天然ふぐと養殖ふぐの違いを知っていますか?

ふぐ漁獲高

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いまや、東京のふぐ専門店でも、日本一ふぐを食べると云われる大阪と同程度の数千円でふぐ料理のコースが食べれるようになったが、同じふぐの専門店でもその4~5倍はする天然ふぐはおいそれと食べれるものではない。

天然ふぐと養殖ふぐの価格差とは?

農林水産省のWebサイトで天然ふぐ漁獲高や養殖ふぐ生産量を探しても、国民の誰もが一目で分かるような統計が示されていないのは、どういう訳だろう?探し回った挙句、見つけたのが下記である。

ふぐ漁獲高

2017(平成29)年のふぐ類(トラフグ以外を含む)漁獲高は、4,420tで、1位が石川656t、北海道478t、富山242tと続き、愛知162t(第9位)。養殖ふぐ(ほとんどがトラフグ)生産量は、3,924tで、ダントツの1位が長崎2,111t、熊本482tと続く。

日本に輸入されるふぐのうち99.7%が中国産

他方、輸入ふぐについても調べてみると、中国、日本、韓国は、世界の中でもふぐの漁獲量が特に多く、韓国は、日本と同じくふぐを食用にしてきた文化があり、中国では、昔から一部の地域でふぐが食べられていたが、2016年、毒性を理由に26年間禁止されていたふぐ食が条件付きで解禁された。

日本に輸入されるふぐのうち99.7%は、中国産(ほとんどが養殖)だが、近年、日本での農薬等の残留基準を超えた食品を流通禁止にする制度の施行や中国でふぐ食が解禁された影響もあって、日本へのふぐの総輸入量は、2017年1月~5月で約1,700tから、2018年の同時期には、約1,280tに減少したそうだ。

海洋環境が変わらない限り、漁獲見込みは減少の一途

水産庁のWebサイトには「とらふぐの部屋」と云うページがあり、「トラフグ(日本海、東シナ海、瀬戸内海系群)の資源状況と管理の方向性について」の資料が掲載されている。

水産庁資料3

とらふぐの集積地である下関唐戸魚市場の取扱量の推移しか掲載されていないが、日間賀島でふぐ料理の提供を始めた1989(平成元)年前後から、天然とらふぐの漁獲量が激減しているのが分かる。

水産庁資料1

水産庁資料4

とらふぐの稚魚は夏から秋に急成長し、寿命は約10年で、全長60cm程度になる。雄は2歳、雌は3歳で成熟するが、トラフグの年齢別漁獲尾数割合(2004-2014年の平均)は、未成熟の0~1歳魚が71.3%を占めており、成熟魚が獲れないため、成熟して産卵する前の未成熟魚を多く獲っていることが、資源量激減の要因とされている。

水産庁資料5

水産庁資料2

とらふぐの資源量に回復の兆しはなく、現状の漁獲と種苗放流を続けた場合、海洋環境が変わらなければ漁獲の見込みは減少の一途を辿ると警告している。

この天然資源の枯渇が国際的に問題になっていないのは、中国、日本、韓国の3国以外では、ふぐを食用にしている国がほどんどないためだろう。

日本の養殖フグ類の生産量も縮小

一方で、日本の養殖フグ類の生産量は、1990年代後半がピークで、約6,000tあったが、その後は縮小が続き、2017(平成29)年には、3,924tとなっている。

その原因として、90年代後半には、1㎏あたり5,000円台だった卸売価格が、安価な中国産が出回るようになったり、2008年のリーマンショックの影響や年々、国内の魚介類消費量が減少していることも重なって、3,000円以下まで下落し、養殖とらふぐの生産コストは、ブリやマダイに比べて3~5倍ほど高く、1キロあたり2000円ほどかかるそうなので、養殖業者を直撃し、撤退する業者も増えたからだと考えられる。

