目次
COREZOコレゾ 「小さなことでも始めないと『0』は、『0』のまま、哲学カフェ、素人農事研究会と地域課題に取組むきっかけを創り、続けることが一番大事とリーダーシップは発揮せず、事務局役に徹する真の世話人」 賞
島尾 明良(しまお あきよし)さん/哲学カフェ・素人農事研究会 世話人
プロフィール
徳島県三好郡東みよし町
哲学カフェ 世話人
NPO 法人三好素人農事研究會
哲学カフェ
藍染作家の近藤 美佐子 さんから、近藤さんと同じく東みよし町役場OBの島尾さんは、地元で哲学カフェというイベントを開催されていて、もう10年くらいになるが、世界中から人が集まり国際会議のようになっている。その他にも地域でいろんな活動されている、と伺い、近藤さんのご自宅でご紹介いただき、お話を伺った。
哲学カフェとは?
「哲学カフェ」とは、3か月に1度、日曜日の朝、さまざまなテーマについて語り合う会合で、地元のカフェで開かれている。コーヒー代さえ払えば、誰でも参加でき、話したい人は、どんな意見でも遠慮なく発言でき、話したくない人は、ただ聞くだけでも良い。また、「答えは一つではなく、答えはいくつもある」と云う考えがベースにあり、他の参加者に同意を得る必要もなく、結論は出さず、さまざまな意見を出し合うだけ、とのこと。
これまで、第1回の「知」から「まちづくり」、「人にやさしいこと」、「仕事」、「我慢」、「死」、「農業と食」、「農村」、「芸術」、「ボランティア」、「豊かさ」、「遊び」、「活性化」、「師匠」、「依存」、「幸せ」、「災害」、「助け合い」、「コミュニケーション」、「マイ・ドリーム」、「常識」、「天皇制」、「ジェンダー」、「オリンピック」、「戦争と平和」、「世界意識」、「忘れること」、「愛と幸福」、「SDGs」、「こだわり」、「聞こえる」、「報道」、「鍛錬」、「言い訳」、「いきがい」等々、さまざまなテーマで語り合われてきた。
哲学カフェ開催のきっかけ
15〜6年前、島尾さんは、役場勤務時代に関西学院大の山泰幸教授(民俗学・思想史研究)が学生との民俗調査のフィールドワークをしたい、と来訪され、全く違う部署だったが、声が掛かって、関わるようになった。その後、フランスに留学した山教授は、1990年代にフランスではじまり、人々が通り沿いのカフェ等に集って、文学談義他、参加者がさまざまなテーマについて考え、語り合う公開討論形式の哲学カフェに出会って、まちづくりに役立つと直感し、帰国後、東みよし町でも開催してみたい、と相談があった。
地元カフェのオーナーに声をかけたところ、是非、やろう、と云うことで始まった。
哲学カフェの特色
「哲学カフェ」と聞くと、堅苦しそうなイメージが湧くが、<テッちゃん>と云う親しみやすいサブネームが付けられていて、毎回のテーマは前回開催時に決められ、例えば、第36回のテーマは、「執着心」だったが、これまでも哲学者的な考え方や語り口は一切なく、それぞれの参加者が自分の言葉で自分の考えを語り合う場になっている。
他者の意見を批判しても良いが、否定はNG、結論は出さないと云うルールがあり、山教授は、繋がりのある京大防災研究所の先生方、中には外国人の先生もお連れになるようになり、生の英語も聞けて、国際的になっているそうだ。
世話人の島尾さんは、開催ひと月前に案内を出し、当日は、冒頭にこれまでの山教授と東みよし町の関わり、「哲学カフェ」開催の経緯を説明しておられ、3か月に1回で丸9年、第37回で10年目を迎え、参加者は当初15人ぐらいを想定していたが、最大で40人、最近では30人を超えることも多いそうで、地方の主婦の目線や職業や経験の異なる参加者の考えや意見を聞くのは、大学の先生方の気づきにも繋がっていて、面白い場になっている、また、この活動は東みよし町から認められている訳ではないが、この会を通じて、海外からこの町に来てくださる方も増えていて、外から評価していただくことは地域が変わるきっかけにつながるので大事なことだと思う、とおっしゃる。
おおくすセミナー
徳島県東みよし町の樹齢1000年とされる「加茂の大楠」そばにある古民家を利用したコミュニティ交流施設「おおくすはうす」で、住民有志の協力を得て、定期的に開催されている、まちづくりに関する国際学術セミナー。
「哲学カフェ」の前日、「おおくすはうす」で前夜祭的にバーベキューなど懇親会を開いていたが、それだけでは勿体無いと云うことで、派生的に「哲学カフェ」に参加される先生方を中心に専門的なテーマでセミナーが開催されている。「哲学カフェ」から拡がって、毎回、先生方が12〜3名、地元有志が5〜6名参加し、第13回は、「オートウィン・レン博士(ドイツ・リスク研究)との対話」など、滅多に聞けない講義が聴けて、知的好奇心が刺激され、大変有意義な場になっている、と島尾さん。
