澤田 聡美(さわた さとみ・お里)さん/発酵の里こうざき 神崎町 発酵の里推進室 農地係長

COREZOコレゾ 「『お里』の装束は、戦闘服!地元愛と発酵愛に溢れ、変化を受け入れ、常にわくわく変化し続けて さらに良くなっていく地方酵夢員 」 賞

澤田 聡美(さわた さとみ・お里)さん/発酵の里こうざき 神崎町 発酵の里推進室 農地係長

楽しい事を、ちょっと勇気を出してやっちゃおう!時は待ってくれない

発酵とは、わくわくすること

発酵とは、変わり続けること

発酵とは、良くなること

プロフィール

神崎町 農業委員会 農地係長 発酵の里推進室

発酵の里こうざき

地方酵夢員、発酵食品ソムリエ、希望の塾 第1期生

発酵の里こうざきのPRで発酵文化を子供達に伝えている。

発酵食品に限らず「人の発酵」、町の活性化をテーマに講演活動も行う。

地方に飛び出す公務員として、自身もぷくぷくわくわく発酵中。

お里ちゃん

「お里ちゃん」、常日頃からして親しくしてもらっているCOREZO受賞者の皆さんのFB界隈でよく見かける、赤い頬被りにカスリ風の着物姿の女性。ウワサによると、地方公務員らしいのだが、その出立ちは、どこかのお茶のキャラクターを連想する。

数年前、その「お里ちゃん」の生息地でイベントがあり、日東醸造の蜷川さんが出展するというので同行する予定だったが、台風で中止になり、「お里ちゃん」との遭遇は持ち越しになってしまった。

今回、なんだかんだあって、数年越しのヤボ〜を叶えることができたのである。

「お里ちゃん」の生息地は、東京からJRで約2時間、高速バスで約1.5時間の千葉県香取郡神崎(こうざき)町、こちらの到着がお昼頃になるので、ランチをご一緒にということになり、待ち合わせ場所に到着すると、いつもの出立ちで出迎えてくださった。

「酒蔵まつり」で、1日55,000人集客!

神崎町は、千葉県北部中央に位置し、人口約5,600人と千葉県で一番少なく、面積も19.9㎢と県内54市町村の中で52番目、県庁所在地である千葉市から約40km、東京都の都心から60~70km、成田市への通勤率は28.1%とのこと。

古くより、利根川の水運と平坦で肥沃な土壌を活かした稲作が盛んで、江戸時代には、良質な水、米、大豆を生かした酒、みそ、しょうゆ等の醸造業で栄えて、これらを江戸へ運ぶため、利根川周辺の街道には多くの店が軒を連ね、最盛期には、半径500メートルほどの範囲に7軒もの造り酒蔵があったそうだ。


古くより、利根川の水運と平坦で肥沃な土壌を活かした稲作が盛んで、江戸時代には、良質な水、米、大豆を生かした酒、みそ、しょうゆ等の醸造業で栄えて、これらを江戸へ運ぶため、利根川周辺の街道には多くの店が軒を連ね、最盛期には、半径500メートルほどの範囲に7軒もの造り酒蔵があったそうだ。

しかし、近年、高度経済成長期には、人口は都市へと流出し、これといった観光資源がなく、町内と近隣にあるゴルフ場目当てのゴルフ客が年間5万人ほど訪れる程度だった。

町内には、今も350年以上続く、「鍋店(なべだな)」と「寺田本家」、2軒の酒蔵があり、各々に「酒蔵まつり」を実施していたが、平成21(2009)年、町が主催して同日に開催するようになってから、年々、客足が伸びて、今では、1日で5万5千人もの人が訪れるようになった。

「なんじゃもん」が「お里ちゃん」を生み出した⁉

平成25(2013)年、神崎町のPRマスコットキャラクター「なんじゃもん」が誕生した。神崎町の神崎神社には、大楠があり、同社を参拝された水戸光圀公がその大きさに感嘆し、「この木はなんというもんじゃろうか」と、自問されたことから、「なんじゃもんじゃの木」と呼ばれるようになったと云う。「なんじゃもん」は、この国の天然記念物であるクスノキをイメージしたゆるキャラ。

