一伊達 哲(いちだて さとる)さん/淡海の川づくりフォーラム

COREZOコレゾ 「水害は必ず起こると覚悟し、川や水辺に関するいい活動を盛り上げ、民官が協働して地域防災力を高める会の世話人」賞

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一伊達 哲(いちだて さとる)さん

プロフィール

滋賀県大津市

淡海(おうみ)の川づくりフォーラム 事務局

滋賀県 流域治水政策室 副主幹

北井 香(きたい かおり)さん

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プロフィール

滋賀県大津市

淡海(おうみ)の川づくりフォーラム 実行委員会委員長

滋賀県立大学 特定プロジェクト研究員

ジャンル

市民活動

防災

受賞者のご紹介

北井 香(きたい かおり)さんは、「淡海(おうみ)の川づくりフォーラム」実行委員会委員長、一伊達 哲(いちだて さとる)さんは、滋賀県の流域治水政策室の副主幹で、「淡海の川づくりフォーラム」の事務局を務めておられる。

「朝日新聞『窓』 論説委員室から」の記事のご縁

2012年12月、第1回目のCOREZO(コレゾ)賞表彰式を終え、年が明け、受賞者の方からブログにCOREZO(コレゾ)賞のことを書いている人がいらっしゃるという話を聞いて、検索してみると、「きたいさん」とおっしゃる女性が、ご自身のブログで、「COREZO賞」というタイトルの記事を書いて下さっていた。

以下、北井さんのブログhttp://blog.livedoor.jp/muraiti/archives/51979448.html)より要約、引用。

 

「淡海の川づくりフォーラムの全体選考コーディネーターをお願いしている方が、朝日新聞『窓』 論説委員室から・『権威なし、名誉なし、賞金なし、3なしのコレゾ賞』という記事を送ってくださった。なんと、corezo財団なるものを作って、コレゾ賞を決めておられるところがあるのだとか。すてきな話題。」

「関わらせてもらっている『淡海の川づくりフォーラム』。そして、このフォーラムの仕組みをもらった『いい川・いい川づくりワークショップ(前身:川の日ワークショップ)』の褒め方、ととっても気持ちが一緒だったので、嬉しくなった。」

「いい川・いい川づくりワークショップも、順位を付けるのではなく、議論する・そこから学ぶ・それぞれの良さを褒めることに重きを置いて、グランプリでも優秀賞・最優秀賞とか、2位・1位とかではないよ、という意味も込めて、その団体がその時に冠するような事柄で賞名をつけてきている。」

「コレゾ賞の賞名もそれぞれ素敵。滋賀の方もありました。こういう褒め方って向き合ってしかできないから、なんだか認められた・見てくれていたという気がする。承認欲求が満たされるのかしら。うれしいよね。」

「誰かに付けるとしたら、自分が付けてもらうとしたら・・・、そんなことも考えつつ。こういう褒め方のものが浸透していけばいいなあと、うきうきとした一時でした。コレゾさんに、川づくりフォーラムとかいい川ワークショップのことも知ってもらいたいな~。なんか小さな仲間意識。」

「関わらせてもらっている『淡海の川づくりフォーラム』。そして、このフォーラムの仕組みをもらった『いい川・いい川づくりワークショップ(前身:川の日ワークショップ)』の褒め方、ととっても気持ちが一緒だったので、嬉しくなった。」

以上、引用終わり。

朝日新聞の「窓」は、COREZO(コレゾ)賞を受賞して頂いた田中真木さんとのご縁で、当時、論説委員だった大矢さんが、記事を書いて下さって、多くの友人、知人からは励ましの電話やメールを頂いたのだが、全く存じ上げない第三者の方が、このようなブログを書いて下さっていたのを知り、こちらも嬉しくなって、「淡海の川づくりフォーラム」の活動内容を調べながら、いつかお目に掛かりたいと思っていた。

2014年6月、大津に訪れる機会があり、「淡海の川づくりフォーラム」の事務局を通じて北井さんにご連絡をしたところ、事務局の一伊達さんも同席下さって、旧大津公会堂でお話を伺うことができた。

「淡海の川づくりフォーラム」とは?

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ー 一応、下調べはしましたが、「淡海の川づくりフォーラム」とは?

