ハイブリッド・ライスとは?

ハイブリッドライス

お米の世界でも雄性不稔化が進んでいて、F1といわずにハイブリッドライスというそうだが、インディカ米の中からインディカ米の先祖のような雄性不稔株が一株見つかった。

それにジャポニカ米を何度も、何度も掛け合わせて味を良くし、最後にまたインディカ米を掛け合わせて実の稔る種にして、それを売り出した。品種改良に貢献したということで、「食の新潟国際賞」というのを中国の人が受賞したとのこと。日本ではまだ1%弱だが、中国では58%、アメリカでは39%がハイブリット米だそうだ(2009年推計)。

CMS細胞質雄性不稔

ちょっと待って、ここでまた、雄性不捻で雄しべのない稲に、どのようにして稔実させるの?という疑問が沸いてくる。

「雑種強勢個体の効率よい作出には、交配を容易にする系統、すなわち自殖しない系統の作出が重要で、そのひとつである花粉が出来なくなる細胞質雄性不稔(CMS; Cytoplasmic Male Sterility)とは、細胞質のゲノム、特にミトコンドリアゲノムの変異による異常遺伝子(CMS遺伝子)の発現により、雄性配偶子(花粉)が正常に機能しなくなる形質である。」

「この形質は、しばしば核に存在する稔性回復遺伝子(Rf遺伝子; Restorer of fertility)によって打ち消され、雄性配偶子が正常に形成されることが知られている。このCMS-Rfシステムは、不稔および可稔の制御が可能なこと、細胞質の母性遺伝を利用できることから、非常に重要な農業形質として知られており、イネ、ナタネなどの農業生産性を飛躍的に増加させることが知られている。」

って、どーゆーこと?というような、調べても、専門的、学術論文的な内容ばかりで、シロートにはサッパリわからん…。

ん?そもそも、「雄性不捻」と「細胞質雄性不捻(CMS・Cytoplasmic Male Sterility)」って?よ〜し、もっぺん、ベンキョーし直しだ。

核遺伝子と細胞質遺伝子

フツーの生物、すなわち、細胞核を持たない原核生物以外の真核生物の場合、細胞は、大きく分けて核と細胞質からできていて、ミトコンドリアは細胞質にあり、遺伝子は核と細胞質の両方に存在している。一般的に遺伝子と呼ばれるのは、核遺伝子の方で、それと区別するために、細胞質遺伝子と呼ぶそうだ。

その生き物の性質のほとんどは核に存在する核遺伝子によって決められるが、ごく一部は細胞質中の細胞質遺伝子によって決められる。雄性不稔現象は広範囲の作物で見つかっていて、この現象は核遺伝子に由来するものと,細胞質に由来するものとがあり、育種に利用されやすいのは後者の細胞質遺伝子に由来する「雄性不稔」であるので、「細胞質雄性不稔」という言葉が使われているようだ。

ミトコンドリア

被子植物の多くの種(トウモロコシ,イネ,コムギ等)では、ミトコンドリア内の核外遺伝子によって花粉形成が阻止され、雄性不稔が起こる。これは、ミトコンドリアは雌性配偶子を通してしか次世代へ伝わらないので(細胞質遺伝)、花粉をつくる資源を種子形成に当てさせ、多くの種子をつくらせることによってミトコンドリアは利益を得るためである。しかし,花粉形成ができないことは核遺伝子にとっては不利益であるため、花粉の稔性を回復する核遺伝子(稔性回復遺伝子)がほとんど例外なく見つかっているのだそうだ。

細胞の中で、エネルギーをつくっている小器官のミトコンドリアは、もともと別の生物であった細菌が、20億年前に細胞の中に入り込んで、共生を始めたものの子孫と考えられていて、植物ではミトコンドリアに存在する遺伝子の変異が原因で正常な花粉ができない現象(細胞質雄性不稔性)があり、花粉発育不全の程度はミトコンドリアの種類によって異なるため、ミトコンドリアが花粉の運命を決めるともいえる。一方、細胞の核では、ミトコンドリアの変異に対抗する遺伝子を進化させて、ミトコンドリアが原因で花粉が死ぬことを防いでいて、細胞内では、ミトコンドリアと核の遺伝子がせめぎあっているそうだ。

