中村 昌史(なかむら まさふみ)さん/町家キュレーション おもやい 代表

COREZOコレゾ 「地域の伝統産業・文化を守るために、独自の視点で新たな価値を構築して、もやい壁のある重伝建の町家から発信し、人と繋げて地域の活性化に取り組むキュレーター」 賞

中村 昌史(なかむら まさふみ)さん/町家キュレーション おもやい 代表

プロフィール

町家キュレーション おもやい 代表

竹簾(すだれ)の製造販売会社で勤務し、商品開発や広報他を担当した後、独立、開業。

すだれ

福岡県八女地方は、かつては良質な竹の産地として知られ、「すだれ」や「提灯」等の竹加工品の生産が盛んで、昭和初期には、すだれ業者も30軒以上あったが、現在では3軒を残すのみとなっていいる。。

「すだれ」には、竹の表側、「提灯」の骨には、竹の裏側を使うそうで、古より我が国では少ない資源を余すことなく有効活用して「ものづくり」をしてきたことがうかがわれる。 

すだれの語源は、経糸(たていと)とヒゴ状の竹や葦素材で編んだ生地を「簀(す)」といい、それを垂らしたものを「簀垂れ(すだれ)」といったことからだそうで、御翠簾(みす)やお座敷すだれを主とした室内の調度品と、軒下に提げる日除け用途の実用品の大きく2種類に分けられる。

すだれの歴史は、少なくとも奈良時代にまでさかのぼり、万葉集にも詠まれ、「竹取物語」で描かれたように、貴重で神聖な植物とされた竹からつくられたすだれは、「御翠簾(みす)」とよばれて、平安時代には、貴族文化における寝殿造りのすまいの仕切りとして欠かせない調度品で、江戸時代まで大衆の使用が禁じられていたそうだ。

一方で、葦や蒲の芯材を使用した「すだれ」は「簀(す)」と呼ばれて、主に日除けや目隠しとして大衆も使用したとされ、現在、日除けすだれは、輸入品がほとんどで国産は僅かに残っているだけになった。

八女すだれ

 神社仏閣などで使われる結界用の御翠簾は、古来からの原形を残しており、町屋建築が多い京都を中心に、室内の風通しを良くするための知恵として御翠簾を一般にも利用しやすいようにと工夫し考案されたのが、今日の「お座敷すだれ」で、大正時代以降、町屋が立ち並ぶ八女福島地区でもお座敷すだれの需要が高まり、八女すだれの生産が盛んになった、という歴史がある。 

使用する寸法に合わせて作る受注生産品のため、ほとんどが手作業によって1品、1品、異なる仕様で生産され、節揃え(竹ひごの節の間隔が異なることを逆に利用して波模様や雷模様などの模様をつける)や、竹ヒゴの表裏の返し織り、高密度な経糸など、手作業でなければできない技術を用いていることから、伝統的工芸の室内調度品としての価値があるとされているが、近年、生活様式の変化から、本来の「すだれ」としての需要が激減し、伝統技術の継承のため、同じく地域の伝統産業である久留米絣とコラボした和装用のバッグの開発など、すだれの新たな活用方法を模索されている。

八女は竹の名産地だった

八女では良質な竹が採れたため、1本の竹からすだれは竹の表側を使い、裏側は提灯の骨に使うなどしていろんな竹を使った産業が生まれたが、竹の需要が減ったため手入れをされなくなって、竹林が荒れ放題となり、地盤が緩んだりと竹害が起こり、良質な竹も手に入り難くなったそうだ。

町家キュレーション おもやい

重伝建地区の八女市福島でまちなみ保存活動しておられる北島力さんから空き家になった町屋の購入を依頼され、内見に行ったが(条件が合わず未購入)、隣の町屋がすだれメーカーさんのアンテナショップとして運営されていた。その店舗のプロデューサーをしておられたのが中村さんで、その後、すだれ生産現場の見学もさせていただいた。