「川や水辺、水源保全など『水』に関する取組みをしておられる活動グループを募集して、それぞれの活動内容を5分間ずつプレゼンして頂き、公開選考で、『みんながいい!と思う活動』、『お手本にしたい活動』を選ぶ会なのですが、本質は、参加グループの活動内容が問題提起になったり、話題のきっかけとなって、『水辺とわたしたちのよい関係とは?』、『よりよい関係づくりの取組みとは?』を選考員も含めて、会場に来て下さったみんなで一緒に考え、話し合う会です。」

「加点方式で議論をするというのを約束にしていて、選考過程も、議論の過程も、とてもポジティブで、会全体がものすごく前向きです。審査するわけではないので、『選考員』の皆さんの役割は、プラス目線で、その活動の良いところを探し、どうして良いかを明らかにすることなのです。」

「プレゼンを行う発表団体さんたちにとっても、自分たちが気づかなかったいいポイントを見つけて、ほめてもらうことで、活動への自信とモチベーションにもつながり、ますますヤル気が出るようになります。事務局の滋賀県流域治水政策室さんのお力を借りながら、住民主体の実行委員会が主催して、昨年度(2014年度)で、7回目のフォーラムを開催しました。」

滋賀県流域治水検討委員会の住民会議での議論が発端

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ー このフォーラムを開催するようになったきっかけは?

「2008年に設置された滋賀県流域治水検討委員会の住民会議での議論が発端となっています。滋賀県流域治水基本方針を策定するにあたって、琵琶湖流域治水推進部会という庁内検討組織を県に置き、県内9市町の副市町長等からなる流域治水検討委員会(行政部会)、県民の公募委員からなる流域治水検討委員会(住民会議)、学識会経験者からなる流域治水検討委員会(学識者会議)及び、パブリックコメントによる審議、検討、提言を経て、県民や市町の意見等を反映させる取組みでした。」

「住民会議では、自助、共助においての県民の役割、県民が公助に期待する事項、県民への普及と協働でとりくむ方策について、検討、協議し、近年、滋賀県では、多くの人命を失うような大きな水害は起きていませんが、『災害は忘れた頃に必ずやってきます。 水害は必ず起こるという覚悟をもって、安全な避難ができる地域づくり、防災組織が元気な地域づくり、先人の知恵と新しい情報を共有できる地域づくりを目指します。』という提言にまとめました。」

『地先の安全度マップ』とは?

「滋賀県では、流域治水検討委員会が審議、検討、提言した滋賀県流域治水基本方針に基づいて、『地先の安全度マップ』というのを作成、公開しています。そのマップには、『その地域に大雨が降ったら』という視点で、川だけでなく、水路とか、田んぼとかも全て併せた被害想定を記したすごく緻密な情報が盛り込まれています。」

「『地先』とは、身近な地域を指す言葉で、大雨が降った際に想定される浸水の程度を表す『浸水深図』、あふれた水の流れの強さを示す『流体力図』、被害の起こりやすさを表す『被害発生確率図』の3種類からなります。このうち『浸水深図』と『被害発生確率図』は、大雨の程度に応じて3パターンの図を用意してあり、『流体力図』は、200年に1度の大雨が降った場合の家屋の流失を想定しています。」

「ごく一般的に公開されている『ハザードマップ』は、特定の大きな河川が溢れたら、こうなりますよ、っていうもので、身近な水路、例えば、下水道や農業用水路、側溝など、いろんな場所から水が溢れた場合、実際に起こるであろう事態を想定しているかというと、少し不足があるのかなと思います。」

何を優先するのか?人命なのか?何なのか?

「安全度マップ公開に際しては、土地利用などへの影響を心配する意見もあり、市町で公表されるタイミングもまちまちでした。実際、自分の土地や家屋が危険な箇所に入っていたら、売却や賃貸する際に不利になるので、ウチの家がなんでやねん、どういうこっちゃ!となる訳です。そういう意見も受け止めつつ、このマップの情報をどう扱うか?何を優先するのか?人命なのか?何なのか?という私たち住民側の姿勢が大事で、真の災害リスクを知る上で、画期的な地図だと思います。」

