栩本 金利(とちもと かねとし)さん/元民謡タクシードライバー

COREZOコレゾ「ひよこから完全脱皮、地域おこしに美声をふるわせる、大ボケ・民謡タクシードライバー」賞

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栩本 金利(とちもと かねとし)さん

プロフィール

徳島県三好市西祖谷山村出身、在住

大歩危タクシー 元ドライバー

よびごと案内人 メンバー

ジャンル

観光地域振興

民謡・地域伝統文化継承

観光タクシー

経歴・実績

旧西祖谷山村営バス、三好市営バス勤務等を経て、

2010年 大歩危タクシー(川口タクシー大歩危営業所) 入社

民謡ドライバーとしての活動開始

受賞者のご紹介

唄う、ひよこ頭おじさん

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栩本 金利(とちもと かねとし)さんは大歩危タクシー(徳島県三好市)のドライバー。そんじょそこら(失礼)のタクシードライバーではないのだ。

2011年、ある観光・地域振興に関する調査事業で、三好市観光課の方からのご紹介で知り合った。 の「よびごと案内人」の調査、取材に出掛けた際、「よびごと案内人」メンバーの1人として取材に応じて下さった。

栩本 金利(とちもと かねとし)さんこと、「唄う、ひよこ頭おじさん」は地元ではかなりの有名人である。マスコミの取材も数多く受けておられるそうで、最初の取材時には、勝手にTV番組か何かの取材と思い込んでおられたようで、「ワシは有名人なのに、取材はおっさんひとりかよ?カメラは?美女レポーターは?」と、こちらがご挨拶をしても「な~んだ」的なでかい態度で、名刺すら頂けなかった。

「よびごと案内人」のメンバーの皆さんから「ひよこ頭」と呼ばれる程、ヘアスタイルが「ひよこ」に似て、フサフサである。地元で有名なのはそのお茶目なヘアスタイルではなく、「祖谷の民謡の唄い手」として、である。

世界広しと言えど、栩本さんしか唄えない「浄瑠璃くづし阿波音頭」

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民謡の唄い手として、「西祖谷文化まつり」や襖にかいた背景がからくりでどんどん入れ替わる舞台で人形浄瑠璃等の伝統芸能を演じる「襖からくり」など、数々の地元のイベントに引っ張り「ひよこ」、いや引っ張り「だこ」の人気だ。世界広しと言えど、栩本さんしか唄えない義太夫、浄瑠璃のジャンルの「浄瑠璃くづし阿波音頭」という難曲もあるそうだが、その民謡も聞いたことがなく、その値打ちが全くわからず、その偉大さの度合いをお伝えできないのがとっても残念だ。

それだけ祖谷が生んだコクミン(薬局ではない)的?スター民謡歌手なのに、もったいぶることなく、いつでもどこでも、その華麗で、ひよこの頭をなでた?ような美しい歌声を披露しされている。JR四国土讃線の「大歩危駅前」で待機していることが多いそうだが、お客さまのご要望があれば、駅の待ち合いでもひと節、タクシー車内でもひと節、取材中にも、こりゃまたひと節・・・。

2011年に「よびごと案内人」のメンバーになり、取材の前日に「語り部」デビューをしたそうだが、20名程のお客さまの前で、いきなりひと節披露して、他のメンバーの皆さんは、オイシーところはぜーんぶ持って行かれたそうだ。

徳島県内最大級のホールで開催された「2012とくしまINAKA博覧会」のオープニングイベントでは、地元の「剣山」をテーマにした曲を歌っているプロの歌手の前座?として、1000人を超える観衆の前で、自前の着流しで祖谷の民謡を堂々と披露された?そうだ。「で、どんな感じでしたん?」と尋ねると、

「ガハハハ、そりゃあ気持ちよかったきんが、ガハハハ。」と、栩本さん。

栩本さんは、生まれ故郷の西祖谷を出て、大阪で大工さんをしておられた。ところが、昭和50年代のオイルショックで廃業を余儀なくされ、ミシン修理や裁断機の外注廻り、縫製機械のオペレーター等を経て、西祖谷に戻って来た。当時の村営バス等のドライバーとして乗務したあと、タクシードライバーになった。

宴もタケナワになると、のど自慢の皆さんの民謡大会が始まる…

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大歩危・祖谷の皆さんの宴席では宴もタケナワになると、のど自慢の皆さんの民謡大会が始まるが、50代以上のおっちゃんが多いようだ。

栩本さんが生まれ育った西祖谷の吾橋(あわし)という地区の五所神社や白山神社のお祭では、「百手(ももて)」という弓矢で的を射る神事を奉納する。お祭の前後、当日にはお当家(とうや)と呼ばれる持ち回りの祭の世話役の家に集まって準備や打ち上げをするそうだが、話し合いや打合せが終わると酒宴となる。そんな祭や宴席、花見の酒の肴に地元の民謡が唄い継がれて来た。栩本さんも小さいことから民謡に親しみ、中学生になった頃から祭の手伝いをするようになり、自然に唄うようになったそうだ。

「昔は、祖谷のような山の中の田舎には、今のようにTV も何も娯楽がなかったきんが、祭や祭の時に民謡を唄うのが楽しみやった。都会に出ていた同級生も祭りの時にはみんな帰って来たけど、今じゃ、戻ってくるもんも少のうなった。ワシは地域に残っている10曲程ある民謡はほぼ唄えるけど、ウチの息子たちは祖谷に残っているが、民謡は唄わんきんなあ。民話や伝説と一緒で、地域の民謡も唄い継いでいかんとすぐに廃れてしまうきん。観光のお客様に祖谷の民謡を知ってもらうのは大事なことかもしれんなぁ。」と、栩本さん

