兵藤 文市(ひょうどう ぶんいち)さん/JR四国阿波池田駅元駅長

COREZOコレゾ「地域の皆さんと交流人口の拡大に取り組む、有人2駅、無人15駅の駅長」賞

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兵藤 文市(ひょうどう ぶんいち)さん

プロフィール

愛媛県西条市出身、香川県坂出市在住

JR四国 阿波池田駅 元駅長

ジャンル

観光・地域振興

鉄道・JR四国駅長

経歴・実績

1972年 旧国鉄 入社

1987年 四国旅客鉄道株式会社

2007年 阿波池田駅 駅長

「お月見・地酒・秘境トロッコ列車」運行開始

2008年 「大歩危妖怪トロッコ列車」運行開始

2011年 「大歩危LED光り妖怪トロッコ列車」運行開始

2012年 「坪尻駅クリスマスコンサート」開催

受賞者のご紹介

阿波池田駅長は、17駅を管轄

兵藤 文市(ひょうどう ぶんいち)さんは、徳島県三好市にある、JR四国、阿波池田駅の駅長さん。

兵藤駅長とは、2011年9月、徳島県三好市のJR大歩危駅前「歩危マート」(山口屋)の山口頼明社長と看板娘のゆっこちゃん(山口由紀子さん)ご夫妻が主宰する「大歩危駅前1日1個ゴミを拾おう会」の活動でお目に掛かった。

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その日は、平日にも関わらず、兵藤駅長他、JR四国関係者、行政関係者、近隣の観光事業者、派出所の駐在さんに至るまで、38人もの方々が参加して、駅構内、駅周辺、駅に通じる橋の欄干に至るまで、清掃活動をした。

それ以降、観光・地域振興調査事業の取材に応じて頂いたり、その事業の一環で、「お月見・地酒トロッコ列車」、「大歩危LED光り妖怪トロッコ列車」等の阿波池田駅の企画列車に試乗させて頂いたり、キッチン会議等で、度々ご一緒するようになった。

兵藤駅長は、2007年から阿波池田駅の駅長を勤め、毎日、坂出から通勤しておられる。通常、2~3年で異動するが、毎年、転勤時期になると、阿波池田駅勤務希望を出し続けておられるそうだ。

阿波池田駅は徳島県三好市にあるJR四国土讃線の駅で、運行系統上は徳島線の起点駅ともなっていて、JR四国の駅で5線以上のホームがあるのは高松駅(9線)と阿波池田駅(5線)だけとのこと。

1日の平均乗車客数は1995年度の1400人弱から2010年には700人強と減少し続けている。阿波池田駅長は、17駅を管轄していて、その内、有人駅は阿波池田駅と穴吹駅の2駅のみで、あとの15駅は無人駅となっているそうだ。  2010年に大歩危駅を無人化することになった。無人化によって駅周辺が寂れてしまわないようにと、駅前の「歩危マート」(山口屋)の山口頼明さん・由紀子さんご夫婦を中心に地元住民でつくる「大歩危駅活性化協議会」が発足した。

「JR大歩危駅活性化協議会」とは?

「JR大歩危駅活性化協議会」は、徳島県や三好市の補助を受けて、JR四国から旧駅事務所を借り受け、祖谷の古民家保存活動をしている著名なアレックス・カー氏にも協力してもらい、メンバーの皆さんの手作りで駅舎の改装を開始した。

古民家をイメージして、天井の梁はむき出しとし、畳敷きの休憩所も設置、外国人観光客の方々も周辺観光情報を入手できるようインターネット環境を整備し、パネル展示にも工夫を凝らした。

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そして、2011年4月、新待合室「ほっと案内所」をリニューアルオープンした。駅正面には、大歩危の妖怪伝承にちなんで、ケヤキで彫られた「児啼き爺」の像が設置され、新駅長に就任し、兵藤駅長が駅長帽をかぶせた。

2011年7月には、「JR大歩危駅活性化協議会」メンバーの愛犬、柴犬の虎太朗(こたろう)くんが助役に就任し、毎週日曜日に出勤して、観光客を出迎え、一緒に記念撮影に収まるなどして駅の盛り上げ役として活躍し、人気を呼んでいた (2013年終了)。

「『JR大歩危駅活性化協議会』のメンバーの皆さんを中心に、『大歩危駅1日1個ゴミを拾おう会』も立ち上げて下さって、年に4回、駅と駅周辺を清掃して下さっています。若手のメンバーの皆さんが、駅舎のトイレをゴム手袋も付けず、素手で掃除して下さっているのを拝見すると、頭が下がります。無人化した駅の活性化協議会は何カ所かありますが、ここまでの活動しておられるところは他にはありません。本当に有難いことです。」と、兵藤駅長。