治水政策の歴史に残る大きな一歩

「そして、今年(2014年)の3月、滋賀県で全国初の大雨で浸水が想定される地域に対し、罰則付きの建築規制などを盛り込んだ『流域治水推進条例』が可決されました。治水政策の歴史に残る大きな一歩だと思います。」

川に関するいろんな活動を続けるために…

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「実は、私(北井さん)は、その流域治水検討委員会(住民会議)の委員をしていたのですが、元住民会議のメンバーには、会議の議論を通じて、地域の防災力を高めるには、川を知っていることが大事で、そのためには、日ごろから川に親しむなどの取り組みや川に関するいろんな活動を続けていくことが重要であること。さらに、その活動を続けるためには、モチベーションを維持する仕組み・サポートも欲しいし、できたら一つの流域だけではなく、県域、県外と仲間ができたらもっと広がるだろう、という共通の認識がありました。」

「それがベースにあって、元住民会議のメンバーが実行委員会の委員になり、東京で開催されている『いい川・いい川づくりワークショップ』をお手本に、このフォーラムの構想につながって行きました。そして、いつの間にか、実行委員長をお引き受けすることになってしまいました。」

北井さんの経歴

ー 素晴らしい取組みですね。北井さんはこれまでにどのようなことを?

「私は、三重県との県境にある奈良県山添村の生まれで、田舎の山あいの村でしたから、田んぼや農村の文化、そこで生きる人、日々、重ねられた暮らしぶりに興味を持っていました。京都の大学を出て、過去の水害聞き取り調査に従事したり、NPO法人で、滋賀の農山村の情報発信・地域づくりの業務に関わり、棚田の保全活動等に携わってきました。今は、滋賀県立大学で、地域大学間連携を進める事業に関わっています。今後も、地域の良さを前向きに活かし、活動・発信・取組んでいる人たちを盛り立て、応援したいと思っています。」

「淡海の川づくりフォーラム実行委員会は、流域治水検討委員会(住民会議)の委員全員が、『水害から命を守る地域づくり』という提言をしておきながら、委嘱期間が終わったからといって、言いっぱなしで、離れてしまっていいのかという思いもあり、2009年に立ち上げました。」

フォーラム参加団体の活動

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ー フォーラムに参加されている団体の皆さんはどのような活動を?

「2月16日に開催した本年(2013年度)の参加団体・グループの例で申し上げますと、グランプリは、『高時川の源流文化は永久に不滅で賞』の『高時川源流の森と文化を継承する会』さん、準グランプリが、『赤緑論争子どもも大人も楽しみま賞』の『特定非営利活動法人 芹川』さんと『ふるさとが育むいのちが見えたで賞』の『渋川生き物絵図作成支援委員会』さん、山紫水明賞が、『山内エコクラブ』さん、 マザーレイクフォーラム賞が、『市民自然観察会』でした。」

「例えば、マザーレイクフォーラム賞の『市民自然観察会』さんは、活動の輪をメンバーだけでなく、地域の市民と共有し合い、生き物との共存の大切さを広め、西の湖の豊かな自然を次の世代へ引き渡すことを目的に、自然観察会を通じて、子供たちに自然という遊び場の提供しておられます。」

「発足当初から、野鳥観察やツバメのねぐら観察をはじめとする自然観察だけでなく、西の湖園地やよし笛ロードで、生態系を守るため、夏は草刈り、冬は葦刈りをしたり、散在ゴミを回収する環境保全活動を並行して続けておられます。」

「自然観察会の活動では、西の湖とその周辺の野鳥と野草を観察して、その記録と写真を全てファイルし、それらを冊子としてまとめておられるのですが、西の湖に広がる葦原は、多様な生き物の命のゆりかごとしてかけがえのない大切な場所で、数多くの希少種が育まれているそうです。」

「選考委員である博物館の学芸員さんからは、研究者だけで積み上げても遠く及ばない、学術的にも使えるような重要なデータを、地域住民の活動の地道な積み重ねで作り上げられていることに、大きな価値があると高い評価を受けました。」

グランプリ、準グランプリ受賞の副賞とは?

ー ネットワーク化するとさらにおもしろいことになりそうですね?それに、防災意識は、自然保護や環境保全の意識啓蒙にもつながっているということですね。ところで、順位は付けておられないのでは?