稔性回復遺伝子は、雄性不稔遺伝子を不活化する遺伝子のことで、雄性不稔の植物と稔性回復の植物を交配してできた植物は、再び受粉ができるようになるとのこと。

ハイブリッド米のつくり方

よっしゃ〜、ここまでわかったところで、ハイブリッド米のつくり方だ。

ハイブリッド米を調べていると、新城 長有(しんじょう ちょうゆう)先生(琉球大学名誉教授)という方に行き当たる。この新城先生が、世界各地の栽培品種や野生種を大量に調査して、不稔細胞質には多くのタイプが存在すること、稔性回復遺伝子にも数種類あることを明らかにして、世界で初めて、ハイブリット米に関する基本技術の開発に成功した。ハイブリット米は約30%の収穫量増が見込めるらしく、当時、米余りの状況にあった日本では普及せず、人口増加に伴う食糧不足に悩んでいた中国に導入され、米の増産に貢献したそうだ。

つくり方はこうだ。

細胞質雄性不捻(以下、CMS)イネCを母系にして交配

どちらも稔性のあるイネAとイネBを交配させて、イネABをつくりたいとする。

イネは両全花で自殖性(自家受粉すること)が高いので、まずは、予め「花粉をつくれない」細胞質雄性不捻(以下、CMS)のイネCを用意して、イネCを母系、イネAを父系として、人力で交配させる。といっても、「花粉のない」イネCの花にイネAの花粉をかければエエはず。

戻し交配

こうして生まれた子どもを父系にし、Cを母系にして、さらに交配させる(この時点でA:C=50:50のはず)。

CMSによる「花粉をつくれない」という性質は、必ず母系遺伝するので、何回も交配を繰り返すという、例の「戻し交配」をすると、父系のイネAの性質をほとんど受けつぎながらも「花粉をつくれない」性質だけは母系ゆずりという、「花粉をつくれない」 イネA’ができる。つまり、イネCに「花粉をつくれない」性質だけ残して、イネAの性質のほとんど全てをコピーして、イネA’をつくる。

次に、イネA’を母系、イネBを父系として、田んぼの列に交互に植え、「花粉をつくれない」イネA’は、自家受粉して稔実することはできないので、イネA’はとなりにあるイネBの花粉を受けて受精する。

これで、イネA’とイネBとの交配が、人力による受粉をしなくてもできるようになる。ところが、イネA’の細胞質は「花粉をつくれない」性質をもっているので、母親がイネA’、父親がイネBからできた子どものイネA’Bの種は花粉をつくれないので、自家受粉できず稔実しない。

稔性回復遺伝子をもったイネBを父系にして交配

それでは都合が悪いので、「花粉を再びつくらせるようにする遺伝子(稔性回復遺伝子)」をもった別の種類のイネを見つけておいて、イネBとして使えば、細胞質が持っている「花粉をつくれない」という性質を、核遺伝子がもっている「花粉をつくらせるようにする」という性質で打ち消して花粉ができ、稔実するハイブリット米A’Bの完成となる。

(http://www.cao.go.jp/midorisho/pdf/6shinjo_dokuhon.pdf を参考にした)

きっと、生き物のほとんど全て性質を決めているという核遺伝子の方が、ごく一部の性質を決めている細胞質遺伝子より力が強いのだろう。そして、多分、イネCが、「細胞質雄性不稔系統」、イネA’が「維持系統」、イネBが「稔性回復系統」と呼ばれているのだろうと考えられる。

これで、他の果菜類のCMSF1についても説明がつくし、よーし、よーやく合点がいった(あーあ、疲れた、丸2日掛かったゾ)。

バイオテクノロジーの世界

細胞質雄性不捻のことを調べていると、既に、2004年には、イネの約3.9億塩基対あるゲノム(遺伝子情報)配列が完全解読されている時代なのである。今や、単純に人間の目で雄性不捻の株を見つけて来て雑種強制が働くように掛け合わせているのではなく、雄性不稔細胞質、不稔遺伝子、稔性回復遺伝子等々も、最新の遺伝子解析技術の力で見つけ出し、何と何を掛け合わせたら何ができるかは、バイオテクノロジーの世界のようである。

遺伝子組み換えや放射線によって細胞質雄性不捻株をつくり出す技術もあるようだが、ただでさえ出来の悪い文系アタマはバースト状態を通り越してしまっているので、今日のところはこのぐらいにしといたろ・・・。

調べたのはここまで、間違った理解をしていたり、この辺のことをよくご存知の方がいらっしゃったら、是非、ご教授願いたい。

 

タネ・種の話については、下記の受賞者の皆さんのご紹介ページの内容も併せてご覧頂きたい。

岩崎 政利(いわさき まさとし)さん/在来種・種採栽培「岩崎農園」

https://corezoprize.com/kazuya-takahashi

https://corezoprize.com/masanori-sano

https://corezoprize.com/satoru-nakamura

https://corezoprize.com/kaoru-ishiwata

 

COREZO(コレゾ)賞 事務局

初稿;2013.11.20.

最終取材;2013.09.

最終更新;2015.04.03.

文責;平野 龍平

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