「兵藤駅長には私たちの活動にご理解を頂いて、清掃活動だけでなく、駅で開催するイベント等にもいつも全面的に協力して下さっています。地域住民としても大変有難く、感謝しています。」と、JR大歩危駅活性化協議会会長の山口頼明さん。

というように、両者の協力体制はバッチリ、ガッチリだ。

1人でも多くの皆さんにJRをご利用頂き、地域活性化にも繋げたい

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阿波池田駅の管内では、徳島県美馬郡つるぎ町の貞光(さだみつ)駅で町が環境美化に取り組んでいたり、徳島県三好郡東みよし町の阿波加茂(あわかも)駅の駅舎の一部を町がJR四国から無償で借り受け、住民同士の交流の場や観光拠点として活用しようと、地域交流施設「加茂ふれあい館さくらひろば」として整備し、地元住民団体が管理・運営を担い、県の緊急雇用創出事業を活用して町臨時職員2人を置き、観光案内やレンタサイクル貸し出しなどを行っているという事例もあるが、何れも行政主導のようだ。

「そういった地域の皆さんの熱意からも大きな刺激を受けて、阿波池田駅では1人でも多くの皆さんにJRをご利用頂き、少しでも地域活性化にも繋げたいと、地域の皆さんのご協力を頂いて、『お月見・地酒・秘境トロッコ列車』や『大歩危LED光り妖怪トロッコ列車』等の企画列車を運行しています。」と、兵藤駅長。

「お月見・地酒・秘境トロッコ列車」

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「お月見・地酒・秘境トロッコ列車」は、毎年、中秋の名月の頃に、地元酒造会社(三芳菊酒造・今小町酒造・芳水酒造)の協力を得て、土讃線・坪尻駅~大歩危駅間で運行している。  夕刻に阿波池田駅を琴平方面に向けて出発して3駅目、スイッチバック方式の秘境の駅として有名な「坪尻駅」で途中下車して、駅周辺(といっても何もない)を散策した後、折り返して、夕闇に包まれた吉野川沿いを大歩危駅まで走り、阿波池田駅に戻る。車中では、地元産の川魚の塩焼きを堪能し、地酒を飲みながらゆっくりと「お月見」とトロッコ列車の旅を楽しんでもらおうというもの。

2011年、試乗をさせて頂いた。「坪尻駅」を出発すると、いよいよ乾杯をして宴会が始まる。アマゴの塩焼き付きのお弁当はもちろん「レストランまんなか」謹製。池田の地酒の「今小町」や「三芳菊」が振る舞われる。満席の列車内には駅員さんたちが山に入って採って来こられたすすきが飾り付けられ、月見の気分が盛り上がる。

阿波池田駅を過ぎ、大歩危方面に向かう頃には、陽もとっぷりと暮れ、もうすぐ満月のお月さんも昇り、歌のアトラクションもあって、トロッコ列車での「月見で一杯」もなかなか風情があってオツなものだった。

「大歩危LED光り妖怪トロッコ列車」

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「大歩危LED光り妖怪トロッコ列車」は毎年、紅葉シーズン(11月頃)に併せて、週末の夜の時間帯に、JR土讃線(阿波池田駅~大歩危駅間)を運行している。それまでの「大歩危トロッコ号」の車内及びボディーをLED(発光ダイオード)のイルミネーションで装飾した企画列車。

「四国の秘境 山城・大歩危妖怪村」や「大歩危・祖谷いってみる会」、徳島県阿南市の「阿南光のまちづくり協議会」が、企画と運行に協力している。2012年には、新たな試みとして、トロッコ列車と同様に、LED照明で装飾した「LED光りボンネットバス」も同時運行するそうだ。

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同じく2011年、「大歩危LED光り妖怪トロッコ列車」にも試乗させてもらった。夜20時過ぎ、阿波池田駅から、色とりどりの約6500個のLEDのイルミネーションで飾られたトロッコ列車が大歩危駅に向けて出発する。途中の駅で停車する度に、「四国の秘境 山城・大歩危妖怪村」のメンバーが扮する「児啼き爺」、「青坊主」などの妖怪が次々と乗り込んでくる。その度に子供連れの皆さんの歓声が巻き起こり、満席の列車内ではあちこちで記念撮影大会が始まる。折り返し地点の大歩危駅につく頃には最高潮に達した。

「坪尻駅クリスマスコンサート」

「予讃線の下灘駅ってご存知ですか?ホームからのきれいな夕日の景色が有名で、いろいろな映画やTVドラマのロケにもよく使われていいます。1986年に、新線の内子線が開通して、駅の利用客が少なくなって廃線になるのでないかという危機感から、『夕焼けプラットホームコンサート』という企画が始まりました。毎年、9月に開催されて、今年で27回も続き、地域おこしにも一役買っています。」