当時、お里さんは、このゆるキャラ担当だったそうで、着ぐるみができたこともあって、「さて、どこにPRに行こうか」と考え、茨城県のマスコットキャラクターが「ハッスル黄門」だったので、「ゆるキャラができたが、水戸光圀公が名付け親でもあるので、是非、ご挨拶に伺いたい」と、茨城県庁に電話をかけ、PRに出向くことになった。

この時、お里さんは、どうすれば「ハッスル黄門」さまが喜んでくれるか、知恵を絞って思い付いたのが、町娘の格好だった。今より派手な着物にゴム製の日本髪ヅラまで用意したところ、上司は、ドン引きで猛反対されても、強引に押し切って出掛けた。

実は、内心ドキドキだったそうだが、出迎えてくださった茨城県庁職員の皆さんは、「本気度が伝わってくる」と大歓迎で、県庁中をPRして巡ることができ、地元ケーブルTVにも出演させてもらった。

帰路、あれだけ反対していた上司も「今度は私もかぶり物でもして行こうか」と、意識が変わり、それからは、どこに行くのも誰に会うのも、この町娘の装束をユニフォームにしよう、と決めたそうだ。

「発酵の里こうざき」で、人口5,500人弱の町に年間80万人集客 !!

道の駅構想は以前からあり、コンセプトや名称をどうするかを検討していたが、平成21(2009)年から始めた「酒蔵祭り」が年々盛り上がっており、日本食の「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録される動きもあり、健康志向によって昔ながらの発酵食文化がブームとなることも見越して、「発酵」をコンセプトに、名称も「発酵の里こうざき」に決まり、圏央道神崎インターチェンジすぐそばに2015年4月にオープンした。

お里さんは、オープンに向けて何日も徹夜で準備したそうだが、どんどんつくり上げていく作業、日々、出来上がっていく状況が楽しくて仕方なかった、と云う。さらに、オープン後、1年間、ご自身の本来の業務とは関係なく、自主的に、土日、祝日は、着物姿で店頭に立ち、来客への応対、ご案内を続けた。

今では、年間80万人もの人が訪れ、人口5,500人足らず、面積が成田空港程の千葉県で最も小さな町を変える起爆剤となった。実際、お里さんが町外を訪れ、「神崎町だ」と挨拶すると、「発酵の町ですよね!」と云ってもらえるようになったのが何よりも嬉しい、とおっしゃる。

お里さんの発酵愛は「発酵道」から

10数年前、お里さんは、寺田本家の先代、寺田 啓佐(てらだ けいすけ)さんの著書「発酵道: 酒蔵の微生物が教えてくれた人間の生き方」を読んで感銘を受け、発酵に興味を持ったのがきっかけで、発酵の道にのめり込むようになったと云う。

寺田 啓佐(てらだ けいすけ)さんは、25歳の時、酒蔵元寺田本家へ婿入りし、23代目の当主となり、1980年代くらいまでは添加物いっぱいの日本酒造りをしていたが、ご自身の病気体験の中で反自然物や不調和の積み重ねが心身のバランスを崩し、病気にもなっていることに気づいて、以後、自然の摂理に学び、生命力のある命の宿った酒造りを目指したそうだ。

日本食の「和食」は、2013年12月4日にユネスコ(国連教育科学文化機関)によって無形文化遺産に登録された。登録されたのは、「和食;日本人の伝統的な食文化」という意味で、特定の調理法や具体的なメニューではなく、和食全体をめぐる日本の文化が登録された。その登録決定の理由には、自然尊重の精神にはじまる、さまざまな特徴があげられ、「多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重」には、さまざまな食材ごとに工夫された、乾物、発酵、などの保存方法も含まれている。乾物には、ひもの、切り干し大根、鰹節など、発酵食品では、味噌、醤油、酢、酒、みりんなどがある。

