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COREZOコレゾ「検索されないバスは、運行していないのと同じと、その筋屋を使って、いち早くGTFSオープンデータ化に取り組んだ地方行政職員のホープ」賞
柘植 良吾(つげ りょうご)さん
プロフィール
受賞者のご紹介
定住推進部定住推進課の職員がGTFS-JP化、オープンデータ化に取り組んだ理由
柘植良吾(つげりょうご)さんは、中津川市定住推進部定住推進課の職員だが、GTFS-JP化、オープンデータ化に取り組まれて成果を上げられた。
IT化推進室や広報広聴課を経て、定住推進課の公共交通担当に就任し、定住促進には地域内の公共交通機関の充実が不可欠であるが、現状のままでは、地域内交通の利用者が減少し続けていて、存続の危機にあり、市営交通として運営するには莫大な税金をつぎ込むことになるため、現在ある民営の公共交通の利用促進をして、維持できるようにすることが急務だった。
また、観光を絡めて利用促進するには、経路検索の充実を図る必要があり、運転手不足の解消対策他の課題を抱えており、地域公共交通網形成計画を策定した。
市内の中山道の宿場町、馬籠には、欧米人を中心に年間68万人が訪れており、インバウンド観光客がどのような方法でアクセス情報を得ているのか、バス車内で観察していると、その多くがグーグルマップの経路検索をしていた。
馬籠宿は、名古屋、塩尻方面から1時間に1本程度の特急で約1時間の中津川駅から路線バスで約20分。
中山道43番目の宿場で、かつては長野県木曽郡山口村に属していたが、2005年2月の山口村の越県合併により岐阜県中津川市に編入された。1895年と1915年の火災により、古い町並みは石畳と枡形以外はすべて消失したが、その後復元され現在の姿となったそうだ。
江戸時代の宿場町の風情を残す町並みは、外国人観光客に人気で、馬籠のバス停から展望台まで徒歩15~20分、隣の妻籠宿へは約8㎞の山道だが、欧米人観光客には人気のトレッキングコースになっている。
経路検索の充実を図る上でグーグルマップを活用するのが得策であると思い至り、どうすれば検索されるようになるか、調べていて、「その筋屋」を見つけ、高野代表の話を伺って、検索されないバスは、走っていないのと同じで、グーグルマップに表示されるには、GTFS-JP化、オープンデータ化するしかない、と一念発起した。
当初は、市内9地区で運行している市営のコミュニティバスのみを想定していたが、コミュニティバスの乗客は常連さんばかりで、地域内の全ての公共交通機関の乗り継ぎ案内ができなければ、利用促進にはつながらない、と考え、市と地域最大の公共交通事業者である、北恵那交通の承認を得て、2018年1月、通常業務の合間にGTFS-JPの作成を開始。
北恵那交通13路線、コミュニティバス9地域分のデータ入力、確認、修正、検証を経て、同年3月には、完成したが、4月に異動の可能性があり、後任によっては引き継ぎできない可能性もあったため、公開は、留任が決まってからの5月以降になった。
コミュニティバス(市)が5月、北恵那バス(北恵那交通)が7月にそれぞれ、オープンデータ化を行った。
結果として、中部国際空港から馬籠宿まで、グーグルマップ経路検索でシームレスに表示されるようになった。
実施後に行った北恵那バス馬籠線利用者アンケートの結果、北恵那バス馬籠線でのアクセスを知った一番のツールがグーグルマップになり、想定した通りの結果となった。
作成したデータの活用
時刻表やバス停の位置、ルートなどは、元々、公開されている情報であり、オープンデータ化しても何の問題も生じていない。
内製すれば、随時更新が可能で、更新を重ねることで情報の精度が高まり、更に活用することで、そのメリットも拡大する。
リアルタイム位置情報を活用したクリスマスバスなどのイベントバスの運行情報発信や、デジタルサイネージへの活用を進めている。
北恵那交通では、GTFS-JP化、オープンデータ化のメリットを実感し、現在では、市からデータを引き継ぎ、自社でデータ作成、更新を行い、ICT(Information and Communication Technology)の活用で業務効率化を進めていて、バス事業者の生産性向上にも繋がっている。
「データ整備・オープンデータ化は手段であり、「わかりやすく、使い易い」公共交通サービスを提供することで、住民、観光客により認知してもらって、乗車機会を増やし、地域の活性化を図ることが本来の目的です。」と、柘植さん。
中津川市の今後の取り組み
柘植さんが、本事業に取り組み、成果を上げたことが評価されて、「総務省地域情報化アドバイザー」に認定されたことにより、グリーンスローモビリティ(GSM)や地方バス事業者ICT化推進モデル需要創出実証の補助金獲得に繋がったそうだ。
グリーンスローモビリティ(GSM)による観光交通と需要創出実証では、 旧中山道3宿場を活かした滞在型観光ルートを設定し、運行。新規需要開拓と収益性の高い商品の開発に繋がった。
また、生産性向上と働きがい向上のための地方バス事業者ICT化推進モデルの提示では、 情報化・電子化による業務効率化により、人にしかできない仕事に注力できる環境を創出し、地方バス事業者の活性化モデルを示した。
中津川市に乗り入れている民間路線バスは、東鉄バス(恵那市~中津川市)、濃飛バス(下呂市~中津川市)があり、これらも事業者の了解をもらってGTFS-JP化、オープンデータ化する予定。
更に、観光ルートとして人気の南木曽~妻籠~馬籠~中津川(馬籠に訪れた80%以上の観光客が妻籠を訪れる)は、南木曽~妻籠~馬籠を運行するおんたけ交通の時刻表は、GTFS-JP化、オープンデータ化していないため、シームレスに経路検索できず、馬籠、中津川市を訪れる訪問客にご不便をおかけしているので、こちらも事業者の了解をもらってGTFS-JP化、オープンデータ化する予定だそうだ。
市域を運行する路線バスやコミュニティバスのダイヤのGTFS-JP化、オープンデータ化に取り組み、グーグルマップ経路検索に表示されるようになった副産物として、岐阜県庁での市町村担当者向けデータ整備勉強会やICT化を目指す自治体、事業者から講師としての依頼が次々に舞い込み、講演先で中津川市を知ってもらう機会が増えただけでなく、実際に視察に来訪される方が増え、早い時期から取り組んだことが功を奏した好事例となっている。
COREZO「検索されないバスは、運行していないのと同じと、その筋屋を使って、いち早くGTFSオープンデータ化に取り組んだ地方行政職員のホープ」である。
最終取材;2019年10月
最終更新;2019年11月
文責;平野龍平
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