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「坪尻駅はご存知でしょ?ずっと定期的にご利用頂いていた最後のおひとりが、昨年暮れ(2011年)で利用頂けなくなったんですよ。鉄道ファンの注目度も一時に比べると下降気味でね、下灘駅にあやかってでもないのですが、忘れ去られないように、もう一度、より多くの人に目を向けてもらおうと、クリスマスコンサートを企画しました。」と、兵藤駅長。

「坪尻駅」は、「お月見・地酒・秘境トロッコ列車」に試乗させて頂いて、最初に停車した駅。

「お月見・地酒・秘境トロッコ列車」では、兵藤駅長の向いの席だったので、その「坪尻駅」が「1日の平均乗降客1名の駅」であること、標高約270メートルの周囲を山で囲まれた香川県境の谷にあること、勾配が25‰(パーミル/1km進むと、25m登る)あり、四国には2駅しかないスイッチバック駅であること、引き込み線に駅があり、通過する普通列車もあるので、上下で停車する本数が違うこと等、お話を伺っていた。

ご一緒した地元の方も、「高校時代に坪尻駅近辺に住む同級生の家に一度だけ原付バイクで行ったことがあるが、駅には行ったことがない。」とおっしゃっていた。というのも、車での駅へのアクセスが不可能で、けものみちのような山道を10~20分程歩かないと道路には出られず、秘境駅としてのポイントも高いそうだ。

では、何故、「1日の平均乗降客1名の駅」だったのか?「坪尻駅」の西側の山中にある集落に住んでおられる80歳を超えるご高齢の方が、駅迄、徒歩で行来し、JRを利用して、阿波池田にある病院に通院しておられたのだ。

鉄道オタクの皆さんの間ではかなり有名な駅のようで、どこが認定をしているのかは不明だが、「日本秘境駅ランキング」では、堂々、第7位に輝いている。TV番組やマスコミの取材も何度か入っていて、その度に、乗降客が短期間だけ微増する。兵藤駅長も、「坪尻駅に行きたい」と本州から訪ねて来た小学生を案内したことがあるそうだ。

時刻表で見る限りでは、通常列車利用でも、1時間程度、駅で滞在できるようだが、この辺りは元々、川が流れていた谷を埋め立てたところで、駅前に「マムシ注意」の看板があるように、実際に「マムシ」も多く、噛まれても、列車の本数が少なく、救急車も駅までたどり着けないので、無闇に薮や山に入らないようご注意下さいとのこと。

この「坪尻駅」とその周辺の哀愁に満ちた寂れ感を実際に見ると、わざわざ訪れる方々の気持ちも少しはわかるような気がする。

「坪尻駅のコンサートは、予算もないので、プロ、アマは問わず、出演者を募集して、クリスマスシーズン(12月23日)にアコースティックな演奏や歌声を山あいに響かせて頂こうと思っています。当日は臨時列車も運行する予定で、たくさんの皆さんにご参加頂いて、新しい魅力をつくり、『クリスマスは坪尻駅で』といわれるように、年々、盛り上げて、多くの人々に楽しんでもらえるようにしていきたいですね。」

私たちの使命は交流人口の拡大

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「これまで、多くの駅に勤務して、『地域を愛しているので何とかしたい。』という人はどこにもたくさんいらっしゃいましたが、実際に行動を起こす人はごく僅かでした。この地域の皆さんは実行力があり、積極的に活動している人がたくさんおられ、パワーが溢れていて、こちらまで元気を頂いています。」

「ご存知のように、地方の鉄道事業は厳しい状況が続いています。道路網が整備されればされる程、状況は厳しくなりますが、手をこまねいていると、さらに悪化します。私たちの使命は交流人口の拡大です。常に話題づくりをし、たくさんの受け皿をつくって、1人でも多くの方々に外部から訪れて頂き、鉄道をご利用頂くことです。」と、兵藤駅長。

コレゾ賞の趣旨をご説明し、受賞のお願いをしたところ、

「有難うございます。これからも訪れて頂いた皆様に喜んで頂けるように、地域の皆さんとの連携をさらに強化して、管理駅とその周辺の活性化に取り組み、清掃も徹底して参ります。」と、ご承諾下さった。

COREZOコレゾ「地域の皆さんと交流人口の拡大に取り組む、有人2駅、無人15駅の駅長」である。

後日談1.第1回2012年度COREZO(コレゾ)賞表彰式

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後日談2.坪尻駅クリスマスコンサート

後日談3.阿波池田駅長を最後にJR四国を退職

現在(2015年)は、駅レンタカーJR松山駅営業所長をしておられる。

COREZO(コレゾ)賞事務局

初稿;2012.11.02.

最終取材;2015.02.

最終更新;2015.03.04.

文責;平野龍平

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