「実は、グランプリ、準グランプリを受賞された団体・グループには、翌年のグランプリ、準グランプリの副賞をご用意頂くことになっておりまして…、ハハハハ。申し訳ないというか、有難いことに、毎年、皆さん、心づくしの賞品をご用意頂いておりまして、いつも感謝しています。」

「コンテストではないので、順位を付けるのが目的ではなく、いいところを見つけて褒め、みんなで視点を共有して、住民や個人、行政による、川や水辺に関するよい活動をより深めたり、つながったり、励ましあったりするのが会の目的です。なので、フォーラムには何度でも参加できますし、他のグループの活動を参考に、モチベーションを上げて、さらにいい活動をして、グランプリを目指して頂ければいいのです。受賞すれば、翌年の副賞をご用意頂くことになりますが…。」

このフォーラムの2つの魅力とは?

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「また、この会の魅力とも言えるのが、大人も子どもも同じ土俵で活動を発表し合えることと、選考委員が、その日のプレゼンの中でお手本にしたい活動の部分や、工夫や苦労を引き出し、みんなで共有しながら、『川と私たちのいい関係』について考えを深めることができることです。」

今後は、全国から集まって頂けるような会に…

ー それもおもしろいですね。やはり、参加されるのは滋賀の方が多いのですか?今後どのように発展させていかれるのですか?

「県内団体のみに限っているわけではなく、京都方面や行政からも参加して頂いていますが、滋賀での開催ということで、やはり、県内の皆さんが多く、毎年、参加して下さる常連さんもいらっしゃって、同窓会のようなアットホームな楽しさが生まれてきました。また、今年は特別ゲストでしたが、大阪からも参加して頂きました。」

「川や水辺、水に関わる活動ならば何でもOKで、例えば、農業用水の管理でもいいですし、水防、水源地保全、節水、小水力発電、環境活動、美化活動、歴史の調査、まちづくり活動、おおよそどんな活動でも参加していただけます。今後は、全国から集まって頂けるような会にしたいですね。」

行政の役割

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一伊達さん「行政が旗振り役になるとどうしても行政的な運営になってしまいがちで、会が盛り上がるかは疑問ですし、予算の切れ目が会の切れ目になってしまう心配があります。しかし、行政には、住民の自助と共助を支える公助という役割がありますから、決して大きな額ではありませんが、予算も確保し易いところもありますし、私たちがサポートすることも可能です。何より、この会がさらに発展して、住民の活動が活発になり、防災意識が高まればそれ越したことはなく、行政にとっても有難いことです。」

北井さん「私たち実行委員会の委員も仕事を持っていますので、事務局がサポートして下さるから、この会を継続して実施できるのです。」

自助と共助を支えるための行政の公助

近年、全国的に局地的な集中豪雨が頻発し、大規模な水害や土砂災害が多く発生しているが、災害時に家族と自分の命を守るには、行政に任せっきり、頼りきりではなく、その場にいる住民の判断が重要なカギを握っているのは間違いない。

水害であれば、日々、川に接して、川のこと、地域のことを意識し、理解していないと、いざという時に正しい判断はできないので、地域住民の活動が大きな力になるのは間違いないだろう。そして、そういう活動を盛り上げ、継続していくには、自助と共助を支えるための行政の公助という役割があるという住民の提言に行政もしっかりと応えている。

費用をかけず、主催する住民とサポートする行政が、互いに信頼し合い、各々の役割をきちんと果たし、参加者全員が、褒め合い、讃え合い、ゆるーく楽しんでやっている内に、気が付いたら、なーんとなく、みんなの意識がつながり、地域の防災力が向上していた…。なんて素晴らしい取組みだろう。住民、行政、双方に拍手を送りたい。

また、水資源は、食の問題と並んで、世界的にも大きな関心事である。日本一の水ガメでもある琵琶湖を有する滋賀からこの活動を全国に拡げて頂きたいものだ。

COREZOコレゾ「水害は必ず起こると覚悟し、川や水辺に関するいい活動を盛り上げ、地域防災力を高める会の世話人」である。

後日談1.第3回2014年度COREZO(コレゾ)賞表彰式

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COREZO(コレゾ)賞 事務局

初稿;2014.11.14.

最終取材;2014.12.

最終更新;2014.03.23.

文責;平野 龍平

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