ホンモノの寒天の原材料、製法をご存知ですか?

寒天の原材料は何だかご存知ですか?

ゼラチンは、牛や豚などの骨、皮を、酸もしくはアルカリで処理したのち、原料中のコラーゲンを温水によって、加熱変性し、抽出したものをさらに、ろ過、イオン交換、高温殺菌して製品化したもの。それよりは、海藻からつくった植物性の寒天の方が安心だと思っていたが…。

小笠原商店、小笠原 義雄(おがさわら よしお)さん、小笠原 英樹(おがさわら ひでき)さん

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棒寒天(=角寒天)、糸寒天と粉寒天は、原料も製法も異ななる

「一般の方には棒寒天(=角寒天)、糸寒天と粉寒天の形状の違いだけで、区別がつかないと思いますが、実際には、原料も製法も異なります。粉寒天に使われているオゴノリは、形状が異なり、養殖もできますが、固まる成分が少ないので、苛性ソーダを使って固まる成分だけを抽出して、精製する方法が開発され、効率的に工業生産できるため、あっという間に粉寒天の方が主流になってしまいました。」

寒天の由来と歴史

「寒天は、360年の歴史しかありませんが、トコロテンは1000年以上の歴史があり、江戸時代には庶民が食べる文化があって、普通に食べられていました。本来、テングサを煮出した煮汁がトコロテンになって、それを凍結、乾燥したものが、寒天の定義だったはずですが、今は食べるものがたくさんあり、自然にできたものと人工的に工業生産されたものとの区別がつかなくなっているのと同様に、本来のテングサからつくられた寒天とオゴノリから化学的に抽出する方法でつくられた寒天との区別がつかない時代になりました。」

「戦前は、日本で発明された寒天は、生糸とともに海外に盛んに輸出されていました。食品というよりも微生物の固体培地としての利用目的でした。というのも、当時、微生物研究用に栄養源を動物性タンパクであるゼラチンで固めた固体培地が、欧州で考案されましたが、温度が高くなると常温(25℃以上・寒天は85℃以上)でも溶けてしまうという欠点がありました。」

テングサ寒天とオゴノリ寒天は似て非なるもの

「第二次世界大戦中、日本政府は戦略的に輸出を禁止しました。微生物の培養、医療用のペニシリンの生産に寒天が必要であった国々では、代用品の研究開発を進め、化学的に抽出し、凍結して乾燥という工程が不要な粉寒天をつくる製法を開発しました。そして、海外の安い労働力を使って安価に大量に生産されるようになり、戦後は、逆輸入されるようになりました。高度成長の時流に乗って、平成に入ると、テングサ寒天とオゴノリ寒天は完全に立場が逆転し、テングサ寒天も輸入品が幅を利かせ、国産品は右肩下がりが加速して、毎年、2割減のような状態です。」

「オゴノリの熱湯抽出物にはテングサに比べ、固まる成分が少ないのですが、濃度数%の苛性ソーダ(=水酸化ナトリウム・苛性とは、皮膚を侵す性質があるという意)水溶液中で加熱することにより、中和後の熱湯抽出物の凝固性が格段に改善するので、世界中で工業生産される粉末寒天のほとんどが、このアルカリ処理をしたオゴノリ寒天になりました。」

「さらに、この処理をしたオゴノリ原料のトコロテンは、元々、保水性が少ない上に脱水性が向上しているため、漉し袋に入れ、自重と圧搾で脱水した後、熱風乾燥して、粉砕すると、効率的に粉寒天が生産できます。これを圧搾脱水法といいますが、テングサ原料のトコロテンは、弾力性、保水性が高いため、使えません。」

天然寒天(糸寒天・棒寒天)と粉末寒天(=工業寒天)の違い

「もう少し詳しく説明しますと、オゴノリはテングサに比べ、寒天の特性(固まる力、弾力性、保水性)がとても弱いのですが、アルカリ処理をすることにより、固まる力(=アガロース)だけを効率的に抽出することができ、固まる力の強い寒天を作ることができます。」