マグロなどは、脂質の甘みや旨さで価値が決まるが、トラフグは脂肪分が1%前後ときわめて少なく、カロリーも低い。「ふぐ」のたんぱく質には、旨味成分であるイノシン酸、グリシン、リジンというアミノ酸が多く含まれ、これらが、独特の旨味をつくりだしていて、噛めば噛むほど旨みが出るような「旨み成分の多さ」や「身の弾力性」、「雑味や魚臭さのなさ」が美味しいふぐの条件とされる。

また、締めたばかりの「ふぐ」にはほとんど味がないと云われ、〆た後十数時間熟成させてアミノ酸が増えることにより、旨味が増す。

養殖技術が格段に進歩して味も身質も向上

かつては、養殖用の餌が生魚が中心で、栄養状態を一定に保つのが難しく、養殖は「イワシ臭い」、「歯応えが悪い」と云う不評の原因にもなっていたが、近年、養殖技術が格段に進歩して、健康な状態を保ち、安定して味も身質も向上できる、成分調整可能なペレット状の餌が開発され、よくて7割程度だった養殖の「歩留まり」が8~9割に上昇し、専門店の評価も上がっているそうだ。

また、東京都で、2012年10月から生産地の指定工場であらかじめ有毒部位を除いた「身欠きフグ」の流通が解禁され、保健所に登録するなどして一定の条件を満たせば、外食店でも「ふぐ調理師免許」がなくても扱えるようになり、届出は5千件を超えたそうで、これが、東京のふぐの専門店でもリーズナブルな値段でふぐ料理のコースが食べれるようになった理由のひとつだ。

天然ふぐと養殖ふぐの市場卸売価格と取引量

ここで気になるのが、同じふぐ料理専門店でも4~5倍ある養殖ふぐと天然ふぐの価格差だが、市場の卸売価格を調べてみた。

大阪中央卸売市場

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大阪の市場では、天然トラフグは、年度によってかなりの開きがあり、最高値が1㎏7,800円強、最低値が3,700円、過去5年の月別平均値が3,700~6,000円。一方で、養殖の価格は安定していて、最高値が1㎏3,500円強、最低値が1,500円強、過去5年の月別平均値が2,600~3,000円なので、ザックリと約2倍の価格差と云うことになる。

月間取引量の過去5年の平均値では、天然は、1.6t~2.9t、養殖は、5t~25tで、約5倍の開きがある。水産庁の漁獲高のデータと合わないのは、漁獲高はトラフグ以外のマフグやサバフグ等の加工原料に使われるふぐ類も含んでいるからではないか、と推測される。

東京豊洲市場

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東京豊洲市場では、天然、養殖の区別をしたデータがなく、トラフグの最高値が1㎏3,900円強、最低値が1,000円、過去5年の月別平均値が1,300~3,200円、12か月の平均値が約2,200円。月間取引数量の過去5年の平均値では、9t~50tとなっている。

天然ふぐはもはや貴重品

国内最大の消費地である大阪では、ふぐを年末年始に食べることが多く、鍋の時期とも重なり、全国的にも消費が増え、価格も上昇する傾向がある。また、1~2月は、天然ふぐの旨みが増す時期とされているが、時化等で漁に出られない日も多いらしく、安定して水揚げできないため高値となるようだ。

下関の有名ふぐ料理店でも、メニューに明記はされていないが、天然には、「天然ふぐ」と表記されているため、「とらふぐ」=「養殖」であり、提供する養殖ふぐのトレーサビリティ他の情報が詳細に記載されている。

その料理店の東京店では、「天然ふぐコース」は、時価@44,000(税込み)~、とのことである。

ふぐ専門店などでは、価格も供給も安定している養殖ふぐで、品数や量を減らす等の工夫をして戦略的な価格設定をして客寄せをし、価格や供給が不安定な天然ふぐは、支払った料金なりの満足感も求められるため、かなり高めの料金設定をせざるを得ないのではないか、と推察する。

養殖ふぐの「歩留まりが上がる」=「病気にならない」=「餌に何らかの薬の配合」という懸念はあるが、天然ふぐの資源を枯渇から守るためにも、更に養殖技術を向上して、安心、安全で美味しい養殖ふぐを提供してもらいたいものだ。