丹羽 和彦 さん/Linfof工房 スピーカー 愛知県大口町 

COREZOコレゾ 卓越した木工技術を活かし、自身の趣味からオリジナリティ溢れる天然無垢材を使ったオーダーメイドスピーカーを製作する職工・職人」 賞

丹羽 和彦(にわ かずひこ) さん/Linfof工房

プロフィール

愛知県大口町

Linfof工房 代表

天然無垢材製オーダーメイドスピーカー 製作・販売

YouTube動画 COREZOコレゾチャンネル

「スピーカー製作LINFOF工房を始めた経緯」丹羽 和彦(にわ かずひこ)さん / Linfof工房 ①

「天然無垢材製スピーカーの特徴と魅力」丹羽 和彦(にわ かずひこ)さん / Linfof工房 ②

「スピーカー製作LINFOF工房を始めた経緯」丹羽 和彦(にわ かずひこ)さん / Linfof工房 ③

受賞者のご紹介

天然無垢材製オーダーメイドスピーカーの製作・販売のLinfof工房を始めた経緯

丹羽 和彦(にわ かずひこ) さんは、Linfof工房の代表で、天然無垢材製オーダーメイドスピーカーの製作・販売をされている。

一般に量販されているスピーカーのボックスには、主に木の細胞の大きさにまで小さく解体、再び接着剤で固めた材料で基本的に紙と同質の素材であるMDF(medium-density fiberboard)他の集成材や合板が使われているが、それは、表面は硬くて平滑、中は緻密で加工面がきれいに仕上がり、大量生産に向いているからだそうだ。

それに対して、Linfof工房 の丹羽さんは、天然無垢材をつかったスピーカーのエンクロージャーを主にオーダーメイドで製作されていて、PC制御の工作機械で加工をされている部分はあるが、手で仕上げておられる箇所も多く、工業製品であるオーディオメーカーのスピーカーと違って手工芸品のような趣がある。

丹羽さんは、手先が器用だったのと、自宅に近いということもあって、木工所に転職し、職人として17年間勤められた。それと並行してご自身のご趣味であるオーディオのスピーカーの自作を始め、その内に友人から頼まれるようになり、徐々に工作機材を買い足していって、スピーカーの製作工房として独立された。

そんなLinfof工房製のスピーカーに出会ったのは、1980年代から聴き続けてきた米国製スピーカーの音がいまいちに感じるようになって、ケーブルを替えて接点を洗浄したり、置き方やインシュレーター他を工夫しても改善されず、寄る年波でこの重量級スピーカー(でかいのは1本90kgを超える)のちょっとした移動にも苦労するようになった頃だった。

ローズウッド材製エンクロージャー

ネットサーフィンしていてたまたま目に止まったのが、ローズウッド材のエンクロージャーにマークオーディオのALPAIR6という8cmフルレンジユニットを搭載したスピーカーだった。この「ローズウッド」材(インドネシア産)は、日本では紫檀とも呼ばれ、高級ギターの胴や指板に使われる高価な希少樹種で、もともとはフローリング用の集成材を少量譲り受けたとのことで価格もリーズナブルだったので、10台限定販売とかに弱いこともあって思わずポチったのだが、これがなかなかの代物で、フルレンジスピーカーを見直すきっかけにもなった。

「ローズウッド」の名前の由来は、バラのような甘い香りがすることからという説もあり、集成材といえども、厚みの方向は無垢の集成材なので、いまだにローズウッド特有の香りがする。上から見て台形エンクロージャーの工作精度も高く、出てくる音も8cmフルレンジ一発とは思えないぐらいの鳴りっぷりだったので、ユニット違いでもう1セット購入してしまった。

