そろそろ蚊のシーズン、子供にも優しい除虫菊線香と蚊取り線香の違いをご存知ですか?

子供にも優しい除虫菊線香と蚊取り線香の違いをご存知ですか?

少し年配の方なら、蚊取り線香の原料が除虫菊だったのをご存知の方も多いのでは?しかし、かつて、原料作物として輸出されていた除虫菊を国内で商業栽培して、蚊取り線香をつくっているのは1社のみになってしまったようだ。

りんねしゃ、飯尾 裕光(いいお ひろみつ)さん

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除虫菊は日本原産ではなかった⁉︎

「元々、和歌山で栽培が始まりました。除虫菊は、地中海・中央アジアが原産と云われ、明治19(1886)年頃に和歌山でみかん農園をしていた方が、農業交流でアメリカの方から除虫菊の種を贈られ、和歌山で栽培されるようになりました。殺虫成分があることがわかり、その方が、蚊取り線香を考案して、キンチョーで有名な大日本除虫菊を創業したそうです。」

「歴史を本で調べてみると、昔の農家は家畜を家の中で飼っていたようで、除虫菊の花を乾燥させ、燻して、牛とか馬とかの虫除けに使っていたという記録はかなり残っていいます。1890年に世界で初めて誕生した蚊取り線香は棒状で、今のような渦巻き状になったのは、1895年頃からで、最初は人の手で成形していたようです。」

除虫菊は輸出される程生産されていた…

「その後、和歌山県から、広島県、香川県を中心とした瀬戸内地方に栽培が広がり、一番多く栽培された北海道の北見管区では、薄荷(ハッカ)も多く栽培されました。当時、除虫菊、ハッカ、紅花(油・着色料)の3種は、原料作物として世界中に輸出されていたぐらい多く生産されていました。」

除虫菊の栽培が途絶えたワケ

「戦後、除虫菊が植物として唯一持つ、殺虫成分であるピレトリンの類似化合物であるピレスロイドや薄荷に代わるメントール、紅花は合成着色料が安価に化学合成されるようになり、日本国内での栽培がほとんど途絶えてしまったのが1960年代のことで、日本の農業の歴史と非常に被ります。」

除虫菊原料の蚊取り線香づくり

「除虫菊の栽培は、尾道や瀬戸内の方に観光用として少し残っていますが、おそらく、国内で産業用として栽培しているのはウチだけだと思います。繁殖力、生命力のある植物ではないので、丁寧に草を刈る等、手間がかかり、栽培が難しい作物で、いろんなキク科の育苗業者を紹介してもらって、種を提供し、育苗してもらったのですが、芽が出ないとか、根腐れしたとか、ことごとく、失敗しました。それほど、繊細な植物です。北海道で栽培を始めて6年になりますが、ようやく、種を蒔いて、株分けをして、ある程度の量を収穫できるようになりました。」

「ウチが蚊取り線香に取り組み始めてから20年ぐらいにはなります。今、除虫菊の一番の産地は、アフリカのケニアの高地で、その他、オーストラリアやニュージーランド、中国が主な産地です。元々、ウチはケニアから輸入していたのですが、いろいろな経緯があって、輸入が難しくなり、ウチの社長である父の付き合いがある中国の方が、除虫菊を栽培した経験があるというので、当社の自社農場として契約し、中国で栽培してもらって輸入をしています。今は、そちらがメインで、北海道で自社栽培しているといっても、製品全体の生産量に対してはとても足りません。」

「土地としては8町歩(=8ha)ありますが、確実に栽培できるようになったのが、1町5反ほどです。とにかく、栽培のサイクルを確立するのが、非常に難しくて、丸5年掛かりました。ようやく、ある程度、周期がわかるようになって、今年から、苗をたくさん作ったり、定植したりと、本格的な栽培に入り、今後は、倍々で増産できる目処が立ちました。中国では10町歩分を委託栽培してもらっていますが、いずれにしろ、足りない状況が続いています。」

「蚊取り線香だけでなく、除虫菊の成分を使った防虫リキッドやスプレーも開発していて、コバエやハチ、昆虫類には全てに効くのですが、その分の原料が足りていないので、商品化しても安定して供給ができないという状況です。」

通常の蚊取り線香の原料とは?

「通常、蚊取り線香の副原料には産業廃棄物である汚泥を乾燥してから、燃焼した物が多く使用されていて、これに合成ピレストロイドと香料、着色料を加え、粘着性のあるツナギで固めて作ります。実は、除虫菊自体はかなり臭いがきつく、これを主原料に、無味無臭の汚泥を副原料にして作ると、臭いがきつくてイヤがる方も多く、ウチは、副原料に香りのいい白樺の木粉を使っているので、その分、価格も少々割高になりますが、有難いことに、その香りの良さからも、多くの消費者の皆さんから支持して頂いています。」

除虫菊の殺虫成分ピレトリンと化学合成したピレスロイドの違いは?