「ただ、その処理、精製の過程で、それ以外の大事なもの(おいしさ、健康成分)も同時に流出します。すなわち、オゴノリを原料とする粉末寒天(=工業寒天)は、天然寒天(糸寒天・棒寒天)に比べると、固さは強くとも、寒天のおいしさに不可欠な弾力性(コシ)が弱いものが多いです。」

「また、天然テングサ寒天には、コレステロール低下作用のあるアガロペクチン(固まる力以外の雑多なもの)が多く含有・残存していますが、粉末オゴノリ寒天にはほとんど含まれていないことが、学者の研究により実証されています。」

「テングサ100%でつくった天然糸寒天は、工業寒天(粉寒天)とは異なり、保水性・吸水性に優れた分子構造をしていて、分子同士の結合が強く、水を蓄える性質にも優れています。」

わざわざ、海のない長野に、海の原料を運んできてつくる理由

「長野には、今から160〜70年前に伝わりました。寒天づくりは、凍らせて、溶かし、乾燥するのを繰り返す必要がありますが、この伊那周辺や諏訪地方は、冬場、寒さが厳しく、乾燥に適した適度な風が吹き、晴天が多く、しかも、冬の日照時間が長く、きれいな水が豊富にあって、気候風土、自然環境が寒天づくりに適していたため、稲作農家の副業で盛んにつくられるようになりました。やがて、品質の良さが全国で評判になり、素材にこだわる和菓子店からの注文を頂くようになりました。同じ長野県でも北部は、曇りがちで雪が多く、湿度が高いため、寒天づくりには適していません。」

テングサ天然寒天の製法

「私どもでは、霜が降り始める10月初旬から3月下旬にかけて寒天を製造しています。氷点下を下回る気候と南アルプスから吹き降ろす風でゆっくりと乾燥させた天然糸寒天は、工業寒天では出せない昔ながらの食感(固さ・弾力性・粘度)、風味を味わって頂けると思います。」

「寒天の魅力は弾力と歯ごたえですが、とても不思議な物質で、固まったり、溶けたりを繰り返すことができるし、固まるととても強く、象が上に乗っても潰れない程です。この性質を活かして多方面で利用されてきましたが、一番は、健康にとても良い食品であることで、このことをもっと多くの方々に知って頂きたいですね。」

まとめ

寒天生産量日本一の長野県でも昔ながらの天然寒天づくりをしているのは10軒あるかないかで、100%テングサを原料に使っているところは僅かだそうだ。

テングサ天然寒天(糸寒天・棒寒天)とオゴノリ粉末寒天(=工業寒天)は、製法も成分も異なる。

粉寒天は、安価で、凝固力が強く、煮溶かす前に吸水の必要がなく、すぐに使えることから、あっという間に主流になり、国内市場の9割を占めていて、テングサ天然寒天の生産は減る一方だとのこと。

寒天の原材料は、厳密にテングサとオゴノリを区別して表示する義務はなくて、海草類と表記すればいいらしく、もはや、原料も製品の寒天も一括りにされてしまっているようだ。

寒天もあの経済と効率が最優先されて、いつの間にか似て非なるモノになってしまい、私たちは、何も知らないままそれを寒天だと思い込んで口にしているのだ。

せめて子供たちにはホンモノの寒天を食べさせたいものだ。

追記

糸寒天は、トコロテンや寒天としてだけでなく、春雨なんかの代わりに、味噌汁や鍋の仕上げに入れてもヘルシーで美味しいと教えてもらってやってみたら、芯はコシがあり、表面はツルっとした食感でとても美味しい。コツは乾燥したまま鍋に入れ、煮すぎないように透明になったらすぐに食べること。

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COREZO (コレゾ)賞 事務局

初稿;2015.06.17.

編集更新;2015.06.17.

文責;平野龍平

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