結局、このLinfof工房さんのスピーカーとその後タイムドメイン社のyoshii9を手に入れたことで、これらの米国製重量級スピーカーは手放すことになった。

ラウンドタイプ、ブラックウォールナット仕様

それ以降、Linfof工房さんのブログをウォッチしていると、マークオーディオのALPAIR7 V3を使用したラウンドタイプ、ブラックウォールナット仕様とかのスピーカーの画像がアップされたりして、姿かたちが素晴らしく、出てくる音の試聴をしなくてもイタイケなおっさんの物欲が強烈に刺激された(筆者は、ALPAIR7 MAOPを入れて製作いただいた)。ブラックウォールナットは、北アメリカ東南部を原産地とする広葉樹クルミ材で、ヨーロッパ家具材を代表するマホガニー、チークと並ぶ世界三大銘木のひとつであり、落ち着いた色合いと重厚感あふれる木目が特徴で、強度が高く、粘りもあり、対衝撃にも強いことから古くから銃床として利用されていて、また、寸法の安定性に優れ、加工後の狂いが少ないことから、ハープや高級グランドピアノ、エレキギターなどの楽器にも使用されているそうだ。

丹羽さんによると、「試作時には吸音材ゼロを目指したが、ややもすると先鋭的な音色になりすぎるため、適所に多少の吸音材を使用する事によりまろやかな音色となっている」とのことだが、この後も吸音材を全く使わない方向での工夫、改良、改善を続けておられる。

「蟻継ぎ」で接合している栗スピーカー

次に刺激されたのが、チビパークとも呼ばれるパークオーディオの5センチウッドコーンユニットを使用し、天板と底板が「蟻継ぎ」で接合して収められている栗スピーカー。「蟻継ぎ」とは、逆ハの字状の凸部分を「蟻」、逆ハの字状の凹部分(ホゾ)を「蟻ホゾ」と呼ぶそうだが、一方の木材に「蟻」を作り、他方の木材に「蟻ホゾ」を作ってはめ込む、日本の伝統建築に使われてた継ぎ手で、こんなのをスピーカーで使われているのを見たことがない。木組みの伝統建築オタクおっさんは、こういう継ぎ手を見せられるとつい触手が動いてしまう。

栗材は、風合いがミズナラに似て(というか、クリはクリ、ナラはナラ、ですね)、乾燥後は弾力性と耐朽性に富み、狂いが少なく、家具や建築資材(特に土台)等に使われたきたが、蓄積量が減ってきている為、貴重な材となっているそうで、かつて岩手の豪奢な曲り家の1辺60cm以上ある大黒柱に使われているのを見たことがあり、そんな材がスピーカーになったらどのような音になるのか、俄然、興味が湧いた。

ALPAIR10 MAOP用ホワイトアッシュエンクロージャー

マークオーディオの14cmユニットALPAIR10 MAOPを収めたホワイトアッシュエンクロージャー、こちらにも蟻継ぎが使われている。ホワイト アッシュは、アメリカタモ、アメリカトネリコとも呼ばれ、モクセイ科トネリコ属の広葉樹で北米中東部に多く生育し、やや重硬で、特に耐衝撃力が高く、加工、乾燥が容易という特徴があり、野球のバット用途で有名だが、家具やエレキギターのボディにも使用される。

世界初の振動板素材MAOP(Micro-Arc Oxidation Process)を使ったこのALPAIR10の限定生産品は、非常に強い電圧(700V)をかけたアルカリ電解槽の溶液中で、長時間かけてアルミマグネシュームのコーン表面を酸化結晶化することでコーンの表面が柔軟な無数の気泡(多くの穴が開いている)のある結晶体に変化して、柔軟で軽く、ダンピングファクターが高く、非常に平坦な周波数特性を実現しているそうだが、典型的な文系アタマにはさっぱり、チンプンカンプンではあるが、限定品の響きには弱く、一般家庭用にはでかいスピーカーは不要、と思わせるぐらいの音が出る。

ALPAIR10 MAOP用ナララウンドタイプエンクロージャー

こちらもマークオーディオの14cmフルレンジユニットALPAIR10 MAOP用ナララウンドタイプエンクロージャー。一般的にナラと呼ばれてる木材は正式にはミズナラ、輸出材としては「ジャパニーズオーク(Japanese Oak)」と呼ばれ、アメリカなどで生育しているホワイトオークと同じブナ科の樹木で、世界的な銘木として知られているオークのような強靭さと強度を持ち、外観にも風格がある為、主に家具の材料や内装材、化粧単板として利用される。また、ウイスキーの醸造樽の材料としても有名で、液漏れが起こらない上に導管孔からは微かに空気が入る為、まろやかな味に仕上がると云われている。