「ピレスロイドはピレトリンの類似化合物なので、同じ神経毒性があり、分子構造もほぼ同一ですが、決定的な違いは、その分解速度で、温血動物(=恒温動物)が吸い込んだ場合、天然成分のピレトリンは血中ですぐに分解されてしまうのに対して、合成のピレスロイドは分解されずに血中にそのまま残ることがわかっています。」

水溶性の神経毒が危険視される理由

「食べるものに使われる添加物や残留農薬の基準は厳しいのですが、家庭内殺虫剤の成分は、口に入れる前提ではないので、農作物に使う農薬と比べて、基準値が非常に緩く、虫除けスプレーのようなものに使われる成分は非常に残留性が高いのです。」

「神経毒性は体内に取り込んでもすぐに症状として現れず、蓄積されて慢性化する特性があります。話は少しそれますが、ミツバチがいなくなったと問題になった、ネオニコチノイド系の農薬も神経毒性なんです。有機リン系なんかの油性の農薬は雨が降ったりすると、流れ落ちてしまうのですが、これは水溶性なので、植物の葉や茎に吸収されて、蓄積して効き目が長持ちします。水溶性なので安全だとか云われていますが、神経毒性なので、個人差があり、すぐに症状として出ませんし、蓄積されて、いつ慢性的な症状として現れるかわからないので、危険視されています。」

無臭の家庭用殺虫剤の怖さとは?

「食品添加物の方が、まだ、基準がハッキリしていて、どういう経緯で作られたのか、何に添加されていたか、追跡が可能ですが、家庭内殺虫剤が怖いのは、知らないうちに殺虫成分が生活の中に入り込んでしまって、無意識に身体に取り込んでいる典型的な化学合成物質であり、ほとんど追跡ができません。つまり、何か症状が出ても、原因の追及が困難だということです。」

「マット式、吊り下げ式、リキッドタイプ等、ひと夏、置いておくだけで、虫を寄せ付けないという殺虫剤は、本当に恐ろしいですよ。無臭のものはさらに恐ろしくて、自分がどれだけ吸い込んだかわからないし、無意識のままに身体に取り込んでいる可能性が高いですから、健常者で、全く症状が出ていなくても、蓄積された毒性が、その人の許容量を超えると、いつ慢性的な症状として現れるかわかりません。合成ピレスロイドを使った一般の蚊取り線香でも、匂いや煙が出るので、吸い込み過ぎると咳き込んだりして、一種の警告サインが出ますから、まだましだと思います。」

菊花せんこうは現代社会へのアンチテーゼ

「私の父は、化学物質に過敏な方で、和歌山に1社だけ残っていた、天然の除虫菊で作っている会社の蚊取り線香を愛用していたのですが、そこが廃業するという噂を聞いて、直談判に行ったら、そちらで事業を引き受けてくれという話になり、検討を開始しました。」

「除虫菊の歴史や天然ピレトリンと合成ピレスロイドとの違いなどを調べて行くうちに、戦後、日本の農業や産業がアメリカの大規模農業や石油化学産業に駆逐されてきた歴史は、そのまま除虫菊にも当てはまり、合成されたピレスロイドがどんどん輸入されて、知らないうちに生活に浸透し、アレルギー反応を起こす過敏な人がいても、選択の余地が失くなっていることがわかりました。」

「父は自然食品の事業を興して、添加物や環境汚染、公害問題と向き合ってきた歴史もありましたから、この商品は現代社会への具体的なアンチテーゼのアイテムになるだろう、と自社で取り組むことにしました。それで、その会社と製造契約を結んで、原材料の配合比率を決める実験を繰り返して、原料調達から新たに自社で開発したのです。」

国内で除虫菊を栽培しているのは1社のみ

「除虫菊だけを使った蚊取り線香を国内で生産しているのは、ウチの他にもう1社ありますが、国内で除虫菊を栽培しているのはウチだけです。また、除虫菊は栽培場所、年度、個体によっても、殺虫成分の含有量や、匂いにもかなりのバラツキがあり、効き目が安定した均一な商品にするためには、生産ロット毎に配合比率を調整しなければならず、大量生産にはとても向かないので、大手メーカーの製造ラインで作るのは難しい商品だと思います。」

まとめ

一般的に『蚊取り線香』と表示できるのは、薬事法上、医薬部外品として県知事の認可を受け、一定割合の合成ピレスロイド等の殺虫成分を含有して、基準通りの殺虫力があり、安定して同じ製品を作れなければ、『蚊取り線香』と表示できまない。

りんねしゃさんがつくっている『菊花せんこう』は、蚊が寄ってこなければ、殺すこともないだろうと、殺虫成分を少なくしているので、蚊が死なないから、『蚊取り線香』とは表示できず、『蚊遣り香』と呼び、表示できる効能にも制限があって、蚊などの衛生害虫に効果ありとは表現できないそうだ。

一般の方でも、蚊取り線香の煙で頭痛や喉の痛みを感じる方も多いようだが、それは煙に含まれる殺虫成分の神経毒性が原因で、小さなお子さんがおられるご家庭や化学物質に過敏な方々にはとても喜ばれているとのこと。

ヤブカ属の中でも特にネッタイシマカやヒトスジシマカなどの蚊によって媒介されるデング熱が話題になっている。

多くの虫除け剤に配合されている「ディート」という成分は、国民生活センターの報告では、「一般的には毒性が低いが、まれに体への影響がある」とされているようだが、ベトナム戦争で枯葉剤として使用された物質の一種であり、発ガン性、強い突然変異性(遺伝子を変化させてしまう性質)や遺伝毒性(遺伝子に障害を与える性質)を持っている疑いがあり、使用を規制してる国もあるそうだ。

虫を毛嫌いする傾向がああり、何の疑問も持たずに子供や赤ちゃんに虫除けスプレーを吹き付けている親を見かけるが、それに含まれる殺虫成分を調べ、危険性をよく認識した上で、使用する際にも十分な注意が必要だろう。

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COREZO (コレゾ)賞 事務局

初稿;2015.06.18.

編集更新;2015.06.18.

文責;平野龍平

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