NPO 法人三好素人農事研究會
地域農業の将来に問題意識を持つ農業を本業としない人(以下,「素人」という。)に対して,農作業をする機会を設け,共に農作物を生産し,それぞれの知見を持ち寄りその効果的な生産方法を研究すると共に,販売,交流を通して幅広い年代の素人が繋がる事業を行い,その有機的な繋がりが地域農業のみならず地域全体の発展に寄与することを目的として、2017年に設立された。
設立への想い
島尾さんの実家は商家だったが、ご両親のご実家は農家で、農繁期には、近所の親戚を手伝ったり、家庭菜園もしておられ農業に接する機会もあったが、役場での産業課長時代に大規模農業に向けた国の農業政策と地元の実情とのギャップから農業に強い関心を寄せるようになった。
この地域は、山間地が多く、古くから蕎麦や高黍(タカキビ)などの雑穀栽培が盛んで、高黍は実を粉に挽き、餅にして食べていたそうだが、食習慣の変化や過疎高齢化の影響で生産農家も減少し、在来種が消滅する懸念もあった。また耕作放棄地が増えており、周囲の畑に雑草の種が飛散して、栽培している農作物の成育にも影響するため、耕作放棄地活用も目的に「大規模農業が主流となっているが、対極にある地域の小規模農業を守る一助になれば」と云う想いから、有志に声をかけて、このNPO 法人の基となる素人農事研究會を始められた。
活動内容
東みよし町在住の農業を本業としていない住民有志(正会員26名)が町内の遊休農地を活用し、蕎麦、高黍、藍の三種を栽培しているが、中でも、種まきから、手刈り、ハゼにかけて天日干し、脱穀、粉挽き、蕎麦打ち、ざるで試食して、次の粉挽き、蕎麦打ちに活かす、を繰り返す、蕎麦が中心となっている。
毎年の気候によって収穫量はまちまちで、2反(2,000㎡)栽培して、最高で110kg収穫、100kgを玄蕎麦(外皮である黒い殻をかぶったままのそばの実)に挽くと、約70kgの粉になり、約700人前の蕎麦になるそうだ。
毎年、12月には、会員たちと蕎麦パーティーを開き、その他、年に何回か地元の興味がある方々に声掛けして蕎麦打ち体験会を実施し、良い蕎麦粉で上手く打てば美味しい蕎麦ができることを知ってもらって、この地域で蕎麦の栽培が拡がることを願って続けている、とのこと。
今後の活動
任意団体で始めた素人農事研究會だったが、若手も参加してくれていたので、そう云う人たちを巻き込んで理事になってもらい、法人格のあるNPO 法人にした。独身だった会員たちも家族を持って、一緒に参加してくれるようになり、また、当初からの会員の知り合いの家族も参加するようになり、一緒に作業を楽しんでもらうことで、会員は増やしていないが、参加者は増えている。
始めた当初、ご自身の中では想いがあったそうだが、20年以上続けてこられた前衛書道では、作為が見えると人は感動しない、と師匠から指導を受け、身体が勝手に動いて書いた作品が高評価をいただいた経験からも、その想いは想いとして、ほぼほぼリーダーシップなどは発揮せず、会の準備をしたり、道具を揃えたり、事務局的な役割に徹してきた。
一緒に作業しながら、ワイワイ話しながら、作業工程の改善他、そこで出てきた意見を次に活かす、参加した人が楽しくないと続かないし、続けることが一番大事、小さなことでも始めないと「0」は、「0」のままなので、きっかけは創るが、そこに集まったメンバーから生まれてきたことを大切にして、活動が続くようにしたい、と島尾さん。
ただ、「哲学カフェ」世話人の後継者問題はなかなか難しく、山先生にも相談されて、第50回までは、島尾さんが担っていかれる覚悟だそうだ。
ご縁があってよく訪れているお隣の三好市には、今や、全国的にも有名な大歩危峡や祖谷のかずら橋があるが、東みよし町の観光で検索してTOPヒットするのは、高速道路上の吉野川サービスエリアにある「吉野川ハイウェイオアシス」だ。そんな地域で、地域内外の人々が集まり、東京や京都、海外から訪れたアカデミックな研究者の皆さんとつながる場が続いていることは、画期的なことである。
COREZOコレゾ 「小さなことでも始めないと『0』は、『0』のまま、哲学カフェ、素人農事研究会と地域課題に取組むきっかけを創り、続けることが一番大事とリーダーシップは発揮せず、事務局役に徹する真の世話人」である。
コメント