代の化学的見地から見ても、極めて合理的なものが少なくないそうだ。
危険物でありながら、人を集め、人を惹きつけ、人の心を動かす。そんな花火という存在を、何よりも安全を第一に、研究者として、そして審査員として、長年関わり続けてこられた。
新井先生は、その職人技と科学、技術と芸術、そして安全と文化をつなぐ存在として、日本の花火文化を支え続けておられるのだと感じた。
花火の審査では、「座り」「盆」「肩」「消え口」といった基本技術を重視しながらも、玉名から花火会社の意図を読み取り、その名称通りに花火が表現されているかを大切にされていた。
また、花火はテレビや映像ではなく、現地で「身体全体で体感するもの」だというお考えも印象的で、審査においても、観客が目で観る体験を基準にすべきとの考えから目視で審査することを重視し、録画検証の導入には慎重なお考えだ。
筆者は、子供の頃、連れて行かれた淀川花火大会の人混みで大変な思いをした経験とこれまで住んだ住居から近隣の花火大会を観ることができたこともあって、花火大会の会場に好んで脚を運ぶことはなかった。
花火を見る理想的な角度は45度だそうだ。実際にその角度で見ると、ほとんど真上から花火が降ってくるように感じられ、もちろん、審査員席は花火鑑賞には最高の場所にあるという。
「花火なんかタダで見るもんだって思ってる人たちの気持ちを変えたい」と新井先生はおっしゃっていたが、すっかり気持ちが変わった。
今回のお話を伺って、「大曲の花火」を自分の目と身体全体で体感してみたい、と思ったのは筆者だけではないだろう。
新井先生は、A4のメモ帳を用意して、花火の玉名の説明の際にも、素人にも分かるように図を描いて示してくださった。花火の画像があれば読者の皆さんにも分かり易いと思うのだが、実際に現地で観た方が話は早いのである。
研究者として、審査員として、花火会社、主催者、観客、この三者が無理なく支え合える「花火大会の仕組み」を築き、これからも日本の花火文化を支え続けていただきたい。
COREZOコレゾ 「危険物でありながら、人を集め、魅了する花火、その安全面、技術面他を火薬・安全・環境、三位一体の知見から研究者・審査員として、日本の花火文化を支え続ける学者」である。
取材;2026年5月
初稿;2026年5月

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