微生物が有機物に働きかけて分解し、有益な成分を生み出せば「発酵」だが、人にとって有害な物質をだすと「腐敗」となり、発酵と腐敗は、紙一重。先人たちはこの微生物たちを上手く働かせて、味噌、醤油、酢、酒、みりん他をつくってきたが、酒造の世界でもひとつ間違えると腐蔵が発生し、日本では大正3~4年、昭和23年に大腐造が起こって、多くの蔵や酒屋が廃業に追い込まれまれたそうだ。

その原因は既に解明されており、日本酒の中で特殊な乳酸菌の一種の「火落ち菌」が繁殖する現象を「火落ち」といい、火落ちした日本酒は大幅に品質が損なわれ、「腐造」となる。日本酒をこの「火落ち」から守るための重要な工程のひとつが、「火入れ」と呼ばれる加熱処理で、火入れでは日本酒を約60~65度の温度で温めることで、日本酒の酵母の働きを止めるとともに、火落ち菌などの菌を死滅させる。

「発酵道」では、一見同じような状態でも、そのなかでは常に変化が起こり、とどまることなく発酵状態を保っていいて、変化を受け入れれば発酵が始まり、変化し続けるから腐らないが、変化を受け入れなければ腐敗が始まる、と説明されているそうだ。

お里さんは、人の身体は、食べ物でできていることに気づき、自分も「変化を受け入れ、常にわくわく変化し続けて、良くなっていこう」と心に決め、私製「お里」名刺をつくった。

お里ちゃんの使命は、地元の子供たちに…

道の駅では、発酵の里こうざきのPR目的で町外のお客様に発酵の講座も開いているが、地元と発酵の素晴らしさを子供たちに伝え、誇りを持ってもらうことこそが「お里」の使命と、授業で発酵文化を教えたり、体験講座を開いたり、日々奮闘しておられる。

そして、仲間と一緒に「めだか通信」と云う、神崎だけに特化した新聞を作っていて、それを授業で知った小学生の子供たちが弟子入りを希望してきたので、一緒に町の宝探しをして、「発酵食品 知り隊!食べ隊!広め隊!」などをテーマに「小めだか通信」を発行する、と云う成果も現れている。

にこやかな神崎町長と総務課長

実は、今回のお里さんへの取材は、神崎町役場の第一会議室でさせていただいたのだが、お里さんの装束で見るからに怪しいおっさんを従えて役場内をカッポしていても、誰も見向きもしないし、偶々、廊下でお目に掛かった神崎町長と総務課庁もにこやかに応対してくださったので、役場での仕事の範疇を超えたお里さんの活動も認められているようで、「エエ発酵してる町やな〜」と嬉しくなった。

お里ちゃんのこれからの夢

神崎町は、昔から農業の町で、先人たちが農地改革に取り組んできた結果、千葉県で唯一、自動運転トラクタ、GPS連動直進キープ田植機、遠隔水管理システム、農業用マルチローター、食味・収量メッシュマップコンバイン、汎用ロボットコンバイン他のスマート技術を導入した大規模水田輪作体系スマート農業実証事業に取り組んでいる農業の先進地域でもある。

現在、お里さんは、神崎町農業委員会の農地係長なので、その重責も担っている。

お里さんの小学校の時の夢が「神崎で働いて、神崎の人と結婚して、神崎で死ぬこと」だったそうで、今後、地元の行政職員としては、同じように思ってくれる人が増えるように、魅力あふれる地域にするにはどうすれば良いか、常に考えて少しでも実現できるよう行動したいし、農業の町で、食育担当でもあるので、オーガニックの給食にも取り組みたい。役場退職後は、これも発酵と関わる仕事だが、祖母が営んでいた藍屋を復活したい、そして、食の仕事は一生続けていきたい、とお里さんの夢は広がる。

どこの誰とは云わないが、前例主義から抜け出さず、発酵(変化)を受け入れないアナタ、腐敗しますよ!

COREZOコレゾ 「『お里』の装束は、戦闘服!地元愛と発酵愛に溢れ、変化を受け入れ、常にわくわく変化し続けて、さらに良くなっていく地方酵夢員 」 である。

取材;2023年11月

初稿;2023年11月

文責;平野 龍平

 

 

 

 

 

 

 

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