「恥ずかしいし、目立ちとうないし…、」

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「襖からくり」や大歩危・祖谷の皆さんとの宴席でひよこ頭おじさんの美声を何度も聞いていて、タクシーのお客様にもリクエストがあれば車内で披露しているという話も聞いていたので、別の方と一緒に、「民謡ドライバーとして大々的に売り出したらどう?」と勧めたのだが、「恥ずかしいし、目立ちとうないし、人を乗せて運転するのは神経を使うので、タクシーもいつ辞めるかわからんきん。」と、おっしゃるので、それ以上は言わなかったが、どうも照れ隠しだったらしい。

「お客様に喜んでもらったり、褒めてもらうと、誰でも調子に乗ってしまうきんな。怖そうなオニイさんには遠慮するけど、普通のお客様には、いつもボクの方から声を掛けて、案内しながら、民謡のひとつも唄うようにしてるきん。特に外国からのお客さんは喜んでくれくきんな。何ゆーてるかよーわからんきんが、もっと唄え、もっと唄えとゆーてるみたいで、何曲も唄うともう大喜びで、ガハハハ、ワシも楽しいよ。」

「この間、スペインからのお客様を東祖谷までご案内したきんが、いつもの身振り手振りのデタラメ英語が全然通じん。それでもラテン系かなんか知らんきんが、民謡を唄とたら、えらい大盛り上がりで、その後に、何かゆーてはるんやけど、わからんで、お腹がすいたのかなと思たらやっぱりそうやって、かずら橋を過ぎた後で、しばらく食事場所がなく、申し訳なかったなぁ。今日も香港からのお客様を乗せたきん、最低限の意志が通じるよう、5カ国語ぐらいの通訳カードを車内に用意せんとイカンなぁ。」

この地域全体でどうお客様をどうもてなして、どう喜んでもらって、また来てもらうか

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「民謡を唄うとか、自分のできることで差別化できて、ボクの車を指名して乗って下さるのは嬉しいきんが、せっかく大歩危・祖谷に来て下さったお客様をお迎えして、送り届けるタクシードライバーが仏頂面ではいかんと思うなぁ。大歩危・祖谷全体の印象が悪くなるきんが、ボクらタクシードライバーも、この地域全体でどうお客様をどうもてなして、どう喜んでもらって、また来てもらうかを考えんと、来て下さるお客様が増えんかったら、タクシーの商売だけやなく、この地域もダメになるきんな。」

「この辺は米が穫れんので、そばを石臼で引く作業を唄った『祖谷の粉ひき節』や、この辺りで今でも栽培している『茶もみ唄』などはこの地域の昔の暮らしぶりがわかる民謡やきん。そんな民謡を唄いながらご案内すると、この地域の風土や歴史、文化をわかってもらいやすく、さらに興味を持ってもらえるのではないかと思うきん。」と、栩本さん。

ちょうど、大歩危駅にタクシー会社の社長と同僚もおられたので話を聞いた。

「タクシーから降りて来られたお客様の顔が違うきんな。そりゃあ、もう、げっそり、うなだれて・・・、いやいや、ニコニコしておられる顔を見ると、楽しんで頂けたのかなと思いますよ。この間、秋冬バージョンの民謡ドライバー半被を作ってくれと言われて、今、作成中やきん、できたらまた見てやって。」と、小谷社長。

「民謡を唄ってる途中で目的地に着きそうになると、1メーター上げてから降ろしたいところやきんが、メーターをちゃんと切ってから最後まで唄い終えてるとゆーとった。」と、同僚の国本さん。
2012年11月には、従来からのJR四国の企画列車「大歩危・祖谷LED妖怪トロッコ列車」に加えて、「LED光りボンネットバス」も運行するそうだが、栩本さんはボンネットバスに「民謡を唄うガイド」としてボランティアで乗務するそうだ。「ありゃりゃ、どうしはったん?」と尋ねると、

ひよこからニワトリに脱皮?

「そろそろ、ひよこからニワトリに脱皮せんといかんきんな、ガハハハ。多くのお客様に大歩危・祖谷に来てもらえるのは有難いきん、地域おこしになるなら、自分もできることは何でも手伝うつもりやきん。」

「もちろん、本業のタクシーでは祖谷の伝統芸能である民謡だけでなく、観光案内もバッチリ。民謡の持ち歌は20曲以上あるきんが、ご要望とあらば、ひと節でも、ふた節でも、み節でも唄うきん!もちろん、無料出血(していらん!)大サービス!!この民謡ドライバーのステッカーとひよこ頭を見かけたら声をかけて下さいね。」と「唄う、ひよこ頭おじさん」こと、栩本さん。

コレゾ賞の趣旨をご説明し、今後、最低1年間は「唄う民謡タクシードライバー」を続けること、コレゾ賞受賞祝賀・懇親会で民謡をご披露頂くことを条件に受賞のお願いをしたところ、

「辞めん、辞めん。民謡ドライバーは楽しいし、ほかに仕事ないきん。ボクが民謡を唄て、女衆に踊りを踊ってもろたらええきんなぁ。」と、ご承諾下さった。

COREZOコレゾ「ひよこから完全脱皮、地域おこしに美声をふるわせる、大ボケ・民謡タクシードライバー」だ。

※2020年1月現在、タクシードライバは退職されて、別の職に就いておられるそうだ。

後日談1.第1回2012年度COREZO(コレゾ)賞表彰式

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後日談2.2013年9月古宮神社秋祭

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COREZO(コレゾ)賞 事務局

初稿;2012.11.02.

最終取材;2014.03.

最終更新;2015.03.04.

文責;平野 龍平

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