「いただきます」と「ごちそうさま」の意味と八百万の神

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「和食」=「日本人の伝統的な食文化」の背景

「和食」とは、「日本人の伝統的な食文化」であり、「自然の尊重」という日本人の精神を体現した食に関する「社会的慣習」であるという定義に異論のある人は少ないだろう。

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そこで、どうして「日本人の伝統的な食文化」である「和食」が、「自然の尊重」という日本人の精神を体現した食に関する「社会的慣習」であるのかを考えてみたい。

「いただきます」と「ごちそうさま」の意味

「いただきます」

神様にお供えしたものを食べるときや、位の高い方から物を受取るときに、頂(いただき、頭の上)にかかげたことから、「食べる」「もらう」の謙譲語として「いただく」が使われるようになったそうで、自然の恵み(動植物の命)を頂いて命を繋ぐことができることから、自然に対する畏敬の念とその食事を作ったり、提供してくれた人々に対する感謝の気持ちを表したと云われている。

「ごちそうさま」

スーパーも冷蔵庫もなかった時代に、ご馳走=走って、馳せて、食材集めに奔走し、もてなしてくださった相手と食材に対する感謝の気持ちを表したと云われている。

八百万(やおよろず)の神

「自然の尊重」という日本人の精神とは、八百万(やおよろず)の神を祀る民俗信仰である神道の考えに通じるものがあるのではないだろうか?

元々、民俗信仰である神道には、教義も何もないそうだ。何人かの宮司さん?神官さん?にお目に掛かって、お話を伺ったが、共通するのは、お参りする時には、これまで生かせてもらえた感謝の気持ちをお伝え下さい、ということだった。

何かの願をかけるとか、懺悔して悔い改めるとかではなく、とにかく、日々、生かせてもらえていることに感謝するのである。

それこそ、「いただきます」の感謝の気持ちにも通じている。

「いただきます」、「ごちそうさまでした」のルーツ

祀り=祭りで、何かにつけ、昔から日本人は祭るのである。五穀豊穣、家内安全、子孫繁栄、とにかく感謝して祭るのである。今でも、日本全国、どこにでも祭りが残っている。

それは、日本人の生活や生き方と密接に関係してきたと考えられる。武士が身分のトップであった時代も、農民や庶民は、神事や祭りの後に必ず催される直会で、半年とか1年間の苦労やストレスを発散して、次の1年間を辛抱したのであろう。

直会とは、本来は神事を構成する行事の一つであり、神霊が召し上がったものを頂くことにより、神霊との結びつきを強くし、神霊の力を分けてもらい、その加護を期待するのであるが、庶民の感覚としては、神事終了後の宴会(打ち上げ)が主目的なのである。

儀式終了後(祭りの最中も酒が振舞われるが…)、飲酒を伴う宴会が行われるのは、世界でも珍しいそうだが、日本では、それこそが地域で暮らす人々の唯一の娯楽であり、その場で供される食事やお酒には、貧しくともできる限りの贅沢をしていたに違いない。しかし、地域の伝統行事として長く続いてきた祭りも若者が都会に出てしまい、担い手不足で年々、存続が難しくなっているそうだ。

お伊勢さん参りも、庶民が誰にも気を使わずにできる(伊勢神宮は本宗であり、お伊勢さん参りといえば、誰からも咎められない暗黙の了解があったと考えられる)、ごく限られた庶民の旅行=娯楽であったのである。そういう参拝客でおかげ横丁は古の昔から賑わってきたのだろう。

「いただきます」、「ごちそうさまでした」のルーツは、そういうところにあるのだろうと推察できる。

コーシャーやハラールと日本の食

日本人は、とかく、一神教を崇拝する人たちから、無宗教だとか、無神論者だとか、不可知論者とか云われるのであるが、それらの人たちとは精神性や世界観が根本的に違うのである。

ところが、日本の伝統的な原料、製法でつくられた食品や調味料は、添加物を加えていないので、あの厳格なユダヤ教の食の戒律であるコーシャーやイスラム教の食の戒律であるハラールも難なくクリアしてしまうのである。

日本人独特の精神性、世界観とは?

以前、宮崎駿監督の「千と千尋」が大ヒットしたが、その背景には、森羅万象(あらゆる現象やもの)に神が宿るという日本人独特の精神性、世界観がある。

八百万(やおよろず)の神は、古くは古事記にも記述がある表現だそうで、日本書紀などにも八十神や八十万神が登場し、「八」という漢数字は縁起が良い数字で、八百万は限りなく無限に近い多くの数を表す例えとして用いられてきたようだ。

四季の変化がもたらす豊かな自然から多く恩恵を受け、時には天災にも遭遇しながら生きてきた日本人は、自然そのものを神のように崇拝するようになり、森羅万象は神によって生み出され、それぞれに精霊が宿るという日本独特の考え方が生まれ、時を経つにつれて精霊もやがて神へと変化し、八百万の神々として後々まで語り継がれるようになったと考えられている。