先に少し話したが、丹羽さんは、吸音材を使わない工夫として内部の定在波対策を色々と試しておられて、エンクロージャーの内面6面には、波型の彫り込みが施されている。このスピーカーの場合、板の最も厚い部分は5cm以上あると推測され、裏面の大部分をかなり深く彫り込んであるが、真ん中の部分は、彫り忘れたのではなく補強のために残してあるそうだ。表面的に見えないところで凝ったつくりをしておられる玄人芸にもそそられるが、拙宅の食卓、椅子他、主要な家具はミズナラの無垢なので、画像を見た途端、物欲がピークに達した。

スピーカーグリルも無垢材でつくられていて、出てくる音は、家庭用としてはこれ以上は必要ない、と思えるぐらい、想像通りで、納得の素晴らしさである。

マークオーディオ 8cmフルレンジユニット MAOP5用ホワイトオークのエンクロージャー

筆者は、長年、単身赴任をしており、以前の借り上げ社宅は、木造賃貸アパートだったので、イヤホンやヘッドホンでしか音楽を聴けなかったが、異動によりスピーカーで聴ける住環境に変わって、自宅から手持ちのスピーカーを送ることを考えていたところ、その響きにとっても弱い、限定品のマークオーディオ 8cmフルレンジユニット MAOP5が再販されているのを見つけてしまい、丹羽さんに相談してホワイトオークのエンクロージャーを製作してもらった。

正面と裏板は1枚の無垢材で、他は材料を無駄なく使用するため2〜3枚の端材を繋いでつくるので、木目や色目はバラバラになるとのことだったが、おかげでこれにも蟻継ぎが使われているのにとってもリーズナブルな価格だった。今では、経年変化で全体的に色が濃くなり、目立たなくなっている。スピーカーグリルは汎用のもの(画像の金属製)を購入して取り付けてもらったが、雰囲気が合わないでしょ?と、無垢材のグリルもつくってくださった。

美しい仕上がり、今の住居にピッタリのサイズ感、かつ8cmフルレンジとは思えない鳴りっぷりのおかげで単身赴任独居老人の生活が豊かになったのは間違いない。

音楽をスピーカで聴く楽しみ

通勤時や移動時にはイヤホンを使うので、有線の時代からピンからキリまでいろいろなものを使ってきたが、個人的に音楽を聴くには、断然、スピーカーの方が好みだ。自宅のリビングでは、タイムドメイン社のyoshii9をメインに聴いているが、音楽のジャンル、音源他によって使い分けるのも趣味、嗜好の世界の楽しみでもある。

筆者の場合、小学5、6年の頃から音楽に興味を持ち始め、中学生になると再生装置が気になりだした。自宅にあったのは Columbia製だったと思うが、 1960年代の家具調ステレオセットで、上部は観音開きになっていて、レコードプレーヤーが収められ、下部に左右のスピーカーが一枚の板に取り付けられているような構造だった。当時の友人宅にあった左右のスピーカーが独立したステレオセットに憧れ、自宅のステレオセットのスピーカーを分離するため、父親に無断でノコギリで切り刻み、大目玉を食らったことを思い出す。

高校生になって、母親の友人のご主人が役員をしておられた大阪日本橋(秋葉原みたいなところ)のオーディオ機器販売店(今はない)で念願の自分専用のオーディオセット(当時、流行りだったコンポーネントステレオってヤツ)を手に入れることができた。その時、ご自宅にJBL L101 Lancer をお持ちだったその役員のおっちゃんから勧めてられたのは、あのSANSUI SP-LE8Tだったが、訳の分かっていないハナタレ小僧は、なんで1つしか付いてないのに3つ付いているのより高いの?1つより3つの方がエエ音がでるやろ、とONKYO E-63AMkⅡを選んでしまい、その後、ドロ沼に入り込んでいったのである。

この後、前出の友人宅に JBL L300 と云う、当時4~50万円だったと思うが、とんでもないスピーカーがやってきた。それまでに見たことも聞いたこともない38㎝ウーファ、ホーンドライバーに音響レンズ、ガラスみたいなのが付いてるリングラジエーター?なんぢゃそりゃ~⁉その時の友人連中の間では、「○○○○がやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」ぐらいの衝撃が走った。見た目も出てくる音も当時よく聞いていた音楽にドンピシャだった。