斜陽化していく竹の関連産業、失われつつある地域の伝統文化を守りたい、と勤務先を辞め、その勤務先の後押しもあって、前述の店舗を改装し、『町家キュレーションおもやい』を開業された。

福岡県八女市福島地区にある、築150年以上の町家を再生した店舗で、100年の歴史を誇る伝統の竹工芸品「八女すだれ」を使ったオーダーすだれの他、すだれバッグやすだれコースター、花瓶敷き、イラストが描かれたすだれアートパネルなど、珍しい「すだれグッズ」やインテリア雑貨を販売しておられる。

店舗のご紹介

独立、開業の経緯

築150年以上の町家を再生して活用した店舗を開発、運営する中で、「すだれ」に限らず、もっと広い意味で、竹地域の伝統産業や地域の文化を守るために、独自の視点で新たな価値を構築して発信し、地域づくりやまちづくりにも関わりたい、と思うようになった。

おもやい

この店舗の町屋には、地域に唯一現存する「もやい壁」があり、一つの壁をお隣と2軒で「共有する」とか、町屋と町屋を「つなぐ」という意味があって、地域の資源を皆さんと共有して楽しくまちづくり、地域づくりをしたい、と云う想いから、店舗名を「おもやい」にされた。

町屋キュレーション

企業の広報を担当してきた経験を活かして、地域の情報を集め、自分なりに編集して、新たな切り口で発信したり、見せたりしたいと云うコンセプトから、キャッチを「町屋キュレーション」にしたそうだ。

皮白竹(かしろだけ)

「皮白竹(かしろだけ」は、斑点が少なく、白皮が美しいのが特長で、福岡県の八女・うきは地域の一部でしか生育していなかったため、江戸時代には久留米藩の重要な収入源で、藩外への持ち出しが禁じられるほど、高価なものだったそうだ。

「皮白竹」は、上等な雪駄や版画の刷り具「バレン」の材料として使われているが、食品の包み紙や包装材として活用してもらえるよう、イベントでの竹皮弁当の販売等を通じてPRしておられる。 

地域の観光PRと今後の抱負

地域づくりの観光PRも兼ねた、伝統工芸品「八女すだれ」を使った「すだれ越し恋活」は、お互いの顔を合わせずに、すだれ越しに男女が会話を楽しむと云う平安絵巻のようなスタイルが人気を呼んで、回数を重ね、何組もカップルが生まれていて、地域資源が人とモノだけでなく、人と人もつないでくれる一つの例である。その他にも、高級品で高価なイメージがある伝統工芸品をもっと日常的に使っていただけるような使い方や見せ方ができる商品開発や企画展を計画していて、さまざまなイベントの企画や提案を通じて、地域に集客していきたい、とおっしゃる。

訪問時は、雛人形が飾られていたが、「すだれ越し恋活」実施時には、もちろん雛壇はなく、左右の簾越しにお互いの顔がハッキリと見えない状態で、男女が会話を楽しむそうだ。

八女の自然や町並み、伝統や文化を守り続けるために地域の伝統工芸や文化の資源を集め、キュレーションして情報発信して、地域の人やモノと地域外の人をつなげる「もやい」となり、また、放置竹林の整備にも力を入れ、地元の竹産業で使用できる良質な竹を育て、その竹を資源として活用し、消費につなげて、売上の一部を竹林整備のボランティア資金に充てていきたい、とのこと。

第13回COREZO賞表彰式in福岡八女 記念品

中村さんのご協力で、八女すだれを使ったCOREZOオリジナルの花瓶敷きを作成いただいた。

 

COREZOコレゾ 「地域の伝統産業・文化を守るために、独自の視点で新たな価値を構築して、もやい壁のある重伝建の町家から発信し、人と繋げて地域の活性化に取り組むキュレーター」である。

取材;2023年3月
初稿;2023年5月
文責;平野龍平

 

 

 

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