実際、日本では古くから、天の神様、地の神様、山の神様、海の神様、水の神様、果ては、台所の神様(竈の神)、手洗いの神様(厠神・かわやがみ)まで、あらゆるところに神様がいると考えられてきた。

田舎道を歩くと山中のそこかしこに何かしらを祀っている祠があり、神仏習合(しんぶつしゅうごう)で、民俗信仰である神道と仏教が混淆して双方を祀る神宮寺も少なくない。

また、人間も死後、神格化する考え方もあり、天満宮や日光東照宮、靖国神社を例に挙げるまでもなく、偉人や英雄だけでなく、国民や国のために働いた人、不遇な晩年を過ごした人なども、「神」や「英霊」として神社に祀られ、参拝する人も絶えない。

日本人独自の精神性、世界観から生まれた食文化

家を建てる時には地鎮祭をし、台所に三宝さんを祀っているご家庭も多いだろう。その一方で、神社にも寺院にも初詣に行き、仏式の葬式をして仏間に仏壇を置き、キリスト教の教会で挙式を挙げる人も多いというのが、八百万(やおよろず)の神を信仰してきた日本人独特の感覚で、その国民性を表しているのかもしれない。

排他的にならず、なおかつ、真面目で、器用な国民性だったからこそ、古代より大陸からの文化を積極的に受け入れ、日本の風土、さらには地域の風土に合わせ、独自の文化として育んできたのである。

日本の基本調味料のほとんどは大陸から伝えられたものであるし、明治の文明開化で入ってきた欧米の食文化と日本の食文化を融合して、トンカツやハヤシライス、オムライスなどの独自の食を生み出した。また、中国の麺類をヒントに編み出されたラーメンは、今や国民食となり、中国にはない独自の食文化として進化してきたのに、中国の人にも人気である。

まとめ

和食の文化の背景

「いただきます」と「ごちそうさま」という言葉にも、日本人の自然に対する畏敬の念から、自然の恵みである食材を有難く頂くという感謝の気持ちが込められていると考えられる。

キリスト教等を信仰する人は食前に特定の神様に感謝の祈りを捧げることもあるようだが、「いただきます」と「ごちそうさま」は、日本人独特の感覚で、これらを外国語で表すのは難しいらしい。

和食の文化もそういう八百万の神への信仰や精神性、世界感を持った国民性抜きでは語れないだろう。

食材を余すことなく利用する

例えば、主に油を取る目的でかつてクジラを乱獲した欧米では、鯨油、鯨髭、鯨歯のみを利用し、鯨肉をはじめとする他の部分はほとんど廃棄していたが、日本では、鯨肉と軟骨(松浦漬や玄海漬など)は食用、鯨髭・歯は笄(こうがい・結髪用具)・櫛などの細工品、髭毛はバネ(文楽人形の操作索等)に、鯨皮は膠(にかわ)や鯨油に、筋は弓弦などの武具に、鯨骨は鯨油や肥料に、血は薬用に、脂肪は鯨油に、糞は香料(竜涎香・りゅうぜんこう)に、と捨てるところはないぐらい無駄なく使い切ってきた。

「もったいない」

そこには、命あるものを「いただく」と共に、「もったいない」という日本人独特の感覚も働いていると考えられるが、広辞苑によると、「勿体無い」は「物の本体を失する」に由来していて、

  1. 神仏・貴人などに対して不都合である。不届きである
  2. 過分のことで畏れ多い。かたじけない。ありがたい
  3. そのものの値打ちが生かされず無駄になるのが惜しい

という意味に用いられてきたそうで、こちらも自然崇拝に通じているのである。

忘れてはならない「日本人の伝統的な食文化」とは?

和食に使われてきた調理法も刺身や寿司などの生食を始め、出汁を取って利用したり、素材本来の持ち味をできるだけ活かす理に適ったものである。

鯛などの魚1匹をとっても、半身を刺身にして、半身はヅケにして翌日は鯛茶に、アラはあら炊き、骨は骨蒸しや潮汁、唐揚げにしてウロコまで食べてしまい、最後に残った骨は畑の肥料に利用してきた。

和食の調味料も味噌、醤油、酢、みりん、酒など、日本の気候風土と自然界に棲む微生物の力を借りて原料からうまみを引き出した醸造醗酵調味料が多く、保存が利き、素材の味をさらに引き立ててくれる。

さらに、乾燥や燻製で保存性を高めた昆布やかつお節、煮干しや干し椎茸などからとる日本独特の出汁の文化も発達した。

まだまだあるが、「和食」や「日本人の伝統的な食文化」のベースにある自然を敬う心やその他の「大切なもの・こと」を忘れてはならないと思う。

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COREZO(コレゾ)賞 事務局

初稿;2015.04.11.

最終更新;2015.04.11.

文責;平野 龍平

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