やがて大学生になり、勉学に励むヒマも惜しんでバイトに明け暮れ、手に入れたのが JBL 4311WXAMARANZ MODEL1250 。これには大満足だったが、このドロ沼は底なしだ。学生時代によく行ったスキー場のオサレなロッジにド定番のように置いてあったのが、JBL 4344 や 4350  で、このブルーバッフルと McIntosh のブルーアイズの組み合わせに目と心を奪われてしまったのである。

三つ子の魂百までも、社会人になってもこのドロ沼からは抜け出せず、とうとう、JBL 4344McIntosh MA6800 を手に入れてしまう。そうなるとこれを置いて、満足できる音量で鳴らす場所が必要となってくるのがこのドロ沼の恐ろしいところだ。

他にも、何十万もするラジカセでBOSEの波がやってくると、まんまと乗せられてしまうし(無理矢理増幅された低音は耳障りになった)、5.1ch、7.1chと云われると試さずにはいれないし(yoshii9×1セットで十分)、PMC(プロフェッショナル モニター カンパニー) のベース・ローディング・テクノロジーATL(Advanced Transmission Line)って何?となったり(もっさりしてダメ)、当時使っていたソファメーカーのアルフレックスとソニーのコラボスピーカーが発売されると聞くとウズウズしてくるし(デザインは良かったが、全くの見掛け倒しだった)、オーディオ関係で新しいものが出てくるとつい触手が動いてしまうのだが、おそらく100本以上のスピーカーに散在して聴いてきた結果、近年、これは画期的、と心躍るような商品が生まれていないのが、オーディオ業界の衰退に繋がっているような気がする。

そろそろドロ沼から出ないとカンオケにも入れないかもしれないので、還暦を過ぎた頃から断捨離を始めて、もう聴くことのない手持ちのオーディオ機器のほとんどを処分したが、新たに画期的な商品が出てこないからか、中古市場は活況のようで思いのほか高価で買い取ってもらえた。

完成品を均一にし易い集成材を使った量産型のスピーカーボックスをつくっておられる製作者はたまに見かけるが、丹羽さんがつくるスピーカーは、形が同じでも無垢材なので使用する材によって全て表情が違い、使用する樹種によって、同じ音源でも出てくる音が異なるという楽しみが生まれる。また、その造形の美しさと他に同じものがないと云う希少性から所有欲が大いに満たされ、ドロ沼でもがいてきて、結局、落ち着くところに落ち着いたのではないかと思う。

無垢材で心配なのは、完成後の割れや狂いだが、使用する材は十分に乾燥されており、工作精度が高いため、一番古いものは10年以上になるが、一切そのような不具合は生じていないし、天然無垢材は経年変化するので、時間とともに味わいが増す。もちろん、スピーカーユニットは経年劣化するが、交換することで更新できるし、フルレンジの場合、ネットワークやアッテネーター等の電気回路が不要なので、こちらの経年劣化の心配もなく、スピーカーユニットさえ収まれば、異なるユニットへの換装も丹羽さんなら対応してくださる。

丹羽さんは、ひとり職工・職人さんなので、是非、この職人技を引き継ぐ後継者が現れて欲しいものだ。

この先、いつどうなってもいいように必要最小限の自分が気に入ったものだけを手元に置いて、身軽で身綺麗な暮らしをしていきたいが、今のところ、まだ寿命があるようなので、手軽に聴けて、生活を豊かにしてくれる調度品のようなスピーカーは当分手放せそうにない。

今や住環境の問題もあり、イヤホンやヘッドホンで音楽を楽しんでいる方がほとんどだと思うが、オーダーメイドのスピーカーの楽しさを知ることで、趣味、嗜好の世界も広がるのではないかと思う。

COREZOコレゾ 卓越した木工技術を活かし、自身の趣味からオリジナリティ溢れる天然無垢材を使ったオーダーメイドスピーカーを製作する職工・職人 である。

動画取材;2021.06.

文責;平野龍平

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