武川 修士(たけかわ しゅうじ)さん/NPO法人マチトソラ

COREZOコレゾ「地元をこよなく愛し、一住民として、みんなでできることを考え、行動を起し、道を切り拓く元行政マン」賞

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武川 修士(たけかわ しゅうじ)さん

プロフィール

徳島県三好市出身、在住

NPO法人マチトソラ 理事長

ジャンル

まちづくり

地域振興

経歴・実績

1981年 大阪府生まれ

2010年 大歩危・祖谷で暮らし始める

2012年 NPO法人マチトソラ認証

受賞者のご紹介

「NPO法人マチトソラ」とは?

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武川 修士(たけかわ しゅうじ)さんは、NPO法人マチトソラの理事長を務めておられる。

四国のへそと呼ばれる徳島県三好市は古来より、阿波刻み煙草の生産販売によって栄えてきた町。特に、煙草の製造業が盛んであった池田町には、その繁栄の名残である「うだつ」のあがった家が数多く現存し、当時の面影を今に伝える歴史的町並みが残されているが、昨今の少子高齢化・過疎化の進行により人口の減少、特に若者の減少は著しく、町並みの維持はもとより地域に残された伝統文化や人と人との絆さえ消滅していく危機に瀕しているようだ。

そこで、これからは残された建物や文化を住民が主体となって暮らしの中で活用していくことで、再び地域に活力を取り戻すことが必要だとして、武川さんをはじめとする有志の皆さんが、NPO法人マチトソラを立ち上げ、三好市にある空き家や地域に残る伝統文化を活用した事業に取り組むことで、都市からの若者の移住促進や経済活動の活性化による若者の雇用を確保し、地域を盛り上げ、住民はもとより観光客等来訪者にとっても魅力あふれる地域であり、住んでみたい町づくりを目指しておられる。

2013年9月、武川さんにお話を伺うことができた。

NPO法人マチトソラを設立されたきっかけ

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黒木先生たちが立ち上げた、徳島県三好市池田町のうだつの残る町並みの保存を中心に、中心市街地の活性化や伝統文化の継承を目的とするボランティア団体である『きらり本町』が、母体になっています。『きらり本町』が始めた『うだつマルシェ』が好評だったので、さらに発展させようということでNPO法人を立ち上げました。」

理事長になられたのは?

「ご存知のように、私は旧池田町の時代から役所に勤めていましたので、行政マンは、とにかく地域全体の均等な発展を考えるのですが、6町村が合併して三好市となり、なかなか上手くいかない現実に直面してきました。むしろ、その地域、地域の特色をどのように活かせるか、そして、どう連携して地域全体の発展を図るかということが重要だと思っています。」

「役場を退職して、地域に恩返しをしたいという気持ちを持っていましたし、私自身がこの本町通りに住んでいて、一市民として何ができるかということも考えていました。特別交付税や助成金、協力隊の申請の方法等は、仕事としてやって来ましたから、熟知しているので、行政のことをわかっていることを活かそう、役立ててもらおうと思いました。それに、実際に現場で活動する人たちが動きやすいようにするサポート役も必要ですから、引き受けることにしました。」

『うだつマルシェ』とは?

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「『うだつマルシェ』は、周辺地域のとっておきの『おいしいもの』や手作りの『すてきな雑貨』を集めたマーケットです。
作り手との会話と、うだつの残る町並みウォーキングを様々な方に楽しんでもらう為、『きらり本町』が企画して、年に3〜4回、この本町通で開催してきました。」

「私が行政にいた頃(三好市役所)から、この『本町通商店会』や『本町通青年会』の皆さんがあの手、この手で地域活性化策やイベントに取り組み、地域振興活動の素地をつくってきました。しかし、『池田うだつのまち歩きガイド』の組織ができて、ボランティアガイドの養成もしたのですが、いざ団体客の問合せがあっても、ガイドの数が揃わなかったり、どれも単発で継続性がなかったりと、具体的な効果が見えてきませんでした。次第に、住民にも諦めムードが漂っていたのも事実です。」

「2011年、三好市に6人の『地域おこし協力隊』がやって来ました。地域おこし協力隊というのは、3年の雇用期間で、都市住民など地域外の人材を地域社会の新たな担い手として受け入れ、地域力の維持・強化を図る総務省の支援制度です。今は3人しか残っていませんが、この協力隊が活躍して『うだつマルシェ』を軌道に乗せてくれたのです。」

『うだつマルシェ』には、何店舗位の出店があり、収益事業になる可能性は?

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「今では、6〜70店舗の出店がありますが、出店料は微々たるものです。これにテントや備品のレンタルをしようという計画がありますが、それを加えても収益事業にはなりません。最も期待しているのは、この地域を知ってもらうアドバルーン効果です。」

「実は、集客につなげる毎回の目玉イベントの企画はもちろん重要なのですが、何よりも、県内外の協力隊同士のネットワークを活かした出店や集客がその原動力となっていたのです。」

「任意団体ではなく、きちんとした法人組織を立ち上げて、市内の空き家を活用した賑わい創出事業や特産品の販売他、収益事業を興し、軌道に乗せて、3年間の雇用期間後も協力隊の人たちが、地域で働き、暮らせる体制を作る狙いもありました。」

「実際、マルシェをはじめて、マルシェを開催している他地域とのつながりや他地域から出店して下さる皆さんとの出会いが生まれ、情報交換ができるようになりました。当初、地元の人たちは冷ややかな目で傍観していたのですが、回を重ねるごとに、この地域のお年寄りたちや市内各所からも出店してくれるようになりました。さらには、東京の谷中や兵庫の篠山に『出張マルシェ』として出店しするようにもなりました。」

『出張マルシェ』の効果は?

「まず、三好をPRできることですね。例えば、谷中では地域で採れた山菜やいちごが飛ぶように売れました。こちらで普通に売っている値段で販売したのですが、東京では安かったそうです。それから、今後、地域の特産品を売る時のアンテナショプを兼ねることができ、マーケットリサーチも可能だと思います。」

では、収益事業として考えておられるのは?

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「まずは、地域の空き家の活用です。具体的には、2013年3月、閉鎖していた昭和天皇もご宿泊されたこともある老舗旅館に東京に本社を置く企業のサテライトオフィスの誘致に成功し、地元の雇用も生まれました。行政からサテライトオフィスの誘致事業の委託も受けているので、受け入れを増やすべく、積極的な誘致活動を展開しています。」

「それから、過疎地域での仕事や暮らしについて多角的に関わり考える場を作る取組として『マチトソラ学校』を開催しています。三好市には、「マチ」と呼ばれる中心市街地と、祖谷や大歩危などで有名な「ソラ」と呼ばれる山間部があり、どちらも過疎化特有の課題があります。『マチソラ学校』では、このマチとソラをフィールドに、四国内外で地域に根差した活動をしている方に講師をして頂いて、講座やワークショップを行っています。具体的には、写真教室、料理教室、大工さんによる床の張り方講座や建築士さんによる壁塗り講座等です。」

「また、徳島県三好市の山間部の昔からの暮らしの知恵を次世代に伝えていくことを目的とする『伝える暮らしワークショップ』も実施しています。具体的には、薬草じいやんガイドによる『山菜採取&プチ料理ワークショップ』や梅干しばあやんガイドによる『梅取り&梅酒作りワークショップ』等です。」

「まだ、利益を出せるには至っていませんが、地域の人々の意識とモチベーションを高め、交流人口を増やす効果は現れていて、今後、それらの実績を踏まえて、地域の特色を活かしたサービスの商品化、産品の販売につなげ、収益事業に育てる予定です。」

今の協力隊は来年(2014年)の3月までと伺っていますが?

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「ええ、そうです。今年(2013年)の7月から新たに4名の協力隊が来てくれましたが、来年卒業する協力隊の3人の進路は本人たち次第なので、後継者の育成もしていかねばなりません。」

協力隊の方々も自身で事業を興すぐらいの覚悟がないと雇用期間が終わるとお金の切れ目が縁の切れ目になるのでは?

「その通りです。地元の人たちもいるので、残ってできる仕事を創って欲しいと思いますが、NPOで雇用して給料を払えるような収益事業を協力隊と一緒に創ることが急務だと思っています。地域には耕作放棄地も多く、3年前からその再生にも取り組んでいて、スダチ、ユズ等の果実の販売を始める予定です。」

結局、人なんですよね?今回の協力隊の方々の中には途中で辞めた方もいたと伺いましたが、ヤル気のある方々が、『うだつマルシェ』を成功させ、NPO法人を設立するきっかけにもなった訳ですから、この灯を消さないよう、マチトソラの活動がどんどん拡がっていって欲しいですね。

 

「そうですね、NPO法人マチトソラの活動拠点である『スペースきせる』を、毎週火曜日午前10時から午後6時まで定期的にオープンして、会員だけでなく地域の皆さんやNPOの活動に興味のある方が自由に集まり、おしゃべりし、情報や知識の交換を行う場として開放しています。」

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「また、今年の11月には、『マチトソラ芸術祭』を開催します。これは、三好市のマチとソラに点在している古民家を舞台に、現代アートの展示や電子音楽の演奏、アーティスト本人によるワークショップを行うことで、そこで暮らす人たちに新しい出会いを創り、訪問者の皆さんにも地域の魅力を伝えたいと思っています。」

「少しずつですが、地元の人々の意識も変わってきました。地域のみんなが何かできることを考え、行動を起こさなくては!と思います。やり続ければ、道は開けると信じています。」

COREZO(コレゾ)賞・財団の趣旨をご説明し、受賞のお願いをしたところ、「まだ、何もできていませんが、私でよければ・・・。」と、ご承諾下さった。

COREZOコレゾ「地元をこよなく愛し、一住民として、みんなでできることを考え、行動を起し、道を切り拓く元行政マン」である。

後日談1.第2回2013年度COREZO(コレゾ)賞表彰式

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後日談2.2015年2月「うだつマルシェ」

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2015年2月、「四国酒まつり」と同日に「うだつマルシェ」が開催され、普段は人影もまばらな本町通りも多くの人で賑わっていた。「うだつマルシェ」も回を重ねる度に、出店数も来場者数も増加しているそうだ。

当日、三好市の商工部長さんと話をする機会があったのだが、都会の企業のサテライトオフィスを誘致してきて、求人を出しても、応募が全くないのが悩みのタネだそうだ。聞くところによると、成果目標や残業がある都会流の厳しい?仕事内容を毛嫌いして、そんなことなら、役場の臨時職員の方がいい、ということになるらしいのだが、地方創生など程遠いという話だ。

結局、やらない人はやらないという現実があるが、こうして、まちおこしに尽力している方々がいらっしゃるのだから、やる人をひとりでも増やしていくしかないのだろう。

COREZO (コレゾ)賞 事務局

初稿;2013.11.14.

最終取材:2015.02.

編集更新;2015.03.17.

文責:平野 龍平

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